（Photo：The Saint Of The Impossible / Facebook）
邦題と映画の内容がマッチしていないように思う事は度々がある。そのうちの1つが本作品と言えるかもしれない。母1人、子2人で暮らすのは、ニューヨーク。食肉業者のトラックに乗り、国境を越えてきた。いわゆるアンドキュメンテッドな家族が主人公である。
移民はその立場の弱さから、弱い立場に置かれたり、差別をされたり、そこにいない存在として扱われることも少なくない。アンドキュメンテッドは尚更で、皆がしたがらない仕事を低賃金で請け負い、米経済を支えているにもかかわらず不可視な存在のままである。彼らが表に出ることがあるとするならば、仕事を奪うからとか、治安悪化が悪化するからと非難をされる時である。入国の容易さや差別の対象とするかどうかも人種、国籍によって判断される。それが、本作品の背景となっているトランプ時代であるならば、尚更だ。
日陰で生きざるを得ない人々に人権は軽視されていいのだろか。そんなことは決してない。そのような人々もまた、我々と同じ人間であり、夢や希望、愛する気持ち、自分として生きる権利は持っている。本作の家族もまた、異なる人々との出会いを通じ、変化を見せる。しかし、なかなかうまくは行かない。それもまた人生だ。
笑顔の裏で泣く2人の道化師が愛した2人の女性。
ここにいるのにここにいない感覚に蝕まれていく心は いつしか透明人間と化した。現代社会そのものの写し鏡だ。ご鑑賞ありがとうございます🙇♂️
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— 百道浜ピクチャーズ (@momochihama_pic) January 20, 2024
この物語の主人公たちのように、ペルーを出発し米国を目指す理由はどこにあるのだろうか。これについてはBBCが調査しており4つの可能性について述べている。2023年におけるペルーからの出国者は2021年の4倍となっていた。
COVID-19パンデミックを受け、都市における犯罪の脅威が高まったことが挙げられる。家族が米国にいることを知った犯罪者は「刑務所から電話をかけてきて金を要求した。私が夜仕事から帰ると、彼らは私を待っていた。だから来ることにしたんだ」とあるペルー人は言った。米国に親戚や家族がいる人間は、金持ちに違いないと言う想像のもと行われた脅迫であった。だから「2022年にリマからメキシコに渡り、アメリカ国境に亡命を求め、東海岸のニュージャージー州パターソンにたどり着いた」。
別の人間は経済的理由と労働の安定を目的に米国を目指したと言う。正社員ではなく、一時的な仕事しかなく生活が安定しなかった。その上ジャーナリストとして働いていたある女性は、国内におけるジャーナリストに対する脅威が高まったこともあり、リマからメキシコシティに飛び、そしてアメリカ国境で亡命を申請したと述べている。
ペルーのペルー国家移民監督局（Superintendencia Nacional de Migraciones de Perú）がBBC Mundoに送った数字によると、2022年に出国し、帰国していないペルー人は401,740人となった。2023年6月になるとこの数字は415,393人に増えていた。この数字は、2021年に110,185人のペルー人が出国した時の約4倍を意味する。
移民局のデータによるとペルー人はアメリカ以外にも、主にスペイン、チリ、メキシコに移住していることがわかる。しかしこれは必ずしもこれらの場所に滞在したり定住したりしたことを意味するものではない。BBC Mundoの取材に応じたアナリストは、多くのペルー人の意図は、実際にはアメリカ国境に到達して亡命を求めることにある。
ペルー人移住増加の波は、2018年には来ていた。これはパンデミックのみが移動の理由となったわけではないことを物語る。ペルーにおける「好景気（2010年〜2017年）の間も、ペルー人の生活に大きな改善が見られた人はほとんどいなかった。教育、健康、水へのアクセスなど、解決されない問題があった。それが2018年に移民が増え始めた理由の一つ」とペルー移民に関する2冊の本の著者であるウラ・ベルグ（Ulla Berg）はBBC Mundoに語った。ペルーからの人の流れはその一方、パンデミックによる国境閉鎖で途絶えた。そのため2020年には移動のトレンドは収束したかに見えた。しかし国境が開くとともに、移動人口は増えていった。国境が再び開かれた今、「トレンドは軌道に戻りつつある」と、ペルー研究所（Instituto de Estudios Peruanos：IEP）の人口学と移民の専門家である社会学者タニア・バスケス（Tania Vásquez）はBBCムンドに語る。
1. COVID-19パンデミックと経済危機
パンデミックが移民曲線の上昇を妨げたように、その経済効果は今、移民曲線の上昇を後押ししているのかもしれない。ペルー中央準備銀行（Banco Central de Reserva：BCR）は、2020年のペルー経済を11％縮小したと報告している。ペルー国立統計情報院（Instituto Nacional de Estadística e Informática：INEI）の最新の全国世帯調査（Encuesta Nacional de Hogares：ENAHO）によると、回復が遅れていることもあり、2022年の貧困は2021年比で1.6％、2019年比で7.3％増加した。
