エクアドル:「Loma Larga」鉱山プロジェクトの環境許可の取り消し

(Photo:API)

エクアドル政府は、2025年10月4日、ドイツ系カナダ企業ダンディー・プレシャス・メタルズ社(Dundee Precious Metals:DPM)に対して交付していたロマ・ラルガ(Loma Larga)鉱山プロジェクト環境許可(licencia ambiental)を取り消したと発表した。鉱業プロジェクトへの投資は大規模であり、許可の取り消しは経済的影響を伴う措置である。なお、当該許可は2025年6月23日に交付されていた。

この決定は、エクアドルの環境・エネルギー省によって下されたものであり、その根拠としては、クエンカ(Cuenca)市役所およびアスアイ(Azuay)県庁から提出された技術報告書が挙げられる。両機関は、それぞれ地域の飲料水供給および灌漑システムの管理を担っている。

政府は、2025年9月25日、ロマ・ラルガ鉱山プロジェクトに対する環境ライセンスの停止に向けた手続きに着手すると発表していた。この発表に先立ち、9月23日には、クエンカ市長クリスティアン・サモラ(Cristian Zamora)およびアスアイ県知事フアン・クリストバル・ジョレット(Juan Cristobal Lloret)が、アスアイ県知事官邸および環境・エネルギー省の要請を受けて出席し、鉱山プロジェクトの中止を求める技術報告書を提出していた。

報告書は、同プロジェクトがキムサコチャ(Quimsacocha)水系に与えるリスクを指摘しており、これは、地域住民や環境団体が長年にわたり反対運動を通じて主張してきた内容と一致する。ロマ・ラルガは環境的に脆弱な地域に位置しており、同水源地に悪影響を与える可能性があるとされ、地域住民の健康に深刻なリスクをもたらすとの懸念から、住民およびアスアイ県の自治体当局から強い反対を受けていた。

今回の決定に関する政府の公式声明によれば、環境許可の取り消しは行政手続き番号「MAATE‑SUIA‑LA‑2025‑00003」に基づいて行われたものである。環境・エネルギー省は、これらの報告書が地方自治体の技術的責任に基づいて作成されたものであることを強調しつつも、それらが国家政府による本決定の重要な根拠となったことを明らかにしている。

 

クエンカ市長クリスティアン・サモラは、自身の見解に基づき、当該プロジェクトの進行を認めるべきではないとする理由を裏付ける8点の文書を提出した。アスアイ県知事フアン・クリストバル・ジョレットも同様に、過去に提出済みの資料ではあるが、改めて再提出する意向を示し、報告書を提示した。

サモラ市長が提出した文書の中には、当時の「環境・水・エコロジー移行省」およびクエンカ市の公営企業(Empresa de Telecomunicaciones, Agua Potable, Alcantarillado y saneamiento de Cuenca:ETAPA)による報告書も含まれており、その中では汚染の存在が確認されていた。しかしながら、それらの文書はキトの関係機関において保管されたまま放置されていたとされる。

一方、アスアイ県庁は、ライセンス発行前に独自に実施した分析において、複数の問題点を指摘していた。同県庁による報告書は技術的・法的根拠に基づいたものであり、ダンディー・プレシャス・メタルズ社による当該プロジェクトは、キンサコチャのパラモ(高地湿原)においては不適合かつ実行不可能であるとの結論を示している。

 

エクアドルの環境・エネルギー省は声明において、「国家政府は、自然の権利、水源の保全、そして予防原則に基づき、クエンカおよびアスアイの住民の健康と福祉の保護に対するコミットメントを再確認する」と述べた。今回の決定は、エクアドル共和国憲法第73条および第396条に規定されている予防原則に基づくものである。この原則は、重大または不可逆的な環境被害の危険が存在する場合、たとえ科学的確実性が欠如しているとしても、国家が予防的措置を講じる義務を負うと定めている。この法的枠組みに基づき、環境・エネルギー省は、今回の環境許可の取消しは、自然の権利を保障し、水源を保護し、クエンカおよびアスアイの住民の健康と福祉を守ることを目的としていると明言した。あわせて、国家政府は、生態系の保護および自然資源の責任ある利用に対する自身の責任を再確認するとともに、環境に関する決定は経済的利益よりも公共の利益と持続可能性を優先するという、技術的かつ法的な基準に基づいて行われるべきであるとの立場を強調した。

クエンカ市長クリスティアン・サモラは、鉱山開発に反対する主要な声の一人であり、公共の場において演説し、「住民の声に耳を傾け、ライセンスを取り消した当局に感謝する」と述べた。さらに彼は、「このプロジェクトは、地元住民に供給される水量を深刻に脅かす可能性がある」と強調し、また、サモラ市長は「これは何十年にもわたる闘いであった」と述べ、長年にわたる住民運動とその成果に言及した。

