エクアドル:キューバ大使らを「ペルソナ・ノン・グラータ」と指定、米国圧力が背景か

(Photo:EFE、Image:Primicias)

エクアドル政府は2026年3月4日、駐エクアドル・キューバ大使バシリオ・アントニオ・グティエレス(Basilio Antonio Gutiérrez García)と外交団全員を「ペルソナ・ノン・グラータ(persona non grata)」に指定し、48時間以内の国外退去を命じた。エクアドル外務省は、この措置は国際外交法の枠組みに基づくものであると説明したが、退去命令の具体的理由については明らかにしていない。

外交関係に関するウィーン条約(Vienna Convention on Diplomatic Relations)第9条では、受入国が理由を説明することなく外交官をペルソナ・ノン・グラータに指定できると定められており、エクアドル政府も同条を根拠としている。条文によれば、受入国は外交使節団のいかなる構成員についても、いつでも「歓迎されない人物」と宣言できる。

今回の決定に先立ち、エクアドルのダニエル・ノボア(Daniel Noboa)大統領は、駐キューバ・エクアドル大使ホセ・マリア・ボルハ(José María Borja)の外交任務を解除する大統領令に署名しており、両大使の任務終了は米国で開催されるラテンアメリカ諸国首脳会合にノボア大統領が出席する直前になされた。ノボアが米国のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領に擦り寄っていることは誰もが知ることであり、トランプが最近、米国がキューバを「友好的に引き継ぐ(friendly takeover)」可能性について言及していたことに本事象が関与しているとも想定される。

エクアドル政府は、今回の措置がハバナ(Havana)との外交関係の正式な断絶を意味するのかについては言及していない。しかしながら、今回の措置は両国関係を1981年以来最も深刻な外交危機に追いやった。

 

キューバ、エクアドルの外交措置に強く反発

キューバ外相ブルーノ・ロドリゲス・パリジャ(Bruno Rodríguez Parrilla)は、エクアドル政府による駐エクアドル・キューバ大使と外交団全員の国外退去決定に対し、SNSで強く反発した。ロドリゲス外相は、今回の決定が米国によるキューバへの圧力や第三国への参加強要の状況下で行われたことは偶然ではないと指摘し、エクアドル国民が連帯と兄弟愛の絆を守る方法を理解していると述べた。

キューバ外務省は今回の措置を「非友好的で前例のない行為(acto inamistoso y sin precedentes)」と表現するとともに、声明を通じ同大使館の職員はエクアドルの法律や規則を厳守し、内政に干渉していないと強調したうえで、両国および両国民の歴史的な友好・協力関係を著しく損なう行為であると批判した。また、キューバ外務省は「この行動は、現在のエクアドル政府が国際社会で守られてきた外交慣行や礼節を軽視していることを示している」とも述べた。

今回の措置は、来週米国マイアミ(Miami)で予定されている主に右派のラテンアメリカ指導者による会合の直前に行われた。この会合にはダニエル・ノボアも出席予定である。なお本措置が発表された同日、エクアドルは米国とともに国内で活動する組織犯罪グループに対する共同軍事作戦を開始したと発表している。

 

大使館屋上での書類焼却

2026年3月4日の追放決定発表から間もなく、キトのキューバ大使館の屋上で、袋に入った書類をオーブンのような装置で焼却する男性の姿が確認された。この様子はAP通信が目撃している。

その後、エクアドルのダニエル・ノボアは、X(旧ツイッター)に動画を投稿し、「紙のバーベキューだ」と短くコメントした。ただし、エクアドル政府当局は、この出来事の詳細や書類を焼却していた人物の身元については明らかにしていない。

 

エクアドル・キューバ関係の現状と経済的背景

エクアドルとキューバは1960年に外交関係を樹立して以来、両国関係はエクアドル国内の政治状況の変化に応じて強弱を繰り返してきた。

カサ・グランデ大学(Casa Grande University)で政治学・国際関係学のコーディネーターを務めるアンドレア・エンダラ(Andrea Endara)は、今回のエクアドル政府による措置には「イデオロギー的な側面がある」と指摘し、ノボア大統領について「米国の利益に歩調を合わせている」と分析した。

