※ネタバレ注意※
2021年のオーストラリア修正主義西部劇映画。リア・パーセル(Leah Purcell)が2016年に発表した戯曲の映画化であり、ヘンリー・ローソン(Henry Lawson)の1892年の短編小説『The Drover’s Wife』の再映画化である。この作品は古典としてオーストラリアの人々がよく知る話である。
舞台は1893年のニューサウスウェールズ州のスノーウィー・マウンテンズ。こ先住民の役者たちによって支えられこの作品は出来上がった。畜産業者の妻モリー・ジョンソンを演じているパーセル自身もまたゴア族、グンガリ族、ワカムリ族の血を引いている(彼女のヒストリーは以下YouTubeから)。
主人公モリー・ジョンソンは暗い秘密を背負っている。その秘密は自らが認識しているものもあれば、気づいていないものもある。
作品に欠かせないヤダカは、1890年代にサーカスの旅芸人として過ごした。祖国への憧れを抱いていた思いやりのある優しい人物である彼はしかし、この地域の権力者の殺害の容疑者として捕まってしまう。モリーとヤダカとの出会いは、ヤダカが逃亡中の状態で、モリーがまさに新しい命を誕生させるその直前に起きた。当初モリーはこの逃亡犯に対し「私に逆らえば、あなたを殺す」と警告していた。モリーにとってヤダカは殺人事件の逃亡者である以上に、「先住民(ブラック)であること」がゆえ、その存在自体が罪だった。しかし長男のダニーとヤダカとのコミュニケーションを見て、モリーは少しずつヤダカに心を開いていくようになる。
接点がないように見えた2人であったが、その関係は繋がっていた。モリーもまた先住民の血を引いていたのである。これはヤダカとモリーが自らのことを話していく中で発覚していく事実である。ヤダカがンガリゴ族の養母、ジニ・メイから受け継いだ話がきっかけだった。ンガリーゴの女性が「とても大切にしていたが、一族の他の人たちと共有することを禁じられていた」物語だ。先住民は伝承を大切にする。「物語を共有すること」は先住民にとって「明日以降も長く生きられるように」するためのすべであるからだ。
ローソンの物語の映像化は今回が初めてではない。2017年にはフランク・ムアハウス(Frank Moorhouse )が『The Drover’s Wife: A Celebration of a Great Love Affair(ドロヴァーの妻:大恋愛のセレブレーション)』とし発表している。
血生臭く先住民を殺し土地を奪ってきた白人。そして白人でないことは罪とされた時代。この時代はまた、女性蔑視の時代でもあった。その状況は今もなお続いている。
先住民の血をひき、女性であるリア・パーセルが描く『家畜追いの妻』が人の心を惹きつけるのは、当事者としての視点が存分に描かれていることにもあるだろう。植民地主義に基づく差別、ジェンダーに基づく差別に対する強いメッセージもまたその特徴と言える。
主人公である女性にはじめて名前をつけたのも本作品がはじめてであり、これでモリーは見えづらかった女性を実在する人間へと昇格した。また、映画のクライマックスでは、巡査部長の妻で新進ジャーナリストでもあるルイーザは「HEAR HER」の文字が刺繍された白いガウンに身にまとい、家庭内暴力に反対する抗議活動を展開している。
パーセルは5歳のとき、母親にヘンリー・ローソンの短編小説を読んでもらったという。そしてこの物語が自らの人生に酷似していたことから、とても大切な作品であり、映画化までに至ったという。
参考文献:
1. The Drover’s Daughter: The Legend of Molly Johnson
作品情報:
名前: The Drover’s Wife: The Legend of Molly Johnson
(邦題:家畜追いの妻 モリー・ジョンソンの伝説)
監督: Leah Purcell
脚本: Leah Purcell
制作国: Australia
製作会社:Oombarra Productions、Bunya Productions
時間: 109 minutes
ジャンル: Drama、History、Thrillar
※日本語字幕あり
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