チリ大統領選挙2025:過去の独裁政権を支持するアントニオ・カストが次期大統領として有力

(Photo:EL PAIS / AGENCIAS)

左派候補のジャンネット・ハラ(Jeannette Jara)と、共和党(Partido Republicano)のホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast)が、12月14日に行われる決選投票で次期チリ大統領の座を争うことになっている。暫定公式データ(開票率99.9%)によれば、第一回投票ではハラが26.8%を獲得して首位となり、カストが23.9%だった。

第一回投票では今回が3度目の大統領選出馬である人民党(Partido de la Gente:PDG)のフランコ・パリシ(Franco Parisi)は世論調査の予測を超えて支持を伸ばし健闘し、19.7%の得票を得た。キャンペーン序盤、アルゼンチンのハビエル・ミレイ(Javier Milei)を模倣するかのようにチェーンソーを掲げたり、妹を中心的存在として前面に出したパリシは、その路線がすでにヨハネス・カイザー(Johannes Kaiser)に占められていると判断すると、「脱イデオロギー型ポピュリズム(populismo desideologizado)」へと方向転換した。具体的には、公教育への財政支援や医療の待機リスト解消といった社会政策を掲げる一方で、移民政策や治安対策では強硬な立場を取るという“混合路線”を採用した。さらに、パメラ・ヒレス(Pamela Jiles)を取り込んだことで、負債返済を目的とした「年金基金引き出し(retiro de los fondos de pensiones)」政策を維持できた。スローガンは「極右でも極左でもない(ni facho, ni comunacho)」で、政治的に無党派化した層を引きつけることに成功した。前回大統領選ではパリシ自身は第二回投票でホセ・アントニオ・カスト支持を表明したものの、実際には有権者の多くがガブリエル・ボリッチ(Gabriel Boric)に投票した。今回の選挙ではパリシは、エリート層や「クイコス(cuicos:富裕層)」への批判を強め、右派候補よりもジャンネット・ハラに対して比較的好意的な姿勢を示した。ハラの“努力の軌跡”を評価しているとも語っている。しかしパリシは、自身の支持層に自由投票を認めている。

一方のヨハネス・カイザー(Johannes Kaiser)はカストを上回れず13.9%にとどまり、カストとの差は10ポイントに広がった。エブリン・マッテイ(Evelyn Matthei)は12.5%しか得票できず大敗した。

独立系候補では、ハロルド・マイネ=ニコルス(Harold Mayne-Nicholls、1.3%)、マルコ・エンリケス=オミナミ(Marco Enríquez-Ominami、1.2%)、エドゥアルド・アルテス(Eduardo Artés、0.7%)が合わせてわずか3%強にとどまり、左派・中道左派勢力は現代チリ政治で歴史的に低い得票率となり、有権者の30%を超えられなかった。

ジャンネット・ハラは第一回投票で首位となったが、期待された結果には届かなかった。本来望ましい結果とは、第一回憲法草案国民投票における「承認(Apruebo)」が得た38%前後に近づくか、あるいは決選投票(balotaje)に進む候補に対して10ポイント以上の差をつけることであった。しかし、実際の得票は26.8%にとどまり、ハロルド・マイネ=ニコルス(Harold Mayne-Nicholls)、マルコ・エンリケス=オミナミ(Marco Enríquez-Ominami)、エドゥアルド・アルテス(Eduardo Artés)の得票を加えても、全体で30%程度にしかならない。

この数字が意味するのは、第二回投票で勝つためには、フランコ・パリシ(Franco Parisi)が獲得した票、さらにはエブリン・マッテイ(Evelyn Matthei)を支持したコンセルタシオン(Concertación)系の伝統的支持層の一部に訴えかける必要があるということだ。もっとも、候補者の得票は完全に移動するわけではなく、第一回投票での結果をそのまま機械的に合算して第二回投票を予測できるわけではない。とはいえ、この状況を踏まえれば、ジャンネット・ハラにとって第二回投票の戦いは厳しいものになると言わざるをえない。実際マッテイとカイザーは選挙戦ではカストとは距離を取る姿勢も見せていたが、最終的には「共産主義者の候補(candidata comunista)を止める」という名目でカスト支持を表明している。これは、選挙直前にエボポリ(Evópoli)やチリ・バモス(Chile Vamos)のリベラル右派が、「カストは民主主義への脅威だ」と批判していたのとは対照的である。一方のパリシは自由投票を認めている。

