UNODC:「2025年世界薬物報告書」が示す歴史的高水準での薬物使用

国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime:UNODC)は、2025年6月26日に最新の『世界薬物報告書(World Drug Report)2025』を発表した。本報告書が示しているのは、UNODCによる最大限の努力にもかかわらず、薬物使用者および違法取引が増加し続けているという厳しい現実である。

報告書を通じて明らかになるのは、薬物市場の抑制および薬物使用者の健康保護に関して、体系的な失敗が存在するということであり、懲罰的政策では薬物市場や組織犯罪を根絶するには不十分であるという事実である。

UNODCの事務局長ガダ・ワリー(Ghada Waly)は、「本報告書の最新版は、組織的な薬物密輸グループが引き続き状況に適応し、世界的な危機を利用して脆弱な人々を標的としていることを示している。我々は予防に投資し、非合法な供給網のあらゆる段階において薬物取引の根本原因に取り組まなければならない。また、技術の活用、国境を越えた協力の強化、代替的生計手段の提供、さらに、こうしたネットワークを推進する主要関係者への司法的措置を通じて、対応を強化する必要がある。包括的かつ協調的なアプローチによってこそ、犯罪組織を解体し、世界の安全保障を強化し、コミュニティを保護することが可能となる」と述べている。

報告書はまた、困難、社会的不安定、紛争から逃れようとする新たな脆弱層の出現が、今後さらに薬物使用者数を増加させる可能性があると警告している。

 

世界のコカイン市場、過去最高を更新

2023年には、アルコールおよびタバコを除く薬物の使用者数が3億1,600万人に達し、これは15歳から64歳の世界人口のおよそ6%に相当する。2013年の5.2%と比較すると、明らかな増加である。

同年、コカインの生産量・押収量・使用者数はいずれも過去最高を記録し、コカインは現在、世界で最も急速に拡大している非合法薬物市場となっている。非合法生産量は3,708トンに達し、2022年比でおよそ34%の増加である。世界全体の押収量も2,275トンに上り、2019年から2023年の間に68%増加した。一方、コカイン使用者は2013年の1,700万人から、2023年には2,500万人へと増加している。

薬物使用者数が最も多いのは大麻であり、その数は2億4,400万人に上る。次いで、オピオイドが6,100万人、アンフェタミン類が3,070万人、コカインが2,500万人、エクスタシーが2,100万人である。

報告書はまた、コカイン密輸業者がアジアおよびアフリカの新興市場への進出を強めていることを指摘している。かつてはラテンアメリカに限定されていた非合法市場に特徴的であった凶悪な暴力と競争は、西欧諸国にも拡大しており、とりわけ西バルカン地域の組織犯罪グループが市場における影響力を強めつつある。

 

合成薬物市場は拡大を続ける

運営コストの低さや摘発リスクの減少といった要因により、合成薬物市場は世界的に拡大を続けている。とりわけ、メタンフェタミンやアンフェタミン(「キャプタゴン」を含む)などのアンフェタミン系興奮剤(ATS)が市場を支配している。

2023年にはATSの押収量が過去最高を記録し、合成薬物全体の押収量のほぼ半分を占めるに至った。これに続くのが、フェンタニルを含む合成オピオイドである。

シリアにおけるアサド政権の崩壊は、キャプタゴン取引の将来に不確実性をもたらしている。政権崩壊後には、国内で大規模なキャプタゴン製造施設が発見されており、この発見によって一時的に供給網が混乱する可能性も指摘されている。

しかしながら、2024年および2025年の最新の押収データによれば、キャプタゴンの流通は依然として継続しており、主にアラビア半島諸国に向けて流れているとされる。これは、過去に蓄積された在庫の放出、あるいは別の地域での生産が続けられている可能性を示唆している。

 

薬物密輸は途方もない利益をもたらす

推計には幅があるものの、非合法薬物取引は年間で数千億ドル規模の収益を生み出している。犯罪組織は、生産の拡大、新たな化学的隠蔽手法の開発、通信の秘匿化および流通拡大のための技術活用を通じて、絶えず手法を革新し続けている。