1992年に『エクソダス、海外にいるペルー人（Éxodo. Peruanos en el exterior）』を出版したテオフィロ・アルタミラノ（Teófilo Altamirano）は、パンデミック流行時における政府の最悪な対応は人々をより貧しい状態に追いやったと批判した。人々はなけなしの貯蓄を切り崩さなければならなかくなっていた。「貧困が増大し、家庭に不満が生まれ、子供たちは良い教育、良い医療を受けられなくなった」と彼はBBC Mundoに語った。実に労働者の4分の3がインフォーマル・セクターに従事しており、このセクターはパンデミックによって大きな打撃を受けた。多くの人々が貧困に陥りました」とウラ・ベルクは分析している。
2. 政治危機
少なくとも5年間ペルーを襲っている政治危機も多くのペルー人が母国を去った理由となっている。ペルーでは2018年以降、6人の大統領が誕生してており、この不安定な政治的体制、結果として訪れる外国投資家の不安が経済的な困難を助長した。「長期的な計画が立てられないため、投資家は手を引かざるを得ない。これはペルー経済の停滞、GDPの減少につながる」と人類学者は付け加えた。経済危機と政治的不安定が重なったことで、「人々は『ここには何もない（no hay nada para nosotros aquí）』と言わしめた」とウラ・ベルグは述べた。いまでは「自国が安定していた過去10年よりも、米国で亡命を受けるチャンスがあると考えるペルー人が増えている」と言う。
3. 暴力や犯罪の増加
治安の悪化も国を去る理由の1つとなっている。2023年6月に実施されたこのテーマに関するIEPの最新調査によると、ペルー人の約80％が、非行や組織犯罪のために、この国の路上はとても危険、あるいはやや危険だと感じていると答えている。バスケスによると「（移住を決断した）重要な部分に家族の安全に対する懸念」があったと言う。ペルーの治安は、パンデミックの間に悪化し、失業者が増えたとウラ・ベルグは言う。専門家によれば、ペルー人の亡命希望者の多くは恐喝に苦しんでいる。「多くの人々が、このような一般的な暴力だけでなく、海外で小規模なビジネスを営む人々や家族に対する暴力の結果、命の危険にさらされていると感じている」とベルクは言う。
ペルー研究所の調査によれば、42％が「過去3年間に犯罪の被害に遭ったことがある」と報告している。また、28％が「過去1年間に何らかの非行に遭った」と答えている。
4. 移民ネットワーク
上記3つの理由は主にペルーを離れる人々の根拠となっているが移民ネットワークの存在もまた無視することはできない。移住ネットワークの存在で移民は増える。1980年代と1990年代、当時の経済危機と国内武力紛争に起因するペルーの移民以来、こうしたネットワークは拡大し、多様化している。アルタミラノの調査によると、1992年、海外にいるペルー人は約150万人で、1981年の3倍であった。INEIの数字によれば、1990年から2020年の間に、海外にいるペルー人は330万9635人となり、2020年のペルー人口の10.1％を占めるようになっていた。
一方このネットワーク説にベルクは同意していしない。「累積的因果関係は、人々が海外に出たり、お金を借りたり、定住したりするのを助ける移民インフラがあることを説明することはできるものの、ペルー人が数年のうちにこれほど大量に出国する理由を説明することはできない」と彼女は言う。「経済的・政治的危機、未解決の社会問題の結果としての暴力や犯罪、そしてパンデミックの影響は、なぜ今このようなことが起きているのかを考える上で重要な部分だ」と彼女は述べる。アルタミラノとバスケスは、このような旅行者を “移民 “と呼ぶにはまだ時期尚早であることに同意する。アルタミラノにとって「移住とは、1年以上出国することを言う」。2022年までに40万人のペルー人が移住したと言うには、もっと多くの調査と分析が必要だとバスケスは言う。いちど出国したペルー人も再度国に戻ってくるかもしれないからだ。
オランダ人作家アーノン・グランバーグ（Arnon Grunberg）の小説『De heilige Antonio（聖アントニオ）』をもとに作られた作品『THE SAINT OF The impossible』はアンドキュメンテッド移民が抱える苦悩をも描き出す。ペルー人のみならず、米国に増えている各国からの住人は様々な背景を持つ。本作品は非合法ビジネスや愛の難しさ、親子の絆の物語をもリアルに描きだす。監督はマーク・ウィルキンス（Marc Wilkins）。前作の短編映画『BON VOYAGE』でも地中海地域における移民問題を扱っており、第89回アカデミー賞の最終選考に残っている。主人公となる兄弟を演じるのはアドリアーノ・デュラン（Adriano Durand）とマルセロ・デュラン（Marcelo Durand）。共に実の兄弟であり、ペルーのオーディションで選ばれた。本作が映画デビューとなった。
参考文献：
1. 4 posibles razones de por qué se multiplicó por 4 el número de peruanos que abandonan el país
作品情報：
名前： THE SAINT OF The impossible（邦題：ニューヨーク・オールド・アパートメント）
監督： Marc Wilkins
脚本： Lani-Rain Feltham、Marc Wilkins
制作国： Switzerland/ USA、Peru
製作会社：Dschoint Ventschr Filmproduktion AG, SRF Schweizer Radio und Fernsehen, Teleclub AG
時間： 97 minutes
ジャンル： Drama
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