火山島であるセントビンセント島と珊瑚礁のグレナディーン諸島から成るセントビンセント・グレナディーン諸島で行われた11月27日の選挙では、主要野党である新民主党(Nuevo Partido Democrático:NDP)が歴史的勝利を収めた。15議席中14議席を獲得するというこの決定的な勝利は、2001年から続いていた統一労働党(Partido Laborista Unido:ULP)の支配に対する大きな打撃となった。
選挙戦は、統一労働党(ULP)と新民主党(NDP)の間で繰り広げられ、両党は15の選挙区すべてに候補者を擁立した。また、国家解放運動(Movimiento de Liberación Nacional:NLM)と1人の独立候補も競い合った。新民主党(NDP)のキャンペーンは、新しいリーダーシップ、より良い統治、そして生活費の削減に焦点を当てており、これらのメッセージは特に激戦区で強い支持を集めた。
与党統一労働党(ULP)の代表で現首相のラルフ・ゴンサルヴェス(Ralph Gonsalves)は世界でも最も長期間にわたって民主的に指導したリーダーの一人として知られている。2001年3月に初めて選出されてから今まで首相として務めてきたからだ。現首相は、統一労働党(ULP)候補として唯一自身の議席を保持したが、彼の党は上述の通りかつての9議席の多数を大きく減らす結果となっている。
ゴンサルヴェスは、1990年代後半から2000年代初頭にかけてラテンアメリカを席巻した「ピンク・タイド」と呼ばれる時期の最後の重要な政治人物の一人でもあった。この時期には、ブラジルからベネズエラに至るまで、多くの左翼指導者が次々に選出された。
ベネズエラのニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)大統領やキューバのミゲル・ディアス=カネル(Miguel Díaz-Canel)大統領の強力な支持者として知られるラルフ・ゴンサルヴェスは、今回の選挙での敗北を受け、選挙後、Facebookに短い声明を投稿した。「私たちはSVG(サンビセンテおよびグレナディーン諸島)を愛しています。そして、これからも働き続け、皆さんのために活動し続けます」と述べ、「これは終わりではなく、始まりです」と付け加えた。
単純多数制(8議席)に基づき公選議員の多数派(新民主党(NDP))代表を総督が首相に任命する。つまり新民主党(NDP)のリーダー ゴッドウィン・フライデー(Godwin Friday)が、24年ぶりに新首相とし心機一転、国民に迎えられることとなる。2016年に新民主党(NDP)のリーダーに就任する前から議会で活躍しており、2001年から議員を務めている。66歳のフライデーは前回選挙ではラルフ・ゴンサルヴェスに負けていた。しかし今回選挙の躍進で、1979年の独立以来、同国の7番目の首相となることが決まった。
フライデー率いる中道保守的な新民主党(NDP)は、「より多くの、より良い賃金の仕事を創出し、犯罪や暴力の増加に対処し、医療とインフラの改善を行う」と言う選挙公約として掲げていた。このメッセージの背景には失業率18%、貧困率26%という高い数値が存在する。観光業に大きく依存している同国は2021年4月に発生したラ・スフリエール火山(La Soufrière)の噴火からの復旧も依然として難航している状況にある。また、他のカリブ海諸国のように、経済への大規模な財政貢献を通じて市民権を取得できる制度を導入することを掲げていた。
新民主党(NDP)は、以前から投資による市民権プログラムの導入と、中国との関係強化を主張してきた。以前は台湾との関係を断絶し、中国との関係を回復することを提案していたが、今年の新民主党(NDP)の選挙公約には台湾との関係を終わらせることにまでは触れられていなかった。この問題について党の立場が明確にされなかったことは一方で批判されていた。
サンビセンテは世界で台湾と外交関係を持つ12か国の一つである。ゴンサルヴェス政権下でも、台湾との協力を続け、インフラ、教育、医療分野で支援を受けてきた。この協力により、奨学金や国際空港の支援、最先端の病院建設の援助などの恩恵がもたらされた。近年中国からの圧力が高まる中においても台湾との強い関係を維持してきた。
ゴンサルヴェス政権下での主な成果
ゴンサルヴェス政権下では、サンビセンテおよびグレナディーンは今年10月、カリブ地域内の特定の国々との間で、ビザや労働許可証なしで市民が自由に移動できる協定を結んだ。
また、ゴンサルヴェスは2023年12月にサンビセンテで開催された、ベネズエラとガイアナの指導者間の緊急会議の開催を支援し、両国間の険悪な国境問題を解決するために尽力した。
#NationalProjection: 9PM: Dr Godwin Friday is projected to become 5th Prime Minister of St Vincent & the Grenadines – defeating 5-term incumbent Dr Ralph Gonsalves.