ジャンネット・ハラの候補者像は、ここ数週間で差別化を図ろうとした努力にもかかわらず、ガブリエル・ボリッチ政権の継続路線として受け止められている。実際、彼女の得票率は政権の支持率に近い水準となっている。これは大きな足かせとなった。というのも、好調なマクロ経済指標があるにもかかわらず、ボリッチ政権は大統領選で掲げた改革を実現できず、自らの色を十分に出せないまま別の路線のプログラムを受け継いでしまったためである。これにより国民の広範な失望が生まれた。さらに、右派による「文化戦争(batalla cultural)」の攻勢も状況を悪化させた。右派は、チリは経済的にも治安面でも崩壊寸前だと強調し、これに対抗するメディア環境を政府が整備できなかったため、その言説が社会の広い層に深く浸透してしまったのである。

 

今回選挙の特異性

今回のチリ大統領選挙は、いくつかの理由で前例のないものであった。現職大統領ガブリエル・ボリッチの政権を支持する中道左派は、予備選を経て初めてジャンネット・ハラを代表候補として選出した一方、右派は三つの候補に分かれていた。伝統的右派を代表するのはエブリン・マッテイ、より急進的な右派はホセ・アントニオ・カストのもとに集まり、超右派保守勢力からは自由主義下院議員ヨハネス・カイザーが参戦した。

また、今回の選挙が過去数十年でチリが直面した中で最も不確実な選挙の一つになることも理由の一つである。前回選挙と大きく異なるのは「投票義務(voto obligado)」の存在である。今回の大統領選は、投票義務と自動登録制度(inscripción automática)が適用される初めての選挙であり、これにより500万~600万人の新たな有権者が投票プロセスに参加することになる。さらに、参加しなければ罰金を科される可能性もある。この結果、候補者が説得できる有権者の数は何百万も増えたことになる(下記で説明)。

第一回投票の結果を受け、共産党の議長ラウタロ・カルモナ(Lautaro Carmona)は、第二回投票は「別の選挙」であると述べた。カルモナは、今回の選挙で第三位となったフランコ・パリシが提案した、医療保障や住宅への確実なアクセスといった施策の重要性を強調している。パリシは19%の得票率を獲得しており、この票が第二回投票の行方を左右する重要な要素となるためである。カルモナは、ジャンネット・ハラの選挙運動においては「すべての調整」を行い、選挙民に対して二つの選択肢しか提示されない状況に対応する必要があると述べた。その二つとは、生活の質の向上を重視し、経済発展と結びつける左派(ハラの提案)か、価値観に関する多くの議論を避け、予算削減などの問題への対応方法を示さず、最終的にはすべてを曖昧にした右派(ホセ・アントニオ・カスト)の提案である。

 

最終投票に対する世論調査

他の調査機関がそうであるようにCBコンサルタントが実施した世論調査でも、勝利が予想されるのはホセ・アントニオ・カストである。CBによる調査対象は3,021人のチリ国民で、実施方法はオンラインであった。結果は、選挙を数日後に控えた段階で、カストがガブリエル・ボリッチの後継者として圧倒的に有力であることを示している。

チリの選挙はアルゼンチンや他の南米諸国の政治関係者からも注目されている。アルゼンチンの政治家ハビエル・ミレイ(Javier Milei)はカストを公然と支持しており、12月14日の選挙での勝利を期待している。調査では、有権者の8割が投票に行く意向を示しており、12月14日に誰が勝つかについても明確な傾向が見られた。

調査の最初の注目点は、ホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast)が「良い(Buena)」および「非常に良い(Muy buena)」と評価した回答者の間で53.3%の支持を得ている一方で、否定的なイメージも45.3%である点である。一方、ジャンネット・ハラの状況は大きく異なる。彼女のイメージ差はマイナス18%で、肯定的な評価は否定的な評価よりも低い:39.8%対58.1%である。調査では39.1%が「非常に悪い(Muy Mala)」と回答している。

 

