米国:トランプ政権の強制捜索を回避するため移民グループが用いる戦術

(Photo:BBC News Brasil)

ドナルド・トランプ(Donald Trump)政権が再び移民政策を強化する中、米国に暮らす不法移民たちは、拘束や強制送還を回避するための自衛手段を模索している。中でも、WhatsAppなどのメッセージアプリを通じて形成された移民グループの連携が注目されている。

BBCニュース・ブラジルによると、移民・関税執行局(United States Immigration and Customs Enforcement:ICE)による強制捜索の動きが強まるなか、多くの移民が匿名性を保ちつつ、リアルタイムで情報交換を行い、不測の事態に備えている。

たとえば、あるブラジル人女性移民がグループ内で共有したのは手話のチュートリアル動画だった。動画に続き、彼女は音声メッセージで「もう公共の場で話さないでください」と呼びかけた。これは、ICEの目に留まることを避けるため、目立たず静かに行動することを推奨する一例である。

このような“カモフラージュ戦略”は他にも存在する。別のメンバーは、「米国人らしく見えるようにする」ことを提案。ポルトガル語を話す子どもを外出させない、サングラスをかけて外出する、さらには車にトランプ支持のステッカーを貼るといった対策まで共有されている。これらの助言は、もはや単なる注意喚起ではなく、移民社会における「生存戦略」として受け止められている。

実際、トランプ政権は1日3,000人の逮捕を目標に掲げており、ICEの取り締まりがこれまで以上に広範かつ迅速に行われる可能性がある。こうした状況下で、不法移民たちは目立つ言動を避けることが最も効果的な防衛策だと考えている。

マサチューセッツ州では、推定30万人にのぼるブラジル人移民が暮らしており、こうしたグループによる情報共有は特に活発だとされる。地元NGOによれば、家族や子どもを抱える多くの移民が、身を守る術を学び合いながら、日々の生活をなんとか維持しているという。

取り締まりが強化される中、移民たちは恐怖と隣り合わせの暮らしを余儀なくされており、「声を上げない」ことが、今や生き延びるための知恵となっている。

GETTY IMAGES

 

トランプ政権による強硬な移民政策の再開を受けて、米国内の移民コミュニティでは不安と緊張が高まっている。特にマサチューセッツ州に暮らすブラジル人移民たちは、WhatsAppなどのメッセージアプリを通じて、当局の検問や逮捕情報をリアルタイムで共有し合うネットワークを形成している。

BBCニュース・ブラジルによれば、これらのチャットグループには毎日数千件のメッセージが届き、移民・関税執行局(ICE)の動向に関する重要情報が絶えずやり取りされている。その中には、検問所の位置情報、拘束された人物の写真、あるいは逮捕時に乗っていた車両の画像なども含まれる。いずれも、行方不明となった家族や仲間を特定するために役立てられている。実際に投稿されたとされるメッセージの一部には、次のような緊迫した内容が含まれている。

ミルフォードで女性1人と少女1人がICEの車4台で連行された。
彼らは全力でやってきた。神の憐れみが彼女たちにありますように。

STUART CAHILL / GETTY

 

グループ内では他にも、公共の場で話さないようにとの注意喚起や、「より米国人らしく見せる」ための戦略が共有されている。サングラスの着用、ポルトガル語を話す子どもを家から出さない、車にトランプ支持のステッカーを貼るなど、拘束リスクを避けるための具体的なアドバイスも飛び交っている。

こうした警戒は、法的な曖昧さにも起因している。原則として、ICEの職員が住居に立ち入るためには裁判所の令状が必要だが、実際には「行政令状」のみで行動するケースが多く、公共の場であれば即座に拘束が可能とされている。

さらに数週間前、連邦最高裁判所はトランプ政権の主張を支持し、移民取り締まりにおけるICE捜査官の裁量権を拡大する判決を下した。この判断は、人種や言語に基づいた恣意的な拘束を正当化するおそれがあるとして、複数の人権団体から強い批判を浴びている。

マサチューセッツ州内最大のブラジル人コミュニティを抱える地域では、この判決を「逮捕のための白紙小切手」と受け止めているという。多くの移民が通勤経路を変え、学校や公共施設への立ち入りを控えるなど、日常生活そのものを変えざるを得ない状況に追い込まれている。

 

以下メッセージの内容は実際に投稿されたものを反映しているが、関係者の身元保護のために名前などは変更されている。

米国における移民・関税執行局(ICE)の活動が活発化するなか、移民コミュニティでは不安が高まり続けている。特にマサチューセッツ州を中心としたブラジル人移民の間では、WhatsAppグループを通じて検問や拘束情報がリアルタイムで共有されている。

BBCニュース・ブラジルが確認した複数のメッセージには、被拘束者の家族を探し出し、支援しようとするコミュニティの努力がにじんでいた。

この車の持ち主が今朝、移民局に拘束された。誰か知っている人がいたら、私に連絡を取るよう伝えてほしい。
みんな、カルラの家族を探すのを手伝って。彼女はストートンでICEに逮捕された

 