— Kevz Politics (@KevzPolitics) November 28, 2025
Friday becomes the first NDP Leader to hold the office of Prime Minister in 24 years. #DecisionSVG pic.twitter.com/tj48fopyF0
地域の政治アナリストであるピーター・ウィッカム(Peter Wickham)は「ヴィンシー(サンビセンテ)の地で大物が倒れたようだ」と、気候正義と奴隷制賠償の強力な支持者であるゴンサルヴェスの敗北を聞き早速Facebookで投稿した。
地域のリーダーがフライデーを祝福
ジャマイカのアンドリュー・ホルネス首相は金曜日、X(旧Twitter)に投稿し、ゴンサルヴェスがカリブ共同体(Caribbean Community:CARICOM)内で強い声を上げてきたことを称賛した。この地域貿易圏で、ゴンサルヴェスは「常に地域協力の深化と、より統合されたカリブ海共同体を促進することを提唱してきた」とホルネス首相は述べている。「彼の地域主義への情熱と、集団的行動の価値に対する揺るぎない信念は、私たちの共同体全体で数多くの重要な議論を形作るのに貢献してきた」とホルネス首相は書いている。ハリケーン・メリッサの被害を受けている中同首相が述べるのは「これはサンビセンテの人々にとって重要な瞬間だ」と言うことであり、一方「フライデー博士が国家の指導責任を引き受けるにあたり、成功を祈り、彼に神の導きと知恵を祈る。ジャマイカはサンビセンテ・グレナディーン諸島との深い友情を大切にしており、共により強固で繁栄したカリブ海地域を築くための協力を強化していくことを楽しみにしている」と述べている。
台湾のサンビセンテ大使であるフィオナ・ファン(Fiona Fan)もフライデーを祝福した。台湾外務省は「台湾とサンビセンテは、民主主義、自由、人権といった普遍的価値を共有している」とも述べている。
地域の保守的な指導者たちはフライデーの成功を祝福し、これは自分たちの国でも勝利を収める可能性を示唆していると期待を寄せた。「兄弟におめでとう」と述べたのは、元首相でセント・ルシアの保守的野党指導者であるアレン・シャスタネット(Allen Chastanet)である。シャスタネットは、現在の首相フィリップ・ピエール(Philip Pierre)との選挙戦に臨んでおり、ピエールはゴンサルヴェスを支持している。
サンビセンテ・グレナディーンは、30余りの島々から成る群島で、アンティル諸島の一部を構成している。1979年までイギリスの植民地だったこの国は、現在もイギリス連邦に加盟しており、国王チャールズ3世(Charles III)を国家元首として認めている。
選挙には10万人以上の市民が参加し、午前7時に始まった投票は、250の投票所で途切れることなく行われた。カリブ共同体(CARICOM)の選挙監視ミッションと国内監視・相談メカニズム(Mecanismo Nacional de Monitoreo y Consulta)がプロセスを監視し、その透明性を確保した。
参考資料:
1. Oposición gana elecciones en San Vicente y las Granadinas
2. One of world’s longest serving democratic leaders loses election
3. Opposition NDP party claims victory in Saint Vincent and the Grenadines


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