(Photo:JUAN IGNACIO RONCORONI / EFE)
アルゼンチンのハビエル・ミレイ(Javier Milei)大統領は、チリ大統領選挙の決選投票を前に、超保守派候補のホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast)を支持する意向をSNSで表明した。決選投票は12月14日(日)に、カストと共産党のジャンネット・ハラ(Jeannette Jara)の間で行われる。
カストはミレイと会談し、ラテンアメリカの大きな可能性や、チリとアルゼンチンの間で「自由、安全、経済的進歩を拡大する未来」に向けた協力の重要性で一致したと述べた。カストが大統領に選出されれば、ミレイにとって地域における重要な同盟国が誕生することになる。
ミレイが2023年末に大統領に就任した時、アメリカ大陸の主要7経済国(米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、コロンビア、チリ)の中で、保守政権を率いる唯一の指導者であった。ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の当選は両国間の関係を強化し、理念的な親和性を背景に連携を深めた。昨年10月には、トランプが中間選挙前の金融危機からミレイを救済する措置を取った。
カストの当選は、米アルゼンチン間の金融的支援ほど大きな影響は及ぼさないものの、アルゼンチンと5000キロ以上の国境を接する隣国チリにおける象徴的な政治的転換として、ミレイにとって重要な意味を持つことになる。
アルゼンチン大統領とチリのガブリエル・ボリッチ(Gabriel Boric)大統領の関係は、ミレイ政権の前半を通じて冷たく、度重なる軋轢に悩まされてきた。選挙戦中、超保守派候補ミレイはボリッチを「国を貧しくする人物」と呼び、経済相ルイス・カプト(Luis Caputo)は数か月後、ボリッチを「チリを沈めようとする共産主義者」と発言した。この発言に対し、ボリッチは2022年のボリビア大統領ロドリゴ・パス(Rodrigo Paz)就任式でミレイと対面した際、椅子に座ったまま握手を交わすにとどめ、礼を欠かすことなく冷静な態度を示した。
一方、ミレイとカストとの関係は良好である。両者の接点は2022年、サンパウロで行われた保守系政治会議で初めて生まれた。カストは選挙期間中、「ミレイはチリを停滞から脱却させるためのインスピレーションであり模範だ」と語っている。
もし両者が政権を握れば、互いのジェスチャーや政策協力はさらに活発化する可能性がある。実際、ミレイの経済政策の一部はチリをモデルとしており、教育改革や国道建設・運営への民間資本導入などでその影響が見られる。
チリで親米保守政権誕生なら安全保障分野での協力拡大も
政治学者フアン・ネグリ(Juan Negri)によれば、もしチリでアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領と親和性の高い政府が誕生すれば、「言説上の統合を追求する動き」が生まれる可能性があるという。しかし、実際にはそのプロセスは不確実であり、時間もかかる。
それでも、安全保障など双方の優先課題での協力は拡大する可能性がある。ミレイとチリの候補者ホセ・アントニオ・カストはともに、犯罪対策の強化や犯罪者の国外追放、国境管理の強化を支持している。また、国内においても、南部の先住民による土地要求への対応で、両国間の連携が進む可能性がある。
ネグリは、「最近の選挙で勝利しているラテンアメリカの右派は、地域全体で構造的な運動があるからではなく、国内の要因で勝っている」と分析する。彼によれば、エルサルバドル大統領ナジブ・ブケレ(Nayib Bukele)、ミレイ、カストの間には、ブラジル大統領ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ(Luiz Inácio Lula da Silva)、アルゼンチン元大統領ネストル・キルチネル(Néstor Kirchner)、ベネズエラ元大統領ウゴ・チャベス(Hugo Chávez)のような21世紀初頭の中左派による地域構築やラテンアメリカのアイデンティティ創出のプロジェクトは存在しない。「彼らに共通するのはドナルド・トランプへの親和性であり、地域よりも米国を重視している」と述べている。
ハビエル・ミレイにとって、ホセ・アントニオ・カストの勝利の主な効果は宣伝上のものである。これにより、自身の思想がラテンアメリカ大陸全体に広がっているというメッセージが強化される。また、来年のコロンビアやペルーの大統領選挙で、模倣効果が生じる可能性もある。
カストはエルサルバドルを訪れ、ナジブ・ブケレのモデルを直接視察した。また、アルゼンチンの元安全保障大臣パトリシア・ブルリッチ(Patricia Bullrich)も同様の行動を取った。さらに、選挙戦略、特にデジタル戦略において協力が拡大している。新しい大統領が成功を収めれば、他国でも同様の右派政治家が出現し、ラテンアメリカの新しい右派の波に乗る可能性が高いと見られる。
