映画:続編公開前に見るネイティブ・アメリカンによる映画「スモーク・シグナルズ」

『スモーク・シグナルズ2(Smoke Signals 2)』は、ネイティブ・アメリカン映画の金字塔とされる『スモーク・シグナルズ(Smoke Signals)』の続編として、国内外で大きな注目を集めている。2025年に劇場公開が予定されており、アダム・ビーチ(Adam Beach)、アイリーン・ベダード(Irene Bedard)、さらに伝説的俳優キアヌ・リーブス(Keanu Reeves)が出演する。

本作は、主人公トーマス(Thomas)とヴィクター(Victor)の交錯する人生を中心に据え、英雄譚、家族の絆、そして過去のトラウマというテーマを多層的に探求する物語である。トーマスは、幼少期に火災から自身を救ったアーノルド(Arnold)を英雄視しているが、その感情は、父アーノルドのアルコール依存症、暴力的傾向、そして家族を捨てたという事実に起因するヴィクターの記憶と複雑に交錯している。

物語の進行に伴い、「赦し」「贖罪」「癒やし」といった普遍的かつ深遠なテーマが物語全体を貫いていく。本作は前作への敬意を示しつつも、現代的な視点からネイティブ・アメリカン文化の核心に迫る試みを行っている。映像美と緻密なストーリーテリングを通して、『スモーク・シグナルズ2』は観客を感動的な旅路へと誘い、アイデンティティ、家族関係、そして世代間に引き継がれるトラウマの影響について、深い省察と対話を促す作品となることが期待されている。

 

前作『スモーク・シグナルズ』は、1998年に公開された。監督はクリス・エア(Chris Eyre)、脚本はシャーマン・アレクシー(Sherman Alexie)が担当した。本作はアレクシーの1993年の短編集『ローン・レンジャーとトントが天国で殴り合う(The Lone Ranger and Tonto Fistfight in Heaven)』を原作としている。多数の映画祭で高い評価を受けた前作は、2018年にはアメリカ議会図書館(Library of Congress)により、全米映画登録簿(National Film Registry)への選出を果たした。この登録制度は、「アメリカの映画遺産において文化的、歴史的、または美的に重要な作品」を保存対象として指定するものである。『スモーク・シグナルズ』は、娯楽作品としての魅力を有するのみならず、アメリカ映画史における先住民の表象の転換点としても重要視されている。同機関は、登録の理由を以下のように述べている。

初期のサイレント映画時代に活躍したジェームズ・ヤング・ディア(James Young Deer)やエドウィン・キャルー(Edwin Carewe)以降、映画におけるネイティブ・アメリカンの描写は次第に暗く、ステレオタイプ化されたものへと変容していった。しかしながら、画期的な作品である『スモーク・シグナルズ』の登場により、このような社会的傾向に変化の兆しが見られるようになった。本作は表面的には非常に娯楽性に富んだ作品である一方で、非ネイティブ・アメリカンの観客に対し、先住民文化に対する深い洞察を提供している。

なお、全米映画登録簿には、毎年「アメリカの映画遺産にとって文化的・歴史的・または美的に重要である」と判断された25本の映画が追加される。このレジストリは、1988年に制定された映画保存法(National Film Preservation Act)に基づき創設された。同法により、映画保存委員会(National Film Preservation Board)も設立されている。初回の選定は1989年に行われ、『オズの魔法使(The Wizard of Oz, 1939年)』、『市民ケーン(Citizen Kane, 1941年)』、『波止場(On the Waterfront, 1954年)』、『博士の異常な愛情(Dr. Strangelove, 1964年)』などが選ばれた。その後も、『エルム街の悪夢(A Nightmare on Elm Street, 1984年)』というホラー映画、『パープル・レイン(Purple Rain, 1984年)』というミュージカル、『プリンセス・ブライド・ストーリー(The Princess Bride, 1987年)』というコメディ、『シュレック(Shrek, 2001年)』というアニメーション映画、そしてスーパーヒーロー映画『ダークナイト(The Dark Knight, 2008年)』など、多様なジャンルの作品が追加され続けている。

