チリ大統領選挙2025:ペルー国境にける両者の緊張と選挙への影響

(Photo:El Mercurio)

チリとペルー国境での危機は、ここ数時間である程度管理されているものの、状況は依然として複雑とされている。隣国へ渡ることができない移民だけでなく、政府当局にとっても困難な状況が続いているからだ。チリ北部国境の保護措置を監督するため、内務副大臣ヴィクトル・ラモス(Víctor Ramos)と公共安全副大臣ラファエル・コジャド(Rafael Collado)が現地に赴いた。

同時に、外務大臣アルベルト・ヴァン・クラヴェレン(Alberto Van Klaveren)は、ペルー外務省との合意に基づき、12月1日(月)から二国間移民協力委員会(Comité Binacional de Cooperación Migratoria)が開催されることを明らかにした。しかし、移民危機が依然として市民の懸念の中心となっている中、両大統領候補であるホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast)と与党候補ジャンネット・ハラ(Jeannette Jara)は、それぞれ大統領および政府に対し、迅速かつ具体的な解決策を求めている。

 

最近、ペルーのメディアは、チリから隣国との国境へ向かう移民の増加を報じている。背景には、共和党(Republicanos)の大統領候補ホセ・アントニオ・カストの警告があるとペルーの一部メディアは報じている。カストは、移民に対しチリからの強制退去日を彼が大統領に就く日と、すなわち2026年3月11日までとしており、これがベネズエラ人や一部コロンビア人がチリからペルー国境に向かう動きの一因となっている。

あるベネズエラ(Venezuela)出身の移民は、匿名でデジタルメディア「The Clinic」に対し、「私たちはペルーに入ることを許されていない。一方、強制的に追い出されるのではないかと恐れている」と語った。また、ペルーのラジオ局「Radio Tacna」は、国境付近の道路で子どもを抱える移民たちの映像を報じた。

一方、チリ公共安全大臣ルイス・コルデロ(Luis Cordero)は、最近の国外への移動が「異常な流れ」ではないと述べ、ペルーの軍事化措置もチリとの国境だけでなく他国境でも行われていると指摘した。また、チリ北部アリカ(Arica)市長オーランド・バルガス(Orlando Vargas)は、「自治体として異常な移民流出は確認していない」と述べつつ、ペルー側の厳しい国境管理により、移民が国境で足止めされる可能性を懸念した。

これに関連して、ペルー暫定大統領ホセ・ヘリ(José Jerí)は、同国での治安悪化の主因として国境管理の不十分さを挙げ、南部国境の警備強化のため軍の支援を要請すると発表した。これに伴い、ヘリは、チリとの国境に面する州で非常事態を宣言し、国境を「漏斗」として管理する方針を発表した。ヘリはX(旧Twitter)で「我々の国境を放置しておくわけにはいかない。国家は現実的なプレゼンスを示し、影響と発展をもたらす必要がある」と述べた。ペルー側は移入する人々を見極める目的で入国管理を12月1日(月)から強化している。ホセ・アントニオ・カストは自らの言動で移民危機を生み出している一方で、政府に対してそれに対する迅速な対応を求めている。

カストは、自身の発言をきっかけとしたペルーへの移入や、ペルー暫定大統領ホセ・ヘリによるチリ国境の軍事強化発表を受け、「ペルーは短時間で例外的な措置を取り、チリからの移民流出に対応した。これは、将来のチリ大統領候補の発言を聞き、自主的に出国する者が増えたことによる」と説明した。また、ガブリエル・ボリッチ大統領(Gabriel Boric)に対し、アリカへ赴いて現地で対応するよう強く求めた。

カストが12月1日に述べた内容は次の通りである。「大統領は本日、マガジャネス(Magallanes)に到着したはずだ。この予期せぬ状況には、大統領自身とアリカの治安・移民担当者の現地での対応が必要である。これこそが『現場に立つ大統領』であり、発生する問題に責任を持つ大統領の姿である」。さらにカストは、「ペルーがどのような対応を取るかは予測できなかった。しかし現状に直面して、大統領が責任を持つことが不可欠である。大統領は任期最後の日まで、最後の瞬間まで統治すると述べていたではないか」と述べた。

