エルサルバドル:非常事態下で死亡した被拘束者の数が427人に増加

(Photo:EFE)

エルサルバドルの刑務所における被拘束者の死亡者数が427人に達したという衝撃的な増加は、主にギャングのメンバーとされる者たちを対象とした大規模な拘束を可能にする非常事態体制の下で発生している。多くの収容者が犯罪組織との関係を持たないにもかかわらず、2022年3月以降、刑務所内での死亡者数は増加し続けている。

この憂慮すべき事態は、非政府組織「ソコーロ・フリディコ・ウマニタリオ(Socorro Jurídico Humanitario:SJH)」によって報告された。同組織は、これらの拘束をめぐる法的な空白にも言及し、正式な有罪判決を受けていない人々が対象であることを強調している。

 

判決が下されない理由は、立法議会によって可決された法律にある。この法律により、ギャンググループに対する集団的かつ大規模な刑事訴訟の実施が可能となっている。しかし、これまでのところ、この種の訴訟を通じて有罪判決が出された事例は存在していないことを強調すべきである。ここで問われるべきは、恣意的な拘束や国外追放に対抗する代替手段が存在するかどうかという点である。しかし、現在の状況においては、被害を受けた人々にとって有利な解決策は示されていない。

まず第一に、死亡した人々の94%がギャングの特徴を有していなかったとされており、過剰な暴力行使に関する深刻な懸念が浮かび上がっている。さらに、国家の管理下での死亡者数は「1,000人を超える可能性がある」との警告も出されているが、政府が情報を隠蔽しているとの指摘がある。

第二に留意すべき点は、この非常事態体制が、安価な労働力を確保し、政府が任意に標的とする人々を取り締まるための手段として慎重に導入されているという点である。この体制の下では、憲法によって保障された基本的権利が停止されている。これまでに、人権侵害に関する訴えは約6,400件に達しており、世界中のNGOによって報告されている。

 

マリオナ刑務所で死亡した商人、身体に複数の打撲痕

刑務所内で死亡した425人目の人物には名前がある。彼の名はウンベルト・アドナイ・エスコバル・モニコ(Humberto Adonay Escobar Mónico)、享年38歳であった。家族は、この件を検察庁(Fiscalía General de la República:FGR)および人権擁護官事務所(Procuraduría para la Defensa de los Derechos Humanos:PDDH)に対して殺人事件として訴え出ており、刑務所内での拷問の可能性について捜査を求めている。

今年5月22日、ウンベルトは妻と共にグアテマラから化粧品900ドル相当を持ち込んだ際に逮捕された。二人は買い物の領収書を提示したが、それでも当局にとっては不十分であり、「商品の密輸」の容疑で拘束された。これは遺族の主張であり、身元が特定されることへの恐怖から匿名を求めている。死亡時、ウンベルトは刑務所に収容されてから47日が経過していた。

5月27日、サンタ・アナ県カンデラリア・デ・ラ・フロンテラ和平裁判所において初公判が開かれた。遺族によると、審理中、裁判官自身が「軽犯罪である」と発言したにもかかわらず、住民登録地がないことを理由に夫婦を拘置する決定を下したという。なお、ウンベルトとその妻は、サンサルバドルのある地区にある父親の家に居住していた。

ウンベルトの家族は、私選弁護士を雇うことに成功し、また夫婦が犯罪者ではなく、900ドル相当の化粧品は二人が行っていた小規模事業の一環であったことを証明するためにあらゆる努力をした。こうした努力は実を結び、サンタ・アナ第一審予審裁判所が特別公判を予定した。この公判では、保釈金の支払いを経て、ウンベルトおよびその妻が自由の身となる予定であった。

ウンベルトのための公判は、7月9日に予定されていた。しかし、それは遅すぎる日取りとなった。なぜなら、その日、彼はすでにサンサルバドルの公共墓地に埋葬されていたからである。遺族によれば、アパンテオス刑務所に収容されている彼の妻は、ウンベルトの死をまだ知らされていないという。

ウンベルトの死は、人権団体ソコロ・フリディコ・ウマニタリオによって先週報告された。同団体は、この件の後さらに2件の死亡を確認した。これにより、上述の通り非常事態(estado de excepción)下で死亡した受刑者の総数は427人に達した。

 

