[キャロル・フロストのコラム]ホワイトハウス、TikTok公式アカウントとコミュニケーション

(Photo:CHENG XIN / GETTY IMAGES)

本記事はキャロル・フロスト(Carol Frost)による翻訳である。彼は、コロンビア・ブカラマンガ自治大学(Universidad Autónoma de Bucaramanga:UNAB)広告学部(Escuela de Publicidad)の所長である。


アメリカ合衆国大統領官邸、いわゆるホワイトハウス(The White House)が動画共有プラットフォームTikTokに公式アカウントを開設したことは、一見すると矛盾を孕んだ動きに映る。というのも、現在アメリカ合衆国内ではTikTokの禁止をめぐる法的闘争が進行中であるからだ。

しかしながら、これは単なる矛盾ではなく、地政学(geopolítica)・テクノロジー・民主主義(democracia)の間に存在する複雑な関係性を浮き彫りにする、極めて現実的な政治的・広報的判断である。

TikTokは中国企業バイトダンス(ByteDance)社が所有しており、ドナルド・トランプ(Donald Trump)政権以来、ワシントン政界においてその国家安全保障上のリスクが強く問題視されてきた。ジョー・バイデン(Joe Biden)政権の下ではその懸念がさらに高まり、「アプリの売却か、全面禁止か」を迫る法案が議会で可決され、すでに成立している。こうした背景において、アメリカ合衆国政府が自らTikTokというプラットフォーム上に登場することは、皮肉にも見える。しかし、その判断の背後には、現代の政治コミュニケーションが抱える現実と論理が存在している。

 

SNS抜きでは語れない政治戦略

テレビや新聞といった従来型メディアだけでは、もはや政治的メッセージを効果的に発信することは困難である。特に18歳から29歳までの若年層有権者においては、政治情報の主な入手先がSNSであるという現実がある。

TikTokは現在、アメリカ合衆国国内だけで1億7,000万人超のアクティブユーザーを抱えている。これを無視することは、選挙戦略上において自殺行為に等しいと考えられている。2025年9月4日時点で、ホワイトハウスの公式TikTokアカウントは約67万8,000人のフォロワーを獲得しており、その注目度は上昇傾向にある。

このように、TikTokというプラットフォームに対する国家的な警戒と、それを同時に活用するという政治的選択の共存は、現代民主主義における「情報戦」の実態と矛盾を如実に示している。

 

ホワイトハウス、TikTokで戦略的パラドックスを受け入れる

敵がチャネルを支配するならば、コンテンツを制することが鍵である。

このようにしてホワイトハウスは、戦略的な逆説を引き受けることとなった。すなわち、仮に「敵」が情報チャネルを掌握していたとしても、より重要なのは、その中身=コンテンツを主導することである。

TikTok上にアカウントが存在することによって、ホワイトハウスは情報発信の主導権を握り、誤情報キャンペーンに対して迅速に対応し、若年層の視聴者と「短く、感情的で、脱・制度的」なかたちで接続することが可能となる。これは、ソフトパワー(poder blando)の観点からすれば、政治闘争が“スクロールごとに”展開される時代であるという現実を受容した結果である。

 

民主主義の原則と中国の影響力との板挟み

この判断は、アメリカ合衆国の情報戦略に内在する根本的な脆弱性をも露呈している。すなわち、同国は現在、言論の自由(libertad de expresión)や情報アクセスの権利(acceso a la información)といった民主主義の原則の擁護と、中国人民共和国による技術的影響力の拡大阻止という、相反しかねない二重の目標の間で揺れている。

ホワイトハウスがTikTokというプラットフォームを活用するという判断は、暗黙のうちに、「このプラットフォームを排除することのコストはもはや無視できず、TikTokはすでに国際的公共空間において不可逆的な位置を占めている」という現実を受け入れたことを意味している。

 

北京への曖昧なメッセージと、終焉した一極的覇権

国際的視点に立てば、この決定は中華人民共和国・北京市に対して曖昧なメッセージを送ることになる。すなわち、ワシントンは中国による技術覇権の拡張に対抗しようとしながらも、その一方で中国製のツールを必要とし、自国の政治目的のために活用せざるを得ないという姿勢を示している。

これは確かに一種の「コミュニケーションにおける権力行使」である。しかし同時に、テクノロジーの覇権がもはや単一国家によって独占される段階を過ぎたこと、すなわち、プラットフォームの地政学的中立性が幻想である一方で、技術的依存の現実が否応なく共有されているという認識の表明でもある。

 

TikTok上のホワイトハウスは、新たなパラダイムの証左である

ホワイトハウスがTikTokに公式アカウントを設置したことは、単なる選挙戦略ではない。それは、政治コミュニケーションにおける新たな時代の到来を告げる明確な兆候である。

デジタル時代において、政治的メッセージは、たとえ批判の対象となるプラットフォーム上であっても、不可欠なチャネルを通じて拡散される。敵対勢力は、時に情報の仲介者へと変貌し、外交はスクリーンからスクリーンへと連なるグローバルな空間で展開されるようになった。そこでは、国家のハードパワーではなく、ソフトパワーによる影響力の行使こそが主戦場となる。

#DonaldTrump

 

参考資料:

1. La Casa Blanca en TikTok: la paradoja estratégica de la comunicación política

 

No Comments

Leave a Comment

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

error: Content is protected !!