これらの組織犯罪ネットワークは非常に強靭であるが、完全に撲滅できないわけではない。ただし、それを実現するためには、薬物密輸グループの目的や構造について、より深い理解が求められる。

犯罪組織の構造を詳細に把握することは、その弱点や主要関係者、支援者を特定し、効果的な介入が可能な領域を明らかにするための重要な手がかりとなる。法執行機関は、薬物供給網において使用されている高度なツールや手法に対応するため、技術力の向上および専門的な技能訓練への投資を検討すべきである。

 

薬物使用は増加しており、それに伴い薬物関連の害も拡大している

2025年版『世界薬物報告書』における主要な見出しは、薬物使用が依然として過去最高水準に達しているという事実である。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の推計によれば、2023年には15歳から65歳の世界人口の6%にあたる3億1,600万人が薬物を使用しており、これは2013年の2億4,300万人から顕著な増加を示している。増加の大半は、大麻およびコカインの使用に集中している。

また、2023年には1,400万人が注射薬物を使用しており、その半数がC型肝炎に罹患しているとされる。

薬物関連の死亡者数も増加傾向にあり、2011年には35万人を超えていたが、2021年には45万人を上回るに至った。残念ながら、2021年以降の更新された死亡統計データは不足している。

薬物関連の問題を抱える人々は、現在推定で6,400万人にのぼり、これは過去10年間で13%の増加に相当する。

薬物治療へのアクセスにも著しい格差が見られる。治療を受けられるのは、男性では7人に1人、女性では18人に1人に過ぎない。報告書提出国のうち、110カ国中わずか26カ国が過量摂取対策薬であるナルロキソンへのアクセスを提供しており、また、133カ国中76カ国がオピオイド作動薬による置換療法を一部に限って実施しているにすぎない。

 

法執行は薬物市場を撹乱しないが、市場をより致命的にする可能性がある

2025年版『世界薬物報告書』に含まれるテーマ別小冊子の一つは、薬物取引と組織犯罪との関連性を詳細に検証している。このテーマは、より多くの法執行および薬物対策への投資を正当化する上で、UNODCにとって政治的に都合の良い論点であるように見えるが、小冊子には薬物対策の効果を評価する上で示唆に富む内容が含まれている。

同小冊子は、「薬物市場全体は、法執行による介入に対して非常に強靭である」と結論づけている。薬物取引に対する無差別な法的措置は、「薬物法執行における一般的な対応である」が、それにもかかわらず「薬物取引グループにはほとんど影響を与えていない」。さらに、「薬物の押収や関係者の逮捕は市場の均衡に変化をもたらすことがあり、時に純度の低下や価格の上昇を引き起こすが、市場全体の根絶にはつながらない」と指摘している。

実際、小冊子は、法執行による摘発がかえって不安定さを助長する可能性があることを認めている。とりわけ、「組織内の最上層の人物が排除された場合、権力の空白が生じ、内部対立や組織間抗争が引き起こされることで暴力が増加する傾向がある」とされている。さらに、追加の研究では、特に合成オピオイドを含む大量の薬物押収が、過剰摂取による死亡の増加と関連している可能性があることも示唆されている。

これらの結論は、報告書の他の章で提示されているデータとも整合する。たとえば、MDMAなどの興奮剤の押収量は、過去7年間で300トン未満から600トン超へと倍増している。また、メタンフェタミンの押収も、2017年の200トン未満から2023年には400トン超に増加している。しかしながら、いずれの薬物市場も依然として拡大を続けており、押収量の増加は主に生産規模の拡大を反映していると考えられる。

これらの事実は、薬物対策に関する今後の国際的な枠組みを再検討する上で、加盟国が明確に認識すべき重要なメッセージである。

 