 

前作『スモーク・シグナルズ』

スモーク・シグナルズは、アメリカ北西部アイダホ州のクアダレーン居留地(Coeur d’Alene Reservation)に暮らすティーンエイジャー、短気なバスケットボール選手ヴィクター・ジョセフ(Victor Joseph)と、風変わりな語り部トーマス・ビルズ・ザ・ファイア(Thomas Builds-the-Fire)の物語である。彼らを結びつける存在が、ヴィクターの父親アーノルド・ジョセフ(Arnold Joseph)である。

本居留地はベニューア郡(Benewah County)とクーテナイ郡(Kootenai County)の一部にまたがっており、アイダホ州で連邦政府に認定された5つのトライブのうちの一つであるコーダリーン族が居住している。「コーダリーン」という名前は「針の心臓(Heart of the Awl)」を意味し、18世紀末から19世紀初頭にかけてこの地域を訪れたフランス人の毛皮猟師が、トライブの優れた交易技術を称えて名付けたものである。居留地の面積は523.76平方マイル(約1,356.5平方キロメートル)で、2000年の国勢調査によると人口は6,551人であった。居留地内で最大の都市はプラマー(Plummer)で、2010年の国勢調査では人口が1,000人を超えている。また、ベニューア郡の郡庁所在地であるセント・マリーズ(St. Maries)の一部も居留地の東端にかかっており、市の人口2,652人のうち約734人が居留地内に居住している。

この地域は1846年の米英条約によりアメリカ合衆国の領土となり、その後アメリカ東部から多くの開拓者が移住してきた。1858年5月から9月にかけてのスキツウィッシュ戦争で先住民が敗北した後、1863年に北アイダホ州パンハンドル地域のコーダリーン市近郊で銀が発見され、これを契機にさらなる入植者がこの地に集まった。以降、この地域では銀の採掘が盛んになり、大量の銀が産出された。

 

スモーク・シグナルズは、トーマスとヴィクターがまだ赤ん坊だった頃の悲劇的な出来事の回想から始まる。1976年のアメリカ独立記念日(トーマスはこれを「白人の独立記念日」と皮肉を込めて呼ぶ)、パーティーの最中にトーマスの両親が火災で亡くなる。この火災の中でトーマスを救ったのが、酒に酔っていたヴィクターの父アーノルド・ジョセフであった。トーマスはアーノルドを英雄視しているが、ヴィクターにとってアーノルドは、アルコール依存や家庭内暴力、さらには家族を捨てた存在であり、父に対して深い愛情と同時に強い憎しみを抱く複雑な存在である。ヴィクターとトーマスは隣人として育ち、喧嘩を繰り返しながらも、微妙な友情関係を築いていく。

ヴィクターとトーマスは家を去ったアーノルドがアリゾナ州フェニックスで亡くなったことを受けて、彼の遺灰を引き取るための旅に出る。この旅は、彼らが自身のアイデンティティと向き合う重要な契機となる。道中の二人のやり取りは、ネイティブ・アメリカンに対するステレオタイプや植民地主義の影響を皮肉やユーモアを交えて表現している。ヴィクターはトーマスの話し方を「呪術師ぶっている」とからかい、「本物のインディアンってのは怒っている顔をしなきゃ尊敬されないんだぞ」と説教する場面もある。また、ハリウッド映画における「カウボーイ対インディアン」の典型的な構図を風刺しながら、ジョン・ウェイン(John Wayne)に関するユーモラスな即興歌を披露する場面も見られる。

二人ともネイティブ・アメリカンとしてのアイデンティティを保持しているものの、ヴィクターとトーマスの最大の違いは、「本当のインディアンとは何か」という問いに対する捉え方にある。この問いは、植民地主義の影響によって生じたものである。植民地主義は歴史的にネイティブ・アメリカンの存在を抹消しようと試みている。今日においても先住民族が大切に守り続ける文化の断片を汚そうとしている。市民権や血量(blood quantum)といった概念は、元来先住民のコミュニティに由来するものではなく、外部から導入された枠組みである。これらの概念は、多くの先住民にとってアイデンティティの混乱(ディスフォリア)を引き起こす要因となっている。非先住民から頻繁に投げかけられる「あなたの血は何分の何ですか?」という質問は、先住民族に属することの意味がいかに誤解されているかを如実に示している。

