(Photo:Andre Penner/AP)
ブラジル議会は、環境規制の歴史的な撤廃を推進しており、アマゾンの保護を剥奪する可能性がある動きを見せている。これは、同国が国連気候会議を開催した直後のことである。
ブラジルはアマゾンの都市ベレン(Belém)で開催された今年の国連気候会議に、約200カ国の代表を迎え入れた。ブラジルはこの会議を通じて、世界で最も重要な熱帯雨林であるアマゾンにおける森林破壊率の削減という、ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領(Luiz Inácio Lula da Silva)の成果を示していた。
しかし、首都ブラジリア(Brasília)では、ルラ大統領の反対派が別の議題も抱えており、サミット終了後のタイミングを利用して一連の法改正を押し進める計画を立てている。この改正は、ブラジルのマリナ・シルヴァ(Marina Silva)環境相がPOLITICOに対し「ブラジルの環境規制の著しい弱体化」に相当すると述べた内容である。
この動きは、ブラジルの権力バランスを浮き彫りにしている。左派のルラ大統領は、特に農業部門を中心とした産業利益団体に連なる政治家が支配する議会に直面している。ルラ大統領の反対派は、議会での多数派を利用して、企業が潜在的に破壊的な新規プロジェクトを「中程度の影響」と指定された場合、必要なライセンスを取得するために自ら環境チェックを行う権限を与える改正を押し進めようとしている。この対象には、ダム、鉱山、工場、石油・ガス生産などが含まれる可能性がある。
大規模インフラプロジェクトのライセンスは、「特別環境許認可」と呼ばれる別のプロセスで承認される可能性があり、戦略的と見なされたプロジェクトは環境チェックを経ずに迅速に処理される。また、農業部門は環境計画の監督から大部分が免除される見込みである。
さらに別の提案では、先住民の伝統的土地に影響を与えるプロジェクトに対する監督権を剥奪することが含まれており、この改正はブラジルのアマゾン地域に影響を及ぼす。アマゾン地域の約4分の1は先住民によって管理されているのである。
マリナ・シルヴァ環境相は、この改正が法制化されれば、「数十年にわたって確立されてきた政策を解体する後退となり、高影響プロジェクトが必須の技術的分析を回避できる抜け穴を生むことになり、河川流域や生物群系、さらにこれらの地域に生計を依存するコミュニティ全体を危険にさらす」と述べていた。
ルラ大統領による拒否権
両院はすでにこの環境一般許認可法(Lei Geral do Licenciamento Ambiental、Lei 15.190/2025)を多数派で可決している。ルラ大統領も同法案に対して、8月に63件の拒否権(vetos)を付して署名している。
ルラ大統領が署名した新たな環境一般許認可法は、議会で20年以上にわたり続いてきた議論の新たな章を開くものであった。この議論は、2004年にサンパウロ州の労働者党(Partido dos Trabalhadores:PT)の元連邦下院議員ルチアノ・ジカ(Luciano Zica)が、汚染をもたらす、あるいは環境劣化を引き起こす可能性のある事業の許認可規則を統一する法案を提出したことに始まるのである。
2025年5月、下院(Câmara)が法案を可決し、上院(Senado)に送付されたが、上院は議論の末に修正を行い、下院による再審査を求めた。最終的な法案は7月17日に下院で可決されたが、環境保護団体からは「破壊法案(PL da devastação)」と呼ばれるレベルのものだった。
気候変動適応に関する市民社会のネットワーク、気候観測所(Observatório do Clima)のクラウディオ・アンジェロ(Cláudio Ângelo)は、「迅速性を謳っているが、実際には巨大な不確実性を生み出す。確実に裁判所の判断で工事が止まり、再開されても再び停止することになる。これは事業者にとって損失であり、事業者だけでなくブラジル国民やブラジルの生態系にとっても潜在的な悲劇を生む可能性がある」と指摘した。
ルラ大統領は一部を拒否したものの、環境一般許認可法に署名したこと自体で批判に直面している。一方、ルラが拒否した項目をも復活させようとする動きも見られる。上院議員たちは、外交官がベレンを去る予定のわずか6日後である11月27日に、両院で行政府が行った63件の拒否権について、一部または全部の審議を行いたい意向を示した。
議会は、大統領の拒否権に対して両院で多数派を得ることで覆すことができる。一方、大統領は再審議後の結果を拒否することはできない。そのため、議員たちは削除された条項を維持するか撤回するかを再度判断したいとしている。ルラが拒否権を講じた条項の中には、環境保護団体や環境省が重要と考える2つのポイントも含まれている。
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中程度の汚染可能性プロジェクトに適用されていた「同意・約束による許認可(Licença por Adesão e Compromisso:LAC)」
これまでは、事業者自身が発行できるLACが中程度の汚染可能性を持つ工事や活動にも適用されていたが、拒否権によって低汚染プロジェクトに限定されたのである。 -
