(Image:InSight Crime)
米国による軍事介入が進むベネズエラ周辺では、コカイン密輸ルートが他地域に移動している可能性が指摘されている。特にガイアナでは、新たな港湾施設の整備と急速な経済成長が進み、麻薬密輸業者や組織犯罪にとって魅力的な拠点となりつつある。
2026年2月中旬、ベルギーのアントワープ(Antwerp)で税関職員が油の積み荷から1.8トン以上のコカインを押収した。同時期、コロンビアのカルタヘナ(Cartagena)でも米の積み荷から300キログラムのコカインが押収され、いずれのコンテナもガイアナから出発していた。
ガイアナの税関麻薬取締ユニット(Customs Anti-Narcotics Unit:CANU)の長ジェームズ・シン(James Singh)は、両コンテナは出国前に検査済みであり、封印が改ざんされていたことを確認したと述べた。改ざんの場所は不明だが、ガイアナ出国時点では封印は完全に保たれていたという。
これらの押収量は近年の水準を大きく上回る。2023年の押収量は85キログラム、翌年は236キログラムであったが、今回の事例はそれをさらに超える規模である。過去にも大規模な押収事例があり、2024年8月には米国麻薬取締局(Drug Enforcement Administration:DEA)の情報に基づき4.4トンを押収している。また、同年初頭にはガイアナ沖約150マイルの海域で半潜水艇から2.4トン、2020年11月にはアントワープでガイアナ発の金属スクラップから11.5トンが発見されている。これらは、密輸業者がガイアナを経由して大量のコカインを輸送している可能性を示すものである。
米軍監視強化による密輸ルートの変化
米軍は2025年9月以降、カリブ海でコカイン輸送が疑われる高速ボートを撃墜する作戦を実施している。この影響で、ベネズエラのスクレ州(Sucre)やファルコン州(Falcón)などの主要密輸拠点では活動が事実上停止している。密輸業者は監視を避けるため、ガイアナや周辺国へ活動の重心を移している可能性がある。
ジェームズ・シンは、米軍作戦開始後にガイアナ上空を通過する未登録機の数が増加したと報告しており、密輸ルートが東方へシフトした可能性があると指摘した。これら航空機はいずれも着陸せず、領空通過のみであった。さらに隣国スリナムでは、2026年2月に建造中の半潜水艇が発見され、密輸業者がルート多様化のため新たな輸送手段を導入していることが示されている。米軍がカリブ海から撤退した場合、従来の高速ボートルートが再び利用される可能性もある。
港湾開発と経済成長がもたらす影響
ガイアナでは石油開発を背景とした急速な経済成長と港湾インフラの拡張が進んでおり、複数の大規模港湾が建設中または計画段階にある。港湾整備による貿易量の増加は、密輸活動に新たな機会を提供する懸念がある。
過去の事例として、エクアドルのグアヤキル(Guayaquil)やコスタリカのリモン(Limón)では、新港開設後に薬物密輸や関連暴力が増加しており、港湾拡張は大西洋横断を含む薬物輸送ルート拡大につながった。
ガイアナでは港湾や空港にスキャン機器があるものの、違法貨物の検出に最適に使用されていない場合が多い。国連麻薬犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime:UNODC)および世界税関機構(World Customs Organization:WCO)のコンテナ管理プログラムコーディネーター、ボブ・ヴァン・デン・バーグ(Bob Van Den Berg)は、密輸業者が薬物を隠匿して港湾や空港を通過させることが可能である現状を指摘している。監視体制の不十分さは、ガイアナを経由した麻薬密輸のリスクを高めている。
南米産コカイン密輸の重要中継拠点としてのガイアナ
ガイアナは戦略的な立地と港湾における腐敗を背景に、南米産コカインの大西洋横断輸送やカリブ海地域への密輸において重要な中継拠点として機能している。ベネズエラやブラジルと国境を接し、陸路・海路・空路を含む複数の輸送経路を通じて、米国、カナダ、ヨーロッパ、西アフリカなどの需要市場へ薬物が運ばれる。
ガイアナの税関麻薬取締ユニット(CANU)の長ジェームズ・シンは、同国が供給国と需要国を結ぶ麻薬密輸ネットワークの中核であると説明している。近隣国での取り締まり強化により密輸ルートが圧迫されると、密輸業者はガイアナ経由で新たなルートを開拓する傾向があり、この現象は「バルーン効果」と呼ばれる。
ヨーロッパ向け密輸ネットワーク
南米産コカインの供給急増に伴い、ガイアナは大西洋を横断するコカイン流通の重要な中継地点となっている。2025年11月5日には、ベルギー・アントワープ港で金属スクラップ貨物に隠された約11.5トンのコカインが押収され、ガイアナ内務大臣によれば4人が逮捕された。その中には貨物スキャンを担当していた税関職員も含まれていた。この事例は、ガイアナ経由でヨーロッパに向かう密輸ルートの存在を裏付けている。
歴史的背景と国際的役割
