チリ:トレス・デル・パイネの事故を受け観光安全法案策定への緊急性を求める

(Photo: mikkelwejdemann / Pixabay)

国会では、マガジャネス(Magallanes)州の「トレス・デル・パイネ国立公園(Parque Nacional Torres del Paine)」で発生し、5人の観光客が死亡した悲劇を受け、政府に対し「冒険観光の安全に関する法案」の審議を急ぐよう求める声が上がった。

「冒険観光において、これ以上場当たり的な対応を続けるわけにはいかない。本来いるべき場所にレンジャーがいなかった。避難時の支援もなく、プロトコルはただ単に失敗したのだ」と政府を非難したのは、法案を推進するエボポリ(Evópoli)所属のホルヘ・グスマン(Jorge Guzmán)議員である。グスマン議員は、政府批判に加え下院ですでに承認され、現在上院で審議中の、いわゆる「エル・チノへの正義(Justicia por el Chino)」法案に対し、行政府に直ちに緊急性を付与するよう求めた。

「トレス・デル・パイネで起きたことは、防ぎ得た悲劇であり、私はその責任をもって言う。ガイドもいなければ、予防的閉鎖もなく、当局の迅速な対応もなかった状況で、冒険観光をしていた5人が死亡した」とグスマン議員は述べた。

グスマン議員が審議を急ぐよう求めた法案は、2024年2月21日にカホン・デル・マイポ(Cajón del Maipo)でバンジージャンプ後に死亡した23歳の青年ディエゴ・アルボルノス(Diego Albornoz)—通称「エル・チノ」—にちなんで名付けられたものである。アルボルノスはマウレ(Maule)州のタルカ(Talca)出身で、マウレ・カトリック大学(Universidad Católica del Maule)で社会福祉学を学んでいた。その悲劇の日、アルボルノスは空中にほぼ30分間吊り下げられた状態となり、窒息により死亡した。

遺族はこの死が過失によって引き起こされたと訴え、検察もその見解を支持した。検察は、指導員フランシスコ・ガハルド(Francisco Gajardo)—現在収監中—がインストラクターとしての許可を持たず、必要な装備も備えていなかったと断定した。また、被害者への救助措置をとらず、ハーネスを誤って装着したことも指摘された。

こうした状況を踏まえ、議員によれば、この法案は現在存在しない基準、サービス提供者の義務、そして安全プロトコルを定めるものである。国立公園や自然保護区での安全対策を、新たな悲劇が起きてからの遅れた反応としてではなく、「緊急かつ最優先の課題」として扱うことを求めている。

 

チノの死が法律案を推進するきっかけとなった

2024年2月21日、カホン・デル・マイポでバンジージャンプをしている最中に事故により23歳のディエゴ・セバスティアン・アルボルノス・コロナド(Diego Sebastián Albornoz Coronado)が命を落とした7か月後の9月25日(水)、国会議員ホルヘ・グスマンが、若者の母親パオラ・コロナド(Paola Coronado)とともに、冒険型観光サービスが品質や安全基準を守らなかった場合の制裁を設けることなどを目的とした法律案を提出した。彼の死に関連して1名が正式に起訴されている。

エル・チノは夏休み中、家族と共にメトロポリタナ(Metropolitana)へ旅行した。その計画の中には、冒険型観光の多様なオプションで知られるカホン・デル・マイポを訪れることも含まれていた。エル・チノはジャンプを終えた後、空中でほぼ30分間宙に吊るされたままとなり、窒息死した。調査によれば、当時のアトラクション担当インストラクターからの救助は受けられなかったという。「多くの人は、息子が倒れたのではないか、体調を崩したのではないかなどと推測した。しかし息子の死因は外部からの頸部圧迫による窒息、つまり窒息死でした」と母親は国会(Congreso Nacional)で語り、「息子の死は過失によるものである」と断言した。

検察官フアン・チェウキアンテ(Juan Cheuquiante)によれば、インストラクターは「営業するための許可を有しておらず、またその活動を行うために必要な器具も持っていなかった。その後、被害者がジャンプを行い、このインストラクターに助けを求めたが救助されず、死亡に至った」と説明している。この理由により、フランシスコ・ガハルド(Francisco Gajardo)が逮捕されている。ガハルドは検察により単純殺人の疑いで起訴されおり、裁判所は彼に対し勾留を決定した。「エル・チノ(El Chino)」の死を受けて、6月から「正義を実現する」ためのキャンペーンを開始したと語るパオラ・コロナドによれば、ガハルド「だけが責任を負うわけではない。なぜならこの施設には所有者が存在し、被告が出て行った際には保護観察の措置 が適用されていた」からである。「息子の事故の後、調査を始めたところ、法律には多くの欠陥があることが分かった。その欠陥がなければ、息子は生きていたはずだ」と彼女は述べた。