戦略的事業向けの簡易許認可「特別環境許認可(Licença Ambiental Especial:LAE)」
以前は単一許認可(licenciamento monofásico)により全ての環境許認可を一度に発行できる仕組みが含まれていたが、これが削除されたのである。
署名式が行われたプラナルト宮(Palácio do Planalto)で、マリナ・シルヴァ環境相は、これら2つの条項が許認可プロセスの重要な改善を示していると述べていた。「LACについては、中程度の影響を持つ事業に適用するのは望ましくなかった。実務上、低汚染プロジェクトに限定されるのが適切であり、今回の法改正でそれが再確認されたことで、許認可プロセスの迅速化が大いに進む。州や自治体も自分たちの権限の範囲で対応可能である。LAEについても同様である」からだ。マタ・アトランチカ(Mata Atlântica)を森林伐採の特別保護制度から外す可能性や、先住民およびキロンボコミュニティ(quilombolas)の参加を制限する条項も拒否されていた。現在は、議会がこれら拒否権を審議する段階にあり、政府は同時に以下を発表している。
- 一部条項の文言を調整し、法的な不確実性を回避する新たな法案の提出
- 特別環境許認可(LAE)の即時発効を可能にする暫定措置法の提出
ブラジル政府森林保護庁(government forest protection agency)の元長官で、現在は気候観測所(Climate Observatory)NGOの公共政策コーディネーターであるスエリ・アラウジョ(Suely Araújo)は、議会は以前の投票を繰り返して大統領の拒否権を覆す可能性が高いと述べている。
「私は本当に、ルラ大統領がこれを止めるだけの権限を持っているとは思えない」と語る彼女は、さらに「拒否権が覆された場合、森林破壊の増加という問題が確実に生じる」と付け加えた。この見解は、ブラジルの環境管理の第一線の専門家2名による報告でも共有されており、「重大な環境劣化をもたらす」と指摘されている。
アラウジョは、環境団体がこの問題を最高裁(Supreme Court)に持ち込む計画であると述べた。また、キャンペーングループAvaazの法政策ディレクターマウリシオ・ゲッタ(Mauricio Guetta)は、これは「我々の歴史上最悪の環境的後退になる」と語っている。
POLITICOは、農業ビジネスを支持する議員2名および同分野を代表する非営利団体インスティトゥト・ペンサール・アグロペクアリア(Instituto Pensar Agropecuária)に取材を試みたが、コメントは得られていない。
マットグロッソ・ド・スル(Mato Grosso do Sul)州の知事エドゥアルド・リエデル(Eduardo Riedel)は、ブラジルの中道右派の反対政党の一員であり、COP30気候会議のイベントで、通称「一般環境許認可法」は、プロジェクトを迅速に進める上で計画システムを改革するために不可欠であったと述べたと報じられているのである。「社会は開発や成長の規模が大きくなるにつれて、より迅速な対応を求めており、それは開発の障害にもならない」とリエデルは述べた。
環境関連プロジェクト強化への意欲
ブラジル議会では、気候変動対策に関連する法案を推進しようとしている。議会で議論されている提案の中で注目されるのは、「エコサイド(Ecocídio)」――大規模な環境被害を意図的に引き起こす行為――を国際犯罪のカテゴリーに含めることを目指す法案である。この措置は、COP30期間中に47カ国の下院・上院議員によって署名された国際議会連合(Inter-Parliamentary Union:UIP)の最終文書に含まれる25の指針のひとつであるのである。議会で検討中の取り組みには、以下のものが含まれている:
- 国家統合環境管理システム「Sistema Único de Saúde(SUS※) do Clima」
タルシシオ・モッタ(Tarcísio Motta, Psol-RJ)が提案。連邦、州、市町村の行動を統合し、極端気象イベントへの対応を強化することが目的。
※ブラジルの統一保健制度(Sistema Único de Saúde:SUS)の気候変動適応部門計画(Plano Setorial de Adaptação à Mudança do Clima)を指す。これは、保健制度を気候変動による健康影響に対応可能な形に適応させることを目的としているのである。主な取り組みには、2030年までに極端気象事象へのSUSのレジリエンス(強靱性)を確保すること、2027年までに優先的保健局(secretarias de saúde prioritárias)の適応能力を強化することが含まれる。また、洪水や干ばつなどの気候緊急事態を監視・対応する恒久的メカニズムとして、国立気候健康緊急事態対応室(Sala de Situação Nacional de Emergências Climáticas em Saúde)も設置されているのである。
- 社会環境犯罪に対する厳格な責任追及
ペドロ・アイハラ(Pedro Aihara, PRD-MG)が提案した法案。2019年に発生した鉱山会社バレ(Vale)のブルマジーニョ(Brumadinho)ダム決壊のような社会環境犯罪の免責を防ぐことを目指している。 - 気候教育に関する「気候学校(Escolas do Clima)」プロジェクト
