ベネズエラ大統領ニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)とその妻シリア・フローレス(Cilia Flores)が米国によって拘束されたことで、ボリバル国軍(Fuerza Armada Nacional Bolivariana)の立場には疑問符が付けられることとなった。同軍はこれまで、突破不可能と思われる強固な一枚岩の組織であるかのように見られていたが、未明の作戦において、チャべス主義の指導者の拘束を阻止することはできなかった。とはいえ、逮捕から数時間が経過した時点で、ベネズエラの制服組に内部崩壊や譲歩が生じたことを示す兆候はほとんど伝えられていない。
ボリバル革命(revolución bolivariana)の指導部は、こうした事態に備えた手順を用意していたと、これまで何度も公言してきた。事実、過去4か月にわたり政治的緊張は継続していた。チャベス主義の中でも特に重要な指導者であるディオスダド・カベジョ(Diosdado Cabello)、ウラディミル・パドリノ・ロペス(Vladimir Padrino López)、デルシ・ロドリゲス(Delcy Rodríguez)は相次いで発言し、冷静さを呼びかけるとともに支持者の動員を行い、国内非常事態(Estado de Conmoción Interior)を宣言した。軍は国家の治安部隊とともに、領土支配を確保するために全国に展開している。そこに集まるのは一般市民ではなく、主として政治活動家や武装した人々である。
しかし、この作戦の実行は多くの弱点と疑問を露呈させた。国防相ウラディミル・パドリノ自身が「侮辱行為(ultraje)」の存在を訴えている。国家で最も権力を持つ二人、マドゥロとフローレスは、不意を突かれ、大きな軍事的衝突もなく生きたまま拘束された。この状況は、マドゥロの警護網を突破した高度な諜報作戦の存在を示唆しており、その背景には、彼の拘束に対して提示されていた懸賞金が動機として作用した可能性がある。

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ここ数か月にわたり、亡命中の一部アナリストは、国内の軍内部でのいわゆる不満の存在について繰り返し指摘してきた。彼らによれば、この不満は国民の社会的不満と必然的に連動しているという。部隊の士気低下、物資不足、極端に低い給与、兵士個々人の問題などが取りざたされてきた。野党指導者たちは、昨年の大統領選挙で、軍の大多数がエドムンド・ゴンサレス・ウルルティア(Edmundo González Urrutia)に投票したと確信している。
しかし、これらの指摘にもかかわらず、現実はより複雑で微妙であることを何度も示してきた。チャベス主義政権(Gobierno chavista)は基本的に軍事政権であり、矛盾はあるものの、軍組織に対する影響力は依然として相対的に広範である。ウゴ・チャベス(Hugo Chávez)が軍に投影したボリバル・ドクトリン、社会主義、反帝国主義の教義は、ベネズエラ軍の思考に深く浸透している。それは、21世紀初頭の民主主義時代に存在したものとはまったく異なるものである。ベネズエラ野党がこの数年間に犯した最大の過失の一つは、チャベスが軍人として同僚に与える影響力を過小評価した点にある。現在、ベネズエラ軍の参謀課程(cursos de Estado Mayor)では、「ウゴ・チャベスの政治思想(pensamiento político de Hugo Chávez)」のような科目が教えられているのである。
このプロセスは、亡くなる前に親しい側近とともに誓約を行ったウゴ・チャベス自身によって促進され、その後マドゥロによって着実に強化されてきた。マドゥロ政権は、すでに固められた体制をさらに確実に固めることに多くの時間を費やしてきた。マドゥロは、国家警備隊(Guardia Nacional)および警察の人員を増強し、公務員に対して政治的・経済的インセンティブを与えて忠誠を確保し、過去の国内組織をはるかに上回る高効率の諜報機関を整備することに尽力してきた。
そのために、マドゥロはボリバル国家軍(Fuerzas Armada Nacional Bolivariana:FANB)の総司令官であるウラディミル・パドリノ・ロペスの支援を受けてきた。パドリノ・ロペスは、この政権の中核的存在の一人であり、民主主義時代に軍人として育成され、チャベスとの個人的な関係を持ち、部隊内での経験と権威も兼ね備えている。国防相として11年間在任する彼は、「ボリバル革命(revolución bolivariana)の進行を保証する」というチャベスの遺志を継承し、その文化的習慣と思想的枠組みを確立・強化してきた。
マドゥロは、非常に巧妙な言辞でこの体制強化を進めてきた。自身の革命へのコミットメントを徐々に明らかにしつつ、市民的政治論争からは適切な距離を保ってきた。チャベス主義が権力を維持するために持つ最も強固な鎖は、ベネズエラにおける軍事的支配に深く関わるものである。
ここ数年、野党が権力を握ろうと展開してきた市民的取り組みや政治戦略、選挙時の意思決定、立法上の決定、選挙での勝利、さらには法や憲法の遵守を求める国民的抗議活動は、すべて同じ壁にぶつかってきた。その壁とは、軍におけるチャベス主義の存在である。
