チリのマプチェ人アーティストのベルナルド・オヤルスン(BERNARDO Oyarzún)は、現在同国で最も影響力のあるアーティストの一人とみなされている。彼の作品は2017年のヴェネチア・ビエンナーレで一躍脚光を浴びた。彼の芸術的キャリアは30年に及び、人種差別や植民地主義への批判、民族的主張、政治的疑問などを扱った刺激的な一連の創作を展開している。
「子供の頃、僕はネグロ・クリチェと呼ばれていた」とベルナルド・オヤルスンは言う。クリチェ(Curiche)とはマプチェ語で黒人を意味し、スペイン語ではネグロ(Negro)を黒と訳す。つまりネグロ・クリチェと言うのは「頭痛が痛い」同様冗長ではある。しかしそれが最も繰り返された彼のニックネームだった。しかし、他にもあり、ベルナルドの肌の色や特徴への言及は絶えなかった。彼が成長するにつれ、それは別の形で現れた。彼は定期的に警察に呼び止められ、身体検査を受けた。大学に入ったとき、誰も彼が学生だとは信じなかった。交通費を安くするためにパスを偽造したと考える者もいた。
こうした話の根底にある人種差別が、彼の人生を特徴づけている。祖母はマプチェ人、両親は田舎で育った。出自、肌の色、乏しい 文化資本など、すべてを敵に回して造形芸術を学んだ。自分は芸術に向いていないと思いながら卒業し、数年間はグラフィックの仕事をしたり、重要な芸術家であるゴンサロ・ディアス(Gonzalo Diaz)のアシスタントをしたりした。
35歳のとき、彼はまた人種差別的な出来事に遭遇した。ある警官たちが彼を犯罪の容疑で逮捕したのだ。すぐに無罪放免となったが、この出来事は彼に大きな衝撃を与えた。パニックを引き起こし、彼を心理療法へと導き、そして決して止まることのない芸術創作の道を歩み始めたのである。この出来事の後、彼は『Bajo Sospecha』を制作した。この作品はチリの現代アート回で有名になり、チリを代表するアーティストの一人とも評されている。彼の作品は批判的である。彼は我々が経験し続けている植民地システムに疑問を投げかけるものであり、先住民やメスティーソの身体の普遍性を再確認するものである。マプーチェの歴史と、この国全体に息づくマプーチェの存在感、そして我々がこの世界でよりよく生きるための先住民の未来が、この作品によって正当化される。
1998年に作成した『Bajo Sospecha』は前年に発生した非常にショッキングな出来事をきっかけとする。警察に逮捕されたのだ。ただそのようなことは珍しいことではなく、10代の頃には何度もあったことだった。一方35歳での逮捕は仕事で用事で行った場所の近くで起きた犯罪の容疑者としての者であり、彼にパニック危機といくつかの生物学的現象を引き起こした。心理学者との治療の中で、私は『バホ・ソスペチャ』という戯曲を創り始めた。
その後、彼は一度も中断することなく、常に多くのプロジェクトに携わっている。彼は非常に貧しい村の出身で、文化資本が不足していたため、大学での生活もトラウマ的なものだった。自分には向いていないと感じながら卒業した。十分なトレーニングを受けていないと感じたとい言う。つまり本作はアカデミーへの反抗という意味合いもある。彼が勉強していた頃は、あらゆる意味で超理論的な時代だった。理解できなかったこともあるが理論やメタファーもなく、アナロジー的なズレもないストレートな作品を展開したいと考えていた。パンフレット的だというレッテルを貼ろうとする試みもあったが、この作品を見ればそんなことは言えるわけがない。
人種差別に対する暗黙の疑問が投げられている本作品は当時の主流派アートにとって、この作品は違和感のあるものとして写った。本作品で描かれているのはオヤルスンの身の回りに起こるあらゆることであり、ドラマチックでもなく、やや複雑で直接的だ。この作品を展示したときオープニングには15人しかいなかったと言う。2002年、ある美術関係者は彼のことを「スパイシー」、つまり平凡で、大衆的で、しかしセンスがいいと言ったと言う。心の底では、彼を侮辱する意図が見え隠れしていたと言う。
『Bajo Sospecha』から始まる人種差別というテーマは『Cosmética』(2008)などの作品にも引き続き登場する。この作品もまた恥ずべき出来事から出来上がった。2006年、第1回先住民アート・ビエンナーレに招待された。そこには色とりどりの旗や、よくわからないが表面的な装飾品がたくさんあったと言う。そこではクラフトフェアで手に入るような芸品がたくさん陳列されたいたものの、先住民の世界の力強さは感じられなかった。何もかもがひどいイベントで、セッティングの途中で女の子には「あなたが一番不細工だから、ベルナルド・オヤルスンね」と言われた。それを失礼だと感じたオヤルスンはビエンナーレを辞退した。
『Cosmética』では好ましくないもの、醜いものと言うマトリックスから、自分をモデルのような存在にし描いた。そこではモデルや美男美女が一種の商品として売られているブログの写真を参考にし、同じポーズをとっている身体をコピーして、背景にある商品のアイデアを再現しました。明らかに、フォトショップを使って、青い目、白い肌、ブロンドの髪をつけ、否定が持つ幻想と、それがいかに不条理なものであるかを語ろうとした。つまり、アイデンティティの否定に通じる多くの分析が可能となった。「チリでは、肌、髪、顔、体の否定は残酷で、あらゆるメディアシステムによって強化されている。チリは最も否定された国に違いない。先住民やメスティーソといった最も人気のある人々をターゲットにした広告が売られているが、その広告は金髪の男ばかりだ。映し出されるものは恥ずべきものだ。この国が実際よりも白い国であるとか、先住民が少ない国であると考えるのは」と彼は語る。
本作品はオヤルスンを有名にし、植民地主義や人種、民族に対する差別に疑問を投げかけるものである。彼は本作品以外にも2001年には『Tierra del Fuego』、2002年には『Proporciones del Cuerpo』、2017年)には『Werken』を発表し、直近の2022年にも『Pájaros en la Cabeza』を生み出した。
他の映画作品等の情報はこちらから。
参考文献:
1. Universal Indigenousness: The Work of Bernardo Oyarzún
2. WERKEN: THE MAPUCHE MESSENGER INTERVIEW WITH BERNARDO OYARZÚN
作品情報:
名前: Bajo sospecha: Zokunentu
監督: BERNARDO Oyarzún
脚本: Farid Hoyos Pinillos
制作国: Chile
製作会社:Pejeperro Films, Pikun Films, Eskama Audiovisual
時間: 67 minutes
ジャンル: Documentary
言語: Mapuche
※スペイン語訳あり
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