(Photo: Comisión Interamericana de Derechos Humanos)
世界には他の社会から自主的に距離を置いて暮らす先住民族(Pueblos Indígenas en Aislamiento Voluntario:PIAV)が約200集団いる。エクアドルでもアマゾンの中心地ヤスニ国立公園周辺にはタガエリ(Tagaeri)やタロメナネ(Taromenane)として知られる人々が孤立して暮らしている。これらの人々は外部との接触を避けながら「生態環境に対する厳しい依存関係」の中で生活している。季節に合わせ居住空間を変更し、狩猟や採集など伝統的な技術をベースに生きている。タガエリやタロメナネはワオラニ(huaorani)族と類縁関係があるとされている。その一方、まだ知られていない別の親族グループがいることも否定はできない。
米州人権委員会(IACHR)によるとPIAVの数はアメリカ大陸が最も多く、少なくとも58集団がブラジルやボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラのアマゾン流域、そしてパラグアイのグラン・チャコに集中し住んでいる。IACHRは、自主的に孤立している先住民族を「植民地化されず、現在の社会と永続的な関係を持たない」先住民族または先住民族の一部と定義している。これらの孤立した、未接触の人々は「脆弱性という特殊な状況」にある。例えばエクアドルでは、国家が彼らの保護を保障しなければならないにも関わらず、2つの大きな虐殺事件が発生した。タガエリとタロメナネの先住民は何十人も死亡している。
これらの人々は孤立して生活をしていること、また、自然資源と言う宝が眠る土地に住んでいることもあり、多くの危機と隣り合わせにある。ヤスニ国立公園内での石油開発や違法な産業故に狙われる。木材、石油、鉱物、水資源は危険を生み出す。採取産業による自然生態系の破壊と変化もそこに住む人々の生存に大きな影響をを及ぼしている。エクアドルでは、自主的に隔離している2つの先住民族の最大の脅威は、石油フロンティアの拡大であると言われている。IACHRによれば、これらの民族とその祖先は「現在の国家が存在するずっと以前」からその領土に居住しているが、現在消滅の危機に瀕している。これらの人々が何人いるかについて正確なデータはない。
エクアドルでは先住民族の権利の保護を憲法で定めている。
1. アイデンティティ、先祖代々の伝統、社会組織の形態を自由に維持、発展、強化すること。
2. 人種差別やあらゆる形態の差別を受けないこと。
3. 彼らの共同体土地の侵すことのできない所有権を保持すること、それは侵すことのできない、不可分のものであると言うこと。
4. 先祖代々の土地と領土の所有権を維持すること。
5. 彼らの土地にある再生可能な天然資源の利用、使用権、管理、保全に参加すること。
6. 彼らの土地にある再生不可能な資源の試掘、開発、商業化のための計画やプログラムについて、自由意志に基づき、事前に十分な情報を与えられた上での協議が行われること。
7. 生物多様性管理の実践と自然環境の保全・促進を図ること。
8.先祖代々の土地から追い出されないこと。
自主的に隔離している先住民領土に対しては追加的な保障もされている。彼らの土地は「還元しがたい無形の祖先の所有地であり、いかなる種類の採掘活動も禁じられる」と言うものだ。エクアドルでは、1999年にタガエリ・タロメナネ無形文化遺産地区(Zona Intangible Tagaeri Taromenane:ZITT)が設立され、2007年にその境界が設定されている。憲法でも孤立した先住民族に対して以下のよう施策が講じられることとなっている。
1. 民族の生活を保証する。
2. 彼らの自己決定と孤立を続ける意志を尊重する。
3. 彼らの権利の遵守を確保する。
4. これらの権利のいずれかを侵害することは、民族虐殺の罪とみなされる。
しかしエクアドル先住民連盟(Confederación de Nacionalidades Indígenas del Ecuador:CONAIE)によると旧来より孤立して暮らす人々は侵害を続けている。例えばレニン・モレノ(Lenín Boltaire Moreno Garcés)元大統領による2018年の政令第751号は、石油会社の都合を優先し、先住民の生活とヤスニITTの膨大な生物多様性の保全のための基本領域である緩衝地帯での炭化水素開発を恣意的に許可している。同国の債権拡大と引き換えに新鉱業政策を降り出し、労働改革などとともに採掘政策を進めた。これはヤスニ国立公園、自主的に孤立している人々の生活と権利、そしてこの領土を所有するワオラニ族の先祖のコミュニティを危険にさらした。
