(Photo:NDTV World)
グリーンランドに対するデンマークの主権は、国際法上、疑いの余地がない。1951年に締結された「グリーンランド防衛協定(Defense of Greenland Agreement)」において、米国は明確に「デンマーク王国の主権(the sovereignty of the Kingdom of Denmark)」を承認しているからである。
しかしドナルド・トランプ大統領(Donald Trump)は、デンマークのグリーンランドに対する権利は疑わしいと示唆してきた。これは大統領首席補佐官スティーブン・ミラー(Stephen Miller)が公に語ってきた考えを反映したものである。ミラーは「国際法上の細かな作法」よりも、国家間の力関係や安全保障上の必要性こそが決定的であると述べている。
トランプ大統領自身も、この考えをさらに強めている。彼は『ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)』紙のインタビューで、国際法は自分にとってほとんど意味を持たないと述べた。代わりに重要なのは、自身の道徳観であると主張し、「私は国際法を必要としない。人を傷つけようとしているわけではないのだから」と語っている。
だが実際には、武力行使の示唆、あるいはその現実的な可能性そのものが、米国の国家利益や安全保障上の利益を追求するための交渉手段として用いられているように見える。そこには、トランプ大統領特有の予測不能性も加わっている。
デンマークの権利は「反論不能」である
しかし、グリーンランド問題はトランプ大統領に別の現実を突きつける可能性がある。軍事力の点では、デンマークは米国の相手ではない。だが、同国はグリーンランドに対する正当な権原(good title)を有しており、同時に現地住民の自決権(right to self-determination)も認められている。
この事例において、国際法は単なる理念ではなく、重要な戦略的役割を果たしている。国際法は、軍事力に大きな差がある当事国同士の間で、力の不均衡を一定程度是正する機能を持つからである。
デンマークに対する米国の脅しに対し、ヨーロッパ諸国が結束して強い反応を示したことは、その象徴である。デンマークは、他の北欧諸国と同様、国際法遵守において模範的な国家と見なされてきた。今回の反応は、多くの国がいまだに国際法の支配を重視しており、弱国・強国を問わず、全体として安定と安全をもたらしてきたルールと原則に基づく国際秩序を守る意思があることを示している。
米国が負うリスク
もし米国がこの国際的な合意から離脱する道を選ぶなら、国際社会において「ならず者国家(rogue state)」の立場を引き受けることになりかねない。法として合意された内容を公然と無視する権利があると主張する国家と、将来にわたって協定や和解を結びたいと考える国は少ないだろう。
その意味で、グリーンランドをめぐる問題は単なる領土論争ではない。これは、国際法に基づく秩序が今後も機能し続けるのか、それとも力と威嚇が再び国際政治を支配するのかを問う試金石となっているのである。
1721年に始まるデンマークの主権主張
デンマークによるグリーンランド支配の主張は、18世紀にまでさかのぼる。当時、まだ植民地化されていない地域は、そこに先住民が何千年も暮らしていたとしても、「テラ・ヌリウス(terra nullius)」、すなわち「誰のものでもない土地」と見なされていた。
この時代の国際法では、領有権は
① 発見
② 占有の意思表示
③ 実効的な統治
によって成立すると考えられていた。
デンマークは、1721年に宣教師ハンス・エーゲデ(Hans Egede)がグリーンランドに到着したことを根拠として挙げている。デンマークは、それ以降、同地域を継続的に統治してきたと主張している。
国際法は、グリーンランドのように遠隔地で過酷な自然環境を持つ地域については、統治の実態を示す証拠が限定的であっても足りる、という立場を取っている。
ノルウェーとの争いと1933年の国際司法判断
当時のデンマークとノルウェーの複雑な関係、さらにその後の東グリーンランドにおけるノルウェー人の活動を背景に、ノルウェーは20世紀初頭、デンマークの主権主張に異議を唱えた。
しかし1933年、常設国際司法裁判所(Permanent Court of International Justice)は、ノルウェーの主張を退けた。裁判所は、ノルウェー外相ニルス・クラウス・イーレン(Nils Claus Ihlen)が、すでに1919年の時点でグリーンランドに対するいかなる権利主張も放棄していたと判断した。
イーレン外相は当時、「デンマークの主張は、ノルウェーにとって何の困難も生じさせない」と明言していた。この発言が、ノルウェーの請求を否定する決定的な根拠とされたのである。
第二次世界大戦と戦後の地位整理
