(Photo by Twitter @NicolasMaduro)
「我々は、気候変動による損失と損害のための基金を、遅滞なく、官僚的な障壁を乗り越えなければならない…資金援助が直接、公正、適時、迅速に行われ、環境損害の補償が最も影響を受けた人々に届くように、メカニズムを微調整しよう」そう語ったのはベネズエラのニコラス・マドゥーロ(Nicolás Maduro Moros)大統領だ。
彼は、エジプトのシャルムエルシェイク(Sharm el-Sheikh)で開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)に参加し、世界に向けて気候変動に向けたラディカルなアクションを即時実行するよう呼びかけた。マドゥーロの18分間の演説は、気候変動の危機の緊急性と、その影響によって最も弱い立場にある人々や最も傷ついた人々に寄り添う必要性に大きく焦点を当てたものである。
マドゥーロに対する世界の評価はこの3年間厳しいものがあった。国内経済は破綻し危機からの回避を目的に600万人とも言われる人が周辺諸国に移動した。
それだけでない。2019年1月10日に大統領(二期目)に就任したはずのマドゥーロは選挙が民主的ではない、正統性がないとの理由から、未だいくつかの国からは大統領として認められていない。米国等は野党指導者のフアン・グアイド(Juan Guaido)を大統領と支持をした。その状況は今も変わる事は無い。背景には2018年5月の大統領選挙がある。選挙に際して反政府派の有力政治リーダーをマドゥーロが政治的に排除し、立候補できない状況に追いやったと言うことを根拠に非難されている。米州機構(OAS)加盟国の米国やカナダをはじめとした中南米・カリブ地域の19カ国はマドゥーロの就任を非合法とし判断、自由公正で合法なプロセスに基づく選挙の実施を求めている。それでもマドゥーロは強引に選挙を実施、再選、そして大統領就任を宣言していた。
ラテンアメリカではここ最近ピンクタイド化が進んでいる。それもありベネズエラを取り巻く環境が急激に改善された。左派系大統領の度重なる誕生は、ベネズエラ問題を対話の場を通じ解決しようとする機運を作った。隣国コロンビアのグスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)大統領はまさにその象徴で、ブラジルで再選を確実としたルラ・ダ・シルバ(Luiz Inácio Lula da Silva)もこのグループに加わることになる。
COP27におけるマドゥーロは再び国際的な存在感を放ち始めたと言える。バラク・オバマ(Barack Hussein Obama II)政権下で国務長官、さらにバイデン(Joseph Robinette “Joe” Biden Jr.)政権の気候変動特使であるジョン・ケリー(John Forbes Kerr)は、会議の傍らでマドゥーロと握手をし言葉を交わした。これは3月にホワイトハウスのラテンアメリカ担当トップアドバイザーがカラカスでマドゥーロと会談して以来、両国の要人が話した最初の機会であった。何があったわけではない。しかし、このやりとりは、ベネズエラを取り巻く環境が大きく変化しているだろうことを象徴している。
ジョー・バイデン大統領は、前任者の対ベネズエラ政策からの脱却が遅れている。おそらく、米国の中南米政策に伴う国内政治の複雑さが原因となっている。事実6月のG7サミットでは、ロシアのウクライナ戦争に端を発する欧州のエネルギー闘争を背景にマクロン大統領はバイデン米大統領と対峙し、ベネズエラとその同盟国であるイランに石油市場への復帰を呼び掛けるも、米国の対ベネズエラ外交政策として前任者が作った「最大限の圧力」戦略をほとんど変えるには至らなかった。
制裁緩和についてわずかな進展をしいてあげるとすれば、南米諸国で操業する欧州の石油会社2社に制裁、石油債務許可(sanctions, granting oil-for-debt permits )を出したこと位だ。しかしこれは少しでも他国資源を搾取し自らの利益を拡大したいと考えるエネルギー大手の石油ロビーによる変動にであり、ベネズエラのことを思ってのことではない。シェブロンたちは12月に現在の制裁免除の期限が切れたのちは、制裁免除を拡大するよう引き続き働きかけている。
米国は、一方的な強制措置の解除を、政府と強硬派野党の協議の再開を条件としている。この対話は、2021年10月に政府特使のアレックス・サーブ(Alex Saab)がマネーロンダリング容疑でカーボベルデから米国に強制送還され、マイアミの裁判所がベネズエラ大統領の財務フィクサーであるとして彼を起訴したときから中断している。メキシコで開催され、ノルウェーの仲介で行われている協議は、近々再開されると噂されている。
一方米国は先月、囚人交換につながるバックチャネルを開くなど変化も加えてはいる。これはマドゥーロをめぐる最大限の圧力政策が緩和されてきている証拠とも言える。
