チリ大統領選挙2025:候補者カストによる移民強制排除日時の提示、移民たちの高まる不安

(Photo:Marvin Recinos)

チリ国内の移民たちの不安は、極右政治家ホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast)の繰り返される脅しによって増大している。カストは12月14日の決選投票で左派のジャネット・ハラ(Jeannette Jara)に対抗して勝利することが有力視されている。彼の公約の一つに書類のない移民33万人、主にベネズエラ人を国外追放することがある。カストは彼らを治安悪化の原因と結び付けている。

「チリにいる不法移民の皆さんに告げる。祖国から自主的に出て行くまで、残り103日である。…もし自主的に出て行かない場合は、私が大統領に就任した後に強制的に出て行くことになる」と、カストは金曜日に自身のSNSに投稿した動画で述べた。

候補者に批判的な立場の人々は、カストのこの公約は実現不可能であると指摘している。その点に関し、アリカ(Arica)市のオルランド・バルガス(Orlando Vargas)市長は「これは選挙キャンペーン上の公約であり、容易に実行できるものではないと思う」と述べた。

 

共和党(Partido Republicano)からの候補者はさらに、いかなる移民正規化(regularización migratoria)手続きも、国境外で実施されなければならないと強調した。「正規化を望む者はチリを出て、自らの出身地に戻り、そこからすべての資料を提出しなければならない。われわれに対応能力があれば、その事案を検討することは可能である」と述べた。

このようなメッセージは大統領選挙キャンペーン終盤、オヒギンス(O’Higgins)地域を訪問した際に繰り返し発せられている。カストは自身の政権発足までの「その期間内であれば、所持品、財産、貯蓄をすべて持ち出すことができる」と説明し、それがまさに猶予期間であるとした。さらに、「もし期限が守られなければ、身元確認のもと、書類を持たない滞在者(アンドキュメンテッド)であると判明した者は、所持しているものだけを持って我が国から追放されることになる」と付け加えた。

この提案は、政治の内外で議論を呼んでいる。また、候補者に批判的な立場の人々は、カストのこの公約は実現不可能であると指摘する。

カストはまた、自身の提案を国内北部へ向かう人々の増加する移動と結び付け、その責任を行政に負わせた。彼の見解によれば、「対処すべきなのは現政権である」と述べ、さらにガブリエル・ボリッチ(Gabriel Boric)大統領が「本来北部に行くべきところを、南部地域を四日間も訪問した」と批判した。その文脈で、カストは大統領に対し、地域内の他国と連携するよう呼びかけた。「政府が事態に対処し、エクアドル、ペルー、コロンビアの大統領と協議し、帰還回廊(corredor de retorno)を作ることが急務である。それを行うべきなのは彼(大統領)である。なぜなら国家の行方を導く権限を持つ者なのだから。(しかし彼は)実行は可能でも、意欲も関心も持っていない」と述べた。

Photo:PATRICIO ARANA

 

チリから出国しようとする移民の数十名は足止めされたのか

チリから出国しようとした数十名の移民は、ペルー国境で立ち往生したと、11月28日(金)に当局とペルーメディアが報じた。これは、ペルー警察が彼らの入国を阻止したためとされている。チリの首都サンティアゴ(Santiago)から北へ約2,200キロに位置するアリカ地域の知事が公開した動画には、チャカユタ=サンタ・ロサ(Chacalluta–Santa Rosa)検問所で出国を試みる数十名の移民の姿が映っている。また、ペルーのラジオ・タクナ(radio Tacna)は、国境付近の道路で子どもを抱える移民たちの映像を放送した。

移民たちは抗議として車両通行を一時的に封鎖したが、チリのカラビネロス(Carabineros)が抗議者らと対話した後、封鎖は解除された。ただし、ペルー当局が越境を認めない場合には、再び高速道路の交通を遮断する意向を示していた。

一方、ペルー側では、タクナ(Tacna)地域の警察トップ、アルトゥーロ・バルベルデ(Arturo Valverde)が警備の強化を確認し、ペルー軍が国境管理を支援できるよう取り計らっていると述べている。この事態を受けて、ペルー外務大臣ウーゴ・デ・セラ(Hugo de Zela)は、ペルーとチリが二国間国境での「協力とこの状況の克服」のために、「月曜日から活動を開始する」二国間委員会を設置すると発表した。外務大臣はさらに、現在「状況は掌握されている」と述べ、金曜日午前に発生したような「道路交通の遮断がもはや起こらないことを期待する」と付け加えた。

Photo:Ibar Silva

 

ペルー側の警告を受け、アリカ市長は「移民危機」を否定

アリカ市長オルランド・バルガスは、「これまでは通常どおりの移動が行われており、報道されているような多くの人々が足止めされている状況ではない」と同日断言している。「今日(国境に)到着したのは80人で、夜まで待っている。真夜中には、何らかの形でタクナに渡るだろう」と彼は述べている。

この発言は、金曜日早朝にペルー外務省が発した「チリとの国境で移民危機が進行しつつある」という警告を否定するものと見られる。その少し前には、ペルーの暫定大統領ホセ・エンリケ・へリ・オレ(José Enrique Jerí Oré)が、国境地帯で非常事態を宣言するための閣僚評議会(Consejo de Ministros)の臨時会合を招集していた。これは軍が国境の管理と警備に介入できるようするための会合である。

バルガス市長はメディアに対し、「ペルー大統領が軍事化を発表したことで、書類を持たない人たちは少し神経質になったのだと思う」と語った。そして上述の通り移動は通常どおりであり、「この時期、多くのコロンビア人やベネズエラ人が年末の祝祭で家族に会うため、この地域を移動する」ことを強調した。