問題は勝つことではない

すべての世論調査は、ホセ・アントニオ・カストが大統領選挙の二回投票制で勝利することを示している。チリ国民にとって最も重要な課題である治安、経済、移民政策が、彼に有利に働いている。また、現政権を批判する候補者に投票する傾向は、国内で定期的に繰り返されている。

ジャンネット・ハラには支持拡大の余地がほとんどなく、基本的なミスを繰り返しており、まるで意図的であるかのようにすら見える程である。二回投票制のわずか数週間のキャンペーン期間において、与党は過去の影響に足を取られ、カストが討論会に参加しないことを有権者に説得する材料として利用するしかなくなっている。これは皮肉な状況でしかない。

カストの勝利が予測される以上、関心は12月14日の選挙日から就任日の翌日に移る。もし勝利すれば、カストはチリ史上最も多くの票を得た大統領となるからだ。これはガブリエル・ボリッチやセバスティアン・ピニェラ(Sebastián Piñera)が二期目で経験した状況と同様である。しかし、彼を圧倒的に支持した国民は、容易に統治されることを望んでいるわけではない。要求の厳しい有権者に囲まれた状況では、いわゆる蜜月期間は短命である。共和党は、多くの重要な職が政治の最前線に初めて就く人々によって占められることを理解しつつ、戦略的に明確な方針で政権運営に臨まなければならない。即興や現場での学習に頼る余地はない。

「非常事態政府(gobierno de emergencia)」の議題がどのように優先されるかという問題は、極めて重要である。治安に関しては、より広範な合意が存在するため、進展の余地は大きいと考えられる。少なくとも、この点においては、人民党(PDG)の一部議員や、さらには中道左派の一部反対派議員を取り込むことが可能である。

経済政策の実施には、より多くの交渉と調整が必要である。この場合、二つのシナリオが想定される。一つは、政権発足直後に迅速に政策を導入し、最も好機である時点で勝負する方法である。もう一つは、議会の勢力構成がより好条件となるまで待つ方法である。どちらの選択もリスクを伴うため、事前の準備が欠かせない。

議会、特に下院(Cámara de Diputados)は、非常に手ごわい舞台となる。ここではいくつかの紛争の焦点が存在する。まず、人民党(PDG)に譲歩を行わなければならず、この議員団が支援の見返りとして要求を強めるインセンティブが高まる可能性がある。これは、同議員団の一部リーダーであるパメラ・ヒレス(Pamela Jiles)が各インタビューで繰り返し示してきた内容である。

一方、上院(Senado)では、マティアス・ウォーカー(Matías Walker)やミゲル・アンヘル・カリスト(Miguel Ángel Calisto、ただし司法手続きが許す場合に限る)を説得する必要がある。彼らが要求する変更内容は、人民党(PDG)が求めるものとは本質的に異なる。これにより、二つの圧力源が共存し、いかなる交渉も一方には不十分であり、他方には過剰となるという難しい均衡状態が生じるのである。

右派連立内には、特に国民自由党(Partido Nacional Libertario)の代表者など、非常に声高なメンバーがいる。ヴァネッサ・カイザーはすでに内部緊張を生み出す能力を示しており、『ラ・セグンダ(La Segunda)』のインタビューでは、カストが今回の選挙キャンペーンで触れなかった敏感な問題を簡単には放棄しないことを明言した。この声は最初のものであり、今後ほかの声も加わる可能性がある。こうした議論は、統治のために自らを律することを選ぶ者と、象徴的資本を守るために立場を過激化させることを好む者との間で、与党の分裂を予告している。

それだけでは足りず、街頭での対立も再び表面化する可能性が高い。この数年間の落ち着きとは異なり、デモは再び都市部に戻る可能性がある。政府に対する批判は、間違いなくカストに対して強硬な姿勢をとる野党によって煽られることになるだろう。議会が分断されており、中道左派が最近の失敗を洗い流そうとする中で、休戦の兆しはすぐに消え去る可能性が高い。

「非常事態プログラム(programa de emergencia)」は有用ではあるが、それだけで統治は十分ではない。それは出発点にすぎず、優先事項の集合体であり、状況に応じて迅速に変化し得るものである。国全体が右派に傾いたと考えることも、「文化戦争(batalla cultural)がすでに勝利した」と一部の分析者が祝っているように考えることもできない。2019年に明らかになった危機は政治的解決を見出しておらず、潜在的な不満が再び表面化する可能性がある。チリにおける政治の機能不全は、並外れた戦略的対応能力を要求している。

