映画:『ラジオ・ダダーブ』で知るソマリアにおける干ばつと難民の増加

ケニア北部のダダーブ難民キャンプ/コンプレックス(Dadaab refugee camp / Dadaab Refugee Complex)で暮らすファルドウサ・セラト(Fardowsa Serat)はソマリア難民である。しかし、彼女はケニアで生まれ育ち、生活のすべてはダダーブ難民キャンプにある。世界で二番目に大きいこの難民キャンプには約20万人のソマリア人が暮らしており、レストランや病院などの施設もある一方で、難民はキャンプの外へ出ることを許されていない。ファルドウサのような難民は、生まれ育った環境や自らのアイデンティティがあっても、それに結びつく国籍やパスポートを持たない。

 

ファルドウサは、難民自身が運営するラジオ局「Gargar FM」でジャーナリストとして働いている。キャンプから世界へ届けられる声は、彼らが直面する問題を訴えるものであり、政治家や行政機関が歪めて伝える内容とは大きく異なる。キャンプから発せられる声は、気候正義の実現に向け、グローバル・ノースに暮らす人々が積極的かつ迅速に行動を変えていかなければならないという事実を、改めて私たちに突きつけている。

ダダーブ難民キャンプは、ソマリアでの戦争や暴力から逃れてきた人々を保護するため、1991年に開設された。これは、ソマリア内戦から逃れた難民がケニアに越境してきたことがきっかけである。2回目の大規模な難民流入は2011年に発生し、約13万人が南ソマリアの干ばつや飢饉を逃れて到着した。現在、ダガハレイ(Dagahaley)、イフォ(Ifo)、ハガデラ(Hagadera)の3つの難民キャンプと「イフォ2統合居住地」が存在し、難民の96%以上をソマリア人が占める。

上述の通り当初の背景には、確かに内戦という明確な理由があった。しかし現在のダダーブは、その性質を大きく変えつつある。気候変動による飢餓や干ばつが深刻化し、これを逃れるための「気候難民」が新たに流入しているのだ。キャンプで教師は、生徒たちに気候変動を説明しながら「私たちは安全だろうか」と問いかけ、そして自ら答える。「私たちはまったく安全なんかではない」と。すでに暑く乾燥した土地におけるさらなる気温上昇は、温帯地域とは比較にならないほど危険である。ダダーブのような地域は、何も悪いことをしていないにもかかわらず、気候危機の最前線に立たされている。

 

ソマリアにおける干ばつと非常事態宣言

ソマリア災害管理庁(Somalia Disaster Management Agency:SoDMA)は2025年11月上旬、国家規模の干ばつ非常事態を宣言し、緊急かつ統合的な対応を呼びかけた。国家非常事態の宣言は、2022年に飢饉寸前にまで悪化した状況以来である。今回の危機の背景には、長引く降雨不足、高騰する食料価格、続く紛争があり、さらに人道支援への資金が74%も削減されたことで事態は一層深刻化している。

増え続けるニーズに反して、国際ドナーによる大幅な資金削減が行われており、ソマリアで最も脆弱な人々は本来避けられたはずの苦しみに直面している。必須サービスへの資金は極めて不足しており、2025年ソマリア人道支援計画(Somalia Humanitarian Needs and Response Plan)も、10月末時点でわずか21.7%しか資金が確保されていない。

資金不足の影響で、人道支援機関は救命的な緊急支援を削減・縮小せざるを得ず、その結果、飢餓や栄養不良の危険にさらされる人々は数百万人にも上る。11月に緊急食料支援を受けられる人はわずか35万人と予測され、8月の110万人から大幅に減少する見通しである。これは、食料支援を必要とする人のうち、支援を受けられるのが10人に1人にも満たない状況を意味している。

さらに、世界食糧計画(World Food Programme:WFP)によれば、現金支援は2026年第1四半期までに29地区で終了する予定であり、中等度急性栄養不良(Moderate Acute Malnutrition:MAM)への対応も、12月までに41地区から21地区へと半減する見通しである。

医療面の状況も深刻である。200を超える医療施設が機能停止または閉鎖され、移動医療チームも解散したことで、数十万人が必要な医療サービスを受けられない状態に置かれている。加えて、子ども60万人や少数派・周縁化されたコミュニティ22万人を含む、170万人以上の脆弱な人々が、保護や社会的支援、権利に基づくサービスを失っている。

水・衛生・衛生管理(Water, Sanitation and Hygiene:WASH)プログラムへの資金も今年は極めて不足しており、栄養補助給食サイトは617か所から300か所へと半減した。また、遠隔地では60か所以上の重要な井戸が修理資金の不足により稼働できず、結果として15地区で30万人以上が安全な飲料水を利用できない状況に置かれている。

