エクアドル大統領選2025:危機時代に行われる大統領選挙に向けて(1)

(Photo:International Labour Organization ILO / frickr)

エクアドルでは2025年2月9日の選挙を前に複雑なシナリオに直面している。同国の選挙は、緊迫した政治的・制度的情勢の中で行われている。今度のプロセスは、麻薬紛争、政治的暴力、非常事態の過度な利用が政治的、経済的、社会的景観を一変させるという前例のない危機によって特徴づけられている。

本ブログでは何回かに渡り、記者・研究者による見解を紹介する予定だ。

本日はJavier Vásconez Vacaによる分析を紹介(意訳)するものである。Javier Vásconez Vacaは視覚人類学者で都市の社会構造、身体、空間、居住方法の研究者である。政治的未来の分析とより公正な社会の探求に力を注いでいる。

 

政治的議論:労働者階級の手から奪われた財産

エクアドルは4月に入り、15%の付加価値税が施行された。この措置はノボア大統領が当初に掲げていた選挙公約との矛盾を意味することは言うまでもないが、経済の見通しをも非常に複雑なものとしている。付加価値税の結果、物価は上昇し、経済が不安定になるのではないかという懸念が国民の間に広がった。しかし、数ヶ月間の結果が示したのは、減少しているとは言えノボア大統領に対する支持であった。本分析を通じてわかったのは、自分たちの利益やニーズとは正反対の決定や体制、政治的アクターであっても、エクアドル市民社会の多数が支持表明をしているということであり、逆説的な状況があるということだ。

この逆説的なシナリオは、比較的単純な理論用語で説明することができる。それは、労働者階級そのものが疎外されている状況におかれているということであり、労働者階級の構成員は、仲間のプロレタリアと共通の利益を求める一方、結局は自分たちの生活とは無関係な問題について、分裂した立場をとっている。同時に、彼らは、特にマスメディアを通じて、ブルジョア階級が押し付ける立場に囲い込まれ、これらの言説を優先的な議論と思い込んでいる。

言い換えれば、労働者階級の構成員の間には絶え間ない分裂と派閥化が存在し、彼らは政府が採用する公共政策によって自分たちの利益とニーズが影響を受けるのを絶えず目にしている。しかし、そうした利害を認識することができない労働者階級は、ブルジョア階級が押し付ける傾向や概念や議論に絶えず陥り、自分たちの利益だけを追求する経済エリートの利益を自分たちの利益と思い込んでいる。

これは「平均的なエクアドル人」の現実とはかけ離れた、抽象的で理論的な言説のように思えるかもしれない。しかし実際には、日常的な場面で常に繰り返されていることである。おそらく具体的な逸話が、このアプローチで言及されている概念を明確に説明するのに役立つだろう。

数カ月前、付加価値税が引き上げられた直後、私たち労働者の多くが不安定な経済状況の中で余剰資金を生み出そうと、私はバーで開催される音楽イベントの文化スペースでの仕事を引き受けた。会場に着くと、資格のあるプロの建築家たちと出会う機会があった。彼らはみな小ブルジョワジーに属し、身なりも体裁もよく、話し方も雄弁だった。イベント・マネージャーとイベントの開始を待つ間、我々はカウンターでビールを飲無事とした。ビールを買いに向かう途中、彼らは自分たちの生活状況について話してくれた。

話し始めると話題はすぐに彼らが経験している経済的困難に移った。3人のうち2人には妻子がいた。彼らは職業柄、中流階級に属しているにもかかわらず、現在の仕事が安定せず、失業に近い状態であること、特に家族への影響を深く懸念していることを語った。そのような苦悩から、2人は移住の可能性について真剣に語り、移住について問い合わせをしたことさえあったと言う。ビールを買って席に着き、ビールを配り始めるや否や、話題はたちまち、まるで最新の芸能ニュースのように、エクアドルによるメキシコ大使館への侵入と、それに続くホルヘ・グラスの逮捕という、その時々の話題に移った。

論理的に考えれば、ホルヘ・グラスの逮捕劇に関する話題は様々な熱い議論を巻き起こすものであると言える。しかし、振り返ってみて印象的だったのは、ひとたびこの問題に話題が移れば、こうした人々が日頃抱える経済的苦痛の話題は完全に後ろに追いやられてしまうという事実である。

ますます多くの労働者階級の人々が、経済的・社会的に不安定な状況に置かれている。低所得で社会的に疎外された地域に住みつつましく生活をしている人々であろうと、大卒の専門職であろうと関係ない。私たちは皆、雇用を得る機会も、ひいては尊厳ある生活を手に入れる機会もほとんどない、困難な状況に置かれている。しかし、政治的な議論や分析、考察は、労働者階級としての私たちのニーズや関心に直接関係する、こうした超越的な問題からますます遠ざかり、その時々の時事的な問題、ショービズとさえ言えるような問題の周りに直接落ち込んでいる。

