コロンビア:陸軍少将を麻薬取引、およびコカ栽培との関与容疑で退役処分

(Photo:@Ejercito_Div1 / X)

2025年9月11日、コロンビア共和国大統領グスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)は、ヘルナンド・ガルソン・レイ(Hernando Garzón Rey)陸軍少将を現役から解任した。これはガルソン・レイ少将が、コカの葉(Erythroxylum coca)の違法栽培および麻薬取引活動に関与している疑いがあるためである。この案件は軍および国家機関の信頼性に大きな影響を及ぼす深刻な問題として扱われている。

今回の解任は、当局が収集した複数の告発および証拠に基づくものであり、緊急措置として実施された。ペトロ大統領は自身のX(旧Twitter)アカウントで、「告発および証拠を検察庁(Fiscalía General de la Nación)に提出し、適正な調査が行われるようにする」と表明している。また、国防大臣ペドロ・サンチェス(Pedro Sánchez)も「ガルソン少将が違法行為に関与している可能性がある」と述べている。

ガルソン・レイ少将は、コロンビア軍統合司令部の監察総監(Inspector General)として、軍の内部統制および監督を担う重要な職務に就いていた人物である。彼は本年3月にこのポストに任命され、軍の指揮系統の中でも特に影響力のある立場であった。さらに、30年以上にわたる軍歴の中で複数の地域司令部を歴任し、多数の軍事勲章を受章している実績を持つ。

ペトロ大統領は9月10日夜、自身のX公式アカウントにて、「ヘルナンド・ガルソン・レイ陸軍少将を麻薬取引組織およびコカの葉栽培と強い関係が示唆されるため、現役から解任した。告発および証拠は適切な捜査のため検察庁に提出した」と明言している。

 

ガルソン・レイの反論

ガルソン・レイ少将は9月12日、複数の報道機関に対し、自身にかけられた疑惑の背景について説明した。

問題の発端は2023年4月である。少将は家族とともに、違法組織の強い影響下にあるアマゾン地域のグアビアレ県(Guaviare)にある自身所有の農園に滞在していた。その際、複数の迷彩服を着た男たちが現れ、彼に対して5000万ペソ(コロンビア通貨)の支払いを要求したという。ガルソン・レイ少将の説明によれば、彼はこの金額の支払いを拒否した。このグループはイバン・モルディスコ派(Disidencias de Iván Mordisco)の構成員と特定されている。少将はWラジオの取材に対し、「そこで我々のグループが写真を撮った。その中に私が写っている写真があり、それは情報局(Dirección de Inteligencia)が保有している」と述べている。さらに、彼は今回の疑惑について「でっち上げ(montaje)」であり、「内部の誰かの意図的な策謀」によって指揮系統から排除されようとしていると主張している。少将によると、離反勢力との遭遇は検察庁や当時の和平特使ダニロ・ルエダ(Alto Comisionado para la Paz Danilo Rueda)を含む関係機関に報告済みであるという。彼は週刊誌セマナ(Semana)とのインタビューで、「私は大統領に伝えたい。ここに誠実な兵士がおり、この国に献身している兵士がいる。そして大統領が受け取っている情報は誤っているのだ」と述べて、自身の潔白を強く訴えた。

 

30年超の軍歴を持つ将官

ヘルナンド・ガルソン・レイ陸軍少将は、コロンビアにおいて高く評価されてきた軍人である。軍事科学の学位に加え、スペインのバルセロナ自治大学(Universitat Autònoma de Barcelona)で国際関係の修士号を取得し、軍事資源管理に関する専門課程、国家安全保障および防衛の修士課程、さらに指揮幕僚課程(Curso de Comando y Estado Mayor)も修了している。これにより、純粋な軍事教育を超えた幅広い学術的背景を有している。

同少将の職業キャリアは30年以上に及び、その大部分をコロンビア陸軍で勤務してきた。特に麻薬取引および国際犯罪対策の要職を歴任し、同分野での功績が際立っている。

特筆すべきは、2023年10月から指揮を執っていた合同司令部第5北西司令部(Comando Conjunto N.° 5 Noroccidente)における活動である。ここではアンティオキア県(Antioquia)、コルドバ県(Córdoba)、スクレ県(Sucre)、ボリバル県(Bolívar)、チョコ県(Chocó)、ボヤカ県(Boyacá)の195自治体に対し作戦権限を持ち、陸・海・空の三軍から構成される3万人超の部隊を統括していた。

また過去には、麻薬取締旅団(Brigada contra el Narcotráfico)、第3迅速展開部隊(Fuerza de Despliegue Rápido N.° 3)〔カタトゥンボ地域〕、および国際脅威対策展開部隊(Fuerza de Despliegue contra Amenazas Transnacionales)の指揮も歴任している。

