エクアドルの子どもたちが直面する栄養危機は、単なる「食料不足」という問題を超越した、構造的かつ制度的な課題である。国家戦略や国際的な支援が存在するものの、地域間の格差、教育、衛生、インフラの不足が根本的な改善を阻んでいる。この「沈黙の警告」をこれ以上看過することはできない。政治的意思と社会的な連携による、次世代の健康と尊厳を守るための体制構築が喫緊の課題である。
この危機的状況は、エクアドル全24県で実施された第4回全国調査「あなたの声、あなたの権利(Tu Voz, Tus Derechos)」によって改めて浮き彫りとなった。同調査には26万4,000人もの子どもや青少年が参加し、栄養に関する自身の体験を共有している。その結果からは、「何度も食べ物が手に入らなかった」という、子どもたちが置かれている厳しい現実が明らかとなった。この大規模な調査は、ワンブラ・クナパク・ユヤイクナ(Wambra Kunapak Yuyaykuna:WKYK)、ワールド・ビジョン・エクアドル(World Vision Ecuador)、ならびに政府機関の協力のもと実施されたものである。
2025年8月15日(金)、マリア・ホセ・ピント(María José Pinto)副大統領は、TCテレビ(TC Televisión)のインタビューにおいて、「バイリンガル・異文化教育」に関する自身の取り組みについて言及した。その中で、子どもの栄養失調とその対策に関して、コミュニティと連携した2つのパイロットプロジェクトを実施していることを明らかにした。
例えば、シエラ・セントロ地域では、母乳育児の重要性についての啓発活動が行われているという。多くの地域では適切に授乳が行われておらず、早期に他の食物を与えている実態があるためだ。この問題には文化的アプローチが不可欠であり、母親たちが自ら保健省にアクセスして適切なケアを受けられるよう、「コミュニティ全体で取り組むべきである」とピント副大統領は述べた。
さらに同氏は、「エクアドルでは5人に1人の子どもが依然として慢性的な栄養不良に苦しんでいる」と強調し、これらの子どもたちは「身体的にも知的にも正常に発達することができない」と指摘した。そのため、子どもへの支援は「国の未来に直結する極めて重要な課題である」と断言した。また、10代の母親の間での栄養失調の有病率は25%を超えていること、そして毎日115人の10代の少女(19歳未満)が出産しているという統計も紹介し、この問題の根深さを示した。
第4回全国調査により、貧困と子どもの栄養失調の深い関係が浮き彫りになっている。貧困にあえぐ家庭の母親たちからは、日々の食事の厳しさを訴える声が聞かれる。
ある母親は「週に1日しか働けず、お金がほとんど足りない。子どもたちが朝食にアニスティーと茹でたバナナしか食べられない日もある」と証言し、食料確保の困難さを訴える。また、小頭症(microcefalia)の子を持つ別の母親は、さらに厳しい現状を明かした。「肉を買うお金がなく、娘はほとんど豆類のスープだけで生きている。飲料水がないので、大きなボトルを買って何日も持たせている。娘は栄養不良で、健康状態はさらに悪化している」と、子どもの命に関わる窮状を訴えている。
2025年の調査によれば、子どもの主な栄養源は家庭であり、その割合は88.4%にのぼる。一方で、学校給食も子どもたちの栄養補給に重要な役割を果たしており、その影響は36.7%に達している。しかし、全国24県の回答者のうち38%が「常に食べ物が足りているわけではない」と答えており、食糧不足の深刻さが浮き彫りとなった。
こうした状況に対し、政府は2025年に「子どもの栄養不良なきエクアドル戦略(Ecuador Crece Sin Desnutrición Infantil)」に対して4億4260万ドルの予算を投入し、妊婦と2歳以下の子ども約60万人を支援対象にしたと発表している。しかし、ワールド・ビジョン・エクアドルのカントリーディレクター、エステバン・ラッソ(Esteban Lasso)は、「より健康的で手の届く食事の選択肢を拡充し、家庭や学校での栄養教育を強化する必要がある」と訴え、さらなる対策の必要性を指摘している。
飢餓と栄養過多が共存するラテンアメリカの現実
エクアドル一国の問題に留まらず、ラテンアメリカ地域全体では子どもの栄養問題がさらに複雑化している。インテルナショナル大学エクアドル校(Universidad Internacional del Ecuador:UIDE)栄養学部長のカリナ・パスミニョ・エステベス(Karina Pazmiño Estévez)博士は、この地域が依然として「飢餓と栄養過多の共存」という状況にあると強調する。実際、5歳未満の子どもの過体重率は8.6%に達しており、これは世界平均を上回る数字である(出典:パンアメリカン保健機関(OPS, 2023–2025))。