経済面では、エクアドルはキューバとの貿易収支で黒字となっている。2025年の統計によると、エクアドルからキューバへの輸出額は490万ドルであるのに対し、キューバからの輸入額は約92万3,000ドルにとどまる。エクアドルがキューバに輸出している主な製品は、魚の切り身や水産加工品、エビ、カカオ、植物油、コメ、花卉(特にバラ)である。一方、キューバから輸入している主な品目は、ラム酒などのアルコール飲料、化学製品、医薬品である。このように貿易構造はエクアドル側に有利であり、両国は過去45年以上にわたり比較的安定した関係を維持してきた。

 

エクアドル・キューバ関係の歴史と外交危機

1981年のハバナ大使館事件

現在の緊張は、1981年の「ハバナ大使館事件」以来の大きな外交問題とされている。1981年2月21日、キューバの特別部隊がハバナにあるエクアドル大使館に強制突入し、亡命を求めていた反体制派を逮捕した。この行動は外交施設の不可侵原則に関わる問題として、エクアドル政府の強い抗議を招いた。

当時のエクアドル大統領ハイメ・ロルドス・アギレラ(Jaime Roldós Aguilera)は事件の重大性を認めつつ、キューバとの外交関係は断絶しない決定を下した。ロルドス大統領は1979年にキューバとの外交関係を回復した人物であり、1962年には米国主導の対キューバ外交孤立政策に従い断交していた。

冷戦期の友好関係

その後も、フィデル・カストロ(Fidel Castro)率いるキューバとエクアドルの関係は続いた。右派大統領レオン・フェブレス・コルデロ(León Febres Cordero、1984〜1988年)とも良好な関係を維持した。当時国内のマルクス主義系ゲリラはキューバから支援を受けなかったともされている。

フェブレス・コルデロ退任時には、フィデル・カストロがグアヤキル(Guayaquil)にある同氏の自宅に滞在し、その後ロドリゴ・ボルハ(Rodrigo Borja)大統領の就任式に出席した。

コレア政権下での協力

ラファエル・コレア(Rafael Correa)政権下では、両国関係はさらに緊密になった。キューバ人医師のエクアドル派遣、エクアドル人医学生のキューバ留学、スポーツ連盟へのキューバ人コーチ派遣などの協力が行われた。

その後、レニン・モレノ(Lenín Moreno)政権はキューバの主要同盟国であるベネズエラのチャベス派政権と関係を断つなど外交路線を変更したが、キューバとの関係は維持した。また、2020年にはニカラグアのダニエル・オルテガ(Daniel Ortega)政権とは断交するも、キューバとは断交しなかった。

2019年の協定終了と外国人流入への警戒

2019年11月、モレノ政権は、コレア政権時代に締結されたキューバ人医師派遣の協定を終了した。これは、エクアドル政府の資金でキューバ人医師の国内派遣を拡大する内容であった。

当時の内務相マリア・パウラ・ロモ(María Paula Romo)は、この措置を2019年10月の抗議運動と関連付けて説明した。抗議は、燃料補助金廃止の大統領令883(Decreto 883)をきっかけに発生していた。ロモ内務相は、暴力的デモが起きる数週間前に外国人がキトに入国していた可能性について政府が調査していると述べた。モレノ政権は、キューバ人専門家の入国が政治活動やスパイ活動に関与している可能性も疑っていた。ロモ内務相は、「エクアドル外務省は、ここ数か月にキューバ政府の公用パスポートを使用して入国した人物について、キューバ大使館と情報照合を行った」と説明していた。

現状維持から2026年の追放決定

その後、ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)政権(2021〜2023年)およびダニエル・ノボア(Daniel Noboa)政権(2023年〜)では、新たな協定は締結されなかった。しかし、両国関係に大きな緊張は表面化していなかった。

この現状維持(status quo)は、2026年3月4日に変化した。上述の通りエクアドル外務省は、約5年間にわたりエクアドルで外交任務に就いていた駐エクアドル・キューバ大使とキトの外交団21人の職員を国外追放すると決定したからである。

