スイス・ダボスで2026年1月20日から開催された第56回世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)年次総会に出席したエクアドルのダニエル・ノボア大統領(Daniel Noboa Azín)は、ラテンアメリカの政治・経済状況について率直な見解を示した。ノボア大統領は「ラテンアメリカの問題は資源の不足ではなく、制度への信頼の欠如である」と述べ、地域全体の制度的不信の克服が重要であると訴えた。
大統領は、パネル討論「ラテンアメリカにおける信頼の再構築(Rebuilding Trust in Latin America)」に参加し、政治、企業、学術のリーダーとともに地域の課題を議論した。ノボア大統領は、政府が権力維持のために対立を煽り、投資が流出し、市民の信頼が低下する状況を指摘。「政府が抑圧、検閲、権力にしがみつくとき、投資は流出し、市民は希望を失う」と述べ、透明性と民主的プロセスの重要性を強調した。
フォーラムでは、ノボア大統領とエクアドル政府が投資や国際協力を促進するための会談も行った。国際金融公社(International Finance Corporation:IFC)や米州開発銀行(Banco Interamericano de Desarrollo:BID)との協議を通じ、エクアドルを投資・協力の受け入れ先として積極的に位置づける意図が示された。ノボア大統領は、安定した民主主義、法的安定性、明確なルールの重要性を改めて訴えた。WEFラテンアメリカ担当ディレクター、マリソル・アルゲタ(Marisol Argueta)は、「ノボア大統領は安定、治安、繁栄に関心を持つ新世代のラテンアメリカ指導者の声を代表している」と評価している。
ノボア大統領は、自身の政権が進める政策を紹介しつつ、エクアドルが歴史的に多くのベネズエラ人移民を受け入れてきたことを強調した。また、治安については、約6万5,000人とされる組織化された犯罪・テロ集団との戦いが国家的な課題であり、従来の枠組みでは対応が困難であるとの認識を示した。
そのうえでノボア大統領は、社会的安定と制度への信頼を高めるために、貧困の削減と若年層の雇用創出を重要な政策課題として位置づけた。ノボア大統領は、ラテンアメリカの人口の約43%を若年層が占めると指摘し、若者の生活水準の向上に資する公共政策の必要性を訴えた。
討論ではまた、政治的な分極化や市民の要求に効果的に応える必要性が議論された。参加者らは、市民に信頼される制度の構築が地域の安定と信頼性に不可欠との見解を共有した。
国際企業・金融機関との協議で経済発展を推進
ノボア大統領は、国際的な食品企業カーギル(Cargill)のデイビッド・ウェブスター(David Webster)副社長兼リスクマネジメント責任者と会談し、農村開発、農業技術の導入、持続可能なバリューチェーンの強化など、エクアドルにおける戦略的投資の可能性を議論した。カーギルは国内のエビ養殖産業向け主要食品供給者として重要な役割を果たしており、政府は同社との連携が食料安全保障や小規模・中規模生産者への技術移転・研修促進に不可欠であると説明した。
さらに、米州開発銀行(BID)総裁イラン・ゴールドファイン(Ilan Goldfajn)との会談では、社会開発の促進、公共投資の強化、雇用創出、戦略的プロジェクトの推進などが協議され、住宅アクセス支援プログラム「Miti-Miti」などへの資金提供も確認された。また、国際金融公社(IFC)総裁マクター・ディオプ(Makhtar Diop)との会談では、民間投資誘致や資本動員、経済の重要分野への技術支援が議論され、政府は民間部門の強化が持続可能な経済成長と雇用創出に不可欠であると強調した。
エクアドルの国際的信頼性をアピール
フォーラム初日には、国際通貨基金(International Monetary Fund:IMF)専務理事クリスタリナ・ゲオルギエワ(Kristalina Georgieva)との会談や、「ラテンアメリカの投資フロンティアの変革(Transforming Latin America’s Investment Frontier)」フォーラムでの発言を行った。
2日目には、パランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies)CEOアレックス・カープ(Alex Karp)、米州開発銀行(BID)総裁ゴールドファイン、ビザ(Visa)CEOライアン・マキナニー(Ryan McInerney)との会談や、非公式昼食会「分断された世界における対話精神の回復(Restoring a Spirit of Dialogue in a Divided World)」にも参加した。さらに、シクパ(Sicpa)CEOフィリップ・アモン(Philippe Amon)、パナマ大統領ホセ・ラウル・ムリノ(José Raúl Mulino)、イスラエル大統領イツハク・ヘルツォグ(Isaac Herzog)との会談も行った。