その背景には、食生活の変化がある。調査によると、80%以上の家庭が高糖質・高脂肪・精製デンプンや添加物を多く含む超加工食品を日常的に摂取していることが明らかとなった。これらの食品は栄養素に乏しく、子どもの健康に悪影響を及ぼす懸念がある。
肥満が低体重を上回る現状と長期的な影響
さらに、国連児童基金(UNICEF)が2025年に発表した報告によると、2000年以降、5歳から19歳までの子どもの低体重率は減少傾向にあるものの、肥満率は増加している。特にアフリカ南部や南アジアを除くほぼ全ての地域で、肥満率が低体重率を上回る現状が指摘されている。これにより、子どもの栄養問題は単一の課題ではなく、多様な要因が複雑に絡み合うマルチファクターな問題であることが改めて浮き彫りとなった。
栄養不良が子どもに与える影響は多岐にわたり、特に慢性栄養不良は以下の問題を引き起こす:
- 発育遅延
- 感染症リスクの上昇と死亡率の増加
- 学習障害や学力低下
- 将来的な非感染性疾患(糖尿病や高血圧など)
- 低賃金や単純労働に留まる社会的リスクの増大
これらの問題は、子どもたちの将来だけでなく、社会全体の発展にも深刻な影を落とすことから、緊急かつ持続的な対策が不可欠である。カリナ・パスミニョは、まず生後6か月間の母乳育児の徹底と、2歳までの継続的な補完食の提供を最優先課題と位置づけている。これは世界保健機関(WHO)の国際基準にも準拠したものである。栄養改善のために必要な取り組みは以下の通りである:
- 家庭における食習慣の改善(新鮮で低加工の食材を用いること)
- 学校や地域単位での栄養教育の強化
- 学校給食制度の充実と全国展開
- 安全な水インフラへの投資
- 保健・医療機関との連携による統合的支援体制の構築
キト市では具体的な取り組みとして、保健局と公的な社会福祉機関「パトロナト・ムニシパル・サン・ホセ(Patronato Municipal San José)」が連携し、5,899人の子どもに対して医療・栄養支援を提供している。パトロナトは歴史的にラテンアメリカの多くの自治体に存在する社会支援機構であるが、キト市のものはその中でも特に規模が大きく、市の社会政策の中核を担う機関である。同機関は脆弱な立場にある市民(子ども、高齢者、障がい者、女性、家庭内暴力の被害者など)を対象に、各種社会支援活動を行っている。慢性栄養不良に苦しむ子どもたちへの支援は、幼児施設でのケア、家庭訪問による支援、家族全体を対象とした伴走型プログラムの三形態で実施されており、65の専門チームが活動に当たっている。
長年指摘されている課題としての栄養不足
2018年に実施された全国健康・栄養調査(Encuesta Nacional de Salud y Nutrición:ENSANUT)でも、2018年から2019年の間に、2歳未満の子どもにおける慢性的な栄養不良(DCI)の割合が27.2%から30%へと増加したことが報告されていた。5年に一度実施されるこの包括的な調査結果は、ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)元大統領が「子どもの栄養不良なき成長(Ecuador Crece Sin Desnutrición Infantil)」戦略を通じて掲げた、任期中にDCIを6ポイント削減するという目標が達成できなかったことを示している。
戦略テクニカル事務局(Secretaria Técnica Ecuador Crece Sin Desnutrición Infantil:STECSDI)の責任者エルウィン・ロンキージョ(Erwin Ronquillo)は、「予防は受胎の瞬間から始まり、2歳の誕生日までに完了する。この1,000日間で、子どもの神経接続の約85%が形成される。つまり、学ぶ力、考える力、判断力がこの時期に決まるのです」と述べている。この戦略は、2歳未満の子どもに特化した支援に重点を置いており、それ以降の年齢層については社会包摂省や保健省が対応を担う仕組みとなっている。