カストは先週金曜日にも、大統領に現地対応を求めている。X(旧Twitter)の動画では次のように述べている。「ペルー国境での移民危機は拡大しており、ボリッチ大統領はまだ反応していない。北部のアリカでは国境問題が非常に複雑である。もし報告を受けていなければ、側近に状況を伝えるよう指示してほしい。状況は極めて深刻であり、本日中にプンタ・アレナス(Punta Arenas)からアリカに飛び、大統領自ら対応すべきである」。一方、カストは自身が大統領に就任した際には、書類なき移民に対して強制的な排除を行うとして圧力をかけている。

アリカ・パリナコタ(Arica y Parinacota)地域の知事ディエゴ・パコ(Diego Paco)も、チリのガブリエル・ボリッチ大統領に現地視察を呼びかけた。「サンタ・ロサ(Santa Rosa)とチャカユータ(Chacalluta)の国境で毎日多くの人々が入国・出国を試みており、子どもまでパスポート代わりに利用され、麻薬取引や不法移民の問題が発生している」と警告した。

移民団体の報告では、出国希望者の多くはベネズエラ国籍であるが、チリ・ベネズエラ・コマンド代表アレクサンダー・マイタ(Alexander Maita)は、「現在のところ、第二回投票を理由にチリを離れるベネズエラ人はいない」と述べた。正当に生活しているベネズエラ人は、カストの発言は犯罪に関与した一部の書類なき移民を対象としており、合法的に暮らすコミュニティには関係がないと説明した。また、ほとんどのベネズエラ人は、将来ニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)政権が終わった後に母国へ戻ることを計画しており、現在はチリでの安定と機会を享受していると語った。

一方、与党候補のジャンネット・ハラ(Jeannette Jara)も、国境危機に対して政府に「今すぐ行動する」よう強く求めた。彼女は大統領選挙の1回目投票終盤以来、政府から距離を置く戦略を採っている。ハラは自身のX(旧Twitter)アカウントで「ペルー国境での状況は直ちに解決されなければならず、政府は即座に行動すべきである」と述べている。解決策としてハラが提示するのは、「我が国からの秩序ある安全な退去が必要である。これは二国間の問題であり、事態のエスカレートを防ぐ唯一の方法は、両国間の緊急かつ効果的な協調にある」ということだ。さらにハラは、「決断と迅速さをもって、具体的な解決策を講じる必要がある」と結論づけている。

アルカ・パリナコタ(Arica y Parinacota)選出の上院議員で、中道右派民主進歩党(Partido Liberal)所属のブラド・ミロセビッチ(Vlado Mirosevic)は、X(旧Twitter)で動画を公開し、北部での移民危機に対応するため「人道的回廊(corredor humanitario)」の設置を呼びかけた。ミロセビッチは「この回廊を通じて、チリに滞在しているが母国に帰りたい移民、特にベネズエラ人が、安全に出国できるようにする。彼らはペルーで受け入れられ、その後エクアドルを経て最終的にベネズエラに戻ることを目的としている。」と述べている。さらに同議員は、「この提案の目的は、チリを出たい人が人道的な条件で母国に帰れるようにすることである。ペルー国境で問題が生じないよう、整備された環境を提供することが不可欠である」と強調した。加えてミロセビッチは、チリ外務省に対し、ペルーをはじめ北部諸国とも即座に協議し、このような人道的回廊の合意を締結するよう求めた。これにより、移民家族が安全かつ秩序立った方法で母国に帰還できるとしている。

 

移民危機が与える選挙上の影響

国境危機が選挙戦と絡む中、各候補が取った行動に対する政治的コストや利得(réditos)が注目されている。Emolの取材によれば、ホセ・アントニオ・カストがより利益を得ている一方で、ジャンネット・ハラにも限定的なチャンスがあるという。