セリア・シャクリアバ(Célia Xakriabá, Psol-MG)が提案したもの。先住民や伝統的コミュニティの環境管理に関する知識や、古来の技術に基づいた教育活動を認めることが目的。 - 国立戦略的社会環境・気候・領域情報ポータル(Infoclima-Terra-Brasil)
タバタ・アマラウ(Tabata Amaral, PSB-SP)が提案。法14.904/24の起点となったプロジェクト。 - 低炭素水素法(Marco Legal do Hidrogênio de Baixa Emissão de Carbono)および未来燃料法(Lei do Combustível do Futuro)
アルナルド・ジャルディム(Arnaldo Jardim, Cidadania-SP)は、化石燃料(石油や天然ガスなど)の段階的置換を進める上で、これらの法案が重要であると評価した。
その他の提案
さらに、環境派ブロックは以下の提案の前進にも取り組んでいる:
- PEC 6/21:水へのアクセスを憲法上の基本的人権に含める
- PL 4347/21:先住民土地(Terras Indígenas)の領域・環境管理に関する国家政策(Política Nacional de Gestão Territorial e Ambiental de Terras Indígenas)を創設する
- PLP 120/24:生物群系(biomes)の修復のための国家的枠組み「国家生物群系修復パクト(Pacto Nacional pela Restauração dos Biomas)」を設立する
- PL 2842/24:河川保護に関する国家政策(Política Nacional de Proteção dos Rios)を確立する
- PLP 150/22 および PL 4958/23:バイオエコノミー(bioeconomia)へのインセンティブを規定する
- PL 4949/24:脆弱な自治体における基礎的衛生サービス(saneamento básico)を促進する
- PL 2258/23:ゼロ森林破壊(desmatamento zero)政策を規定する
危機に瀕するアマゾン
大規模な森林破壊と気候変動により、アマゾンは科学者が警告する転換点に近づいており、森林の降雨サイクルが崩壊する可能性がある。これにより火災が増加し、最終的には膨大な量の炭素を貯蔵していた樹木が草地に置き換わることになる。これがさらに地球温暖化を加速させ、世界中に影響を及ぼすことになる。
ブラジルのアマゾン気候会議(Amazon climate conference)開催のわずか数日後に改革案を丸ごと可決すれば、ブラジルは「後退した」と見なされるだろうと、ルラ大統領の労働者党所属の議会議員ニルト・タット(Nilto Tatto)は述べた。「これはブラジルのイメージに非常に悪影響を及ぼす。ベレンでのCOPが象徴するすべてに反するものである」と述べたのである。
マリナ・シルヴァ環境相も、潜在的な法改正の撤回は「ブラジルが引き受けた国際的な約束、パリ協定に関連するものも含めて、損なうものだ」と述べている。
タット議員はさらに、この改正が欧州連合(European Union)との貿易にも影響を及ぼす可能性があると指摘した。EUはサプライチェーンを規制し、環境被害を抑制することを目指しているからである。
政府は採決を延期しようとする可能性もある。採決はすでに一度延期されており、国連会議との衝突を避ける目的もあるのである。
ルラ大統領はCOP30において、前政権の右派大統領ジャイル・ボルソナーロ(Jair Bolsonaro)の下で急増した森林破壊を食い止めた実績を持って臨んでいる。しかし現政権は、ベレンでの環境保護に関するルラ大統領の公約と、ブラジルの政治的・経済的現実とのバランスを取らなければならなかった。来年、ルラ大統領は4期目の大統領選に立候補する予定である。一方の対抗候補はまだ不明であるものの極右から出馬する可能性が高く、環境保護の取り組みから撤退することはほぼ確実である。
COP30開催直前、ルラ大統領の政権は、アマゾン川河口付近での新たな石油探査を承認した。また、ルラ大統領は、環境団体や先住民団体が、採掘産業へのアクセスを可能にし、広大な森林地域を脅かすと指摘する900キロメートルの高速道路再開発計画を支持している。「彼らは非常に脆弱だ」と、スエリ・アラウジョは政府について述べた。
参考資料:
1. Brazilian lawmakers seek to decimate green laws one week after hosting climate summit
2. Parlamentares buscam fortalecer projetos ambientais depois da COP30, reforça Câmara
3. Sistema Único de Saúde do Clima
4. Congresso vai analisar 63 vetos à nova Lei Geral do Licenciamento Ambiental

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