国連児童基金(UNICEF)によると、2006年以降、5歳未満の子どものDCI率はほぼ変化しておらず、むしろ2歳未満の子どもに限れば悪化している。2006年には24.0%、2018年には27.2%に増加した。特に被害が深刻なのは先住民コミュニティであり、10人中4人の子どもがDCIに苦しんでいる。被害が集中しているのは、コトパクシ、トゥングラウア、チンボラソ、ボリーバル、パスタサ、モロナ・サンティアゴ、サンタ・エレナといった山岳・アマゾン・沿岸の県である。この状況は、エクアドルにおける子どもの栄養不良が、単一の要因ではなく、複合的な要因によって引き起こされていることを示唆している。
子どもの栄養不良は「社会構造の鏡」
エクアドルにおける子どもの慢性的な栄養不良は、単なる「食事の量や質の問題」にとどまらず、より根深い社会構造の欠陥を映し出す鏡のような存在である。背景には、以下のような多因子的な要因が複雑に絡み合っている。
- 10代の妊娠
- 妊婦への医療アクセスの欠如
- 安全でない出産環境
- 出生届未登録
- 乳幼児健診の不履行
- 母乳育児の不徹底
- 安全な水へのアクセス不足
今年5月に国立統計・国勢調査研究所(Instituto Nacional de Estadística y Censos:INEC)が発表した、エクアドルの子どもたちの現状に関する最新データによると、2025年現在、エクアドルには350万人を超える子どもたちが暮らしている。具体的には、1,800,000人の男の子と1,700,000人の女の子であり、彼らは国の希望と可能性の象徴だ。だが、その背景には、基本的なニーズが満たされない貧困に直面する子どもたちも少なくない。実に子どもの半数にあたる49.4%が、必要な支援を受けられない状態、すなわち「貧困層」に属している。課題もあるが、エクアドルは健康と栄養面で重要な改善の兆しもそのデータでは見せていた。
- 2歳未満の子どもにおける慢性栄養不良は19.3%にとどまる。
- 今年度、適時予防接種を受けた子どもは2万人増加し、接種率は43.9%から47.9%へと上昇。
- 生後1000日以内の妊婦と子どもの健康管理も進展し、検診を受ける子どもの割合は42.2%から49.6%に向上。
- 「私たちの子どもたちと共に成長(Creciendo con Nuestros Hijos)」プログラムに参加する子どもも30,600人増加し、同プログラムのカバレッジは21.8%から27.6%へ拡大。
- それに伴い、汚染された水の割合も38.7%から32.9%に減少。
- 母親の半数以上が母乳育児を実践し、子どもたちの健康と絆を支えている。
発達段階の子どもたちの遊びと感情ケア
子どもたちの精神的発達にも目を向けると、8割近くが一つ以上のおもちゃに触れ、4割は家庭に書籍を持つ。心理的虐待を受ける子どもは少なくとも半数以下だが、心理的虐待を受けていない子どもは46.6%を占める。言語理解力も向上し、43~59ヶ月の子どもは平均30語を理解し、母親の教育レベルが高いほど理解度も向上している。母親の約19.4%には、うつ症状の兆候も見られ、特に学歴が中等教育や高校卒業の母親に多い傾向がある。
このような状況を打開するためには、単なる「食料の支給」や「一時的な施策」では不十分であり、社会全体が子どもの未来を守る責任を共有し、根本的な生活環境の改善と教育・医療・インフラへの長期投資が必要となる。現在進行中の「未来のある幼少期(Infancia con futuro)」プロジェクトが進行中では、全国195のカントン、728の教区、約33万世帯を対象に、3つの大学の協力のもと、1,000人以上の学生ボランティアが家庭訪問を行い、栄養・保健・住宅の問題を包括的に調査・支援していく。今後、更新された全国調査の結果が発表される予定であり、最新の実態把握とさらなる政策改善が期待されている。エクアドルがDCIという根深い課題を克服するためには、包括的かつ持続可能なアプローチが不可欠である。
参考資料:
1. Nutrición infantil en Ecuador, una crisis con advertencias que pasan desapercibidas
2. Profundizando el impacto de nuestras acciones
3. Desnutrición crónica infantil sin reducción
4. María José Pinto dice que uno de cada cinco niños aún tiene desnutrición crónica infantil en Ecuador
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