野党指導部が軍内でほとんど、あるいはまったく影響力を持たないことは明らかだ。また、ベネズエラ軍がチャベス主義の価値や利益に強くコミットしており、野党や市民の要求に耳を傾けようとしない姿勢もはっきりと見て取れる。この現象は偶然ではなく、軍自体が時に自らを「力(fuerza)」として定義して行動していることを示している。

デルタフォース作戦指示はトランプの私邸から
ドナルド・トランプはニコラス・マドゥロを拘束するための作戦「絶対解決作戦(Operación Resolución Absoluta)」を、フロリダ州マイアミの自身の私邸から指揮した。作戦にはデルタフォース(Delta Force)の特殊部隊のほか、ヘリコプターや支援機が参加した。トランプ大統領はFox Newsのインタビューで、作戦について「皆さんが見たら、まるでテレビ番組を見ているかのようだ」ろうと語った。
作戦はマイアミに設置された指揮室で監視され、トランプ大統領に加えて、CIA長官ジョン・ラトクリフ(John Ratcliffe)、国務長官マルコ・ルビオ(Marco Rubio)、国防長官代理ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)、米統合参謀本部議長ダン・ケイン(Dan Caine)らも作戦の進行を見守った。ダン・ケイン議長は作戦について「作戦は慎重かつ正確に行われ、1月2日未明、最も暗い時間帯に実施された。数か月にわたる計画と訓練の集大成だ」と説明した。
作戦後、トランプ大統領は記者団に対し「安全で秩序ある移行が実現するまで、我々はベネズエラを指導する」と述べた。なお作戦の結果、マドゥロは拘束され、USSイオ・ジマ(USS Iwo Jima)に移送されたと報じられている。米当局は、マドゥロを「米国へのコカイン密輸を企てた共謀罪」で起訴する方針である。

マドゥロを拘束した米軍の精鋭部隊デルタフォースとは
米国が1月3日未明、ベネズエラ領内で奇襲攻撃を行った。その後米大統領ドナルド・トランプ(Donald Trump)は自ら同国大統領ニコラス・マドゥロとその妻シリア・フローレスが拘束したことを発表した。米国政府の関係者もCBSニュースに対し、この作戦が米国の主要特殊任務部隊の一つ、デルタフォース(Delta Force)によって実行されたことを語っている。
公式には「第一デルタ特殊作戦部隊(Primer Destacamento Operacional de las Fuerzas Especiales Delta)」として知られるデルタフォースは、高リスク任務を担う特殊作戦部隊であり、主な任務は、対テロ作戦、人質救出、米国にとって価値の高い目標の拘束または排除などである。部隊は厳密な秘密体制の下で作戦を遂行しているため、公的に任務が認められることは極めて稀である。
今回の作戦では、デルタフォースの特殊部隊が、安眠中のマドゥロ大統領とフローレスの自宅を暗闇の中で急襲した。精鋭兵で構成されたチームは、カリブ海の指導者が要塞化した居宅に侵入するという、まるでアクション映画のような作戦を実行した。装甲扉を打ち破り、マドゥロを警護していた多数の護衛(ガード・ペトロリアナ、Guardia petroriana)を制圧した。なお、マドゥロは米国の作戦に備えてキューバ人のボディガードを雇い、警備体制を強化していたという。
一般的なイメージでは、デルタフォースはハリウッド映画への登場により、容赦のないヒーロー集団として知られてきた。1986年にチャック・ノリス(Chuck Norris)が主演したアクション映画『The Delta Force』では、部隊は創設から10年も経っていなかった。また、この特殊部隊を題材とした人気のビデオゲームも多数制作されている。
しかし、デルタフォースは映画やゲームで描かれる以上に、現実の戦場で豊富な経験を有している。過去数十年にわたり、米国は同部隊をイラクでの軍事作戦に派遣してきた。初めての派遣は1991年で、2003年にも再度派遣され、その後も特定作戦のために断続的に活動してきたと『ワシントン・ポスト(The Washington Post)』は報じている。アルカイダ(Al Qaeda)がイラクに進出したことで、デルタフォースは同国で最も長期かつ持続的な作戦を展開する部隊の一つとなった。
デルタフォースは1979年、米国軍の救出・対応部隊として設立された。その背景には、当時世界的に増加していた国際テロ事件への対応という課題があった。部隊の最初期の任務の一つが、1980年に実行された「鷹の爪作戦(Operación Garra de Águila)」である。これは、イランの米国大使館で発生した人質事件の救出作戦だった。この作戦は成功には至らなかったものの、その経緯は後に複数の映画監督によって映画化されている。
デルタフォースは1993年に起きたいわゆるモガディシュの戦い(batalla de Mogadiscio、ソマリア)にも参加した。この作戦では18人の米兵が死亡し、その詳細は映画『ブラックホーク・ダウン(Black Hawk derribado)』によって広く知られることとなった。
さらに同部隊は、2003年にイラクの独裁者サダム・フセイン(Sadam Husein)を拘束する任務にも関与している。活動範囲は中東にとどまらず、ラテンアメリカでも作戦を展開し、コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバル(Pablo Escobar)や、パナマの独裁者マヌエル・ノリエガ(Manuel Noriega)の追跡にも関わってきた。また2014年7月には、シリアでイスラム国(Estado Islámico:ISIS)に拘束された米国人の救出を試みる作戦にも参加したが、これは成功しなかった。