ガイアナは数十年間、米国やヨーロッパ向け南米産コカインの中継地点として機能してきた。1980年代後半には「南米の新たな麻薬密輸ルート」の一部として注目され、犯罪組織は大西洋を越えて密輸を行った。その後、アフリカや東南アジアへのルートにも利用され、世界中の犯罪組織がガイアナをターゲットにしてきた。2014年には、米国とイタリアの当局がガイアナ発のコカイン密輸ネットワークを摘発し、マフィアによるイタリア向け密輸計画を解体している。
地理的条件と多様な密輸ルート
ガイアナはコロンビアやブラジルと国境を接しており、米国、カナダ、ヨーロッパ、西アフリカへのコカイン密輸にとって理想的な出発点となっている。コロンビア産コカインは通常、海路または空路でベネズエラを経由して搬入されるが、陸路や河川網を通じて密輸業者が運び込む場合もある。
同国の港湾、飛行場、河川網は監視が十分とは言えず、密輸業者にとって活動しやすい環境を提供している。さらに腐敗の影響もあり、状況に応じてルートを柔軟に変更できる点が、ガイアナを重要な中継地点としている理由の一つである。
ガイアナ元警察官の米国引き渡し
2025年11月10日、ガイアナの元警察官ショーン・ネブレット(Sean Neblett、別名「ダッパー」)が麻薬密輸容疑で米国に引き渡された。これは1999年以来初の事例であり、ガイアナが米国向け麻薬密輸の重要な中継点であることを示す出来事である。
米国の検察官によれば、ネブレットはガイアナで運び屋を募り、商業便を通じて米国へコカインを密輸していた。具体的には、コカインを靴に詰め込み荷物として送る手法を使用していた。この事例は、ガイアナ経由で行われる麻薬密輸の典型的な手口の一例である。
ネブレットの引き渡しは、米国とガイアナが密接に協力して麻薬密輸対策を進めていることを示す。米国は「カリブ海安全保障イニシアティブ(Caribbean Basin Security Initiative:CBSI)」を通じ、ガイアナの麻薬取締能力向上を支援してきた。この取り組みにより、コロンビアから流入するコカインの摘発が促進され、2012年には米国からガイアナに50万ドルが提供されている。
ガイアナの治安と麻薬密輸の現状
ガイアナは、コスタリカやエクアドルと比べて、密輸ギャングによる港湾支配のリスクは比較的低い。税関麻薬取締ユニット(CANU)の長ジェームズ・シンは、「密輸品を守るギャングは存在せず、港を支配しようとするグループも警察の監視下では成功できない」と指摘している。小規模な国土と集中した港湾管理により、密輸業者が現地で独自の支配力を持つことは困難である。
ガイアナでは、金属スクラップや米袋に薬物を隠す手法が多く、スキャン装置では少量の薬物を検出できない場合もある。麻薬探知犬の活用もリスクを伴う。2015年には、ガイアナ発のコンテナがハンブルク港に到着した際、1.5トンのコカインが米袋に隠されて発見された。この貨物はポーランド向けで、ヨーロッパ全域に流通する可能性があった。
腐敗対策として、税関麻薬取締ユニット(CANU)は国内外の複数機関と連携して取り締まりを強化している。アリ大統領も外国機関と協力し、共同作戦を通じて密輸ネットワークの解体を指示している。
米国による制裁と協力関係
2025年6月、米国財務省はガイアナ人4名(うち1名は警察上級監督官)とコロンビア人2名を、コロンビア麻薬ネットワークへの関与を理由に制裁対象として追加した。ガイアナ政府は、米国から制裁の追加情報を求める方針を示し、必要な情報を基に今後の対応を判断する予定である。
制裁対象者には、ガイアナ警察の上級監督官 ヒムナウス・サウ(Himnauth Sawh)、実業家 ポール・ダビー・ジュニア(Paul Daby Jr.)、ブクストン(Buxton)出身のデーモンことマーク・クロムウェル(Mark Cromwell)、ルドルフ・ダンカンことランドルフ・ダンカン(Randolph Duncan)が含まれる。米国財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control:OFAC)は、ガイアナが数十年にわたり南米から米国やヨーロッパへの麻薬輸送の中継地点となってきたことを指摘している。
密輸ルートと手段
麻薬密輸業者は、南米の河川やジャングルを利用してコロンビアやベネズエラから大量のコカインをガイアナおよびスリナムの水域経由で輸送している。また、ガイアナはカリブ海に近く、港や国境で汚職が報告されているため、海上船舶(通称「ナルコ潜水艇」)が水域を通過しても検知されにくいとされる。これらの船舶を用い、麻薬はガイアナやスリナムの港から米国、ヨーロッパ、カリブ海地域に密輸される。
さらに、密輸業者は小型航空機を利用して、コロンビアやベネズエラからガイアナへのコカイン輸送を手配しており、国内の違法飛行場を着陸地として使用している。
経済成長とマネーロンダリングのリスク
急速な経済成長は、密輸業者や組織犯罪者にマネーロンダリングの機会を提供している。政府によれば、2025年の建設業は前年比約30%成長した。犯罪者はフロント企業の設立、既存企業への侵入、不動産投資、ホテル・レストラン・カジノなどの現金取引が多いビジネスを通じて、違法資金を洗浄する可能性がある。