カストは、分断された情勢、内部に緊張を抱える連立、敵対的な議会、そして政府の責任から解放された野党という環境に直面するであろう。勝利はほぼ確実に見える。しかし、統治はそう簡単ではない状況である。

 

強制失踪者に対する正義は保たれるのか

エリザベス・リラ(Elizabeth Lira)は、チリにおける人権擁護の分野で最も重要な声の一つである。彼女は12月14日の大統領選挙決選投票を注視している。なぜなら、ホセ・アントニオ・カストが勝てば、1990年以降で独裁政権を支持した初の大統領となるからである。共和党のカストは、極右のヨハネス・カイザーや伝統右派のエブリン・マッテイらの支持を受けている。彼らは選挙キャンペーン中にクーデターに関して物議を醸す発言を行っている。

アルベルト・ウルタード大学(Universidad Alberto Hurtado)心理学部の学者であるリラは、2017年人文社会科学国家賞(Premio Nacional de Humanidades y Ciencias Sociales 2017)を受賞した。彼女はアウグスト・ピノチェト(Augusto Pinochet、1973–1990)の独裁下で、キリスト教教会社会援助財団(Fundación de Ayuda Social de las Iglesias Cristianas:FASIC)を通じて弾圧の被害者を支援した。また、対話会議(Mesa de Diálogo)や国家政治囚・拷問委員会(Comisión Nacional sobre Prisión Política y Tortura、通称 Comisión Valech)など、真実と補償を目的とした二つの場にも参加している。

エリザベス・リラは、仮にホセ・アントニオ・カストのような政権が成立した場合、市民社会や社会組織に大きな挑戦が課されると指摘する。つまり、国家は世界人権宣言(Declaración Universal de los Derechos Humanos)など、過去80年間に確立されてきた歴史的価値を実際に保障する役割を担う必要があるが、その機能が損なわれる危険性があると考えている。リラは、政治的状況が戦略的に重要な価値を変えないよう保証する能力が不可欠であり、その最も重要な意義は社会の平和を確保することであると述べている。一方、彼女の懸念は、カストの主張が、これに伴う影響を理解している他の関係者によって抑制されない場合に強まる。チリが異なる意見を持つ者と共存し、問題解決能力を備えていれば、極端な懸念は和らぐはずだ。しかし現状では、複雑な問題を過度に単純化して扱う傾向が強く、それが現実の課題の解決を難しくしている。事件から52年経った今、過去の単純な解決策に戻ることはできず、現代の問題はより複雑で、社会構造や各グループの要求に関する情報も飛躍的に増えている。

リラはさらに、軍隊(Fuerzas Armadas)、捜査警察(Policía de Investigaciones)、カラビネーロス(Carabineros)における人権教育が大きく進歩しており、先進国の警察教育とも整合していることを指摘する。問題を独裁政権や軍事クーデターのみに還元することは、人権が普遍的であり、政治的倫理として世界共通の価値であることを見落とすことになる。人権を肯定的な視点で捉え、子ども、女性、障がい者、高齢者など、国家が特別保護すべきさまざまなグループにどのように適用されるかを考慮すべきである。

第一回投票で敗れたエヴリン・マッテイは、1973–1974年の独裁政権初期に死者が出るのは避けられなかったと述べている。しかしリラは、クーデター自体は避けられないものではなかったし、死者もまた避けられた可能性があると指摘する。具体例として、同じ事件でプエルト・モント(Puerto Montt)の軍事裁判(Consejo de Guerra)は10人を銃殺した一方、バルディビア(Valdivia)の軍事裁判では30年の刑が言い渡され、生き残った者もいれば亡くなった者もいる。この事例は、個々の裁判の差異が一部の命を救い、他の命を救えなかった現実を示している。

多くの人々が命を守るため国外に逃れざるを得なかったこと、そして今なお失踪者が存在することは深刻な問題である。チリ社会が人権侵害の重大性を相対化することは許されない。犯罪的暴力の程度を考えれば、人命や尊厳の価値を軽視することは共存の不可能な状況を生む可能性がある。重要なのは、事実の発生自体を否定するのではなく、その結果の重大性を認識することにある。政治的紛争を理由に、有罪判決の有無にかかわらず人々を処刑することは正当化されるべきではなく、また、これはすべての人の権利に関わる問題である。失踪者については国家が説明責任を果たす必要があり、「わからない」「責任はない」といった簡単な答えでは済まされない。極右政権下であっても、失踪者の捜索は政府の問題ではなく国家の責任である。