その文脈の中で、国会議員ホルヘ・グスマンは法案を提出した。この法案についてグスマンは、「国内のアドベンチャーツーリズム(Turismo Aventura)事業者全員に、観光品質の認証(sello de calidad turística)を義務付けること、さらにその認証を見やすい場所に掲示し、実際にアドベンチャーツーリズムを利用する利用者自身が、その事業者が必要な許可と安全条件をすべて備えていることを確認できるようにすること」を目的としている。グスマンはさらに、「これにより、ディエゴに起きたような事故が二度と起こらないよう、安全基準を確立することを目指すものである。ディエゴは、完全に怠慢で無責任なツーリズム事業者のせいで命を失った」と述べた。

国会議員によると、この法案は「経済委員会(Comisión de Economía)の構成議員の大多数によって横断的に賛同され」ており、また、経済大臣ニコラス・グラウ(Nicolás Grau)および国立観光サービス(Servicio Nacional de Turismo:SERNATUR)もこの法案に協力することを約束したと報告していた。

 

トレス・デル・パイネでの事故

トレス・デル・パイネ国立公園では事故が相次いでいる。2025年11月18日午後、マガジャネス政府代表(Delegación Presidencial de Magallanes)のホセ・アントニオ・ルイス(José Antonio Ruiz)は、同公園で新たに発生した迷子事件の結果、5人の外国人観光客が死亡したことを発表した。死者はメキシコ人2名、ドイツ人2名、イギリス人1名であった。

マガジャネス地域検察庁(Fiscalía Regional de Magallanes)の検察官クリスチアン・クリソスト(Cristián Crisosto)によると、「法医学局(Servicio Médico Legal)は遺体鑑定を迅速に進めており、現段階の捜査では5名の死因は低体温症(hipotermia)であったことが確認されている」と述べた。

ルイスは「すでに各国領事と遺体の本国送還に関する協議を開始している」と述べ、「ご家族や友人の皆様にお悔やみを申し上げる」とコメントした。

観光グループは悪天候の中、ロス・ペロス(Los Perros)キャンプ場とジョン・ガードナー(John Gardner)峠の間を移動中に迷子となった。現場では4名の生存者も発見され、これ以上の行方不明者がいないことも確認されている。ルイスは事件の調査について「遺体の救出後、必要なプロトコルが遵守されていたかどうかが確認される」と説明した。「現場に企業スタッフがいたか、警報が発せられたかについても確認済みだが、これは今後の調査の一部でしかない。調査では、プロトコルが適切に実行されたかどうかも評価される予定である」と述べた。

惨事の後、マガジャネス州の地域当局は、パイネ山塊(Macizo Paine)を歩行していた全員の避難が完了したとして、緊急事態の収束を発表した。プンタ・アレナス(Punta Arenas)では金曜日、Senapredが主導する、現場指揮や災害対応を調整するための会議(Cogrid)で遺体捜索、生存者の救助、さらに「Oサーキット(circuito O)」ルートを歩いていた訪問者の避難作業も終了したことが報告された。

マガジャネス政府代表ホセ・アントニオ・ルイス(José Antonio Ruiz)も、木曜日にパイネ山塊地区を移動中の人々の避難が完了したことを説明した。彼によると避難はトラックなどの陸路で行われ、避難者は夜間にプエルト・ナタレス病院(Hospital de Puerto Natales)に到着した。また、宿泊先がない人々のために一時避難所を開設し、予防的な健康診断と初期心理ケアを提供、必要な場合は領事当局との連絡も支援したことを強調し、以上をもって緊急事態は収束したと述べた。地域当局者によれば、事故で対応を受けた全員はすでに退院しており、今後は亡くなった5名の遺体の本国送還手続きが進められる段階である。法医学研究所と、メキシコ、ドイツ、イギリスの領事当局との協議が行われている。

遺体の救出は軍のヘリコプター部隊が担当する予定で、気象条件が作業を許可する水曜日以降に実施される。マガジャネス州の国立災害予防・対応局(Servicio Nacional de Prevención y Respuesta ante Desastres:Senapred)地域局長フアン・カルロス・アンドラデ(Juan Carlos Andrade)は、午前中にCogridを開き、カラビネロスが主導する技術組織と連携して救出計画を確認すると説明した。救出作業には、陸軍、国立公園スタッフ、アンデス救助隊のボランティアや高山チームも参加する。

ガブリエル・ボリッチ(Gabriel Boric)大統領は自身のX(旧Twitter)で、強い吹雪と最大時速190キロの風の中、捜索・救助・避難作業に取り組んだカラビネロス(Carabineros)、陸軍(Ejército)、アンデス救助隊(Socorro Andino)、コナフ(Conaf)の活動を称賛するとともに、トレス・デル・パイネでの悲劇により亡くなったメキシコ、ドイツ、イギリスの国籍を持つ5名の遺族や関係者に対して深い哀悼の意を表し、「困難な状況の中でも、チリ当局および関係機関から全面的な支援を受けられることを知っていただきたい」と述べた。

