(Photo:Ramón Espinosa / AP)
約24時間にわたる大規模停電により、国民の大多数の活動が麻痺したキューバは、9月11日(木)、全国の電力供給を完全に復旧させた。今回の停電は、過去1年で5回目となる全面的な停電である。今回の全面停電は、水曜日の現地時間9時15分に発生した。多くの市民が仕事や買い物、子どもの登校に出かけていた時間帯であり、不意を突かれたかたちとなった。
「短期的にも中期的にも解決策は存在しない」と述べたのは、テキサス大学エネルギー研究所(University of Texas at Austin, Energy Institute)の主任研究員ホルヘ・ピニョン(Jorge Piñón)である。
2025年9月11日の午後、エネルギー・鉱業省(Ministerio de Energía y Minas)および電力公社(Unión Eléctrica)の幹部らは、自身のX(旧Twitter)アカウントにて「国家電力システム(Sistema Eléctrico Nacional:SEN)はすでに復旧した」と発表し、国民に向けて報告を行った。
エネルギー・鉱業省の大臣ビセンテ・デ・ラ・オ・レビ(Vicente de la O Levy)は、同週水曜日の午前に発生した国家電力システムの大規模な切断に関し、その原因の調査が現在も継続中であると明らかにした。同大臣の説明によれば、午前9時14分にSENが切断された当時、フェルトン火力発電所(Central Termoeléctrica Felton)では変圧器の故障を受けて、故障中の機器の安定稼働に向けた一部部品の整備作業が行われていた。そのような状況下で、アントニオ・ギテラス火力発電所(Central Termoeléctrica Antonio Guiteras)が突如として停止した。レビ大臣は「現時点において、ギテラス発電所の停止原因を特定するには至っていない」と述べた上で、「現在はシステムの復旧に最優先で取り組んでおり、原因調査については定められた手順に基づき実施している。最終的な結果については、必要な時間をかけたうえで正式に報告する」と説明した。また、大臣は「予備的な情報はすでに存在するが、実際には全ての自動記録および発電施設のデータを精査した後でなければ、正確な結論を導くことはできない」と指摘し、「その分析結果については、後日改めて報告する」と語った。続けて、大臣は、国家電力システムの現状が脆弱であることに言及し、その要因の一つとして、主要な支柱であるフェルトン火力発電所がメンテナンス中で稼働していなかったことを挙げ、加えて、「西部地域では、2025年8月に浮体式発電所と呼ばれる電源設備が停止したことにより、電力供給が失われる事態が発生していた」と述べ、地域全体の電力供給能力の低下が今回の障害に影響を及ぼした可能性があることを示唆した。
ホルヘ・ピニョンは、ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)に対し、停電の主な原因について「問題は、発電設備だけでなく、送電および配電を含む全インフラが、過去40年間にわたり、運用上の保守も資本的な整備もなされないまま酷使されてきた点にある。発電ユニットはすでに老朽化しており、技術的にも時代遅れで、機械そのものが“疲弊”している。この状況は、もはや小手先の対処や一時的な修理でどうにかなるものではない。システム全体が完全に崩壊しており、再資本化が必要だ。我々の推計によれば、その復旧には3〜5年を要し、費用は80億〜100億ドル(約1兆2千億〜1兆5千億円)に達する可能性がある」次と説明した。
エネルギー・鉱業省(Ministerio de Energía y Minas)は、島の中央部に位置するアン東ニオ・ギテラス火力発電所(Central Termoeléctrica Antonio Guiteras)において、ボイラーの過熱を示す誤信号が発生したことが、今回の停電の引き金となったと説明した。同発電所は、国内で最も重要な電力供給源であり、この誤作動によって停止し、国家電力システム全体が崩壊する結果となった。これは2024年10月以降、5回目となる大規模停電である。わずか数日前の日曜日には、国内15州のうち5州で、数時間にわたり電力が途絶した。このような事態は、同専門家の見解によれば、「抜本的な投資が不可欠」である。