アンドレス・ベジョ大学(Universidad Andrés Bello:UNAB)の政治アナリスト、フェリペ・ベルガラ(Felipe Vergara)は次のように解説する。「国境の緊張は双方に読み取りの余地と機会を与える。カストの場合は、移民に関するメッセージを強化し、違法滞在者は出国するという姿勢を際立たせられる。ハラの場合は、移民問題の人道的側面、例えば母子の分離リスクなどに注目を集める機会となる」。ベルガラはさらに次の注意点を指摘する。「移民について理論的に語ることと、現実の状況を見ることは異なる。隣国による国境管理は書類なき移民の増加を防ぐが、同時に出国も制限される。さらにベネズエラなどへ航空便で送り返すことができない場合、カストの提案の実現は複雑になる。この点がハラにとっての戦術的チャンスとなる」。

一方、財団Piensa(Fundación Piensa)のエグゼクティブ・ディレクター、フアン・パブロ・ロドリゲス(Juan Pablo Rodríguez)は、選挙的観点から国境での移民緊張が決選投票において最も重要な出来事であると指摘する。「政治的支援の拡大よりも、選挙2週間前に市民にとって重要なテーマを中心に議論が移ったことが注目すべき点である。さらに、両候補はこの問題で明確に異なる立場を示している」。ロドリゲスは続けて次のように説明する。「この状況は明確にカストに有利である。書類なき移民対策において長年一貫した発言をしており、国境封鎖や違法滞在者への制裁といった具体的計画を提示しているため、信頼性のある立場と評価される」。一方、ジャンネット・ハラについては、過去の左派としての移民政策や「移民の権利は無制限」とする立場、異なる意見を排斥する歴史から、最近の厳しい発言は信頼性に欠けるとの分析がある。例えば、2019年にはハラ氏は「ラテンアメリカは一つの祖国であるべきで、国境は存在すべきでない」と述べていた。

最後に、チリ大学(Universidad de Chile)の政治アナリスト、ミゲル・アンヘル・ロペス(Miguel Ángel López)も現状ではカストが有利であり、特に不法移民に対する直接的な呼びかけが選挙戦で利益をもたらしていると指摘する。「まだ決選投票は行われておらず、カストは大統領ではないが、この時点で既に公約の一部を実行しているように見える。不法移民に自発的に出国する機会を与えることで、支持を固める効果がある」と述べた。

 

ペルーによる南部国境の軍事強化計画

ペルー暫定大統領ホセ・ヘリは、「我が国の国境は尊重される」と述べ、11月30日、タクナ(Tacna)地域を訪問した。同地で大統領は、初めて非常事態計画に言及し、南部国境の軍事化により国内で蔓延する暴力を抑制する意向を示した。この暴力の主因は、国境管理の不十分さにあると指摘している。また、警察と移民局が身元確認を強化すると表明した。

現時点では軍の展開はまだ実施されていないが、ペルー当局は一部地域で国境管理を強化しており、チリとの国境も含まれる。11月28日(金)には緊張が高まり、チリ政府は地域での新たな人道的危機を避けるため、外交的対話を強化した。

タクナ警察署長アルトゥーロ・バルベルデ(Arturo Valverde)将軍は、非常事態宣言を待ちながら国境での警備を増強したと述べている。バルベルデ署長はテレビ局カナルN(Canal N)に対し、「多くの書類なき外国人が我が国に入ろうとしており、これは現実の問題である。不法滞在者やパスポート・ビザを持たない者は入国できない」と語った。

国際移住機関(Organización Internacional para las Migraciones:OIM)の統計によると、世界で約790万人のベネズエラ人が母国を離れて生活しており、これは世界で2番目に大きな移住の流れである。チリには約70万人、ペルーには約150万人が居住している。南米地域で最も多く受け入れている国はコロンビアで、約280万人が暮らしている。

なお、ペルーは2023年4月、チリからの移民到来に対応するため、2か月間の非常事態宣言と国境の軍事化を実施した。当時、軍は警察の内部管理業務を支援していた。

#チリ大統領選挙2025 #AntonioKast #GabrielBoric

 

参考資料:

1. Tensión en la frontera en clave electoral: Expertos ponderan costos y “réditos” para Kast y Jara
2. Crisis migratoria: Kast insiste en que Boric viaje a frontera y diputado Mirosevic pide “corredor humanitario”
3. Sube la tensión en la frontera entre Chile y Perú por la crisis migratoria
4. ¿Éxodo de migrantes desde Chile?: Lo que dicen los medios peruanos y la negativa de las autoridades

 

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