その優先順位は間違いなく、私たちの基本的なニーズ、市民、市民社会、労働者階級など(どのように呼ぼうと勝手だが)私たちの真の関心に関連したものでなければならない。たち生計立て人生目標達成あるいは家族養うため雇用機会得て尊厳ある生活送るため条件緊急的求める必要ある私たちは、社会として繁栄し、「予防接種」を恐れることなく引き受けることができるような、より安全な国を構築する必要性に迫られている。一歩一歩、強盗や殺人に怯えることなく歩けるような、暴力的でない社会が必要である。

ますます暴力的で、貧しく、不安定な社会を前にして、こうした緊急のニーズがあるにもかかわらず、労働者階級としての私たちの視野はまだ狭く、自分たちを純粋な社会現象として、環境災害のようなほとんど自然な状況としてしか見ていない。これは家族、願い、愛する人、そしてこれまでの自分自身の人生さえも捨てて、より良い生活を求め、不確かな目的地に移住するようなものだ。私たちが政治について語るとき、その日の政治的スペクタクルを中心に議論を展開してしまう。このような状況は政府によって上演され、純粋に自分たちの利益のために動く企業メディアによって増幅される。

さらに、多くの空間において、批判的な感覚は完全に失われている。私たちは、企業メディアによって押しつけられた問題、基準、言説を繰り返すことに難なく順応してしまっている。アナリストと呼ばれる人たちが言うことを繰り返すことで、まるで私たちが知的で政治に詳しい人間になれるかのように振る舞ってしまう。教育や健康は言うに及ばず、治安や雇用、経済の面で政府に疑問を投げかけ、結果を求める代わりに、「強盗に遭わない方法」や「職を失ったらどうするか」といったアドバイスや勧告を発表するメディアのようなものである。自分たちの利益だけを追求するようなメディアにとって私たちの生活状況などは、まったく興味のない話題であり、また、私たちが日常的に強盗に襲われ、殺され、恐喝されていることもまた些細で平凡な問題であることは明らかである。

この国の現実を日々の生きる苦しみを持って書かれたこれらの不屈の言葉は、解決策を探すのではなく純粋に怒りから語られているものであり、自分たちの置かれた状況が改善しないのは国民のせいであると言っているように見えるかもしれない。だからこそ、私たちはこの問題を取り上げている。私たちが生きているひどい状況に対する解決策は急務である。しかしそれと同時に、このシナリオに対する最低限の解決策を提案し始めるためには、政治的議論という貴重で価値ある商品を取り戻し、それを支配ブルジョア階級とそのメディア企業の手から奪い取り、労働者階級の優先的なニーズ、自分と家族の生計を立てるために毎日外に出ている人々の優先的なニーズの領域に戻すことが基本となる。

何よりも、社会の主要な問題に対するこの解決策は、啓蒙家、新しいカウディジョ的な指導者、特定の政党から生まれるものではないことを理解することが不可欠である。私たちの主要なニーズに対する効果的な解決策は、私たちから、市民社会全体から、そのニーズと優先事項が明確な組織化された市民からしか生まれない。エクアドルの労働者階級全体が今日苦しんでいる飢え、痛み、困窮への対処法は、定義上、国家権力を集団的に掌握することができる私たち構成員からしか生まれないのである。

#エクアドル大統領選2025

 

 

Vacaによる参考文献:

Marx, K. (2015). Manuscritos económico-filosóficos de 1844. Ediciones Colihue SRL.

Marx, K., Engels, F., & Miguel, A. H. (1975). Manifiesto del partido comunista (Vol. 124). Ediciones en Lenguas Extranjeras.

Ingobernables [IngoEC] (2024) Popularidad de Noboa, ¿en picada? Análisis con Pedro Donoso. YouTube. https://youtu.be/X6Tzo5q1V7A?t=1589

El Universo. (2024). Consejos para evitar ser asaltado por sacapintas si sacas dinero del banco. Recuperado de: https://www.eluniverso.com/noticias/seguridad/consejos-para-evitar-ser-asaltado-por-sacapintas-si-sacas-dinero-del-banco-nota/

El Telégrafo. (2024). Cinco estrategias para afrontar la salida de un trabajo. Recuperado de: https://www.eltelegrafo.com.ec/noticias/empresariales/1/cinco-estrategias-para-afrontar-la-salida-de-un-trabajo

 

参考資料:

1. La discusión política: un patrimonio arrebatado de las manos de la clase trabajadora

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