「私は短期的な解決策は見込めないし、中期的なものもなおさら難しいと考えている。システムを再資本化するには数年を要する。というのも、現在稼働している20の発電ユニットは、すべて資本的メンテナンスの周期を過ぎており、これらを交換するには相当な時間がかかる」と、ホルヘ・ピニョンは述べた。また、火力発電所におけるもう一つの問題は、燃料として使用されているキューバ産の原油にある。この原油は硫黄やバナジウムなどの金属含有量が高く、発電ユニットに深刻な損傷を与えるという。「つまり、これは悪循環なのだ。火力発電所を修理しても、再びこの有害な原油を燃料に使うことで、またユニットが傷んでしまう」とホルヘ・ピニョンは説明した。
大規模停電後の復旧手順
エネルギー鉱業省電力局長ラサロ・ゲラ・ヘルナンデス(Lázaro Guerra Hernández)は、討論番組「Mesa Redonda」にて、国家電力システムの大規模停電後に実施される復旧手順について説明した。同氏は、このような停電を「不快で異常な現象」であると位置付けたものの、すべての事象が唯一無二であり、システムの状況は毎回異なることを強調した。しかしながら、厳格かつ承認されたプロトコルと復旧手順が存在し、これにより可能な限り短時間でサービスの再開が実現できると説明した。「最初に行うことは、システムが崩壊した後の状態を評価することである」とラサロ・ゲラ・ヘルナンデス電力局長は説明した。「どの発電ユニットが稼働可能であるか、また復旧に対応するために電力網がどのような状態にあるかを確認するのだ」。そして、今回の事例においては、システムの基盤となる火力発電所のいずれも停電の結果として損傷を受けなかったことが非常に良いニュースであると強調した。
状態の評価が終わると、最初の指示として、エネルギー革命と分散型発電により国内で設計されたマイクロ電力システムを起動することが挙げられる。これにより、非常に短時間で重要施設や市民生活へのエネルギー供給が可能となる。分散型発電はこれにとどまらず、大型火力発電所へ電力を送り込み、発電所の起動を支援する役割も果たす。具体例として、今回の停電時にシエンフエゴス製油所(Refinería de Cienfuegos)における分散型発電が、国内中部地域でのシステム復旧の開始を可能にしたことを挙げた。ゲラ・ヘルナンデス局長は、この復旧過程において電力公社の全システムが積極的に参加していることを強調した。全国の指令センターだけでなく、各州の指令センター、発電所の運転員、変電所のオペレーターも含めて協力していると言う。
運用の規律が最も重要な要素であり、命令を厳格に遵守することがプロセスの有効性を保証すると述べた。そのような連携と規律ある作業の結果、午前10時36分には電力システムの接続が完了し、午後1時までには国内全域で電力供給が復旧した。また、復旧過程は動的であることも明らかにされた。最初はマイクロシステム、あるいは“島”状態で独立運転させるが、これらが安定した規定値で稼働し始めた時点で、主電力網に再結合するのである。
電力鉱業省の電力局長ゲラ・ヘルナンデスは、復旧の効率性は人的資源の継続的な訓練と準備にかかっているとし、これが非常に重視されていることを強調した。運用担当者たちは若年ながらも経験を持ち、理論的および実践的な評価を絶えず受けることで、今回のような極端な事態に対応できるよう備えている。特に、全国負荷指令部のフェリックス(Félix)技師とその仲間たちが、この一連の操作の先頭に立っていたことが真の主役であったと言う。
エネルギー・鉱業省の第一次官アルヘリオ・ヘスス・アバド・ビゴア(Argelio Jesús Abad Vigoa)はテレビ番組の中で、「障害発生直後にすべてのプロトコルが起動され、最初の対応として全国でマイクロシステムが立ち上げられた」と説明した。「短時間のうちに全国の電力回復が開始され、午前10時23分には最初のマイクロシステム、特にグアンタナモで20メガワット規模の発電が始動し、それが他のすべての州にも広がった」と述べている。
現在、キューバ政府はSENの復旧に向けた国家プログラムを展開している。SENは単なる技術インフラではなく、火力発電、ガス発電、太陽光発電、そして分散型発電という複合的な構造を持つシステムである。とりわけ、フィデル・カストロ(Fidel Castro)の発案による分散型発電の概念がなければ、現在のように迅速なシステム復旧は非常に困難だったであろうと述べられた。