リラは選挙キャンペーン中には、プンタ・ペウコ(Punta Peuco)刑務所に収監されている高齢の人権侵害者への恩赦(indulto)の可能性も議論されたことにも注目をしている。長期刑を務めたことから慈悲に値すると考える者もいる一方、原則の問題として赦すべきではないと考える者もいるからだ。これはニュルンベルク裁判後のドイツの事例に類似しており、高齢であろうと人道に対する犯罪(拷問、拉致、失踪)を犯した者は刑務所に留まるべきである。チリ社会は初期段階から保護命令(recursos de amparo)などの司法手段を通じて被害者とその権利の承認を求めてきた。この手法こそが文明的な道であり、社会として選んだ正しい手段である。

リラは、このような人物に対する恩赦が社会に与えるメッセージは非常に深刻であると語る。なぜなら、自らと同じ価値観を持つ者に恩赦を与えることは、チリの文化的、歴史的、政治的文脈を見失うことにつながるからである。この問題は過去だけでなく、未来においても重要である。人権侵害を政治的紛争の解決手段として正当化することは許されない。有罪判決を受けているから恩赦に値すると単純に一般化する考え方は問題である。個々のケースを慎重に判断すべきであり、末期患者のように状況が特異な場合は別である。しかし、無差別な恩赦は、根本的に紛争解決の制度的手法を否定することにつながる。

ボリッチ政権は、失踪者の捜索計画(Plan de Búsqueda)を実施した。この取り組みには、さまざまな大学、特にカトリック大学(Universidad Católica)やサンティアゴ(Santiago)の大司教フェルナンド・チョマリ(Fernando Chomali)が支援してきた。2016年、コロンビアでは国家機関として「失踪者捜索ユニット(Unidad de búsqueda de personas dadas desaparecidas)」が設立され、設立時に方針に賛同しない大統領が就任したとしても、国家の合意を尊重し、計画は維持・継続されたことを見習うべきだと考えている。なぜならコロンビアの人々にとって、この捜索は平和の一部と考えられているからである。チリでは、戦争がないために平和が当然に存在すると考えがちである。しかし、平和とは共存の中で築かれるものであり、制度の尊重や市民的友愛を通じて実現されるものであるとリラは語る。たとえ完全に異なる考えを持つ者であっても、同じ社会の一員として関わることこそが、真の平和を生むからである。

 

投票義務の導入

「投票義務者(votantes obligados)」の増加がどこから来たのかを理解するには、数年前に遡る必要がある。民主主義への復帰の枠組みの中で、チリは投票義務(voto obligatorio)を維持し、選挙への登録(inscripción)は任意としていた。

17年間にわたる独裁政権終了後に行われた最初の民主的な大統領選挙(1989年12月)で投票するために多くの成人は1988年の国民投票に登録した。しかし、移行期(transición)を経るにつれて、選挙に自発的に参加する人々は徐々に減少していった。実際、2009年には、18歳以上の人口の30%が選挙人名簿(registro electoral)に登録されていなかったと、チリ国立統計研究所(Instituto Nacional de Estadísticas:INE)およびチリ選挙サービス(Servicio Electoral de Chile:Servel)のデータは示している。より高い代表性を確保し、若年層の新規有権者を惹きつけるため、2012年には憲法改正(reforma constitucional)が承認され、投票は任意(voto voluntario)となり、選挙人名簿への登録は自動(automática)となった。これにより選挙人名簿(padrón de electores)はほぼ1,350万人に拡大したが、投票率は大幅には増加しなかった。実際、2013年の大統領選では、第一回投票でわずか660万人、決選投票(balotaje)では550万人しか投票せず、過去最低を記録した。