 

米国主導の新外交政策の中で

今回の外交措置は、米国のドナルド・トランプが進める西半球における新しい外交政策の文脈の中で発表されたとされている。また、2026年3月7日に米フロリダ州(Florida)で開催予定の首脳会議を控えたタイミングでもある。この会議は「アメリカ大陸の盾(Escudo de las Américas)」と呼ばれ、トランプ大統領が主導するラテンアメリカ諸国首脳との会合である。

今回の決定は、米国のドナルド・トランプがキューバへの圧力を強めている状況の下で行われた。この圧力は、ベネズエラのニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)大統領が米軍作戦によって誘拐された後、さらに強まったとされている。米国はキューバへの石油供給を制限するなどの措置を講じ、キューバ政府に対する圧力を強化している。その後、トランプ大統領はキューバへの石油販売に制限を課し、同国政府について「崩壊寸前だ」と述べた。

なお、エクアドルは地域における麻薬取引や組織犯罪との戦いで、トランプ政権の同盟国・協力国の一つとされている。

 

各党、市民の反応

ダニエル・ノボア大統領がキューバ大使を追放したことを受け国民民主行動(Acción Democrática Nacional :ADN)、市民革命(Revolución Ciudadana:RC)、その他市民団体はそれぞれ反応を示した。

国民民主行動(ADN)

国民民主行動(ADN)の議員ルシア・ハラミージョ(Lucía Jaramillo)は、キューバ大使館の屋上での書類焼却について言及した。彼女はこの行為について「証拠を破壊しようとしている」と述べ、これにより「長年訴えられてきたこと、すなわちエクアドルでの政治的スパイの兆候が確認された」と主張した。ハラミージョはさらに、「彼らは単独では行動していない。ベネズエラと共に市民革命(RC)をかばおうとしている」と何の根拠も示すことなく無責任に述べた。

市民革命(RC)

市民革命(RC)は、キューバ大使館の外交団追放に対して声明を発表した。市民革命(RC)は「キューバは一人ではない(‘Cuba no está sola’)」とのタイトルで、ノボア政権がキューバに対するアメリカ合衆国(米国)の封鎖政策と歩調を合わせることを決定したと指摘し、これに反対の立場を示した。声明では、同政権の決定は国益やエクアドル国民の声に応えるものではなく、歴史的な主権や自主性の原則に反すると述べた。また、キューバ政府およびキューバ国民への連帯も表明している。

 

市民団体の動きとデモ

市民革命(RC)やその他市民団体も、キューバ政府およびキューバ国民への連帯を表明した。

2026年3月4日(水)午後、数十人の市民がキューバ大使館前に集まり、外交団追放に抗議するデモを行った。参加者は政府に反対するプラカードを掲げ、キューバの国旗を振りながら抗議の声を上げた。

 

相次ぐ外交トラブル

今回のキューバ外交官の事実上の追放は、近年エクアドルと他のラテンアメリカ諸国との間で生じている外交摩擦の流れの中で起きた出来事である。

2024年には、エクアドル当局がメキシコ大使館を強制的に捜索し、そこに避難していた元副大統領を逮捕する事件が発生した。専門家は、この行為を国際法への明白な違反と指摘した。これを受けて、メキシコはエクアドルとの外交関係を断絶している。

さらに最近では、エクアドルと隣国コロンビアとの間で貿易摩擦も発生している。ダニエル・ノボア政権は、両国国境での犯罪対策についてコロンビア政府の取り締まりが不十分であると非難している。

#DanielNoboa #DonaldTrump

 

参考資料:

1. Cuba hit by widespread blackout; Ecuador expels Havana’s ambassador, staff
2. Ecuador declares Cuba’s ambassador ‘persona non grata,’ orders mission to leave the country
3. Ecuador y Cuba atraviesan su peor crisis diplomática desde 1981 tras la expulsión de la misión en Quito
4. Cuba responde a Ecuador por la expulsión de su misión diplomática: “Acto inamistoso y sin precedentes”
5. ADN, RC y manifestantes reaccionan a lo ocurrido en la Embajada de Cuba y la expulsión de su misión

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