政府プログラムの成果として、分散型発電のうち1,100メガワット(MW)が回復されたと述べられた。今回の停電時には、そのうち900メガワット以上が活用され、68のマイクロシステムが起動された。その後、これらは相互に接続され、電力ノードを形成するに至った。また、随伴ガスによる発電への投資の重要性も強調されており、これはシステム回復の鍵を握るものであるとされた。
「政府プログラムの成果により、ノードとマイクロシステムの立ち上げが非常に迅速かつ安定的に実施された。グランマ県およびサンクティ・スピリトゥス県では、まだ本格的な運用段階には至っていないものの、太陽光発電所との連携試験も行われ、良好に機能した」と副大臣は述べた。
エネルギーシステムの長期メンテナンス
電力公社の代表アルフレド・ロペス・バルデス(Alfredo López Valdés)は、アントニオ・ギテラス火力発電所(Central Termoeléctrica Antonio Guiteras)が年末から6か月間にわたる資本的メンテナンスに入る予定であることを明言した。この施設はキューバの電力システムにおける礎石であり、その停止は国民生活に大きな影響を及ぼすと想定される。同代表は、重要施設のメンテナンス計画について尋ねられた際、「国民が電力サービスで被っている大きな影響を我々は認識しており、感受性を持って取り組んでいる」と述べる一方で、「困難な状況下であっても国の人々が日々果たしている仕事に誇りを持っている」とも表明した。
ロペス・バルデスは、現在の問題の主な原因として二つを挙げた。一つはギテラス火力発電所に対するメンテナンス不足、もう一つは現在の電力システムにおける調整能力の欠如であるという。最初の問題に対処するため、「大規模かつ広範なメンテナンスを準備している」と発表し、「設備は年末に6か月間停止し、作業を行う予定である」と明言した。
彼によれば、ボイラーの中でも特に重要な機器の一つに問題がある。その最も重大な部品が再加熱器であり、これは7月にプラントが停止した直接の原因であったという。「我々はこの再加熱器を完全に交換する予定である」と説明し、さらに「この部品には15キロメートルもの配管があり、内部には蒸気が、外側にはガスが流れる構造になっている」と作業の規模を強調した。「これらのコイルを製造し、運搬し、設置しなければならない。そしておそらくボイラー、特にこの再加熱器が作業全体のボトルネック(クリティカルパス)になる」と述べた。
加えて、再生式加熱器の重要部分の交換、空気およびガスのダクトの交換、ボイラーの化学洗浄も予定されている。これらは作業完了後の将来的な運転保護のために実施される。また、エコノマイザー用ポンプの交換も計画されているという。
同氏によれば、今回の整備計画には合計で18の主要項目が含まれており、その中にはバーナーと点火装置の完全な交換もある。バーナーは効率およびプラント全体の機能にとって極めて重要な要素である。最後に、「このボイラーで行う作業は非常に大きいが、30年以上使用されてきた施設のすべての部品を交換するわけではない」と明確に述べた。また、「大規模な作業が予定されており、ボイラーの機能は大幅に改善されるが、新しいボイラーになるわけではない」とも述べている。
タービンについては、毎分3600回転という動的な装置であるため、中圧シリンダーには大規模な整備(メンテナンス・カピタル)が施され、低圧シリンダーの点検も実施される。さらに、軸を支える軸受、すべての制御バルブ、および付随する機器や補助システムの整備も含まれている。補助設備、たとえばポンプやモーターに関しては、それら本体および周辺機器の交換が予定されており、「非常に重要な装置」であると強調された。整備計画にはさらに、高圧加熱器6号および7号の導入、循環ろ過システムの設置完了、ならびに海水循環用配管の交換も含まれている。蒸気はタービンを出た後、海水で冷却される仕組みとなっており、この冷却には大量の海水が必要である。そのため、関連するすべての配管の整備が必要であり、今回それが実施される。
必要なのはエネルギー転換、ただし経済危機が代替案の壁に