チリ、独裁時代以来最も右派色の強い大統領誕生の可能性
日曜日の投票を控え、極右の元下院議員ホセ・アントニオ・カストに対して批判的な有権者でさえ、過去2回の選挙で敗北した過激な政策が、今や次期大統領の座をほぼ確実にする状況にあると見ている。
大統領決選投票において、共産主義者のジャンネット・ハラを大きくリードしているカストの支持率は、移民の大量追放を掲げる強硬派が、かつて独裁後の民主主義復興の中で封じ込められてきた政治勢力の後継者として右派の座を握ったことを示している。
一方で、有権者の間には失望感も広がっている。チリの政治の方向性は依然として不確定である。
カストの民意の正当性は、先月の第一回投票でわずかに敗れた中道左派の与党候補ジャンネット・ハラに対する、日曜日の勝利の幅にかかっている。第一回投票では右派各党が約70%の票を獲得したが、カストの「ファシズム」の代替として自身を位置づけた中道右派ポピュリスト候補への支持も多く、中道有権者が十分に代表されていない現実も浮き彫りになった。
「両方とも私には極端すぎる」と語るのは、44歳のフアン・カルロス・ピレオ(Juan Carlos Pileo)である。チリでは投票が義務化されているため、日曜日は白票を投じる予定である。「共産主義者だと言う人を中道派として信頼できない。犯罪の多さを誇張し、移民のせいにする人を公平で敬意ある人物とは思えない」と述べた。
カスト、期待は高まるも現実は厳しい
米国大統領ドナルド・トランプを敬愛するカストが掲げる壮大な公約を実行できるかは未知数である。
彼の公約には、わずか18か月で60億ドルの公的支出を削減しつつ社会保障を維持すること、合法的な身分を持たない30万人以上の移民をチリから強制送還すること、組織犯罪と戦うために軍の権限を拡大することなどが含まれる。チリは1973年から1990年にかけてアウグスト・ピノチェト(Augusto Pinochet)の血塗られた軍事独裁の影響をいまだに引きずっている国である。
しかし、カストの極右・共和党(Republican Party)は議会で過半数を占めていない。そのため、彼の提案に反発する可能性のある中道右派勢力と交渉せざるを得ず、政策や自身の政治的評価に大きな影響を与えることになる。
政治的妥協はカストの過激さを和らげる可能性がある一方、法と秩序を掲げるキャンペーンで迅速な成果を期待する有権者との関係を危うくするリスクもある。
選挙活動の場では、カストはチリ大統領就任式の3月11日までの日数を数え上げ、有権者に「背中に服しか持たずに立ち去ることになる前に行動すべきだ」と警告している。
サンティアゴ中心部の銀行家、ホルヘ・ルビオ(Jorge Rubio、63歳)は「私も日数を数えている」と語り、「だからこそカストに投票する」と明言した。
犯罪と移民問題がすべてを覆う
ガブリエル・ボリッチ政権における前労働大臣であるジャンネット・ハラは、政権下で最も重要な福祉政策を成立させたことで人気を集めた。
しかし、現在ではそれはほとんど意味を持たない。有権者の関心は安全保障と移民問題に集中しており、ハラは方針転換を余儀なくされた。彼女は国境警備の強化、不法移民の登録、マネーロンダリング対策、警察の強化捜査を約束している。だが、治安回復の約束は、長年安全保障を主要課題として掲げてきたアウトサイダー候補のほうが説得力を持つ。
「カストは移民と治安問題に焦点を当てることで、非常に賢く戦略的であった」と、ボリッチの初代首席補佐官で社会学者のルシア・ダマート(Lucía Dammert)は述べる。「ハラ陣営が彼をこれらの課題から離れさせるのは非常に困難である。」
過去2回の大統領選失敗を踏まえ、カストは批判を招くテーマを避けてきた。ドイツ生まれの父親のナチス関与、ピノチェト独裁へのノスタルジー、同性婚や中絶への反対などがそれである。
質問に対し、カストは自身の価値観は変わっていないと語る。社会的保守主義ゆえに以前は彼を支持しなかった有権者も、抽象的な人権問題よりもまず街の安全が必要だと考えるようになったという。
ドミニカ共和国出身の27歳移民ナタチャ・フェリス(Natacha Feliz)は、「不法移民の親が自己退去しなければ、子どもを国家に引き渡さなければならない」とのカストの発言に触れ、「子どもを親から引き離すというのは悲しいことで、私にとって問題だ」と語った。
ただし彼女は続けて、「しかしこれはチリだけの問題ではない。治安状況が改善されることを願うだけである」と述べた。
#チリ大統領選挙2025 #AntonioKast #GabrielBoric
参考資料:
1. Milei se ilusiona con tener un gobierno afín en Chile
2. Chile holds an election that could deliver its most right-wing president since dictatorship


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