ガルソン・レイ少将は、国際協力の分野においても一定の実績を有していた。特に注目されるのは、アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオに所在するアメリカ陸軍南方軍(United States Army South / Ejército Sur de los Estados Unidos)にて、副司令官(Segundo Comandante)として勤務していた経験である。同任務は、能力構築、戦略的脅威への対応、情報共有、軍事連携の強化を目的としており、ガルソン・レイ少将は国境を越えた安全保障協力を担う重要な立場にあった。

2021年8月、ガルソン・レイ少将はアメリカ合衆国軍(Fuerzas Armadas de los Estados Unidos)とチリ軍(Fuerzas Armadas de Chile)との間で実施された二国間協議にも参加している。この協議は半球安全保障(seguridad hemisférica)を主題としたものである。テキサス州サンアントニオでの勤務に関する具体的な勲章受章記録は公的に詳細が存在しないが、同地での勤務経験は帰国後の高位職務就任に向けたキャリア形成に寄与した。

2024年2月には、パナマ国境付近で発生した航空事故により死亡したコロンビア軍兵士4名の遺体の送還作業を調整した。この任務は国際的な協力と複数機関間の調整を必要とし、成功裏に遂行されたことが公的に記録されている。

2024年12月、ガルソン・レイ少将はリサラルダ(Risaralda)県の知事に対し、「信念の勲章(Medalla Fe en la Causa)」を授与する式典を主導した。この式典は、アヤクチョの戦い(Batalla de Ayacucho)200周年記念行事の一環として開催され、同少将の軍内部における評価の高さと文民・軍の連携推進における役割を示すものである。また、ガルソン・レイ少将は、軍人組織「カサマタ協会(Asociación Casamata)」の2025年から2027年期の正会員代表(vocal principal)も務めている。数十年にわたる昇進と重責を経て築いたキャリアは、現在進行中の司法調査によって突然の終焉を迎えている。この調査は、軍内部の倫理と統制政策の実効性を試すものとなっている。

 

一方、その経歴には疑念の影も存在する。2019年12月、、当時大佐であったガルソンは、陸軍のマリッツァ・ソト大尉(Maritza Soto)により、職場での嫌がらせ、セクシュアル・ハラスメント、権限の乱用の疑いで訴えられた。訴えによれば、同大佐は自身の指揮権限および階級的地位を悪用したとされている。この告発はコロンビア上院においてイバン・セペダ上院議員(Senador Iván Cepeda)によって提出され、当時の副大統領マルタ・ルシア・ラミレス(Marta Lucía Ramírez)も支持していた。

しかし、ガルソン・レイ少将はこれらの指摘を一貫して否定し、自身の行動は法的かつ倫理的原則に則ったものであると主張している。この件に関しては、2020年4月にコロンビア共和国検察庁が告発された行為に実体が存在しないと判断し、「非典型的行為」として正式に不起訴処分としたことで法的には終結している。

だが、現在ペトロ大統領が緊急措置としてガルソン・レイ少将を現役から解任したことは、政府が把握する証拠が極めて重大であることを示している。問題視されているのは、同少将が麻薬取引組織との関与および違法なコカ栽培に関与していた疑惑であり、コロンビア軍の中枢にまで浸透する可能性のある不正の構造が問われているのである。

 

コロンビアにおける麻薬取引の長い影――軍と国家機構への深層的浸透

本件は単なる個別の不祥事にとどまらず、軍という国家機関における制度的健全性と説明責任の在り方をめぐる根本的な問いを改めて突きつけている。

コロンビア共和国の歴史を通じて、麻薬取引との戦いにおいて軍は中心的な役割を担ってきた。しかし一方で、軍内部の一部では麻薬組織との関与が疑われ、実際に司法によって有罪判決が下された事例も存在する。

その中でも最も象徴的な事例の一つが、元陸軍大佐バイロン・カルバハル(Coronel Byron Carvajal)の案件である。カルバハルは2006年5月に発生した「ハムンディ虐殺事件(Masacre de Jamundí)」において、麻薬取引組織と共謀し、自らが指揮する高地山岳大隊(Batallón de Alta Montaña)の部隊に命じ、国家警察刑事捜査局(Dirección de Investigación Criminal e INTERPOL:DIJIN)の捜査官10名と民間人1名を待ち伏せし殺害させた責任を問われた。この事件により、カルバハルは2008年に禁錮54年の判決を受けたが、その後の再審理を経て、2016年にはコロンビア共和国最高裁判所により、麻薬取引罪に関する懲役26年2か月の判決が確定した。判決によれば、カルバハルはハムンディで押収された13キログラムのコカインを「すり替える(switch)」よう命じたとされている。