中道左派の民主主義のための党(Partido por la Democracia)の代表である同氏は、地方政府は「移民危機が発生した場合に備えて、大規模な支援体制を準備しているが、これまでのところそのような事態には至っていない」と述べた。「だが、300人、500人、あるいはそれ以上の人々によるキャンプは(そもそも)発生していない。この市の行政として、国境を監視し続けており、もし非常に大規模なキャンプが形成されるようなことがあれば、人道的な形で支援できるよう準備している。食料、テント、防寒用品、水があるし、外国人の兄弟たちを診るための医療班も準備している。また、ペットを連れてくる場合に備えて、市の獣医も待機している」と述べた。

Photo:Ibar Silva

 

カストの発言は公約ではなく単なる意思表示

アリカ・イ・パリナコタ(Arica y Parinacota)地域選出で、チリ独立民主連合(Unión Demócrata Independiente:UDI)所属のホセ・ミゲル・ドゥラナ(José Miguel Durana)上院議員は、Radioanálisis での対談において、チリの移民情勢と、自身の政治陣営であるホセ・アントニオ・カスト候補の提案について語った。

大量追放などの公約と、その実現可能性への批判について質問された際、ドゥラナ上院議員は「意志」の重要性を強調した。「国境地域に暮らす私たちにとって、違法移民を抑制する現実的な計画を作り上げる姿勢そのものが、長年の無力さを前にして極めて重要である」と述べた。さらに同議員は、「内務副大臣がベネズエラを訪れ、内務大臣がボリビアを訪れたものの、追放も再入国阻止(再導入措置)もまったく成果が出ていない。その結果、今日、我々の国境は危機にあり、両国側からの軍事化の可能性すら生じている」と現政権の対応を批判した。

現在の状況を前にして現政府がすべきことに関する質問に対しドゥラナは、アリカ・イ・パリナコタ州知事ディエゴ・パコの発言を支持し、次のように述べている。「現職のチリ共和国大統領と外務大臣アルベルト・ヴァン・クラヴェレン(Alberto Van Klaveren)が現地に赴き、ペルー、ボリビアの近隣諸国とともに、地域的な公共政策を構築する努力を行うべきである。この状況にどう対処するのか、協議が必要だ」。そして現在国境で立ち往生しているとされている人々について説明した。「国境で足止めされている人々は、チリを出たいと望んでおり、観光客として、あるいはペルーやボリビアを経由して不法に入国した者たちである。彼らが帰国しようとする際に、ペルーが国境を軍事化すれば、チリから出る機会を奪うことになる」と述べ、ペルー暫定大統領ホセ・ヘリがチリ国境を軍事化した決定を批判した。その上で、同議員は次のように問いかけた。「彼らがチリへ向かう際には、通過させることに何の問題もなかったではないか。私は、これらの人々が出国できるよう、同じだけの協力姿勢が必要だと考えている。そしてペルーは、移民の通過をきちんと管理すべきである。私としては、ペルー大統領がコロンビアやエクアドルとの国境についても同様に軍事化してくれればと思っている。なぜなら、チリへ不法入国したベネズエラ人やコロンビア人は、ペルーとボリビアの両国を通過してきたからだ」。

ドゥラナはまた、候補者による政策案について次のように期待を示し、また、評価した。「ホセ・アントニオ・カスト大統領候補が示してきた数々の選択肢は、この数年間で見られなかった明確な姿勢を示している。それは希望の光であり、チリへの不法入国を食い止める現実的な手段となり得る」と。

 

次期政権について

12月14日の大統領選決選投票でホセ・アントニオ・カストが勝利する可能性をめぐり、ドゥラナは、チリ独立民主連合(Unión Demócrata Independiente:UDI)の役割は常に「調整役(articulador)」であるべきだと強調した。同議員は「カストは独立民主連合(UDI)の出身であり、現在共和党に所属する多くの人々とは、理念や価値観を共有している。細かな違いはあるかもしれないが、ホセ・アントニオが大統領になる可能性が開かれている今、独立民主連合(UDI)は決選投票での支援だけでなく、今後4年間でチリを立て直すという責務にもコミットしている」と述べた。

一方で、「チリ・バモス(Chile Vamos)は終焉した」と主張する声について、同議員は次のように述べた。
「政党連合というものは、それぞれが特定の時期に空間や機会を生み出す存在だ。現時点で、その連合が継続するかどうかを検討するのは当然であり、規模を広げることも縮小することもあり得る。各政党は自らの綱領に基づき、どの政治スペクトルに位置するかを判断していくべきだ」。チリ・バモスとは、チリの中道右派政党連合で、2015年に結成された。チリ独立民主連合(UDI)のほか、国民革新党(Renovación Nacional:RN)、社会キリスト教民主党(Evolución Política:Evópoli)などで構成されている。経済的には自由市場を重視し、社会政策では中道右派の立場をとることを特徴とする連立だった。

ドゥラナは続けて、「私の見解では、独立民主連合(UDI)は決して“弱腰の右派(derechita cobarde)”でも、後ろめたさを抱える政党でもない。私たちは常に、国の歴史と整合的な立場を貫いてきた」と断言した。最後に同議員は、今後について「独立民主連合(UDI)としては、現行の政党とともに進むのか、あるいは共和党や国家自由党(Partido Nacional Libertario)を含む新たな連合に加わるのか、政治的な将来を慎重に評価し続けていく」と述べた。

#チリ大統領選挙2025 #AntonioKast #GabrielBoric

 

参考資料:

1. Kast endurece discurso migratorio y da ultimátum de 102 días a extranjeros irregulares
2. Decenas de migrantes quedan varados en su intento de salir de Chile a Perú
3. Senador Durana (UDI) critica a Perú por militarizar frontera con Chile: “Me habría encantado esa actitud con Colombia y Ecuador”

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