(Photo:NELSON ALMEIDA/AFP)
ブラジルの大都市サンパウロ(San Pablo)にある図書館で、12月7日(日)、二人組の武装した男が押し入り、フランス人芸術家アンリ・マティス(Henri Matisse, 1869-1954)の版画8点と、ブラジル人モダニスト画家カンディド・ポルチナリ(Cándido Portinari, 1903-1962)の作品5点を盗んだことが当局の発表で明らかになった。
事件が発生したのは、サンパウロ中心部に位置する百年以上の歴史を持つマリオ・デ・アンドラーデ図書館(Biblioteca Mário de Andrade)で、警察によると「二人組は警備員の女性と、図書館を訪れていた老夫婦を拘束した」。その後、貴重な作品を盗み、キャンバス製の袋に入れて正面玄関から逃走したという。同図書館では、希少な書籍や1940年代・1950年代の作品を含む展示が行われていた。
当局の説明によれば、犯人らはガラス製ドーム内の文書を取り出し、盗んだ品々をキャンバス製の袋に入れて正面玄関から逃走したという。
サンパウロ市当局は声明で、版画の盗難を確認したことを明らかにし、警察官が捜査のため図書館に向かったと述べた。また、同地域の警察の巡回も強化されている。ニュースサイトG1(ポータル G1)によれば、犯人は現場の監視カメラで特定されており、当局が行方を追っている。またポータル G1が公開した映像では、二人の強盗容疑者が小型バンから複数の絵画を降ろし、真昼の通り沿いの壁にもたれかけさせている様子が確認できる。同ポータルは街中を歩く容疑者の写真も公開している。うち一人は帽子で顔の一部を隠しているが、サンパウロ市は高度な監視カメラと顔認識システムを整備しており、容疑者の迅速な特定が期待されている。
ブラジル・サンパウロで発生した図書館強盗事件で、当局は「一人の関与が疑われる人物はすでに特定された。逃走に使用された車両も発見されている」と発表した。一方で、サンパウロ治安局(Secretaría de Seguridad de San Pablo)は「第二の関与者の特定と盗まれた作品の捜索のため、捜査は引き続き行われている」と説明した。治安当局は、逃走に使用された車両について「技術鑑識にかけられる予定である」とし、証拠の分析を進めると説明した。
計り知れない価値
盗まれた作品は、マリオ・デ・アンドラーデ図書館とサンパウロ近代美術館(Museo de Arte Moderno de São Paulo:MAM)が共同で開催したモダニズム運動に関する展示の一部であった。この展示は10月に開幕し、「本から美術館へ(Del libro al museo)」と題され、1940年代および1950年代の希少書籍や作品を集めていた。展示は当日曜日に終了する予定であった。
市当局は現時点で作品の価値について明らかにしていない。「これらは文化的・歴史的・芸術的価値を有しており、経済的価値だけで測ることはできない」と指摘した。
盗まれたアンリ・マティスの作品
サンパウロ州紙フォーリャ(Folha de S. Paulo)によると、盗まれた作品にはフランス人画家アンリ・マティスのアルバム『ジャズ(Jazz)』のコラージュが含まれている。この作品集は1947年にフランスで出版されたもので、現存するのは世界で300部未満とされている。展示会の説明文によれば、『ジャズ』は「ブラジルの芸術家と研究者をヨーロッパ・モダニズムへと近づけた、希少かつ基本的な書物」の一つであるという。
美術批評家でキュレーターのタデウ・キアレッリ(Tadeu Chiarelli)は同紙に対し、「文化的・芸術的価値は計り知れない。この盗難は本当に悲しい」と語った。
20世紀を代表する画家の一人、アンリ・マティスの素描約60点は、専門サイトartnetによれば、今年10月にクリスティーズ(Christie’s)のオークションで合計250万ドル以上で落札された。また、マティスの作品の最高落札額は、1923年制作の『オダリスク・クシェ・オー・マニョリア(Odalisque Couchée Aux Magnolias)』で、2018年にクリスティーズで8080万ドルで取引されている。
盗まれたカンディド・ポルチナリの作品
盗まれたカンディド・ポルチナリの5点の版画は、ブラジル美術史上最も著名な画家の一人である彼が1959年に制作した書籍『メニーノ・ジ・エンジェーニョ(Menino de Engenho)』の挿絵であったと、市当局は報告した。サンパウロ近代美術館(MAM)によると、展示のためにいくつかの作品を貸し出していたが、盗まれた版画はマリオ・デ・アンドラーデ図書館の所蔵品だったという。「これらは希少な作品であり、誰かが購入するとは考えにくい」と、美術批評家のタデウ・キアレッリは指摘する。
過去にも同様の事件があり、2007年にはポルチナリの絵画『ラブラドール・ジ・カフェ(Labrador de Café)』がサンパウロ美術館(Museo de Arte de São Paulo:MASP)から盗まれた。しかしその後回収されている。
今回の事件は、10月にパリのルーヴル美術館(Louvre)でフランス王室の宝飾品約1億ドル相当が数分で盗まれた事件に続いて発生したもので、世界的にも注目される文化財盗難事件の一つとなっている。
参考資料:
1. Identifican a uno de los sospechosos de robar el Museo de Arte Moderno de San Pablo
2. Robaron 8 grabados de Matisse y 5 de Portinari de la biblioteca en San Pablo



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