そのため2022年、チリ議会は投票義務(voto obligatorio)を再び導入した。この制度は拡張された選挙人名簿を前提としており、18歳以上の全ての国民が自動的に登録されることとなった。それ以降、チリでは投票義務および自動登録制度が適用された4回の選挙が実施され、約1,300万人の有権者が投票した。今回の大統領選挙においては、選挙人名簿は1,560万人に達しており、専門家は約500万〜600万人のチリ国民が、初めて投票義務(voto obligatorio)によって投票するものと推定している。

さらに議会は、この選挙において投票義務を果たさなかった者に対し、0.5〜1.5月額税額単位(unidades tributarias mensuales:UTM)の罰金を科すことを承認した。この金額はチリ・ペソ(CLP)で34,600〜103,900ペソ、すなわち約36〜107米ドル(USD)に相当する。

彼らとは誰で、何を考えているのか

この変化の規模に鑑みると──アナリストのペペ・アウス(Pepe Auth)はこれをチリの選挙制度におけるコペルニクス的変化と呼んだ──、各分野の専門家や政治家は、この新しい有権者の行動を研究しようと試みてきた。最も繰り返し指摘されるのは、彼らは予測不能であり、政治に関心を持たず、そのため固定的なイデオロギー的帰属を持たないという点である。

開発大学(Universidad del Desarrollo:UDD)の市民パネル調査(Encuesta Panel Ciudadano)に所属するフアン・パブロ・ラビン(Juan Pablo Lavín)は、これらの有権者を数年間にわたって追跡しており、そのため時間をかけて彼らの特徴を一定程度把握することができた。

BBCムンドとのインタビューでラビンは、これらの新しい有権者は男女比で男性が多く、年齢は若年層が成人より多いこと、社会経済的プロフィールは高所得層より低所得層が多く、中下層および低層階級に属すると説明した。さらに、国内の都市中心部よりも地方や周縁地域に多く分布していると指摘した。 過去の他の選挙過程との関連について、ラビンは、彼らは制度全般に対する不信感が高く、とりわけ選挙を実施する権力者に対して強い不信感を抱いていることを強調した。「彼らは現権力者に対する反発が非常に強い。このことは、政治は何の役にも立たないという考えと整合するため、かつては自発的に選挙に参加しなかったのである。ある者にとっては無関心、ある者にとっては失望、ある者にとっては怒りである」とラビンは述べている。UDD市民パネルのデータによれば、これは2022年9月4日に行われた憲法国民投票で明らかになった。この投票では、大多数のチリ人が新憲法案に反対した。「投票義務のある有権者の8割が憲法案を拒否した。私たちのデータによれば、もし彼らが投票していなかったなら、この案は十分に承認され得た」とフアン・パブロ・ラビンは述べた。

選挙に与える影響

ここで、候補者やアナリストがこの数か月の選挙戦で最も関心を寄せてきた問いが浮かぶ。それは、この有権者層をいかに取り込み、選挙で誰に有利に働く可能性があるかということである。分析に入る前に指摘すべきは、誰も彼らが投票所でどのように行動するかを正確に予測することはできないという点である。しかし、いくつかの動きや傾向は推測可能である。

専門家や選挙陣営が読み取っているのは、この層の有権者はアウトサイダー的な主張や、治安や移民政策に関して厳しい立場をとる候補者を支持しやすいという点である。しかし同時に、知名度が高く、現政権に対する野党として台頭している候補者にも傾きやすい。そのため、アナリストの初歩的な直感として、この有権者は左派よりも右派の候補者を支持する可能性が高いと考えられている。「私たちは有権者を長期にわたり追跡してきたが、彼らは嗜好が最も変わりやすい。しかし、それは主に野党候補者間で起こることであり、ジャンネット・ハラに再び傾くことは非常に稀である。今でも8割の有権者がガブリエル・ボリッチ政権の継続に反対して投票している」とラビンは述べた。

この点において、ポピュリストのフランコ・パリシや自由主義者のヨハネス・カイザーといった候補者が恩恵を受ける可能性があるとラビンは述べていた。パリシは選挙キャンペーンの全てを「制度は破綻しているが、一般市民もその恩恵を享受できる方法を自分は知っている」という考えに基づいて展開している。一方、カイザーは家族や中絶といった文化戦争の問題に取り組むだけでなく、移民や治安に関する主張を強化している。