最終日には、シンガポール大統領サーマン・シャンムガラトナム(Tharman Shanmugaratnam)との会談、「ジェンダー・スプリント・チャンピオン会合(Meeting of the Gender Sprint Champions)」への参加、「若手国家元首・政治指導者によるリーダーシップの省察(Leadership Reflections from Young Heads of State and Political Leaders)」フォーラムでの発言、さらにDPワールド(DP World)CEOスルタン・アフメド・ビン・スレイエム(Sultan Ahmed bin Sulayem)、世界銀行総裁アジャイ・バンガ(Ajay S. Banga)、欧州刑事警察機構(Europol)長官カトリーヌ・デ・ボル(Catherine De Bolle)との会談も行う予定である。
ノボア大統領は、ダボスでの一連の活動を通じて、エクアドルを投資に開かれた国、明確なルールと民主的価値に基づく開発を目指す国として国際社会に示すことを目的としている。
ベネズエラ情勢と治安問題への見解を示す
2026年1月20日、ダボスでダニエル・ノボアは、ベネズエラ情勢や自国の治安問題について自身の見解を述べている。ノボア大統領は、米国による軍事作戦でニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)前ベネズエラ大統領が失脚した経緯に触れ、「最善の方法だったとは言えないかもしれない」と評価しつつも、「結果としてベネズエラ国民に希望をもたらした」との認識を示した。同大統領は、中南米をテーマとしたパネル討論の中で、「より良い形を思い描くことはできたかもしれない。しかし現実として、人々はいま希望を見いだし、トンネルの先に光を見ている」と述べ、希望の回復を強調した。これは、ベネズエラの国民が選挙でエドムンド・ゴンサレス(Edmundo González)を大統領として選出したにもかかわらず、その結果が独裁体制によって尊重されなかったとする認識に基づくものである。
ノボア大統領はまた、エクアドルには約50万人のベネズエラ人が居住していると述べ、「その多くが、今回のマドゥロ失脚という結果を非常に喜んでいる」と語った。
一方で、ノボア大統領は自国が直面する治安問題にも言及した。エクアドルの治安状況は単なる犯罪ではなく、「テロとの戦争」であると強調した。大統領は、「我々はテロリズムとの戦時下にある。相手は単なるギャングではなく、組織化された麻薬テロ集団である。武装した構成員は約6万5,000人にのぼり、従来型の方法で戦うのは極めて困難だ」と述べた。また、「この戦争は街頭だけで行われているのではない。司法の場、メディア、そしてソーシャルメディアにまで及んでいる。これは悪と麻薬テロに対する全面的な戦いである」と述べ、長期的かつ多面的な対応の必要性を訴えた。
次の訪問先はベルギー
スイスでの日程終了後、ノボア大統領は外相のガブリエラ・ゾンマーフェルト(Gabriela Sommerfeld)とともにベルギーを公式訪問する。今回の訪問では、二国間関係の強化に加え、欧州連合(EU)諸機関との政治対話および協力関係の深化が図られる予定である。
ベルギーでの協議では、国境を越えた組織犯罪への対策を中心に、安全保障および司法分野での協力が国家的優先課題として取り上げられる見通しである。
外務省によれば、この訪問はまた、漁業、養殖業、農業関連産業といった分野におけるエクアドルの競争力を国際的に発信する機会ともなる。加えて、ブルーエコノミー、再生可能エネルギー、港湾物流分野における持続可能な投資の促進も重要な目的とされている。
同省は今回の外遊について、多国間主義を重視し、戦略的パートナーシップの構築を通じて国家の包括的かつ持続的な発展を確保する「積極的かつ能動的な外交政策」の一環であると説明している。
参考資料:
1. Daniel Noboa opina que la forma de sacar a Maduro quizás no fue la mejor, pero generó esperanza
2. Daniel Noboa en Davos 2026: encuentros con bancos multilaterales y CEO globales marcan la agenda
3. Daniel Noboa en Davos: ‘El problema de América Latina no es falta de recursos, es falta de confianza en sus instituciones’

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