アンナ・ラム(Anna Lambe)は、先住民コミュニティ──より正確にはイヌイット文化──に関する使い古された紋切り型の描かれ方にうんざりしている。25歳の俳優である彼女は、そうしたステレオタイプを覆そうとしている。多くの場合、これらのステレオタイプは、彼女の故郷であり北極圏に位置するカナダ最北の都市であるヌナブト州(Nunavut)のイカルイト(Iqaluit)に足を踏み入れたことすらない人々によって広められてきた。ネットフリックス(Netflix)の先住民主導コメディ『ノース・オブ・ノース(North of North)』が撮影されたのもまさにこの地であり、彼女自身が文化とのつながりを保つために定期的に戻る場所でもある。
ラムの女優としてのキャリアはまだ始めたばかりである。彼女は自分自身のキャリアについて大きな夢を持つだけでなく、より広い先住民映画・テレビの未来に対しても大きな展望を抱いている。今年、彼女はスポットライトの中心に置かれ、彼女のコミュニティのみならずイヌイット全体を代表する立場を担うことになった。これはどんな俳優にとっても、ましてやキャリア初期の俳優にとっては非常に重い負荷である。しかしラムはその重責を軽やかに受け止め、画面に正確な表現をもたらすこと、そして観客が先住民文化の美しい多様性と深い知恵を受け入れられるよう導くことを、自らの使命としている。
APTN・CBC・Netflixの共同制作による北極を舞台にしたコメディシリーズ『North of North』は、制作の際に真正性が何よりも重視された。また、主演のアンナ・ラムの故郷で撮影が行われ、視聴者にとってシリーズを観る体験は非常に生々しく( visceral:心や体に直接響くように)感じられるものとなった。さらに、シリーズでは困難なテーマにユーモアを交えて挑戦する必要があったことから、制作側もリスクを取る必要があった。公開は年初に始まったが、シリーズは成功を収めたため、すでにシーズン2への更新が決定している。
イカルイト出身のアンナ・ラムは、ヌナブトの小さなコミュニティで、私生活と仕事の両立に奮闘するシアジャ(Siaja)を演じており、彼女の物語がシリーズの中心になっている。物語では、若いイヌクの女性が、衝動的かつ非常に公的な形で結婚を終わらせた後、自分自身のために新しい未来を切り拓こうとする。しかし、小さな町では住民同士の関係が密接で、誰もが互いのことを知っているため、思い通りにはいかない。
ラムは語る。「台本を読んだ瞬間から、この作品には真正性がしっかりと感じられました。私は読んで、『うん、これはリアルだ。こういう人、確実に知っている』と思いました。この番組は、北出身の女性であるステイシー・アグロック・マクドナルド(Stacey Aglok MacDonald)とアリシア・アルナック=バリル(Alethea Arnaquq-Baril)によって創作されました。アリシアはイカルイト出身、ステイシーは西部地域のクグルクトゥク(Kugluktuk)出身です。この物語は、北に暮らすイヌイット女性が、自分の人生を追求しつつ、コミュニティからの期待との間でやりくりしてきた経験をよく反映しています。そのため、私たちが物語を語り、キャラクターを作り上げる過程で信頼感があり、自然に入り込めるのはとても素晴らしいことでした。彼女たちが私にシアジャを演じさせ、その物語を共に創作できたことは、本当に素晴らしい経験でした」。
彼女は続けて述べた。「ヌナブトとイヌイットを代表することは大きな責任であり、私たちのコミュニティの複雑さや、その重要性を示すことがいかに大きな重荷であるかは確かだと思う。しかし、その重荷を私たち皆で分かち合えたこと──同じくイカルイト出身でニーウィ(Neevee)を演じるマイカ・ハーパー(Maika Harper)、イグルーリク(Igloolik)出身でミリー(Millie)を演じるゾルガ・カウナック(Zorga Qaunaq)ともに──お互いに寄りかかりながらこの物語を語れたことは、とても特別な経験であった」。
コメディ作品で初めて主演したアンナ・ラムは、「ものすごく大きな挑戦であった。私は自分のことを根本的に“おもしろい人”だとは思っていないし、部屋の中心でみんなを笑わせたいタイプではなく、とても静かで控えめな人間である。しかし、演じるシアジャはまさにそういう人物である。彼女は明るく社交的で、少し不器用な面もあり、まさにそういう存在なのだ。コメディの世界に飛び込むことは私を恐怖に陥れた──文字通り夜も眠れないほどであった。撮影最初の数週間は、この役にふさわしいのか分からなくなる瞬間が何度もあった。しかし、チームの勢いとサポートのおかげで、私はコメディ俳優としての自分の能力を認識し始め、タイミングやテンポ、トーンを理解するようになった」と語った。さらに彼女は、「『North of North』には独特のトーンがある。完全なシットコムでもなく、ピエロ的なコメディでもなく、ドラメディにも寄りきらない。そのどれでもありつつ、唯一無二の雰囲気を持っている」と述べた。
