コロンビア:イスラエルとの地政学的対立で石炭多国籍企業に挑戦

これは、NODALの分析者であり、地理学者・社会科学博士のアルフィオ・フィノラ(Alfio Finola)および機械工学者のホセ・パグリエロ(Jose Pagliero)によるコラムの翻訳である。両者は、エネルギー・科学・技術観測所(Observatorio de Energía, Ciencia y Tecnología:OECYT)のメンバーでもある。OECYTは、エネルギー、科学、技術に関する研究と分析を行う組織であり、特に南米およびラテンアメリカ地域のエネルギー政策や技術開発に関して、重要な情報を提供する役割を担っている。政府、企業、学術機関と連携しながら、エネルギー分野における持続可能な発展や技術革新の促進を目的として活動している。


コロンビア政府によるイスラエル向け石炭輸出に対する最近の圧力は、大統領官邸カサ・デ・ナリニョと鉱業企業との間に深刻な対立を引き起こしている。グスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)大統領は、これをガザにおけるジェノサイド(集団殺害)に対する倫理的対応であると主張しているが、米国のドラモンド(Drummond)社やスイスのグレンコア(Glencore)社といった多国籍企業は、この措置をイデオロギー的介入とみなし、契約、投資、国際関係が脅かされていると反発している。両者の対立が表面化するなか、大統領令に反して船舶はなお出航を続けており、契約破棄のリスクが現実味を帯びてきている。

緊張が頂点に達したのは7月24日のことである。この日、ペトロ大統領は、自らが約1年前に発令した大統領令に違反し、イスラエル向けの新たな石炭貨物が出航したとして公に非難した。彼は海軍に対し、同国向けのすべての貨物船の出航を阻止するよう命じたうえで、労働組合、先住民族コミュニティ、そしてスイス市民に対し、石炭企業に対する包囲・封鎖を呼びかけた。同時に、グレンコアおよびドラモンドの経営陣について、「ジェノサイド幇助」の罪でコロンビアおよびスイスの司法当局に訴追を求めた。

 

外交手段としての石炭

コロンビアは、世界第5位の火力発電用石炭輸出国であり、また第3位の製鋼用コークス輸出国でもある。2024年だけで7,000万トン以上、総額70億米ドルを超える石炭を輸出している。このうち5〜7%がイスラエル向けであり、同国は2023年に輸入石炭の50%以上をコロンビアから調達し、購入額は最大で4億5,000万米ドルに達した。

2024年8月に署名された大統領令では、イスラエルへの石炭輸出が明確に禁止されていた。しかしながら、同年9月から今年4月にかけて輸出は継続され、124万トン(約1億米ドル相当)が出荷された。これは、大統領令に実効性のある制裁規定が盛り込まれておらず、企業側が契約上の自律性や過去の商業合意を根拠に輸出を継続しているためである。

ペトロ大統領は、イスラエルによるガザ地区ラファへの軍事攻撃について、石炭企業が間接的に資金的支援を行っていると非難している。彼は2024年に大統領令を発布した際、SNS「X(旧Twitter)」上で「コロンビアの石炭でパレスチナの子どもたちを殺す爆弾が作られている」と発言した。この発言は国内外のメディアで広く取り上げられ、賛否両論を呼んだが、これは国際紛争に関連する政治的理由から、ラテンアメリカ諸国が戦略物資の輸出を禁止するという、前例のない決定を示すものであった。

 

コロンビアの鉱業セクターは、外国の多国籍企業による寡占状態に置かれている。アメリカのドラモンドは、コロンビアの石炭輸出の52%を占め、グレンコアはラ・グアヒラ県のセレホン(Cerrejón)鉱山を通じて約34%を管理している。両社は、環境への影響、地域社会への対応、さらにドラモンドについてはセサル県における労働組合弾圧との関与に関して、たびたび批判を受けてきた。

大統領令が発布されたにもかかわらず、両社は操業を継続した。コロンビア鉱業協会は、ペトロ大統領の提案を「烙印を押すもの」として強く拒絶し、このような制限は法的安定性、雇用、そして外国からの投資に悪影響を及ぼすと主張した。また、元政府高官やコロンビアの輸出業者も、コロンビアの石炭が軍事目的に直接使用されることはないと反論し、大統領令は業界にとって危険な先例となると警告して、企業側の立場を支持した。

 

権力の衝突と世界的な影響

この問題は、商業的な側面を超えた影響を持っている。ペトロ大統領は、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(Comunidad de Estados Latinoamericanos y Caribeños:CELAC)の場を活用し、イスラエルに対する全面的な禁輸を呼びかけ、コロンビアの外交政策を「人権外交」として強化した。企業側の対応は、沈黙するか、カメラの外で行動するにとどまった。一方イスラエル側は、オーストラリアや南アフリカなど、他の供給国との契約を強化することで応じた。