エマニュエル・マクロン(EmmanuelJean-Michel Frédéric Macron)は「もっとじっくりと話ができれば」と語り、ベネズエラの政治危機の調停を支援することに関心を示しているようである。近い将来、ベネズエラ大統領と「二国間アジェンダ」について話すことを約束したマクロンはまた、マドゥロを「大統領」と呼び、野党のフアン・グアイドを同国の指導者として認めないという欧州連合(EU)の決定も肯定した。かつてフランス大統領が「暫定大統領」を自称するフアン・グアイドーを強く支持したことを考えると、このやり取りは特に注目されるものだった。
#COP27 | Venezuela's President Nicolas Maduro and France's President Emmanuel Macron hold a dialogue at the 27th United Nations Climate Summit in Egypt. pic.twitter.com/XLHKOODxMq
— teleSUR English (@telesurenglish) November 7, 2022
COP27におけるベネズエラ大統領に対するこれまでの非外交的な扱いとは対照的な扱いは、裏を返せばウクライナ紛争でロシアからの重要な炭化水素の供給がストップし、ヨーロッパにエネルギー危機が迫っているからとも考えられる。
マドゥーロは演説でアマゾンとその生物多様性を保護するための行動を要求し、世界は先住民に指針を求めるよう呼びかけた。「自然を守り、自然とともに生きる方法を教えてくれるのは、先住民だ」とマドゥロ大統領は語気を強めた。気候変動の危機の根本的な原因のは、資本主義的な生産様式があるとも指摘している。最近の豪雨や洪水は気候変動の結果であると指摘したマドゥーロはまた、「自然界に生じた不均衡と環境危機は、資本主義が人類に対して作り出した不平等と不公正の状況に匹敵する。」「人間の搾取を常態化するシステムは、他の存在形態を尊重する倫理的根拠を持たない」とも語っている。
彼の立派な言葉とは裏腹な事実もベネズエラは抱えている。マドゥーロ政権はボリバル州の資源豊富なオリノコ鉱区で鉱業活動を大幅に拡大したことで、環境保護団体からの厳しい批判にもさらされている。米国の制裁によりカラカスは代替収入源を探すことを余儀なくされ、金やその他の鉱物の採掘が拡大し、環境や先住民族コミュニティに影響を及ぼしているのだ。
ベネズエラ大統領は「南米に住む私たちに責任があるとすれば、それはアマゾンの破壊を止め、回復のための協調的なプロセスを導入することです」と、ペトロとスリナムのチャン・サントキ(Chan Santokhi)大統領とともに発言した。このような計画的同盟にブラジルが参加することは「絶対に戦略的」であるとペトロは述べた。左派のルラは、右派の前任者ジャイル・ボルソナロの下で急速に増殖したアマゾンの森林伐採にブレーキをかけるという絶大な課題に直面している。ペトロはまた、アメリカ大陸で「最も汚染している国」である一方、アメリカ大陸の南部は「大陸で最も二酸化炭素を吸収しているスポンジ」であると指摘し、アメリカに協力を呼びかけた。ペトロ等は「民間企業や世界の国々の貢献」を原資とした基金を開設しアマゾン保護に向け今後20年間で年間2億ドルを確保する意向を前日表明している。
マドゥーロは世界最大の熱帯雨林を守るために、アマゾン協力条約機構(Organización del Tratado de Cooperación Amazónica:OTCA)の活動を再開するよう呼びかけた。なおコロンビア大統領グスタボ・ペトロとの徹底的な違いはペトロが化石燃料の即時停止を提唱している一方、マドゥーロは一方で、彼の経済の主要な資金源である石油を必要としていることにある。
2023年、マドゥーロはアマゾン・サミットを開催し、森林再生への支援と資金を得る予定だと述べているが詳細は明らかにしていない。
※マドゥーロ大統領に関する他の記事はこちらから。
参考資料:
1. Venezuela’s Maduro at COP27: ‘It Is Time To Act Radically and Decisively’
2. COP 27: Are global leaders warming to Venezuela’s Nicolas Maduro?
3. Venezuela’s Maduro enjoying renewed global attention at COP27 climate summit
4. Colombia, Venezuela launch COP27 call to save Amazon
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