ラム(Lambe)のスクリーンデビューは2018年のスポーツドラマ『ザ・グリズリーズ(The Grizzlies)』である。本作はクグルクトゥクの若者を題材としており、その大部分もイカルイトで撮影されている。
Northerner of the Yearへの選出
アップ・ヒア(Up Here)誌は、「ラムの声は、彼女の自信とともに成長し、今やアーティストであるだけでなく、今日の若いイヌイットの文化・アイデンティティ・経験を代表する、最も雄弁で共感力のある声のひとつとして浮上した」と述べ、2025年「Northerner of the Year」に選出された理由を語っている。
Up Here誌はカナダ北部を中心に発行される雑誌であり、ユコン(Yukon)、ノースウェスト準州(Northwest Territories)、ヌナブトなど北極圏・北方地域の文化、生活、人物、社会問題、旅行、歴史を特集するメディアである。カナダ南部の人々には馴染みが薄い北方地域のリアリティを地元目線で発信する“北の代表メディア”として評価されている。
誌面ではさらに次のように述べられている。「北はカナダの想像の中で神話的な位置を占めている。しかし、多くの人々が知っている北の姿は、せいぜいニュースの短い断片から得たものに過ぎない。彼らは問題を抽象的・知的には理解しているかもしれないが、腹の底から実感してはいない。ラムの存在はそれを変える。彼女は『考えるための材料』以上のものを届ける。長きにわたって見過ごされすぎてきた“北の現実”を伝えるのだ。それらは実際に“感じられる”──良い部分も悪い部分も、混沌とした部分も、滑稽な部分も含めて」。
同誌は『ザ・グリズリーズ』の監督ミランダ・デ・ペンシエ(Miranda de Pencier)のコメントも引用しており、次のように述べている。「彼女は本当に生まれながらのリーダーである。たとえソーシャルメディアや他の場所で挑戦を受けることがあっても、彼女は相手に対話で応じ、対立の中にあっても誠実な会話を成立させ、自身の“開かれた姿勢”を保つことができる」。
なおUp Hereは昨年、ユコンの「bear whisperer(熊の声を聞く人)」として知られるクマの専門家で野生動物写真家のフィル・ティンパニー(Phil Timpany)をNortherner of the Yearで選出している。
「Northerner of the Year」は同誌の名物企画であり、毎年、北方地域で特に影響を与えた人物を選出する。最初の同賞は1987年に、ノースウェスト準州政府の大臣タガク・カーレイ(Tagak Curley)が選ばれた。
アンナ・ラムはこの一年を振り返り、最も誇りに思うことについて次のように語った。「本当にうれしいのは、この一年間の非常にハードな過程の中で──『North of North』やその他のプロジェクトについて語る中で──私は常に、作品の背後にある実際のコミュニティ、この作品を作るために必要なリアルなコミュニティを中心に据えようと努めてきたことである。私は『すべての船は一緒に浮かび上がる(all boats rise)』という考え方の強い信奉者であり、道を切り開くためには互いに支え合う必要があると考えている。道をただ長くするのではなく、より広げる必要があるのだ。この一年を振り返り、イヌイットとしての経験を共有し、コミュニティを公の場で高めることができたと誇りを持って言えることが、本当にうれしい。」
さらにラムは、観客が“本当の先住民”を見ることの重要性について次のように述べた。「それは、私たちが『いまも確かにここにいる』ということを示すだけでなく、私たちが非常に幅広い姿で存在していることを示すために、信じられないほど重要である。長い間、人々は先住民が存在していないと思っていたり、全員が同じだと考えていたりした。しかし今、私たちは自分たちの固有の文化について非常に具体的な物語を創りながら、非先住民コミュニティと似ている部分がある一方で、固有の生活様式があることを示している。先住民映画・テレビが成長し続ける中で、私たちはこれまでになく物語の主体性(narrative autonomy)を獲得している。自分たちがどう描かれるかに、より多くのコントロールを持つようになったのである。メディアにおける私たちの表象はますます正確になりつつあり、カメラの裏側でも、多くのプロダクションが先住民のスタッフを積極的に起用し、この業界の扉を開くために大きな努力をしている。これからの先住民映画やテレビが、5年後、10年後にどのような姿になるのか、本当にワクワクしている。私たちはようやく“スペースを占め始めている”段階であり、私はこれからも、より大きなスペースを占め続けたいと考えている」。
