イラン出身の監督セピデ・ファルシ(Sepideh Farsi)の最新作『手に魂を込め、歩いてみれば(Put Your Soul on Your Hand and Walk)』は、パレスチナ人女性フォトジャーナリスト、ファトマ・ハッソナ(Fatma Hassona)がビデオ通話を通じて綴った日常と戦争の記録を描く。両者の友情もまた、約1年にわたる記録映画として結実している。
映画の大半は、二人のビデオ通話のやり取りで構成される。その合間に映し出されるのは、写真家を志したファトマが撮り続けたガザ(Gaza)の現実である。崩れ落ち、ほつれた都市を背景に、それでも日常を営む人々の姿が静かに写し出される。
人生の多くをイスラエルによる侵攻と暴力のもとで過ごしたファトマは、「ガザで何が起きているか」を世界に伝えようという強い使命感を持っていた。しかしその命の炎は、イスラエル(Israel)軍による攻撃によって断たれてしまう。2024年10月7日以降の攻撃が強まる中でも笑顔を絶やさず撮影を続けたファトマの笑顔は、もはや戻ることはない。
イスラエルによるジャーナリストを意図した攻撃
イスラエルによるジャーナリストへの攻撃が続いている。国際ジャーナリスト連盟(International Federation of Journalists:IFJ)およびパレスチナ・ジャーナリスト組合(Palestinian Journalists Syndicate:PJS)によると、2024年10月7日以降だけでも、これまでに少なくとも234人のジャーナリストやメディア関係者が死亡、複数が負傷または行方不明となっている。
2026年1月21日にもイスラエル軍の攻撃により、ジャーナリスト3人を含む少なくとも11人のパレスチナ人が死亡している。死亡したのは、フリーランスのジャーナリスト、モハメド・サラーフ・カシュタ(Mohammed Salah Qashta)、アナス・グネイム(Anas Ghneim)、アブドゥル・ラウーフ・シャート(Abdul Raouf Shaat)らで、ガザ中部アル=ザフラ地区(Al-Zahra)での空爆で命を落とした。
パレスチナ・ジャーナリスト組合(PJS)によると、3人は「民間人の苦しみを撮影・記録するための人道的かつ報道目的の任務」を遂行中で、ガザ中部ネツァリム地区(Netzarim)で新たに設立された避難キャンプを取材するため車で移動していた。取材活動は、ガザにおけるエジプトの救援活動を統括するエジプト救援委員会(Egyptian Relief Committee)の支援を受けていた。報道担当者モハメド・マンスール(Mohammed Mansour)によると、取材に使用していた車両はイスラエル軍に認識されていたと述べている。
現地からは、道路脇で焼け焦げた車両が煙を上げ、周囲に残骸が散乱する映像も出回っている。医療関係者によると、ジャーナリスト2人の遺体はガザ市(Gaza City)のアル・シファ病院(Al-Shifa Hospital)に、もう1人はデイル・アル=バラフ(Deir al-Balah)のアル=アクサ殉教者病院(Al-Aqsa Martyrs Hospital)に搬送された。
イスラエル軍は本攻撃に対し声明で、「中央ガザでハマス(Hamas)に関連するドローンを操作していた複数の容疑者を兵士が特定した」と述べ、攻撃を命じたと発表した。声明はさらに、「部隊に脅威をもたらしていたため、ドローンを起動させた容疑者を精密攻撃した」としている。