第二次世界大戦中、グリーンランドの防衛は米国が担った。しかし、このことは島の主権には影響を与えなかった。
戦後、デンマークは国連から、グリーンランドを「非自治地域(non-self-governing territory)」、すなわち植民地として登録するよう求められた。これに応じ、グリーンランドは一時的に国連上「植民地」として扱われることになった。
グリーンランドの地位はいつ、どのように変わったのか
1953年6月5日、デンマークでは憲法改正が行われた。これにより、グリーンランドは正式にデンマーク王国の一部となった。これにより、グリーンランドは他のデンマーク領と同等の憲法的地位を持つ地域として位置づけられ、植民地としての扱いは終了した。
この憲法改正を受け、デンマーク政府は、グリーンランドに関して国連憲章第11章に基づいて負っていた責任が終了したと判断した。なぜならデンマーク王国の不可分の一部となったグリーンランドが議会代表権などを含む憲法上の権利を持つようになったからである。その結果、それまで行ってきた、グリーンランドの状況を国連に報告する義務、いわゆる「情報送信」を停止する決定を下した。
この対応については、1954年11月22日に採択された国連総会決議849号(IX)において、「グリーンランドに関する情報送信を終了することは適切である」と正式に確認されている。
国連憲章第73条eが定める情報送信制度は、植民地や自治権を持たない地域について、宗主国がその政治・経済・社会状況を国際社会に定期的に報告することを義務づける仕組みであった。これは、植民地支配が適切に行われているかを国際的に監視するための制度である。
しかし、グリーンランドがデンマーク王国の平等な一部となったことで、この制度の前提そのものが失われた。つまり、グリーンランドはもはや「自治権のない地域」ではなくなり、国連による特別な監視の対象から外れたのである。この一連の流れは、グリーンランドの自治と政治的地位が大きく前進し、植民地的な扱いが国際法上も終結したことを意味している。
国連の判断と残された論点
国連総会は、決議849号(IX)において、「グリーンランドは、デンマーク王国の他の地域と平等な憲法的・行政的基盤の上で、統合を自由に決定した」と結論づけた。この判断は、国際社会全体に受け入れられてきた。
ただしその後、一部の活動家は、「この統合は先住民の住民投票によって明確に承認されたものではなかった」と批判してきた。
もっとも、決議849号(IX)では、グリーンランド代表が統合プロセスに参加していたことが明確に評価されている。また、国連総会は直後に決議850号(IX)を採択し、一般論として、植民地宗主国との統合は「人民の意思の表明」によって確認されるべきだと強調している。を接続して解説できる。
自治
グリーンランドの地位をめぐる疑義は、デンマークによる段階的な自治権の拡大によって、実質的に解消されてきた。最初の大きな転換点は1979年の自治法(Home Rule Act)であり、続いて2009年には、さらに踏み込んだ自己政府法(Self-Government Act)が制定された。
2009年の自己政府法は、グリーンランドで実施された住民投票によって承認されており、賛成率は75.5%に達した。
この自己政府法により、防衛、通貨政策、外交を除くほぼすべての統治権限が、グリーンランドの自治政府に移譲された。実際、グリーンランドは、デンマークとは独立して条約を締結することさえ可能である。ただし、デンマーク王国の一部としての地位そのものに影響を与える協定については、この限りではない。
自決権の明確な承認
重要なのは、この法律がグリーンランドを「自決権を有する主体(self-determination unit)」として明確に認めている点である。グリーンランドは、人口約5万7,000人の住民による住民投票を通じて、自らの地位を変更するかどうかを自由に決定できる。
もし住民投票で独立が選択された場合には、デンマークとの間で、いわば「離婚条件」に相当する交渉が行われることになる。その結果は、最終的にデンマーク議会の承認を必要とする。デンマーク議会は、国家の領域に変更を加える権限を保持しているためである。
国際法との整合性
この一連の手続きは、国内法や憲法上に保障された自決権を実施する際の国際法上の手続きと完全に一致している。これには、カナダ最高裁判所がケベック独立問題に関して示した重要な判断基準も含まれる。
また、2014年のスコットランド独立住民投票に際してイギリス政府が示した姿勢と同様に、デンマークも、独立を支持する住民投票の結果が出た場合には、立法措置によってそれを実現することを約束している。
「購入」による領土取得という前例
米国は、他国から広大な領土を購入してきた歴史を持つ。フランスからのルイジアナ買収、スペインからのフロリダおよびフィリピンの取得、ロシアからのアラスカ購入がその例である。