登録されていない殺人

公式記録によれば、ウンベルトの死亡時刻は7月6日23時35分(午後11時35分)とされている。遺族に対して法医学研究所(Instituto de Medicina Legal:IML)から交付された文書にはこの時刻が記載され、死因としては「肺水腫」、すなわち肺に液体がたまった状態であると記されていた。

2022年3月27日以降、国家の管理下に置かれた受刑者のうち427人が、様々な刑務所内で死亡している。その多くはギャングとは無関係であった。SJHによれば、実際の死者数はこの数字を大きく上回る可能性があるという。

しかし、遺族は、ウンベルトは午前10時頃、正午より前に死亡したと主張している。というのも、ちょうどその時間帯に、彼はマリオナ刑務所第6区画からメヒカノス地区のサカミル病院へ搬送されたからである。しかし、多くの他の事例と同様に、搬送された時にはすでに死亡しており、医師による診察も受けられなかった。そしてその後、法医学研究所および検察庁に通知され、法的な死体確認手続きが行われるという流れになっている。

しかしながら、『El Diario de Hoy』が得た複数の証言によれば、実際には受刑者たちはすでに死亡した状態で刑務所から運び出され、あたかも緊急搬送するかのような「演出」がなされているという。こうした手法により、法医学による検視が刑務所内で実施されることを回避しているというのである。

ウンベルトの家族が訃報を知らされたのは、7月7日(日曜日)午前10時であった。ある女性から父親に電話があり、息子が死亡したこと、そしてサンサルバドル法医学研究所(Medicina Legal de San Salvador)に遺体を確認し引き取りに行くよう伝えられた。家族が到着すると、「自然死」であったと告げられた。

ウンベルトは糖尿病および蕁麻疹(じんましん)を患っていたが、逮捕時にはこれらの疾患はコントロールされており、刑務所内でも薬が与えられていたことを、遺族は独自に調査して把握している。それゆえ、彼の死には疑念を抱いている。

遺体が家族の手に渡り、確認を行った際、その疑念は現実のものとなった。外見を見ただけでも、鼻に擦過傷(すり傷)と青あざ、さらに右胸部には打撲痕があり、変形と陥没、さらに一部が隆起していた。また、約10センチ×4センチの大きな皮下出血(青あざ)も確認された。

家族は人権擁護官事務所(Procuraduría para la Defensa de los Derechos Humanos:PDDH)に対して、本件を「加重殺人」として捜査すること、ならびに「拷問および残虐・非人道的かつ品位を傷つける扱い、ならびに超法規的処刑」に相当する人権侵害として調査するよう要請した。ある家族の一人によれば、訴状には、以下の人物が容疑者として記載されている:

  • 司法・治安大臣 グスタボ・ビジャトロ(Gustavo Villatoro)
  • 刑務所局長 オシリス・ルナ・メサ(Osiris Luna Meza)
  • ラ・エスペランサ(マリオナ)刑務所所長
  • 第6区画の担当警備員たち(2025年7月4日から6日の勤務者)

 

ウンベルトの事件:検察の対応と家族の怒り

遺族は検察庁(Fiscalía General de la República)にも訴えを起こした。そこで職員からは「すでに本件の捜査ファイルは開かれている」と告げられたが、国家民警(Policía Nacional Civil)が毎日公表する統計には、ウンベルトの死は殺人として記載されていなかった。そのためウンベルトの親族の一人は、次のように怒りを表明した:
「無責任な裁判官たちは、軽微な犯罪や一般的な犯罪で、あの飽和状態の刑務所制度に人々を送り込むべきではない……。どうして、あんな場所に人を送って死なせるのか?本当にひどいことだ」

 

「ラ・ラサ事件」で逮捕された学生の母親たちの訴え

2025年7月14日(月)朝、サンサルバドルにある警察留置場「エル・ペナリト(El Penalito)」に、INFRAMEN、INTI、アルベール・カミュ校、アクシオン・シビカ・ミリタール校の生徒および元生徒たちの母親たちが集まった。これは、7月11日に子どもたちが予防拘禁(detención provisional)を命じられたことを受け、子どもたちの現状を確認するためである。
母親たちは『La Prensa Gráfica』に対し、子どもたちが今後、異なる刑務所施設に移送されることへの不安と、司法手続きに関する情報がほとんど提供されていない現状への深い懸念を語った。母親たちの中には、安全上の理由から匿名で話す者もいた。