先住民に対する偏見は誤った教育や誤った表象(ミスリプレゼンテーション)に起因している。一般にイメージされる「ネイティブ・アメリカン像」は、羽飾りの頭飾り、ティーピー、トマホークといったステレオタイプ的要素から成り立っている。この点において多くの人々はネイティブ・アメリカンがすでに絶滅したか、あるいは残存者は架空の物語の登場人物のように居留地で生活していると考えられている。

しかし実際には、先住民族は個人としてもトライブとしても非常に多様であり、非先住民と変わらない日常を享受している者も多い。多くの先住民は都市部で生活し、都市空間における“先住民性”の根づかせに取り組んでいる。一方で、『スモーク・シグナルズ』の登場人物たちのように、居留地での生活を守り続けている人々も存在する。

「『スモーク・シグナルズ』は、私自身が子どもの頃に経験した両親の死を乗り越えるための表現の場だった」と、ヴィクター役のアダム・ビーチ(Adam Beach)は語る。トーマス役のエヴァン・アダムズ(Evan Adams)との共演について、「あの衝撃的なラストシーンでは、私は本当に演技をしているわけではなかった。あまりに個人的な感情が強すぎて、監督のクリスが私を現実に引き戻さなければならなかったほどだった。俳優として、その瞬間は真実の演技を届けるための壁を打ち破る経験になった」と述べている。

『スモーク・シグナルズ』は、ネイティブ・アメリカン社会における重要な社会問題を果敢に取り上げている。その代表的なテーマの一つが、アルコール依存症や薬物中毒である。これらの問題は、多くの先住民コミュニティにおいて非常に身近な課題であり、あまりにも一般的な現実として存在している。

2017年に実施された「全米薬物使用・健康調査(National Survey on Drug Use and Health)」によると、アメリカン・インディアンおよびアラスカ先住民は、全人種・民族の中で最も高い薬物依存率を示している。しかし、この深刻な依存症の問題に対する社会的支援や関心は十分とは言えない状況にある。こうした現実は、多くの家庭において「当たり前のこと」として受け入れられてしまい、次世代に依存症が“継承”されることが暗黙のうちに想定されているかのような風潮すら見られる。

 

『スモーク・シグナルズ』は、アメリカ先住民の映画製作者による最初の作品ではないものの、脚本・監督・製作のすべてをネイティブ・アメリカンが手がけ、アメリカ国内外で広く公開された初の長編映画として広く認知されている。また、先住民映画制作と表現の新たな節目を示すものであり、現在に至るまで先住民コミュニティに強い影響力を持ち続けている。1997年中頃に撮影された本作はキャストにアメリカ先住民の俳優・女優を起用し、リアリズムの追求のために実際のアイダホ州コー・ダリーン・インディアン居留地でのロケ撮影を行った点でも高く評価されている。

『スモーク・シグナルズ』が先住民による表現の転機となったことは確かである。それでも本作がすべてのトライブの姿を代表しているわけではない。アメリカ合衆国内には600を超える連邦政府認定トライブが存在し、それぞれが主権国家として独自の起源、伝統、歴史(ヨーロッパ人との接触前後を含む)を有しているためである。これら多様な歴史と文化が、各トライブの固有の文化を形成している。

他の映画作品等の情報はこちらから。

 

参考資料:

1. Smoke Signals
2. “It’s a Good Day to be Indigenous!”: The Impact and Legacy of ‘Smoke Signals’
3. ‘Smoke Signals’ Film’s Effect 20 Years Later Topic of Discussion

 

作品情報:

名前: スモーク・シグナルズ(Smoke Signals)
監督: クリス・エア(Chris Eyre)
脚本: シャーマン・アレクシー(Sherman Alexie)
制作国:アメリカ合衆国
時間: 89分
ジャンル: ドラマ/ロードムービー

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