3シーズン連続で降雨が不十分であったことで、遊牧民や農村コミュニティは壊滅的な打撃を受け、家畜は大量に死に、収穫も失われた。さらに、新たな干ばつに加えてラニーニャ現象が予測されており、状況は一層悪化する恐れがあるにもかかわらず、国際的な人道支援は74%も削減されている。

 

国際食糧政策分類(Integrated Food Security Phase Classification:IPC)の最新報告(9月23日発表)によれば、ソマリア国内では約340万人が急性食料不安の高水準(IPCフェーズ3「危機」以上)に直面しており、そのうち62万4,000人が緊急レベル(IPCフェーズ4)に分類される。これは人口の約3%に相当する。影響を受ける人々には、国内避難民、農作物の不作に苦しむ農民、わずかな家畜しか持たない遊牧民が含まれている。

IPCの調査結果は、2024年の不規則な降雨が作物収量の低下、牧草地や水源の急速な枯渇、食用作物の洪水被害、さらには数十万人の人々の避難を引き起こしたことを裏付けている。

WFPソマリア事務所長のエル=キディール・ダルーム(El-Khidir Daloum)は次のように述べた。「干ばつのような繰り返される衝撃により、何百万人ものソマリア人が飢餓のリスクにさらされており、食料価格は上昇し、収穫は減少している。2022年には大規模な人道支援のおかげで飢饉はかろうじて回避されたが、今回も即時支援を提供するとともに、長期的な解決策を実施するために同様の支援が必要である。しかし、資金不足のため、最も厳しい時期において支援の優先順位を付け、削減せざるを得ない状況にある。」

国連人道問題調整事務所(UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs:OCHA)の発表によると、2025年10月から12月の間だけでも約440万人が食料不安に直面すると予測され、そのうち185万人の子どもは急性栄養不良に苦しむ見込みである。その中には重度急性栄養不良(Severe Acute Malnutrition:SAM)に陥る42万1,000人の子どもも含まれる。これは前年同期比で9%超の増加にあたる。栄養不良の負担の約3分の2(64%)は、干ばつと治安悪化が最も深刻な南部ソマリアに集中している。

UNICEFソマリア事務所の責任者代行ニサール・サイード(Nisar Syed)は次のように述べている。「過去の気候災害が示すように、子どもたちは最も影響を受けやすく、重度の栄養不良や各種疾病に直面し、死亡リスクや長期的な発達への悪影響が大きい」。さらにサイードは「予防こそが鍵であるため、UNICEFは清潔な水と衛生環境へのアクセス改善、微量栄養素の提供、保護者への栄養不良の早期兆候を見分けるトレーニング、そして遠隔地での支援活動に取り組んでいる。こうした危機が繰り返される状況を踏まえ、多部門にまたがる総合的アプローチが不可欠である。私たちは政府を含むすべての関係者と協力し、レジリエンス(回復力)の強化、予防的な対応、そして強固な保健システムへの投資を進めていく必要がある」と続けた。

2022年、ソマリアの干ばつゆえに命を落とした人数は4万3000人(推定)で、その半数は5歳以下の子どもであった。彼らが難民になっているのは、彼らに問題があるからでは決してない。

9人の子どもたちとともにダダーブ難民キャンプで暮らす30歳の母親ファドゥモ(Fadumo)は、「干ばつは人間にも家畜にも影響を及ぼす。ヤギは干ばつで死ぬ。家畜の世話をしている日常でも、帰る途中で死ぬことがある」と語る。そして「私たちは朝食と夕食しか食べられない。昼食はない。子どもが学校から帰ってきたときに、私が作ったわずかな食事を食べる。米かサワードウパンケーキとタマネギを作るだけだ」と続けた。

FEWS NET(Famine Early Warning Systems Network)の最新データでは、ソマリアの食料不安は今後さらに深刻化すると予測されている。2026年初頭には最大590万人が食料支援を必要とする可能性があり、これは2025年末時点で支援を必要としていた約440万人から大幅な増加となる。

#旱ばつ #難民 #国内避難民

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参考文献:

1. RADIO DADAAB / Environmental Justice Foundation Charitable Trust (EJF) ※Full Movie視聴可能
2. Somalia: Only one in three people in need get food support as drought-induced hunger crisis worsens –
3. Monthly Humanitarian Update | September and October 2025

作品情報:

名前:  Radio Dadaab(邦題:ラジオ・ダダーブ)
制作国:  イギリス(撮影:ケニア)
製作会社: Environmental Justice Foundation Charitable Trust (EJF)
時間:   25 minutes
ジャンル:ドキュメンタリー

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