政治的支援のない技術的なハームリダクションの承認

2025年版『世界薬物報告書』における二つ目のテーマ別小冊子は、「薬物使用の影響」に焦点を当てている。本小冊子は、薬物使用者、その家族、そして地域社会に及ぼす影響を検討しており、2024年版に収録された「薬物使用と健康権」に関する章への応答として位置付けられる可能性がある。というのも、一部の加盟国は、薬物使用者の健康権に焦点を当てるのではなく、薬物使用による有害な結果に重点を置くべきであるとの立場を示していたためである。

小冊子は、「薬物使用によってもたらされる害の多く、および薬物使用や薬物使用障害の影響は、多様な修正因子への働きかけにより予防または軽減が可能である」との認識から出発している。したがって、本章の関心は薬物使用そのものの予防から、薬物使用による害の予防へと明確に移行している。実際、小冊子のかなりの部分は、薬物使用が必ずしも有害とは限らず、薬物による害は社会的・政治的な決定要因──たとえば階級、人種、性別など──によって媒介され、かつ形成されることを説明することに費やされている。

さらに、小冊子には、ハームリダクションに関する従来型の介入の効果について、十分に裏付けられた証拠の要約が含まれている。新たな手法としては、薬物消費室や消費スペース、薬物チェックサービス、ヘロイン補助治療なども取り上げられている。全体として、本章は極めて複雑かつ繊細な構成を持ち、昨年の「薬物使用と健康権」章に対して国際薬物政策コンソーシアム(IDPC)が提起した多くの批判に肯定的に応答していると評価できる。

これは歓迎すべき進展である一方で、本小冊子は「ハームリダクション」を依然として注射薬物使用への技術的対応の集合体として位置付けており、包括的かつ生命を救うアプローチとして明確に認識していない。このことは、報告書およびUNODC自体の政策的限界を如実に表している。さらに、それにより、ハームリダクションを全面的に支持し、薬物政策が生み出す害を公的に認めている他の国連諸機関──たとえば、2023年の国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)報告書や、2024年の国連特別報告者による健康権に関する報告書──との間に立場の乖離が生じている。

 

刑事罰化の害の認識

重要な進展として、「薬物使用の影響」に関する小冊子は、刑罰的な法律および慣行が薬物使用による害を悪化させることを明確に認めている。とりわけ注目すべきは、薬物使用の刑事罰化に対する直接的な批判であり、これは昨年の報告書と比較して、極めて歓迎すべき改善点である。

具体的には、小冊子は「薬物使用の刑事罰化および、それに伴う薬物使用者や薬物使用障害者の投獄は、個人、その家族、そしてコミュニティに対して、直接的かつ間接的に多大なコストをもたらす」と指摘している。さらに、「薬物使用に関連して人々を対象とする政策は、そのような人々に対するスティグマ(烙印)や差別を増幅させることとなり、薬物使用が健康に及ぼす悪影響を一層深刻化させる可能性がある」とも述べている。

次期UNODC事務局長には、こうした認識を報告書の周縁から中心に押し出し、他の国連諸機関と連携して薬物使用者の非刑事化を推進する明確な立場を示すことが期待される。

この認識はきわめて重要である。なぜなら、現行の薬物対策体制は、依然として刑罰的傾向を強く持ち続けているからである。今年の『世界薬物報告書』に示された最新データによれば、2023年には610万人が薬物関連活動によって刑事司法制度との接触を経験しており、そのうち400万人個人使用に伴う単純所持で摘発されている。また、最大160万人が薬物所持または使用の容疑で起訴され、85万人が有罪判決を受けている。これらの数字は、薬物使用者がいまだに薬物対策体制の主たる標的とされている現実を如実に物語っている。

 

 

政治的な物語が依然として報告書に浸透している

これらの歓迎すべき進展にもかかわらず、「薬物使用の影響」に関する小冊子については、依然として深刻な懸念が残されている。章冒頭の枠組みは、「薬物使用」を社会的害の主たる原因として位置づけており、薬物使用者をその家族や地域社会と対立的な関係に置く可能性がある。このような構図は、薬物使用を公共的問題として扱う上で、スティグマの再生産を助長しかねない。