エネルギー・鉱業大臣ビセンテ・デ・ラ・オ・レビは、炭化水素の生産回復、再生可能エネルギーの推進、そしてシステム安定化に向けたエネルギー貯蔵の重要性について説明した。エネルギー危機克服を目的とした政府プログラムの中で、大臣は現在実行中の戦略の中心的柱を紹介し、炭化水素生産のわずかな回復とエネルギー主権確立に向けた確かな道筋を強調した。冒頭では、同産業が深刻な価値の減退に直面している現状に言及した。
「我々は石油生産において減少傾向にあった。3百万トン超を生産していたが、わずか2百万トン強にまで減少した」とビセンテ・デ・ラ・オ・レビ大臣は述べた。この後退の主因は、油井の保守および必要資材への資金不足によるものであると説明した。しかしながら、同氏は現在、戦略の成果が出始めていることを強調し、「特にガスの生産に関しては、前年と比較してわずかながら増加している」と述べた。
再生可能エネルギーの選択肢も、深刻な経済危機という現実に突き当たっている。「バイオマスという選択肢も語られている。確かに、それはキューバにとって大きな可能性を秘めている。しかし現実として、島内ではサトウキビがほとんど存在していない。キューバは今や砂糖を輸入している状況だ。では、2030年計画で必要とされる600メガワットのバイオマス発電を、サトウキビなしにどうやって実現するのか? 同じことが風力発電にも当てはまる」。「結局、頼れるのは太陽光発電だけだが、曇りの日には機能しない」と、ピニョンは締めくくった。
キューバは1年以上にわたり、深刻なエネルギー危機に直面している。その主因は、電力インフラの老朽化にある。現在の電力供給は、国内各地に点在するディーゼル発電機群と、老朽化した8基の火力発電所に依存している。これらの発電施設は、運転に必要な燃料の確保さえ困難な状況にあるうえ、送電網そのものもすでに摩耗しており、信頼性を欠いている。
再生可能エネルギーに関して、レビー大臣は太陽光発電がシステム回復において重要な要素であるものの、「それが唯一の解決策ではない」と明言した。「太陽光発電は設置が最も迅速であり、効率性も高い」と語り、具体的な数字も示した。すでに30か所の太陽光発電所が稼働しており、2025年2月からの累計で600メガワット(MW)を超える出力を実現している。また、太陽光発電の「昼間しか発電できない」という限界については、「確かに昼間しか機能しないが、それでもこの600MWがなければ状況はさらに悪化していた」と述べ、危機回避に大きな役割を果たしていることを強調した。
特に強調されたのは、エネルギー貯蔵システムの導入計画である。レビ大臣によれば、この蓄電システムの欠如が、2024年だけで500件を超える電力系統の障害を引き起こしたという。「仮に太陽光発電が導入されていなかったとしても、我が国の電力系統にはバッテリーが必要であった。蓄電こそが最も効率的な調整技術の一つである」と述べ、今後は以下の2段階で導入を進める計画である。初期段階は電力系統の安定化を目的とする蓄電の導入であり、次段階では必要に応じて数時間分の電力を供給できる蓄電運用を目指す。このように、再生可能エネルギーの導入と並行して蓄電インフラを整備することが、今後のキューバ電力システムの要であると強調された。
大臣ビセンテ・デ・ラ・オ・レビは最後に、キューバが現在推進している最大の目標は「エネルギー転換」であると締めくくった。このエネルギー転換には、今年中に5つの火力発電所への介入・改修を行い、効率性と信頼性を向上させる取り組みも含まれている。この包括的戦略は、燃料の輸入依存を減らし、国内資源によって発電することを目指すものであり、国家のエネルギー主権を確立・強化することを根本的な目標として掲げている。
参考資料:
1. La recuperación del Sistema Eléctrico Nacional (+ Video)
2. Cuba sale del apagón, pero su sistema eléctrico está en ruinas
3. Cuba logra conectar su territorio al sistema energético nacional un día después de un apagón masivo
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