この対立の背後には、二つの異なるモデルの衝突があることが浮かび上がる。一方では、コロンビア政府が国際関係と経済を、イスラエルによるパレスチナへのジェノサイドに対する明確な反対という方向へと導こうとしている。他方では、企業は利益の最大化を最優先とし、いかなる代償を払ってでもそれを追求している。

その間にも船は依然として出航を続けており、鉱業会社からのロイヤルティ(税収)は引き続きコロンビア政府に納められている。政府と石炭企業との対立は、解決の兆しを見せないままエスカレートし続けている。

最終的に、コロンビア政府の姿勢は倫理的に重要な価値を持っており、国際法および人権の原則に合致している。これは、ガザにおける紛争に対する積極的な抗議として、必要不可欠な声であると言える。大統領令には、企業が巧妙に利用し得る法的な隙間が存在しており、そのことが効果を弱めているのは確かである。しかし、政府は商業契約の正式な取り消しや見直しを通じて、法的に明確な形で大統領令の実効性を強化する方向に進んでいる。あわせて、社会的連帯を呼びかけ、ジェノサイドに対する国内外の公的圧力を求めている。

イスラエルへの石炭禁輸をめぐる論争は、ペトロ政権下における倫理的な政治と経済的実利との間に存在する緊張関係を浮き彫りにしている。この措置が即効的な効果を生むかどうかという議論を超えて、コロンビアは人権侵害を非難する立場を取ることで、商業政策を調整しようとする国家としての姿勢を明確に示している。

この出来事は、コロンビアの外交政策における将来的な方向性を占ううえで、重要な転機となるだろう。コロンビアは、価値観、主権、そして経済の持続可能性を、ますます対立が激化する国内外の環境の中でどのように調和させるのかという課題に直面している。

これまでのところ、ペトロ大統領はその姿勢を貫いており、7月29日にはX(旧Twitter)において次のように投稿した。「昨日、ある元大統領がイスラエルとの再交渉を提案した。しかし、それはイスラエルが子どもたちを殺すのをやめ、パレスチナの人々とその国家主権を尊重する場合に限って行われるだろう」。


ボゴタ市で開催されたCELAC 2025年の第7回閣僚会議の最中、グスタボ・ペトロ大統領は、通称ミスター・タックスこと元商業大臣ルイス・カルロス・レジェス(Luis Carlos Reyes)を、中東での戦争に関与する「ガザでのジェノサイドの共犯者」と強く非難した。

ペトロ大統領によれば、元商業大臣レジェスは大統領令を無視し、大統領府の監視を逃れるため秘密裏に行動し、イスラエルとの交渉を続けようと試みた。レジェスは「小さな策略」を仕掛け、コロンビア政府が発した輸出禁止令に法的な抜け穴を作り、輸出業者がコロンビア産化石燃料の輸出を継続できるようにした。

このような事態を受けペトロは次のようにコメントしている。「コロンビア産の石炭を船で運び、それでC型爆弾を作っているのだ。大統領が禁止したにもかかわらず、なぜそれが行われるのか? つまり、コロンビアの大統領には力がないのか? 私はただの殻、政治という劇場の操り人形にすぎず、本当の力、実際の政治は別の場所にあるというのか?」さらに大統領は、「レジェスは私を欺いた。彼は大統領令の文言を改変し、法的なフィルターをすり抜けさせた。誰かが気づいていたはずだ。輸出業者を石炭輸出禁止から除外する2つの言葉がそこにあったのだ」と述べた。

 

グスタボ・ペトロは、コロンビア産の石炭がイスラエルの軍需用鋼鉄の製造に使われる可能性を懸念していると表明した。また、多国籍企業に対しては「グレンコアに求める。使用されていないあのインフラを、コロンビア社会のために活用してほしい」と呼びかけた。ペトロ大統領はさらに、同社が政府の方針に従わない場合には、セレホン炭鉱の採掘をグレンコアに認めているコンセッション契約を一方的に再交渉する可能性にも言及した。

前商工観光大臣ルイス・カルロス・レジェスは、大統領の非難に即座に反応し、「ペトロの“頑固さ”こそが、化石燃料の輸出を今も可能にしている抜け穴付きの政令が発令された原因だ」と主張した。「大統領、我々は商工観光省(Ministerio de Comercio, Industria y Turismo:MinCIT)として、あの政令を骨抜きにする条項に対して激しく闘っていた。それにもかかわらず、あの条項を押し通したのはあなた自身であった。あなたは、モサドが我々に侵入していると主張し、その条項を盛り込まなければ憲法裁判所が政令を無効にすると言い張ったのだ」と、レジェスは自身のX(旧Twitter)アカウントで述べている。

#GustavoPetro #ジェノサイド #ガザ #イスラエル

 

参考資料

1. Colombia desafía a multinacionales carboneras y agita el tablero geopolítico con Israel
2. En discurso ante la Celac, Gustavo Petro acusó a Luis Carlos Reyes de participar en el “genocidio” en Gaza: “Me engañó”
3. “Esa matemática ya no sirve”: discurso de Petro ante ministros de la Celac desató ola de comentarios en redes sociales

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