アンナ・ラムの言葉は、これまで先住民の人々が大きなステレオタイプで語られ、それも非先住民によって物語が作られてきたこと、そして先住民がその創作過程から排除されてきたことを意味している。ラム自身は次のように語る。「多くの人はイヌイットや北の人々を、誇張されたイメージで捉えている——何百マイルも周囲に何もない凍りついた大地の上で、イグルー(igloo)に住む小さな“エスキモー”の集団、というように。しかし、私たちが力強く、繁栄している共同体であることを示すのは本当に重要だ。私たちは、他者化されること、忘れられること、無視されることにもううんざりしている。イヌイットと世界をつなぐ線は常に存在してきたので、私たちは主流文化や世界の出来事にずっと触れてきた。ただ、それが相互に返されることがなかっただけだ」。
さらにラムは、当たり前のことではあるが、全く理解されてこなかった点を強調する。「私たちは(先住民は)あなたたちと同じことを感じ、似た経験をしている。誰もが恋愛の問題を抱えているし、家族の問題もある。誰もが自分が何者で、何になりたいのかを探している」。彼女が述べるのは、先住民の人々は「私たちはあなたとは少し見た目が違うかもしれないし、少し異なる暮らしをしているかもしれない。しかし、私たち先住民はあなたをよく理解している」ということである。また、先住民の持つ知識の価値を強調し、それが失われれば今後の地球規模の課題に対処できないと指摘する。「特に、気候破局の時代において、私たちには共有できる知識が非常に多くある。気候変動は北極圏でははるかに速いスピードで進んでいるからだ。私たちの世界観は、人間、動物、大地、水とのつながりを理解することに深く根ざしている。私たちが存在し、あなたたちと同じような存在であることを知るのは重要だ。しかし同時に、私たちが持つ特別な知識は、この世界が今後どう進んでいくかを示してくれるのだ」。
アンナ・ラムは「先住民のアイデンティティについて語るとき、多くの場合、非先住民の観客に向けて“説明のための説明”が必要になる。世界で『人種化された存在』として生きることがどれほど困難か、彼らには必ずしも理解されていないからであり、そのために脚本の多くが説明に割かれてしまう。しかし、この作品では観客が自ら考える余地を持ち、こちらが手取り足取り説明する必要がない。先住民映画やテレビの世界で、今後“何でも過剰に説明しなければならない”という状態を変える助けになればと強く願っている」と『North of North』への期待を示した。
さらにラムは自身の経験についても触れる。「私自身、先住民映画やテレビ業界で働くことにまつわる多くの感情と向き合ってきた。業界が自分をどう扱うか、そして一般の人々が自分をどう受け取るかという点で、私はしばしば複雑な思いを抱える。人々が私を『まず先住民として』、そして『アンナとしては二の次』に見てしまうとき、私は本当に苛立ちを覚える。これは、多くの先住民が経験していると思われるシステム的な問題である。私はイヌイット・コミュニティの誇りある一員であるが、それと同時に、特定の“先住民枠”に押し込まれることなく、非先住民の俳優と同じように扱われたいとも思っている。私たちはそのニッチな枠の中だけで価値があるわけではなく、業界全体に対して価値を持っているのだから」。
現在「映画やテレビでの表象が大きな転換点に向かって動いており、その変化の一部になれることは、信じられないほどエキサイティングで美しいことである。だが同時に、次の世代が“業界の中で民族全体を代表しなければならない”というプレッシャーを感じずに済む未来を心から楽しみにしている。というのも、それは本当に相当な重圧だからである」と、彼女は仕事を通じた貢献の意義とともに、その難しさも語った。
参考資料:
1. Anna Lambe Discusses the Authenticity of ‘North of North’
2. Anna Lambe named Up Here’s Northerner of the Year
3. Anna Lambe Is Glad North of North Shows Inuit Communities Thriving

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