 

悪天候は土曜日から予測されていた

Cooperativaの番組「Lo Que Queda del Día」で、チリ気象局(Dirección Meteorológica de Chile:DMC)のアルナルド・スニガ(Arnaldo Zúñiga)は、トレス・デル・パイネで発生した事故に関連して極南部の気象状況について説明した。強風は稀ではあるものの、土曜日から発表されていた警報によって予測されていたという。

専門家によると、通常の前線システムでは高高度で秒速約300 kmのジェットストリームが発生するが、今回は秒速400 kmの風が観測され、低高度での極めて強い風の可能性が予告されていた。スニガは、マガジャネス地域の大気は非常に動的で変化が速く、前線が次々と到来する特徴があると説明した。

短期予報については、にわか雨は続くものの、捜索活動などには天候の“窓”を活用することが重要であり、特に木曜日に予想される天候の回復が救助活動に役立つと述べた。

スニガは最後に住民に対し、防災の重要性を強調し、「常に天気予報を確認し、わからなければ尋ねてください。それだけで十分です。我々はそのために存在しています」と呼びかけた。

 

孤立状況にもかかわらず、警報は状況に応じて発出された

国家防災・緊急対応庁(Senapred)は、トレス・デル・パイネでの事故現場が孤立しているなか、緊急警報は「状況に応じて」発出されたと強調した。

Senapred地域局長フアン・カルロス・アンドラデスによれば、警報は事故現場から送られたSOS信号を通じて把握され、14時10分に受信された。その約10分後には、当時の状況分析担当者である公園当局へ伝達された。

アンドラデスは、これにより各区間にいた旅行者の捜索・監視・確認作業が動員され、最終的に定められた時間内で実行されたことを強調した。

 

国家およびコンセッション企業による義務不履行の可能性

マガジャネス地域検察庁の地方検事クリスチアン・クリソストは、観光客の死亡事件について、複数の捜査仮説がある中で 注意義務の不履行 の可能性に焦点を当てていると述べた。検事によれば、国家は専門スタッフ不足やサービス提供の不備を理由に義務を怠ることは許されないが、同時に、コンセッション契約に基づき国立公園内のサービスを提供する民間企業(とくにVértice社)の過失の可能性もあるという。契約には重大な職務不履行を理由とした早期終了条項が含まれており、法的影響が生じる可能性がある。

捜査は、殺人捜査部(Brigada de Homicidios)が主導し、関係者や目撃者から事情聴取を行う形で進められている。国立森林公社(Corporación Nacional Forestal:CONAF)職員や民間企業関係者も既に聴取済みであり、捜査のいかなる仮説も排除されていない。

また、事件の経緯を再構築するため、被害者の所持品(電子機器、衣服など)も収集されている。当初は不慮の事故として捜査が開始されたが、最初の死亡報告を受けて 死体発見事件に変更されたことも明らかになった。

一方、悲劇が発生したロス・ペロス越えの区間で勤務していなかったレンジャーは、選挙日に投票のため不在であった。クリソスト検察官は、彼らも聴取対象として召喚されることを確認している。

 

チリ捜査警察による捜査手続き

チリ捜査警察(Policía de Investigaciones de Chile:PDI)は、殺人捜査部および犯罪科学ラボ(Laboratorio de Criminalística:LACRIM)の作業を支援するため、多分野からなるチームを編成したと発表した。

マガジャネス地域警察署長でPDIの上級管理職のカルロス・ヴァスケス(Carlos Vásquez)は、「我々は、事件がどのように発生したかを再構築するために、人的資源および科学的資源のすべてを提供する。この目的のため、昨日および現在もさまざまな捜査を実施しており、関連するすべての資料を検察に提供する予定である」と説明した。

さらにヴァスケス署長は、「すでにこの観光グループに参加していた多くの人々から多数の事情聴取を行った。現在も別の人物への聴取を我々のチームが進めている。地域検察官が述べた通り、すべての捜査ラインが追求される予定である。今回の目的は、事件がどのように発生したかを完全に再構築することであり、そのための資料を我々は定期的に検察に提供している」と補足した。

 

参考資料:

1. Torres del Paine: Diputado llama al Gobierno a poner urgencia a proyecto de seguridad en turismo
2. Torres del Paine: Concluyó evacuación de cuerpos, sobrevivientes y pasajeros 
3. Torres del Paine: Fiscal confirmó que los cinco turistas murieron por hipotermia
4. Torres del Paine: Aumentaron a cinco los fallecidos y encontraron con vida a otras cuatro personas
5. Quién era Diego “Chino” Albornoz, el joven que murió tras saltar en bungee y cuyo deceso impulsa un proyecto de ley

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