このような投稿は日常的にグループ内で共有されており、拘束の瞬間を捉えた写真、放置された車両の情報、検問の目撃情報などが数千件単位で投稿されている。投稿者の多くは、家族や知人が当局に拘束されたことを受け、迅速に安否を確認しようと必死である。

 

 

より強まる圧力

 

移民排斥、選挙の主軸に

米国内の不法移民を国外追放することは、トランプ政権における主要な政策目標の一つである。大統領選挙の期間中、トランプ氏は次のように主張していた。

制御不能な移民は国家の血を汚染している。移民によって米国民の雇用が奪われ、公共サービスが圧迫されている。

 

このような過激なレトリックは、一部の支持層から喝采を浴びる一方で、国際的な人権団体や移民支援団体からは強い批判を受けている。

米国国土安全保障省(DHS)の最新の報告によれば、トランプの政権復帰以降、すでに約40万人の移民が国外へ強制送還されたとされている。

 

情報網と連帯で支援広がる

WhatsAppを通じた移民同士の情報共有は、単なる警戒網を超えて、助け合いのネットワークとしても機能している。見知らぬ者同士が被拘束者の家族を探し、近隣住民が最新情報を提供することで、危機に瀕した移民の生活がかろうじて支えられている。

BBCニュース・ブラジルでは、こうしたネットワークを日々記録し続けており、その内容は、米国の移民政策の変化が、移民の日常生活にどれほど深刻な影響を与えているかを如実に物語っている。

米国における移民政策の強化が進む中、不法移民に対する取り締まりは過去に例を見ない規模へと拡大している。ブラジルのメディアが引用した公式データによれば、2025年1月以降、2,000人以上の移民がブラジルへ強制送還されたという。

また、現在およそ6万人の移民が米国内の収容施設に拘束されており、これは史上最多であると報じられている。これは米国の移民政策を追跡している研究機関が管理するデータベースに基づくものであり、ドナルド・トランプが最初に大統領に就任した当時の拘留者数(約3万9,000人)を大きく上回る水準である。

ホワイトハウスの当局者はこれに関連し、ICEが1日3,000件の逮捕を行える体制の構築を期待していると述べている。これは政権が掲げる「史上最大規模の国外退去政策」の実現に向けた一環であるとされる。

 

 

恐怖と迷い、移民コミュニティに漂う緊張感

BBCニュース・ブラジルが監視している複数のWhatsAppチャットグループでは、米国内に住むブラジル人移民たちの間で、強制送還への恐怖と不安が露わになっている。ある女性は「マルシア(Marcia)」と名乗り、こう語った。

もう道で誰かに挨拶されても返事をしない。

身の危険を感じるほどの監視状態に置かれているという認識が、移民たちの行動を大きく変化させている。また、「クラウディア(Claudia)」という女性は、

こんなホラー映画のような生活は初めて。

と述べ、以前は「絶対に戻らない」と誓っていたにもかかわらず、ブラジルへの帰国を真剣に検討していることを明かした。一方で、「ルイス(Luis)」という男性は、次のように自身の覚悟を語った。

私はこの国が大好きだ。もしこの国のために困難を乗り越えなければならないなら、それでも私はここで闘いたい。ブラジルも愛しているが、米国はすでに私の祖国になった。

このように、米国における厳格な移民政策の影響は、単なる法的・政治的な問題にとどまらず、個人の人生観や所属意識にまで深く関わっている。

 

 

「ただ消えただけ」

米マサチューセッツ州ローウェルに住むブラジル人移民たちは、移民局(ICE)の強制捜査に関する情報を活発に共有している。

ローウェルの町並みを背景に、ボストン近郊に暮らすブラジル出身の「ロレナ・ベッツ(Lorena Betts、37歳)」は、移民からの通報を受けて逮捕情報を記録するボランティアネットワークを立ち上げた。ベッツによれば、「ここ数日、逮捕された後に『ただ消えてしまった』という人の報告が急増している」という。彼女はさらに、「WhatsAppのグループは、そのような人たちの情報を得るための命綱となっている」と語った。

また、ベッツは「ボストンで逮捕された人が翌日にはニューヨーク、さらにルイジアナへと移送されているケースもある。南部の方が判決が厳しいからだ」と説明する。ベッツはアメリカ人と結婚して合法的に滞在しているが、現在はマサチューセッツ州議会の民主党候補としても出馬中である。

 

 

毎朝5時、グループが「爆発」する

ジュニオル(Júnior、27歳)は、移民向けWhatsAppグループの管理者の一人である。フードデリバリーの配達員として働き、3年前にブラジルから渡米した。彼は、「毎朝5時になると、グループは爆発するように動き出す。これはICEのエージェントたちが動き始める時間だからだ」と語る。

ジュニオルは2025年1月、トランプ大統領が復帰したのを受けてこのグループを立ち上げた。主に移民への「強制捜査に関する警報ネットワーク」として機能させるのが目的である。

彼は、「とても役に立っている。ICEの職員はよく私服や覆面車両でやってくるため、誰かが車の動画やナンバープレートを共有してくれるだけでも大助かりだ」と語った。ただし、誤報やデマも流れることがあるという。