Photo:Fatma Hassona
ファトマの暗殺
パレスチナ人女性フォトジャーナリスト、ファトマ・ハッソナは、2025年4月16日、イスラエル軍による空爆で、5人の家族とともに命を落とした。犠牲となったのは、ワラー・ハッソナ(Walaa Hassouna)、ヤザン・ハッソナ(Yazan Hassouna)、ムハンナド・ハッソナ(Muhannad Hassouna)、モハンメド・ハッソナ(Mohammed Hassouna)、アラー・ハッソナ(Alaa Hassouna)で、アラーは妊娠5か月だった。ファトマの両親も負傷し入院したが、父ラエド・モハンメド・ハッソウナ(Raed Mohammed Hassouna)はその後死亡し、母ルブナ(Lubna)のみが生き残った。
ファトマの死は、彼女が出演した映画『手に魂を込め、歩いてみれば』がカンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)の独立系映画配給協会(Association du Cinéma Indépendant pour sa Diffusion:ACID)部門に選出された翌日の出来事だった。映画監督のセピデ・ファルシ(Sepideh Farsi)は、カンヌへの招待を伝えた際、ファトマが「もちろん行くわ」と明るく応じたと振り返る。しかしその期待を胸に抱いたまま、彼女は命を絶たれた。
ファルシ監督は独立系映画配給協会(ACID)公式サイトに寄せた声明で、映画制作の背景について次のように語っている。「『手に魂を込め、歩いてみれば』は、続くパレスチナ人の虐殺に対する私の応答であり、正気を失わずにいるための方法だった。ファトマと出会い、彼女は爆撃の下で生き延びながら戦争を記録し、私の“ガザでの目”となった。私たちは200日以上、この命の回線を保ち続けた。やり取りされたピクセルと音の断片が、この映画である。2025年4月16日、彼女の家を標的としたイスラエルの攻撃によって命を失い、この映画の意味は永遠に変わった。」
カンヌ国際映画祭のオープニングセレモニーでは、審査員長ジュリエット・ビノシュ(Juliette Binoche)が、イスラエルという国名を避けながらもファトマの死に触れた。「4月16日の夜明け、ガザで25歳の写真ジャーナリスト、ファトマ・ハッソナと愛する10人が、自宅を直撃したミサイルで命を奪われました。亡くなる前日、彼女は自身が出演した映画がカンヌ国際映画祭に選ばれたことを知りました。ファトマは、今夜ここにいるはずだったのです。」

Photo:Fatma Hassona
ジャーナリストや人権団体の一部は、ファトマ・ハッソナ(Fatma Hassona)自身が標的であった可能性があると指摘している。調査機関フォレンジック・アーキテクチャー(Forensic Architecture)の分析によれば、2025年4月16日午前1時頃、イスラエル軍(Israel)が発射した2発の精密誘導兵器(Precision-Guided Munitions:PGM)が、ガザ市アル=トゥッファー地区(al-Tuffah)アル=ナファク通り(al-Nafaq Street)付近にあるハッソナ家を直撃した。弾薬は建物の屋上を貫通し、下層階まで達した。
イスラエルによる攻撃が特定の標的を狙ったものである可能性は、複数の要素から示唆される。フォレンジック・アーキテクチャーは、GPSおよび遅延起爆装置を備えた精密誘導兵器が使用され、イスラエル軍が特定の座標と階層を狙ったと分析している。
フォレンジック・アーキテクチャーによると着弾点は互いに約4メートル離れ、直径はいずれも50センチ未満であること。天井に残された痕跡は遅延信管による爆発を示しており、AGM-114 ヘルファイア(AGM-114 Hellfire)ミサイルなど、イスラエル軍が使用する装備と一致していること。建物の1階および2階(地上階を0階とする)が甚大な被害を受けた一方、上層階や地上階は比較的無傷で、ファトマの住居が2階に位置していたこと。また、ファトマの自宅位置はソーシャルメディア上で公にされており、攻撃は午前1時頃、多くの民間人が帰宅している時間帯に行われたなどである。
イスラエル軍は公式声明で、攻撃対象は「ハマスに関連するドローン操作の容疑者」であったと主張している。しかしファトマは武器を持たず、イスラエル側は彼女とハマスの関係を示す証拠を一切公表していない。
ファトマ自身がハマスの新指導者ヤヒヤ・シンワル(Yahya Sinwar)に対して嫌悪感を抱いていたことは、映画を見れば明らかである。彼女はシンワルの選出について、「冗談みたいなものだと思う。ここでは多くの人がこれを好ましく思っていない。この選出を支持しなかった人も多い。だから彼らはシンワルを拒否している」と語っている。
ファルシ監督が、ファトマやガザの人々に十分な助けを届けられないことへの憤りやもどかしさを抱くのは、誰もが共感できる想いであろう。そんな監督に対し、ファトマはこう語った。「あなたが私の話を聞いてくれる、それだけで十分よ。ここにいられてうれしいし、あなたがそばにいてくれることが本当にうれしい」――彼女の言葉は、困難な状況の中でも希望と信頼を示していた。
では、私たちにできることは何だろうか。それはジェノサイドに加担しないことである。つまり、イスラエルや米国、そしてガザへの侵攻を正当化する人々や国々、企業、メディアによる情報を鵜呑みにせず、ガザの人々に対するジェノサイドに沈黙しないことである。
映画の公開にあわせ、ファトマが撮影した写真は『ガザの目(Les Yeux de Gaza)』として書籍化された。
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参考文献:
1. Palestine: At least 234 journalists and media workers killed in Gaza
2. KILL THE PRESS: ISRAEL’S TARGETING OF PALESTINIAN JOURNALISTS

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