なお米州人権委員会によると孤立した先住民は「厳密な意味で『接触していない』とは言えない」。伝統的に彼らの多く、あるいは彼らの祖先は、他の民族の人々と接触した経験があるからだ。そのため自主的に孤立している先住民について語るとき、「未接触」という言葉は適切ではないとしている。
先住民ワオラニもタガエリやタロメナネと暴力的な接触を持った過去がある。この結果人命が奪われた。研究者でジャーナリストのミラグロス・アギレ(Milagros Aguirre)によると、2003年、少なくとも30人のタガエリ、タロメナネがワオラニとの対立の中で殺されている。2013年3月にも17人のワオラニがジャングルに入り、タロメナネの一族を一掃した。ワオラニは短パン、ジーンズ、シャツというメスティソスタイルでジャングルに入ったとされている。これらの人々は数日前に起きた老夫婦オンポレ・オメウェイ(Ompore Omeway、70)とブガニ・カイガ(Buganey Caiga、64)が槍で突かれ死亡したことへの復讐のために7日間森を歩き続けオレリャナ(Orellana)県ヤスニ保護区ティグアクノ川の近くで敵のマロカ(家、フアオ・テレロ内)を発見、奇襲を仕掛けた。攻撃の結果、5人が死亡し、2人のタロメナンの少女が誘拐された。この数字は後に他の先住民族指導者により否定されており、実際には30人が殺害されたのではないかとされている。
先住民の世界はなかなか難しい。そこには独自のルールが存在するからだ。虐殺とも思われるこのような事件も、彼らからすれば単純殺害と扱われることもある。また家族の死への復讐といった異なるコードも存在する。先住民言語ではこれら復讐や祖先の戦争は「wenonte」または「wenongui」と呼ばれている。メスティソの世界では懲役刑に処せられる多重殺人もワオラニの宇宙観では先祖代々の対決の一部であり、勝つのは一方だ。未接触の人々の主張によるとオンプレとブガニーの盟約破棄が死を導いた。
なおワオラニ2名の死は長さ3.4mの槍によるものだ。パンビル材の槍はタロメナネの仕業であることを証明するものだった。ワオラニはもっと小さい2.50mの槍を使う。これはチョン太という軽い木でできている。
エクアドルのジャングルにある人里離れた村に2機の軍用ヘリコプターが着陸すると、銃を持った覆面の男たちが飛び降りて、一軒家に駆け込んだ。彼らは6歳の少女を救出しにやってきた。スペイン語を理解できず、何が起きているかも理解ができなかった少女は虐殺事件時にワオラニの捕虜となっていた。
救出後のタロメナネの少女コンタ(Conta)は武装した見知らぬ人たちに連れられて病院へ行くことになる。妹のダボカ(Daboca、3)も虐殺からの生き残ったが、彼女もまたワオラニに捉えられていた。虐殺に参加したワオラニの戦士たちはライフル、ピストル、長い槍を使い、丸腰のタロメナネの男、女、子供たち数十人を組織的に殺戮したことを全国放送で自慢し、その写真を高値で売りさばいた。しかし注目が非難に転じると、彼らは沈黙し、村への立ち入りを禁止し、近づく部外者は槍で切り裂くと脅した。政府は事件発生から8ヶ月後に少女の救出を認めた。
アギレはこれらの民族は先祖代々の知恵を持っており、それは貴重であり、大切にしなければならない、と語る。もしこれらの民族がいなくなれば、森や資源を大切にする人たちもいなくなってしまうからだ。
参考資料:
1. LA CONAIE SE PRONUNCIA POR LA DEFENSA DE LOS PUEBLOS AISLADOS DEL YASUNI Y RECHAZA EL DECRETO 751
2. ¿Quiénes son los pueblos indígenas en aislamiento voluntario?
3. Conozca el caso de una matanza entre tribus indígenas ocurrida en Ecuador
4. ECUADOR: 22 Tagaeri Indians reported killed by neighboring group
5. Indígenas encarcelados por masacre de clan en Amazonía ecuatoriana
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