 

 

「聖域都市」ボストンと連邦政府の対立

ボストンは「聖域都市(sanctuary city)」を宣言し、移民取締りにおいて連邦政府との協力を拒否している。

聖域都市に属する警察機構は、外国人に対して在留資格の有無を調査しないことをはじめ、国籍のある国への強制送還措置を前提とした中央政府による不法移民に関する調査協力を拒否している。そのため、聖域都市の不法移民は強制送還の心配をせずに、地元警察への協力や犯罪被害の申告が可能な仕組みが確立されている。また、不法滞在で在住しているにもかかわらず、市民権を持つ市民とほぼ同様の公共サービスを受けられる事例も存在する。中には条例を制定して、こうした対応を徹底している都市もある。

これに反発したトランプ政権は、2025年9月初めに「パトリオット作戦2.0(Operación Patriota 2.0)」を発動した。この作戦は、ボストン市長で民主党のミシェル・ウー(Michelle Wu)が強制捜査を公然と批判したことに対する対応とされている。

なお、今回の作戦は2025年に入ってから3回目の大規模ICE作戦であり、3月と5月の作戦に続くものである。また、ICEはブラジル人に関する拘束の詳細について、BBC News Brasilの取材に対し一切コメントしていない。

 

 

空に浮かぶドローン――ブラジル人移民が監視に活用し、不安と連帯が交錯する

2025年9月16日、ボストン北西部のブラジル人居住地区にパニックが広がった。住民たちは出口が車両で塞がれた様子の写真をWhatsAppグループで共有し、外出するのが怖くてたまらないと語った。

写真には、近隣の様子を観察するためにブラジル人移民が購入したドローンとみられる機体が地上に止まっている様子が映っていた。ドローンで撮影された映像も拡散され、怪しい車両がICEのエージェントを運んでいる可能性があるとして拡大表示された。

移民たちは近所にICEがいるかどうかを知るため、ドローンを使い始めている。チャットの中では、マリーナという人物が驚きつつ「みんな、ドローンで監視してるんだって、ははは」とコメント。ライスは「うちもあるよ。夫が毎日飛ばしている」と答え、マルシアも「いいアイデアね。私も買おうと思う」と続いた。

こうした動きの背景には、移民たちが感じる唯一の安全地帯が自宅の中だけであるという切実な思いがある。

 

 

「仕事をやめよう」――恐怖と不安が生む声

WhatsAppでは感情が込められたメッセージも拡散されている。「一週間か二週間働いて金持ちになれるの?それとも子供たちから離れた拘留施設で何ヶ月も閉じ込められたいの?」という問いかけである。

移民向けのチャットグループ管理者の一人、ジュニオル(Júnior、27歳)は、ICEが裁判所の令状を待つことなく、「先に逮捕し、後で尋問する」ことが多い実態を強く実感している。彼は母親の特別ビザを通じて永住権申請を進めているが、無登録の恋人や子供のことを常に心配している。「英語が下手だと、その場で捕まる。市民権の有無は関係ない」と語る。

 

昨年の休暇中に強盗に遭った経験もあり、ジュニオルはブラジルへ帰るつもりはない。彼や彼のネットワークの仲間たちは、自分たちの監視システムにも限界があることを認識している。「奴らはとても素早い。4分もあれば誰かを逮捕して立ち去ってしまう」と語った。

 

 

迅速な対応策

WhatsAppで共有された写真には、逮捕された者の一人が食べきれなかった昼食が映っている。左側には灰色のバンが写り、その上には悲しげな絵文字が添えられている。

写真:WhatsAppで共有された写真には、逮捕された者が食べきれなかった昼食が写っている。

 

メッセージからは、ICEの行動が多くの人々に驚きと不安をもたらしたことが読み取れる。あるユーザー、アルベルトは次のように書いた。「この国で最後に食べる食事が何になるのか、決してわからない。これが今の悲しい現実だ」。

 

ボランティアのネットワーク

ボランティアのネットワークは、迅速に情報を共有し、逮捕報告のあった場所には調査員を派遣して現場の確認や撮影を行っている。ベッツが率いるネットワークの一つは、英語が話せない者や暴力的な対応を受けた後に当局との連絡を恐れる者たちへの支援窓口も運営している。

ボランティアたちは防犯カメラの映像を集め、移民と弁護士の橋渡しをし、逮捕後に収入を失った家族のために食料購入の支援も行っている。これらの活動はWhatsAppグループを通じて行われている。プライベートなネットワークもあれば、教会や地域団体に関連した公開チャットも存在する。

ベッツは「人々が電話で詳細を伝え、地元のボランティアたちが携帯電話を持って現場に向かい記録を取っている」と言う。「私たちは警察の仕事を妨害しているのではなく、憲法で保障された記録の権利を行使しているに過ぎない」とも述べた。

#DonaldTrump #ICE

 

参考資料:

1. Las tácticas que utiliza un grupo de migrantes en EE.UU. para burlar las redadas del gobierno de Trump

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