これ以外にも、下級将校や地域レベルの軍・警察関係者が関与した事例が複数存在し、国家機構の一部において麻薬取引が浸透している実態が明らかとなっている。これらの事例は、個別的な不祥事にとどまらず、制度的・構造的な問題の表れであると評価されている。それでもなお、コロンビア軍および国家警察は、麻薬取引および違法武装組織に対する作戦行動を継続しており、国家治安の維持に不可欠な存在である。しかし、こうした汚職の実例が公に認定されるたびに、国民の信頼は大きく損なわれてきた。

カルバハルの事件は単なる例外的な逸話ではなく、制度的ガバナンスの欠如を象徴するパラダイム的な事例である。これは秩序と合法性を保証すべき制度において、内部統制・透明性・説明責任を強化する必要性を明確に示している。

また、この事例は1990年代に発覚した「ナルコポリティカ(narco-política)」スキャンダルにも通じる。当該スキャンダルでは、麻薬取引組織が国家の構造に深く入り込み、大統領府を含む国家最高レベルにまで影響を及ぼしていたことが、アメリカ合衆国連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation:FBI)および中央情報局(Central Intelligence Agency:CIA)の報告書によって裏付けられている。

例えば、メデジン(Medellín)市に存在する麻薬王パブロ・エスコバル(Pablo Escobar)の壁画は、こうした歴史の象徴でもある。麻薬取引が国家構造へと浸透する力を持つことは、コロンビアにとって新しい現象ではなく、この種の犯罪が国家の重要機関すらも取り込む能力を有している現実を示している。

 

突然の退役と揺らぐ制度的信頼

今回のヘルナンド・ガルソン・レイ陸軍少将の解任は、違法行為への関与疑惑が浮上したことによるものであり、大統領が自身のX(旧Twitter)アカウントで発表した。現在、コロンビア国家情報局および検察庁による合同調査が進行中である。この解任劇はコロンビア軍の最上層部を直撃する出来事であり、国家制度の信頼性に大きな打撃を与える可能性が懸念されている。

ガルソン・レイ少将の将官昇進は、同年に上院(Senado de la República de Colombia)によって承認されたものである。しかし、その際には複数の政治勢力から、「未解決の捜査を抱える軍人の昇進を認めること」への懸念が表明されていた。

今回の解任決定について、コロンビア政府は明確に次のように説明している。すなわち、今回の措置は過去の告発(すでに不起訴処分となったもの)とは一切関係なく、あくまで新たに浮上した麻薬取引組織との関係疑惑および違法活動への関与を示唆する証拠に基づくものであるという。

コロンビア軍はここ数年、腐敗防止および制度の透明性確保を優先課題として掲げてきた。ガルソン・レイ少将の解任もこの方針の延長線上に位置づけられ、コロンビア共和国行政府は国家の治安機関における倫理と国民の信頼維持の重要性を改めて強調している。

この軍人の突然の退役は、コロンビア共和国政府が米国によるコロンビアの麻薬対策同盟国認証(certificación como país aliado en la lucha contra el narcotráfico)の維持判断を注視する中で発生したものである。

米国ホワイトハウスによる認証停止は、対外支援の停止や軍事的制限を含む措置を意味する。

トランプ政権(Administración de Donald Trump)による否定的決定への懸念は、政府の麻薬組織および違法耕作に対する厳格な姿勢を強化させている。ペトロ大統領は今週、カウカ県で70人以上の軍人が拘束された市民暴動を受け、「軍人が攻撃される地域に対しては空中散布(aspersión aérea)を再開することを検討している」と表明した。この空中散布は憲法裁判所(Corte Constitucional)によって禁止されており、大統領がこれまで明確に否定してきた方針からの大きな転換である。

2025年8月初旬、コロンビア共和国国軍は、複数の将官を退任させる大規模な人事刷新を断行した。これは、武装勢力の旧FARC(Fuerzas Armadas Revolucionarias de Colombia)離反派および国民解放軍(Ejército de Liberación Nacional:ELN)に対する軍の攻勢が強まる中、「作戦能力の強化」を目的としたものである。同時に、国内各地で軍および警察を標的とした攻撃が増加している。ガルソン少将は、自身の退任が来年の軍内昇進(ascensos)に関連している可能性もあることを認めている。

現在のところ、ガルソン・レイ少将に関しては、前述以外の調査や新たなスキャンダルに関する公的記録は存在しない。彼の現役解任は、コロンビア政府が腐敗撲滅と制度の透明性維持に強い意思を示す象徴的措置である。この決定は、国家安全保障機関における倫理と統制の強化を国民に印象づけることを狙っている。

#麻薬国家 #GustavoPetro

 

参考資料:

1. Colombia’s Petro Removes General Over Alleged Links to Drug Trafficking
2. Esta ha sido la trayectoria del general Hernando Garzón Rey, destituido por orden de Petro por supuestos nexos con el narcotráfico
3. Petro retira al inspector general de las Fuerzas Militares por supuestos nexos con el narcotráfico

 

 

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