それでもラビンは、自らのデータに基づき、投票義務有権者は依然としてホセ・アントニオ・カストを現政権の対極として認識していると指摘する。共和党の創設者であるカストは、前回の大統領選挙の二回投票制でボリッチと競った人物である。したがって、政治に関心を持たない有権者の間では、カストが政権継続に対する最も知られた対抗者として浮上する可能性があるというわけだ。

さらに、アナリストのドゥバル(Duval)は、投票義務有権者は今回の11月16日(日)の選挙をようやく意識し始めた段階にあり、投票日前の数日間がこの層の票の決定において極めて重要になると指摘する。加えて、ドゥバルは投票義務有権者が一般に従来型メディアに対する不信感を強く抱いており、情報源として主にソーシャルメディアを利用していることも強調した。

選挙直前の最終盤において、候補者たちは部分的にこの層の有権者に訴えかける戦略を展開している。例えば、ホセ・アントニオ・カストは防弾ガラスのパーティション越しに演説するという物議を醸す手法を用いた。エブリン・マッテイはライバルとの差別化を狙った論争的な動画を公開し、ヨハネス・カイザーは、大統領に就任すれば人権侵害で有罪判決を受けた者に恩赦を与えると繰り返し述べていた。これらの手法は、右派の積極的な有権者に訴えるだけでなく、これまで選挙に関心を持たなかった数百万人の有権者の一部にも、自分の支持候補を選択させることを目的としている。

 

今年のチリの選挙は義務投票であり、84.2%の有権者が投票に行く意向を示している。この割合は、11月14日に実施された前回選挙で85%の有権者が投票したのとほぼ同じである。この前回選挙では、最終的にジャンネット・ハラとカストが決選投票に進む結果となっている。さらに重要なデータは投票意向である。カストは50.9%で大きくリードしており、与党候補のジャンネット・ハラは36.7%であることだ。投票を有効票として換算すると、カストは57.4%、ハラは42.6%となる。この結果は、カストが次期大統領として圧倒的に有力であることを示している。

同日に行われた議会選挙では、ホセ・アントニオ・カスト率いる共和党が下院で31議席を獲得し、大きな勝者の一つとなった。しかし、右派勢力は全体として議席を伸ばしたものの、下院を完全に掌握するには至らず、憲法改正に必要な4分の7の定足数にも届かなかった。これは、人民党が14議席を獲得し、議席が分散したことが影響している。与党は下院で後退したが、その影響は党ごとに異なる。フレンテ・アンプロ(Frente Amplio)は下院における与党で最大の議席を維持したものの、かつての24議席から17議席になり、共産党は下院で12議席から11議席に減少した。社会党(Partido Socialista)、民主社会主義(Socialismo Democrático)所属も下院で13議席から11議席に減少した。自由党(Partido Liberal)は下院で3議席を獲得、チリ民主党(Partido por la Democracia)は下院で9議席を獲得した。急進党(Partido Radical)は法的地位を失った。キリスト教民主党(Democracia Cristiana:DC)は下院で8議席を維持し、一方、DCから分派した政党であるデモクラタス(Demócratas、上院2・下院1議席)とアマリリョス(Amarillos、唯一の議員を失った)は、政党としての法的地位を失った。

上院は拮抗した構図となっている。中道左派陣営が25議席(与党22議席+無所属3議席)を確保し、一方の右派連合チレ・バモス(Chile Vamos)は18議席を獲得し、極右連合が7議席を得た。両者を合わせると右派陣営は上院全50議席のうち25議席となる。なお、極右連合は共和党、社会キリスト教党、国民自由党で構成されている。チレ・バモスにはデモクラタス所属のエンリケ・リー(Enrique Lee)とマティアス・ウォーカー(Matías Walker)が含まれており、ここも変動要素となっている。

#チリ大統領選挙2025 #AntonioKast #GabrielBoric

 

参考資料:

1. CHILE – Análisis de las Elecciones Presidenciales y Parlamentarias: La ultraderecha avanza a paso firme
2. Quiénes son los 5 millones de “votantes obligados” y cómo pueden incidir en las elecciones presidenciales de Chile
3. El problema no es ganar
4. Elizabeth Lira, académica: “Un Gobierno de la extrema derecha debe seguir buscando a los detenidos desaparecidos”
5. Elecciones Históricas
6. Una encuesta marca quién es el favorito a ganar las elecciones en Chile: sonríe Javier Milei

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