数年前、『ワシントン・ポスト』は、この特殊部隊の役割を詳述した長文記事の中で、デルタフォースの存在は公式には機密扱いであるものの、事実上は「公然の秘密」であると指摘している。ノースカロライナ州のフォートブラッグ(Fort Bragg)で訓練を受けた兵士たちは、部隊に所属していた痕跡をほとんど残さない。
わずかに残された参加兵士の回顧録によれば、訓練を通じて彼らは「オペレーター(operadores)」として育成され、十分な事前計画がない状況であっても、戦闘地域や戦後の混乱した地域で作戦を遂行できる能力を身につけるという。任務によっては攻撃用の犬を伴って複合施設に突入することもあれば、完全に気付かれることなく潜入する作戦もあるとされている。
デルタフォースは、世界で最も訓練を受けた精鋭部隊の一つとされている。2019年には、ISISの元指導者アブ・バクル・アル=バグダディ(Abu Bakr al-Bagdadi)を殺害する任務にも参加しており、同部隊の隊員たちはISISに対する作戦キャンペーンにおいて主導的な役割を果たした。
さらに、デルタフォースは米国の国家安全保障上、特に重要と見なされる高価値目標に対する作戦を担う責任も負っている。同様に精鋭の部隊として、米軍にはネイビーシールズ(Navy SEAL)が存在する。ネイビーシールズは2011年、パキスタンでオサマ・ビンラディン(Osama Bin Laden)の殺害作戦を主導し、時にはデルタフォースを凌ぐ注目を集めることもある。
コロンビア大統領、自身への報復について「心配していない」
米国大統領ドナルド・トランプは、ベネズエラへの攻撃が行われた同日の土曜日、コロンビア大統領グスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)に対する脅しを改めて繰り返した。フロリダ州の私邸マル・ア・ラゴ(Mar-a-Lago)で行われた記者会見で、トランプは「12月の最初の声明を繰り返す。彼はコカインを生産し、それを米国に送っている。だから尻に気をつけたほうがいい」と述べた。
これに先立つ数時間前、ペトロ大統領は米国によるベネズエラへの攻撃を非難し、ワシントンから自身に向けられる可能性のある行動について「心配していない」と断言している。しすて「隠すことなど何もない」と述べた。
トランプはここ数か月、ラテンアメリカで最も声高な批判者の一人であるペトロに対し、侮辱と脅迫を繰り返してきた。10月中旬にはペトロを「麻薬取引の指導者であり、コロンビア全土の大小さまざまな地域で大量の薬物生産を奨励している」と非難したが、いかなる証拠も提示しなかった。これに対してペトロは、自身こそコロンビアで最も麻薬組織と闘ってきた人物であり、トランプは側近に欺かれていると反論した。
さらに数日後、トランプは侮辱を重ね、ペトロを「ごろつき(a thug)」や「悪い人間」と呼んだ。12月には脅しをエスカレートさせ「[ペトロは]注意したほうがいい。薬物工場を持っているのだから」と発言している。
トランプは数週間前、ベネズエラとの緊張が高まる中で、コロンビアに対する攻撃の可能性にも言及していた。トランプは「コロンビアがコカインを生産し、製造施設を持っていると聞いている。そしてそれを我々に売っている。そうしたことを行い、我が国に売る者は、必ずしもベネズエラだけでなく、攻撃の対象になり得る」と述べている。
これに対し、コロンビア大統領グスタボ・ペトロは強く反発し「私と一緒に来れば、40分ごとにラボを破壊する方法をお見せしよう。しかし、我々の主権を脅かすな。それはジャガーを目覚めさせる。主権への攻撃は宣戦布告に等しい。200年に及ぶ外交関係を損なうな。すでに中傷は受けた。これ以上続けるな。米国人が消費しないよう、何千トンものコカインの阻止に貢献してきた国があるとすれば、それはコロンビアである」と述べた。
これまで抽象的、あるいは遠い話のように受け止められてきたこうした脅しは、ワシントンによるカラカス(Caracas)への攻撃と、ベネズエラ大統領ニコラス・マドゥロの拘束が行われたこの土曜日未明を境に、急速に現実味を帯びることとなった。
トランプはマル・ア・ラゴでの記者会見において、必要であれば第二の作戦も排除しないと述べ、さらに米国は「安全で秩序ある移行が実現するまでベネズエラを指導する」と明言した。
#GustavoPetro #DonaldTrump #NicolásMaduro #主権侵害
参考資料:
1. Los militares venezolanos, la fuente de poder del chavismo que no frenó la captura de Maduro
2. La Delta Force, la unidad de élite del ejército estadounidense que ha capturado a Maduro
3. Trump amenaza a Petro tras la captura de Maduro: “Será mejor que se cuide”
4. La operación de Estados Unidos para detener a Nicolás Maduro vista desde Miami, en imágenes

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