マネーロンダリング対策の現状と課題
ガイアナはマネーロンダリング対策の強化に取り組んでいるものの、課題が残る。カリブ海金融行動タスクフォース(Caribbean Financial Action Task Force:CFATF)の2024年評価では、リスク理解の向上が指摘されている一方、米国国務省の2025年「国際麻薬統制戦略報告書(International Narcotics Control Strategy Report:INCSR)」では、警察力の不十分さが「弱点」として挙げられており、改善が求められている。
同報告書では、ガイアナに対して「腐敗防止の取り組み強化、機関間協力の増進、麻薬密輸に対する起訴の完全実施」を求めている。今後、密輸対策の強化には国際社会との連携がますます重要となる。
ガイアナの麻薬密輸対策と国際協力
ガイアナはアンデス地域のコカイン供給国と世界各地の消費地の間に位置するため、麻薬密輸の重要な中継地点となっている。税関麻薬対策ユニット(CANU)の所長ジェームズ・シンは、密輸が国家の治安や民間投資、国際的な評判に重大な影響を及ぼすことを指摘している。
シンによれば、過去にはガイアナに入った麻薬がカリブ海地域を経由して北米に輸送されていたが、最近は西アフリカやヨーロッパへのルートも増えている。麻薬の多くはベネズエラから高速船や小型機で運ばれ、ガイアナ国内に留まるものもあるが、多くは国外に輸送されている。
税関麻薬対策ユニットの取り組みと作戦
税関麻薬対策ユニット(CANU)は国内外のパートナーと協力し、密輸対策を実施している。国内ではガイアナ防衛軍と連携し、違法な飛行場を解体。国際的には米国麻薬取締局(DEA)、英国国家犯罪庁(United Kingdom’s National Crime Agency:NCA)、カナダ王立騎馬警察(Royal Canadian Mounted Police:RCMP)などと連携し、大規模なコカイン押収作戦を実施している。具体例として、2024年には最初の半潜水艇を押収し、続けて米国麻薬取締局(DEA)と協力して別の半潜水艇を海上で押収した。また、違法飛行場で4.4トンのコカインを押収した事例もある。
国際的な追跡では、ガイアナ発の船舶から西アフリカまで追跡され、4.7トンのコカインが押収されるなど、多くの作戦が行われた。ヨーロッパでも、大規模な麻薬押収が国際機関との協力により実施されている。地域レベルでは、カリブ共同体(Caribbean Community:CARICOM)の犯罪・安全保障実施機関や地域合同通信センターと連携し、ジャマイカの地域麻薬法執行訓練センターでの訓練も行っている。
国際・地域・国内のパートナーシップ
シンは「パートナーシップはガイアナの麻薬密輸対策の要」と強調しており、税関麻薬対策ユニット(CANU)の成功は協力と変化する麻薬密輸ルートへの絶え間ない適応に依存していると述べる。国際的には、ブラジル、コロンビア、フランス、スリナムの機関ともパートナーシップを築き、シーポート協力プログラム(Seaport Cooperation Programme)、地域横断情報グループ(Trans-Regional Intelligence Group)、国連・世界税関機構コンテナ管理プログラム(UN-WCO Container Control Programme)など、多国間の麻薬対策フォーラムや作戦にも関与している。
2025年には「オペレーション・ズース(Operation ZUES)」で、税関麻薬対策ユニット(CANU)は31か国と協力し、51件の合同取締作戦を実施。その結果、31か所の違法飛行場を破壊し、地域全体で3.5トンのコカインを押収した。
市民との協力と啓発活動
シン所長は、一般市民も税関麻薬対策ユニット(CANU)にとって重要な協力者であるとし、情報提供が大規模な押収作戦につながることが多いと述べている。税関麻薬対策ユニット(CANU)は学校や地域社会での啓発キャンペーンにも積極的に取り組み、麻薬使用や密輸の危険性に関する意識を高めている。また、政府省庁と市民社会を結びつける「麻薬情報ネットワーク(Drug Information Network)」を通じ、需要削減、リハビリテーション、麻薬教育プログラムの実施を推進している。
参考資料:
1. Amid US Strikes, Booming Guyana Could Become Drug Trafficking Hub
2. Corruption, Containers, Cocaine: Guyana’s Role In Transnational Drug Trafficking
3. ‘Partnerships are key to dismantling drug trafficking networks’ CANU director declared



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