報告書は、社会的・政治的決定要因が薬物使用による害を媒介しているとの認識を一部で示しているが、その理解は文書全体に一貫して適用されていない。たとえば、小冊子の一節では、薬物使用障害への対応としての刑事司法制度に要する何百万ドルもの費用を、「物質使用障害のコスト」の一部として計上している。これは、制度によって生み出されたコストを個人の問題として位置づけるものであり、分析として不正確かつ問題の本質を見誤っている。

また、「薬物を使用する親や、薬物使用障害を抱える親の子どもは、安全かつ養育的な環境を欠く可能性が高い」とする記述も見受けられる。このような一般化は、特に多くの親、なかでも母親が、薬物使用のみを理由として親権を剥奪されることを恐れている政策環境において、重大なスティグマや制度的害を引き起こす恐れがある。既存の研究は、薬物使用という行為そのものが、直ちに子どもの福祉に有害であるわけではなく、それゆえに権利制限の根拠とはなり得ないことを示している。この点に関する注釈を加えることは、よりバランスの取れた記述となったはずである。

さらに、報告書の他の部分においても、政治的バイアスが見られる。たとえば、UNODCは、現行の法的規制の主たる目的が組織犯罪の権力構造を抑制することにある可能性を認めていない。この点については、国連人権高等弁務官フォルカー・ターク(Volker Türk)が繰り返し指摘しているとおりである。この視点の欠如により、法執行が構造的に失敗している現在において、より実効性のある政策的選択肢に関する根拠が加盟国に提供されていないという重大な問題が生じている。

 

人権について沈黙するUNODC

人権は、薬物政策による壊滅的な人的コストが国連の人権システムにより十分に記録されているにもかかわらず、『世界薬物報告書』にはほとんど登場しない。特に、2024年版報告書は「健康の権利と薬物使用」に関する枠組みを初めて提案した。この分析には欠陥があったものの、UNODCの旗艦出版物が人権に明確に言及した初の事例であり、今後の継続が期待されていた。しかし、今年の報告書全体において健康の権利への言及がほとんど見られなかったことは大きな失望である。

この事実は、UNODCが人権に対する真摯な関与を欠いていることを示している。実際、本日70の市民社会組織が共同声明を発表し、UNODCおよびCND(国連麻薬犯罪委員会)に対して、薬物関連犯罪に対する死刑適用を明確かつ断固として非難するよう強く求めていることが強調されている。

 

世界的な再考の時代において、我々は誠実かつ公平なUNODCを必要としている

まとめると、『世界薬物報告書2025』はUNODCの歪んだ立場をよく示す典型的な例である。一方で、本報告書の多くは世界の薬物対策体制の明白な失敗およびそれが悪化させ続ける害を詳細に述べている。他方で、政治的にはUNODCは自身が中心的役割を担う現状維持を守ろうと固執している。

2025年3月、CNDは世界の薬物対策体制を再考する歴史的な作業を開始することを決定した。この過程においては、正確かつ公平な情報の提供が不可欠である。コロンビア代表団は議論の中で次のように述べている。

「私たちは政治的に正しい報告ではなく、我々が直面する展開と問題に取り組み、各国が何をすべきかを知ることができる正確な報告を求めている。」

UNODCは引き続き現行の薬物統制体制を維持する立場をとっている。しかし、この体制の有効性と報告書の内容には従来から乖離が存在する。ガダ・ワリが辞任した今、次期事務局長は現行体制の欠陥について加盟国と誠実に向き合う勇気を持つべきである。真の麻薬撲滅に向け、薬物統制機構の再考を各国が行えるよう、UNODCは加盟国に対し証拠に基づく偏りのない情報提供と説明を行わねばならない。

 

 

参考資料:

1. Evidence that cannot be contained: The World Drug Report 2025 reveals the ongoing failure of the drug control regime
2. Informe Mundial sobre las Drogas 2025 de UNODC: La inestabilidad mundial agrava el impacto social, económico y de seguridad del fenómeno mundial de las drogas
3. World Drug Report 2025

No Comments

Leave a Comment

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

error: Content is protected !!