映画:「入国審査」で知らしめられる空港で日常的に行われる差別的対応と暴力

※ネタバレ注意※

アルベルト・アマン(Alberto Ammann)とブルナ・クシ(Bruna Cusí)は、他国への入国時に直面する可能性のある悪夢のような現実を映画『入国審査』で見事に表現している。息苦しい密室劇は、観客を心理的に追い詰める構成となっている。

マイアミに向かう主人公たちは、乗り継ぎ地であるニューヨークで「優しそう」な入国審査官に当たった。しかし、間もなくその担当官は二人に別室への同行を求め、そこから悪夢のような出来事が始まる。二次審査室が始まるまで、どれだけ待たされるのかも分からず、携帯電話の使用はもちろん禁止され、水や食料も購入できない。二次審査が始まってからの尋問は、人権侵害を疑うほど過酷である。米国に希望を持ってやってきたのに、彼らを待ち受けていたのは尋問であり、職員たちのささやきであり、プレッシャーであり、不適切で不快な質問だった。密室はまるで米国の縮図のように意図的な偏見に満ちた空間であり、この国における上下関係を「教えられる」場所でもある。主人公たちは完全に孤立し、無力な状態に追い込まれる。

本作でデビューを果たす監督アレハンドロ・ロハス(Alejandro Rojas)とフアン・セバスティアン・バスケス(Juan Sebastián Vásquez)は、実際に空港で同様の経験をしたことがある。ベネズエラ出身の彼らは、その国籍ゆえに入国できず、犯罪者扱いされる人々の姿を密室空間の中で描くとともに、制度的な差別や不当な扱いを訴えかけている。このような体験は、グローバル・サウスの人々がグローバル・ノースの人々よりも多く経験している現実である。

 

本作に関するインタビューでフアン・セバスティアン・バスケスは、映画制作のプロジェクトを始める際、すでに似たテーマの物語をいくつか考えていたと語った。どれも移民過程の重要性に関するもので、権威的な立場にある者が他者やカップルに移民の理由を問い詰める力を描きたかったという。また、出自や性的指向、肌の色などを理由にした質問が人々の人生を破壊することがあると述べた。アレハンドロ・ロハスも、この話はある意味で個人的なものであり、自身や知人に起きた似たような出来事に基づいていると話している。

このような経験は残念ながら容易に見つかる。映画は米国を舞台としているが、スペインに住む多くのラテンアメリカ出身者の体験でもあり、南米出身者が国境を越える際に感じる普遍的な恐怖を描いている。税関や警察、国境を越えることは多くの人々にとって悪夢のような出来事だ。しかし、こうした話の多くは語られずに終わる。悲しいことに、人々があまりに慣れてしまっているためだ。多くの場所で似たようなことが起きており、言葉による暴力は肉体的な暴力に劣らず強烈であると監督は語る。結局、問題となるのは人そのものではなく、「そのパスポート」や「その出身国」が問題となる。映画で映し出される光景はやや抑えられたものであり、本当に酷い例は見せられなかったという。ヨーロッパや米国も移民問題に関しては一部の責任を負っているにもかかわらず、その現状を無視し、移民を問題視するのは悲しいことであると監督たちは語る。

 

下院国土安全保障委員会によると、2024会計年度(2023年10月〜2024年9月)では、毎月少なくとも52,000人〜53,000人が「Title 8 inadmissibles(正式な入国資格を認められなかった人)」として記録され、そのうち「Expedited Removal-Credible Fear(難民申請などによる審査)」の処理件数は米国税関国境警備局(U.S. Customs and Border Protection:CBP)の統計によると月あたり約850件〜1,700件であり、さらに「Notice to Appear(出頭命令)」として処理された件数を含めると、毎月約39,000人〜47,000人が難民申請を行っていても入国拒否対象となっている。出頭命令は、入国審査で不許可となった人物に対し、移民裁判所に出廷するよう命じる通知書で、通常はその人物がアメリカ合衆国に滞在し続ける許可を与えるものの、移民裁判所での審理結果次第で強制退去が決定される可能性がある。

2021年以降の累計では、1,080万件以上の入国審査における「encounters(接触)」が記録され、そのうち相当数が「inadmissible(入国拒否)」として分類されている。2021〜2024年の間に、南西国境で872万件以上が記録されており、これには空港以外の陸路も含まれるが、公式な入国地点でも多数の拒否判断が行われている。入国不許可者が多かった入国地点は必ずしも米墨国境沿いではなく、むしろ空港が中心となっている。

 

米国主要入国地点別 不許可者数(2023年度上位)

  • マイアミ国際空港(FL):月間平均 9,485人(2023年12か月中で最多)

  • サンイシドロ(CA・米墨国境):月間平均 7,878人

  • ブラウンズビル(TX・米墨国境):月間平均 7,523人

  • フォートローダーデール空港(FL):月間平均 5,261人

  • JFK空港(NY):月間平均 3,253人

上位8地点だけで、2023年上半期の全不許可者の約60%を占めている。

 

この作品の公開までの道のりは決して平坦ではなかった。『入国審査』は、ヴェネツィア国際映画祭やサンダンス映画祭など、世界的に権威ある映画祭から次々と参加を拒否され、さらにスペイン国内の主要な配給会社やストリーミングプラットフォームからも軒並み断られていた。それでも、無名の二人の監督は決して諦めなかった。遅々としていたが、確実に本作は映画界の壁を突き破り、一般観客にも届く作品となった。

一方本作は、雑誌『Rolling Stone』によって「スペイン語映画ベスト20」に選出され、「スペイン映画界のミニマリズムの宝石」と評された。本作は受賞には至らなかったがゴヤ賞で3部門にノミネートされた。しかし、主人公役を演じたアルゼンチン生まれのスペイン俳優アルベルト・アマンは、サン・ジョルディ賞を受賞した。ちなみに彼は、2009年に公開されたスペイン映画『セルダ211(Celda 211)』で、刑務所内で起きた暴動に巻き込まれる新米看守役を演じ、その演技力が高く評価されていた。

『入国審査』はフェロス賞で脚本賞を、さらにカタルーニャ映画賞(ガウディ賞)と脚本家組合賞(アルマ賞)で最優秀脚本賞も獲得している。低予算で作られたインディーズ映画は、わずか17日間で撮影された。撮影は主にバルセロナとマドリードで行われ、物語のほとんどは一つの空間内で展開される。

他の映画作品等の情報はこちらから。

 

参考文献:

1. Alejandro Rojas y Juan Sebastián Vásquez • Directores de Upon Entry (La llegada)
2. STARTLING STATS FACTSHEET: FISCAL YEAR 2024 ENDS WITH NEARLY 3 MILLION INADMISSIBLE ENCOUNTERS, 10.8 MILLION TOTAL ENCOUNTERS SINCE FY2021
3. Custody and Transfer Statistics Fiscal Year 2024
4. A Ten-Year Look at Inadmissible Migrants and Paroled Migrants at Ports of Entry

 

作品情報:

名前:入国審査(Upon Entry (La llegada))
監督:Alejandro Rojas、Juan Sebastián Vasquez
脚本:Alejandro Rojas、Juan Sebastián Vasquez
制作国:スペイン
製作会社:Zabriskie Films、Basque Films、Sygnatia
時間:72分
ジャンル:イントリガ、ドラマ、スリラー

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