ある母親は次のように語った:

「私は共和国司法長官事務所(Procuraduría General de la República)に行って、公判で何が起きたのかを聞くつもりです。何も説明を受けていないのです。ただ、娘が勾留されたとだけ知らされました。でも、どこに送られるのか、どんな証拠があって娘を罪に問おうとしているのか、何も分からないのです」

また別の母親は、手続きが始まる前からすでに判決が出ていたようだと訴える:

「私たちは金曜日の朝からずっとここ(ペナリト)にいましたが、まだ公判が始まってすらいなかったのに、すでに2人の母親に対して、子どもが6か月間拘束されると伝えられていたのです。」

彼女たちによれば、公判があることは知らされていたが、子どもたちが裁判所に移送されると聞いていたのに、実際にはそうならなかったという。また、公判の内容も分からないままだった。なぜなら、生徒たちはバーチャル(リモート)での出廷だったためである。

そしてもう一人の母親は次のように話した:
「子どもたちが6か月間の拘禁処分になったことを知ったのは、ある私選弁護士が自分の依頼人にそう告げるのを、他の子たちが聞いて知ったからであって、そうでなければ、何も知らなかったことでしょう。」

 

母親たちが語り合っている間にも、他の女性たちは列に並んで、拘束されている子どもたちのために食事代(1日3食分)と、警察留置所内に持ち込むことが許可されている唯一の清掃用キットの支払いをしていた。およそ30人の母親たちが「エル・ペナリト」の前に集まり、子どもたちの状況を確認しようとしていた。


別の母親は、深刻な懸念をこう述べた:

「私たちの一番の恐れは、娘たちが中で何か被害に遭うことです。中では妊娠して出てくるのに、何年も交際相手がいないというケースがあるのです。あるいは、収監中に殺される男子もいます。私が知っている母親のケースでは、息子さんが殺され、片目を潰されかけ、胸にはブーツの裏の跡が残っていた。それなのに、検視報告書では“肺水腫”とされていた。どう見ても違うことは明らかでした。」

さらに彼女は、亡くなった息子について「他の受刑者との“けんか”が原因だったと家族に説明されました」と述べた。その青年は19歳だった。

 

家宅捜索時に物品も押収

母親たちの中には、孫娘のために食事を届けに来た祖母の姿もあった。その孫娘は、通っていた大学から奨学金を受けていた学生だったという。祖母によると、逮捕された際にはプレイステーション4(PS4)も押収されたとのことだった。
「家の中には警官が4人、外にも4人いた。孫娘のパソコン、カメラ、携帯電話、そしてプレイステーションまで持っていきました。私は孫娘が何か悪いことをしたとは思っていません。でも、何の説明もないから、不安にもなります。私は警官たちに直接こう聞きました。『あなたたちが本物の警官であるという保証はどこにあるのですか?』って。今は警官の格好をしていれば、誰でも人を連れて行けるような時代なのです。誰も信用などできないのです。」

母親たちは次のようにも語った:

「今はギャング(マラス)を恐れるのではなく、政府を恐れざるをえません。警官を見るたびに、震えたり、何か悪いことが起こりそうな気がしてなりません。」


別の母親は、次のような体験を語った:

「警官たちはうちの息子にメッセージを送ってきて、『新しいフロタ(flota)を教えろ』とか言っていました。息子はそれが何のことか分からりませんでした。彼らは家にも来て、写真も撮っていきました。息子はもう被害妄想みたいになっていました。それが捕まる1か月前くらいのことでした。」

そして、別の母親はこう語った:

「本当にひどい状況だ。彼らはまだ学生なのに。誰だって過ちを犯すし、みんな若い時はそうだったはずです。でも、彼らは子どもたちの未来を完全に絶ったのです。卒業を控えていたのに、それもだめになりました。もう1年を失ってしまったのです。」

#NayibBukele #Carcel

 

参考資料:

1. Sube a 427 la cifra de detenidos muertos en El Salvador durante el estado de excepción
2. Comerciante muerto en penal de Mariona tenía múltiples golpes
3. Madres de estudiantes detenidos por caso “La Raza”  denuncian falta de información sobre proceso judicial 

 

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