 

ヤク・ペレスによるロマ・ラルガ環境ライセンスを巡る告発

元大統領候補のヤク・ペレス(Yaku Pérez)は、本件の環境許可取消後においても、「祝うことは何もない。鉱山の採掘権は依然として手つかずのままであり、水源への脅威は現実のものである」と語気を緩めていない。

ペレスは2025年8月26日(火)、ロマ・ラルガ鉱山プロジェクトの環境ライセンスに関する不正を理由として、ダニエル・ノボア(Daniel Noboa)大統領およびその妻ラビニア・バルボネシ(Lavinia Valbonesi)を検察に告発している。告発の中心は、2025年6月に承認された環境ライセンスの交付にあり、このプロセスにおいて影響力の行使(tráfico de influencias)収賄(cohecho)といった不正行為が存在したとペレスは主張している。この訴えは、ペレスが代表を務めるアスアイ農民組織連盟(Federación de Organizaciones Campesinas del Azuay:FOA)の名義で提出されたものであり、あわせて環境ライセンスの即時撤回を求める抗議行動の実施も発表されていた。

告発内容と捜査要請

ペレスによれば、環境ライセンスは「不正なプロセスを通じて交付された」。彼は経済的支援や政権幹部との接触が交付過程に影響を及ぼした可能性もあると指摘している。このため、ペレスは以下の機関に対して情報提供を要請するよう、検察当局に申し立てている:

  • 内国歳入庁(Servicio de Rentas Internas:SRI)
  • 会社監督庁(Superintendencia de Compañías)
  • 大統領府(Presidencia de la República)

 

さらに、ペレスはラビニア・バルボネシが主導する社会事業「プロジェクト・アナ(Proyecto ANA)」に関しても、その資金の出所を調査対象とするよう求めている。「この環境ライセンスは詐欺的な手法によって取得されたものであり、寄付および不正な影響の行使によって実現された」と断言し、事態の緊急性を強調している。また、この問題はアスアイ県における農村コミュニティの権利と生活を直接的に脅かすものであるとも述べている。また、訴状には次のような根拠が挙げられている:

  • ノボア大統領とガブリエラ・ソンメルフェルト(Gabriela Sommerfeld)外相が、カナダ・トロントにて鉱山企業の代表者と会合を行ったとされる点。
  • 環境ライセンス交付の前に、バルボネシが同社から寄付を受けていたとする疑惑。

 

プロジェクト・アナは、暴力の被害を受けた女性たちに第二の機会を提供することを目的とした社会支援プロジェクトである。プロジェクト名の由来は、「アナ」と名乗る一人の女性の物語にあり、彼女の勇気と回復力に深く感銘を受けたことが、プロジェクト立ち上げの動機となった。

バルボネシによれば、「彼女の証言は、困難な状況においても前進は可能であることの明確な証拠である」とし、女性たちをエンパワーすることで暴力的な環境から抜け出し、「人生を変える」という想いから本取り組みは生まれたという。多くの女性が、支援や現実的な選択肢を持たないことにより、暴力の連鎖から抜け出せないという現実は、エクアドルに限らず広く社会的な問題である。プロジェクト・アナは、予防・教育・雇用・包括的支援という4つの柱を基盤として展開されている。

バルボネシは、本プロジェクトが民間企業や国際機関の支援を受けていると説明しているが、ペレスやその他の関係者が指摘するのは、「資金の出所」「予算の透明性」「行政との関係性」「プロジェクト実施の手続」「監督および説明責任」といった点である。このプロジェクトは、政府高官、特に第一夫人という公的立場にある人物と強く関係しており、また、鉱山許可問題の議論のなかで「環境ライセンス取得に関する不正疑惑」と結びついている。

 

環境ライセンスに関する新たな調査を開始

本プロジェクトには、地元住民や環境団体による長年にわたる反対運動が存在していた。多くの人々が、鉱山開発が水源および自然環境に甚大な影響を及ぼす可能性を懸念してきた。

すでに、エクアドル国民議会の憲法保証委員会(Comisión de Garantías Constitucionales)は、ロマ・ラルガ プロジェクトに対する環境許可の付与過程について、監査および政治的説明責任を求める手続きを開始している。実際、同委員会では9票の賛成多数により、環境・エネルギー省がDundee Precious Metals社に対して環境ライセンスを交付したことに関する疑義について、新たな政治的監視および監査プロセスの開始が承認された。

