短編映画:「TRADICIONES CRUZADAS」で知るリマに住むシピボ母たちの記憶と思い

先住民は山の中、ジャングルの中など都会から遠く離れた土地に住み我々「西洋的な」人々とは関わることもなければ、同じような生活を送っているわけもない。そして、それらの人々は、現代社会から遠く離れた存在であり、いつしか消えゆく存在だ と、語られることが多い。

その言説は正しいのだろうか。

 

先住民は土地との深い関わりを持ちながら生きていることは確かだ。しかし、現在に至るまで彼らの権利は多くの場合において侵害されており、例えば天然資源が彼らの領土で見つかれば土地を追われ、合法、非合法に関わらず命の危機にさらされる。本来彼らの土地を中心に自給自足が可能であったはずなのに、気候変動の影響や森林の伐採、生態系の破壊がそれを許さず、必要なものは市場から入手しなくてはならない状況になっていることも確かである。教育や機会の不平等、そして民族差別は、貨幣を得るための労働の機会を奪っている。

先住民が都市で暮らす理由は様々だ。上述のように迫害された結果の場合もあろうし、例えば先住民の本来の土地が都市に変化した場合もあろう(その場合歴史的に見れば、先住民がそのような土地から強制移住をさせられる場合が多い)。しかしそれ以外の理由もある。

例えばペルーで見てみれば、首都リマにはアマゾンから移住してきたシピボ=コニボ(Shipibo-Konibo)の人々が住んでいる。彼らの移動は1991年に始まり10年後にはその移動は顕著となった。彼らはカンタガジョ(Cantagallo)にコミュニティを形成し同地区の歴史と自らを結びつけ都市に住む権利を主張する。そこには現在300の家族が住んでいる。女性はコミュニティの形成において重要な役割を果たしている。その一方、都市にいる彼女たちは、自らの土地へ帰れと罵られ、着飾った紳士から暴力の対象ともなっている。

 

本作登場人物のシピボのメニン・ヤビ(Menin Yabi, スペイン語名 Elia Baldares)がリマに初めてやってきたのは1979年。とても若い時だったという。彼女は幼くして、母の他界もあり家族を養うために働かねばならなかった。プカジャ(Pucalla)に数年間戻るも、2000年には工芸品製作のための種や材料を携え、リマに戻ってきたという。

彼女の本来の土地プエルト・ベルテル(Puerto Betel)に残っている先住民は少ないという。メニンのように家庭を支えるために都市に出なければならなかった人もいるだろう。しかしその一方、コミュニティにいる人々はPelacara(臓器売買組織)から攻撃されたり、動物かの如く殺される。この点においていえば、彼女たちの移動は安全面の観点から行われているものだとも言える。つまり、国内避難民というくくりでも語ることも可能かもしれない。

 

先住民だから悪いのだろうか。先住民が非先住民と何が違うのか。彼らが人間として扱われることなく、平等な人権も保障されることのない社会は正当なのだろうか。

ファリド・ホヨス・ピニヨス(Farid Hoyos Pinillos)による短編映画「TRADICIONES CRUZADAS」はリマにあるシピボ・コニボ・コミュニティを取り上げる。国内移住を経験し都市環境の中で生きるシピボ・コニボの母たちが新しい世代の育成に向け何を考えているのかを本作は映し出す。文化を保護しつつ、変化し続ける世界に適用するための術とは。彼女たちのレジリエンス、そして希望もまた本作品には描かれている。

 

先住民の領土に突撃訪問などと謳い面白おかしく話す者がいる。権利を侵害しており、先住民ネーションに対する不法侵入である。パスポートを持たずに外国を訪れていることと同等という意識がないらしい。知りませんでしたでは済まされない事象と言える。ネーション法に基づき裁かれる可能性があることはこの場で述べておく。

他の映画作品等の情報はこちらから。

 

参考文献:

1. The Shipibo Community in Lima
2. Górska, K., 2022. Shipibo-Konibo community in Lima and the right to the city. Anuario Latinoamericano, (13).

 

作品情報:

名前:  TRADICIONES CRUZADAS
監督:  Farid Hoyos Pinillos
脚本:     Farid Hoyos Pinillos
制作国: Perú
製作会社:Luciana Carancha
時間:   13:09 minutes
ジャンル: Documentary
 ※スペイン語訳あり

ワヌコ映画祭(Festival de Cine de Huánuco)最優秀短編ドキュメンタリー賞
第2回アマゾン映画祭(II Festival de Cine Amazónico)観客賞
第5回ラテンアメリカ先住民言語映画祭(V Festival de Cine Latinoamericano en Lenguas Originarias)上演作品

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