デンマーク自身もまた、1916年にデンマーク領東インド諸島(現在の米領ヴァージン諸島)を米国に譲渡している。
過去の米国によるグリーンランド購入の試み
実際、米国は過去数世紀にわたり、繰り返しグリーンランドの購入を試みてきた。とりわけ有名なのは1946年で、当時のハリー・トルーマン(Harry Truman)大統領が、当時としては莫大な金額である1億ドル相当の金を提示した事例である。しかし、この時も現在と同様に、デンマークはこれを拒否した。
この出来事の真の意味は、米国がデンマークの主権を否定できないことを明らかにしている点にある。もしデンマークが正当な主権者でないと考えていたのであれば、なぜ米国は「王の身代金」とも言える額を支払おうとしたのか。島を処分する権利を持つ正当な主権国家であると認めていたからこそ、そのような提案が成り立ったのである。
米国自身によるデンマーク主権の公式承認
さらに決定的な証拠が存在する。1951年に締結された「グリーンランド防衛協定(Defense of Greenland Agreement)」において、米国はグリーンランドに対する「デンマーク王国の主権」を明確に認めている。
2004年に改定された同協定では、グリーンランドの地位が、かつての植民地から「デンマーク王国の平等な一部」へと変更された事実が明示的に確認された。これにより、1953年の地位変更の合法性を米国が後から争う余地は完全に排除されている。
米国の行為は違法な武力の威嚇か
米国にグリーンランドに対する権利が存在しない以上、現在の行為は「強圧的(bullying)」である可能性はある。しかし、それだけでは国連憲章に違反する「武力行使の違法な威嚇」には直ちには該当しない。
違法とされるためには、「コペンハーゲンが主権移転に応じなければ侵攻する」といった、具体的かつ明確な軍事的威嚇が必要である。
解決策の選択肢――侵攻以外に何が可能か
では、NATO内部で自ら引き起こされたこの危機を、侵攻以外の方法でどのように解決できるのか。米国務長官マルコ・ルビオ(Marco Rubio)がコペンハーゲンでデンマークに売却を迫っても、成功する可能性は低い。
現行の憲法体制の下では、グリーンランドが即座に宗主国をデンマークから米国に切り替えることはできない。代替案として考えられるのは、米国がグリーンランド住民に独立を選択させ、その後に米国へ編入する、あるいはデンマークとの現在の関係に似た連合・連携協定を結ぶ道である。
しかし、このプロセスには長い年月が必要であり、トランプ大統領の任期を超える可能性が高い。
合意が成立する条件
最終的に合意が成立するとすれば、それは交渉過程で誇張された立場を押し通すことではなく、当事者双方の実際の利益に焦点を当て、それを相互に満たす内容でなければならない。
過度に強硬な姿勢を取れば、相手国は、予測不能で、しかも国際法の枠組みから離脱すると公言する交渉相手との協議自体を避けるようになるだろう。結局のところ、どのような合意であれ、最終的には国際法の規則と手続きに基づく正式な法的文書としてまとめられる必要がある。
体面を保った外交的解決は可能である
実際には、双方の体面を保つ外交的解決は比較的容易である。米国とデンマークが共同宣言を発表し、グリーンランドが米国にとっても極めて高い戦略的価値を持つことを確認すれば、米国は「勝利」を主張できる。
同時に、領土の地位変更にはグリーンランド住民の自由な同意が不可欠であることを確認すれば、「自決権を無視して売り渡されるのではないか」という住民の懸念にも対処できる。
この宣言には、デンマーク憲法上の手続きを尊重する必要性と、住民が自由に下した決定を完全に実施するというコペンハーゲンの約束の双方が盛り込まれることになるだろう。これにより、将来的な地位変更の可能性は、住民の意思次第で残される。
現実的な協力の道
その間に、米国とデンマーク、そしてグリーンランドは、経済・安全保障協力を強化する協定を締結することができる。これにより、米国は島および周辺海域へのアクセスを拡大し、安全保障や天然資源の面での関与を強めることが可能となる。同時に、ロシアや中国の影響力を排除するという共通の目的も確認される。
この枠組みには、グリーンランド自身が完全な当事者として参加しなければならない。グリーンランドの地位と将来が直接かかっているからである。さらに注目すべき点として、デンマークはすでに、グリーンランドの天然資源とそこから生じる利益に対する完全な権限を、島の住民に移譲している。
参考資料:
1. Who owns Greenland?
2. List of former Trust and Non-Self-Governing Territories

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