議員ロケ・オルドニェス(Roque Ordóñez)により提出された決議によれば、同委員会は環境・水・エコロジー移行省(Ministerio del Ambiente, Agua y Transición Ecológica:MAATE)に対し、本件に関連するすべての情報の提出を求めている。具体的には、憲法判決に関する法的見解をまとめた詳細な報告書、ならびにプロジェクトの「社会化」(地域住民との情報共有・協議)がいつ・どのように・誰に対して実施されたのか、さらにライセンス交付に至る手続きの全過程についての情報が含まれる。

本会合に先立ち、アスアイ女性評議会(Cabildo de las Mujeres del Azuay)代表のセシリア・アルバラード(Cecilia Alvarado)が発言し、女性と自然の命の重要性について言及するとともに、パラモ(高地湿原)を「水の工場」として保護することの意義を強調した。

クエンカ市民代表のタルキノ・オレジャナ(Tarquino Orellana)は、2021年2月7日に実施されたロマ・ラルガ鉱山プロジェクトに対する住民投票に言及し、得票率80%で可決された結果は、行政による一方的な決定によって侵されてはならないと主張した。

また、クエンカ市議会議員のロマン・カラバホ(Román Carabajo)は、同市において湿地帯およびその周辺地域に関する環境的懸念は常に存在してきたと述べ、住民投票の結果をはじめ、鉱山開発を制限する裁判判決、条例、その他の法的規定を順守する必要性を訴えた。さらに、クエンカ市環境管理副部長のロベルト・ゲレロもこの分析に参加した。

同委員会においては、「農村女性の認識とエンパワーメントを推進する法律案」に関する審議も行われ、エクアドル農村教区政府全国協議会(CONAGOPARE)の法務・技術チームによる見解が提出された。これは、立法提案の内容をさらに充実させることを目的としたものである。CONAGOPAREの事務局長リリア・オルドニェス(Lilia Ordoñez)は、本法案が生産および社会活動に従事する広範な農村女性層に対して恩恵をもたらすものであると指摘した。加えて、法律アドバイザーのジェニファー・グランハ(Jennifer Granja)および弁護士のダビッド・ロペス(David López)も発言し、本法案は農村部に限定されるべきではなく、教育・研修、有償・無償労働などの側面を含むべきであるとの意見を述べた。

 

政府内部の見解と矛盾

ただし、一部報道によれば、政府内においては「正式な取り消し手続きはまだ開始されていない」との主張も存在している。鉱業副大臣ハビエル・スビア(Xavier Subía)は、環境許可は現在も有効であり、これを取り消すための正式な申し立てはなされていないと述べている。

スビア副大臣はさらに、「報告書を手にして『証拠がある』と主張することと、正式な行政手続を踏んで環境許可を取り消すこととは別問題である」との見解を示している。

こうした見解の相違は、地方自治体レベルと中央政府との間における緊張関係、および責任の所在をめぐる対立を浮き彫りにしている。

 

DPM社のコメント

同プロジェクトを2021年に取得したダンディー・プレシャス・メタルズ社は、現時点においてコメント要請には応じていない。同社によれば、ロマ・ラルガ・プロジェクトには4億1,900万ドルの投資が見込まれており、操業初期5年間の年間平均金産出量は約20万オンスと試算されていた。

なお、エクアドル政府は2025年7月に同社に対して建設ライセンスを付与したが、その翌月の8月には環境管理計画の提出を求める措置を講じ、関連活動の停止を命じていた。

エクアドルは、金や銅をはじめとする豊富な鉱床を有する国であるが、近年の司法判断や地域住民による反対運動の影響により、多くの鉱業プロジェクトが中断もしくは停滞している。現在、国内で操業している鉱山企業は2社のみにとどまっている。

キンサコチャ水源地は3,200ヘクタール以上の面積を有し、アンデス高地に広がる「パラモ」と呼ばれる独自の生態系を含んでいる。この地域の湧水は、エクアドル国内にとどまらず、南米全体にとっても重要な水資源の一つとされている。

#鉱業 #YakuPérez

 

参考資料:

1. Ministerio revoca la licencia ambiental de proyecto minero Loma Larga en Ecuador
2. Gobierno revoca la licencia ambiental del proyecto minero Loma Larga
3. COMISIÓN INICIA PROCESO DE FISCALIZACIÓN SOBRE LICENCIA AMBIENTAL PARA PROYECTO MINERO LOMA LARGA
4. Ecuador revokes environmental license for Canada’s DPM to develop gold project
5. COMISIÓN INICIA PROCESO DE FISCALIZACIÓN SOBRE LICENCIA AMBIENTAL PARA PROYECTO MINERO LOMA LARGA
6. Yaku Pérez hace denuncia por la licencia ambiental de Loma Larga
7. Proyecto Ana

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