ボリビア:語彙の収集・分類を超えた「ユラカレ語–スペイン語辞典」出来上がる

(Photo:COMPOSICIÓN OPINIÓN/DICO SOLÍS)

「ユラカレ語(Yurakaré)―スペイン語辞典」の発表は、ボリビアにおけるこの先住民言語の保存を目的とした、学術的かつ研究的な文化遺産保護の一大出来事である。ユラカレ語は同名の先住民族(Yurakaré、別綴:Yuracaré、Yurucare、Yurujure)によって話されており、彼らはボリビア中部、アンデス山脈の裾野地域に居住する少数先住民集団である。現在までのところ、話者数に関して信頼できる統計は存在せず、研究者による推定には幅がある(200人から3,000人以上とされることもある)が、おおむね2,500人前後と見なされている。

 

ユラカレ語とは

過去にはユラカレ語が二つの「下位集団(サブグループ)」に分かれているとする見解もあったが、近年一部ではこれを方言群とみなす意見も存在する。しかしながら、これは誤りであることが明らかになりつつある。民族史学的研究によれば、ユラカレ族は文化的・言語的に均質な集団であり、話者コミュニティ間に多少の地域差は認められるものの、それらは方言区分に値するほどの違いではない。

20年にわたるフィールドワークの成果として、本辞典はユラカレ語が大陸の他のいかなる言語族とも親縁関係を持たない孤立言語であることを証明している。米国の言語学者マイケル・クラウス(Michael Krauss)は、安全な言語とは「話者数が10万人を超える言語」であると述べており、それと比較するとユラカレ語は極めて脆弱な状況にある。このことから、ユラカレ語は言語消滅の危機に瀕していると言える。

しかし、話者数だけでなく、次のような世代間の言語伝達状況がより深刻な要素である:

  • 15~20年前から、ユラカレ語の世代間伝承が断絶した。
  • 若年世代は受動的な理解力(聞いてわかる)はあるものの、能動的には話さない。
  • 親世代は通常、子どもにスペイン語で話しかける。
  • 20~30歳の世代においても、ユラカレ語よりスペイン語の使用が一般的であり、ユラカレ語話者同士でもスペイン語で会話する傾向がある。
  • 他民族がいる場面では即座にスペイン語へ言語シフトするため、ユラカレ語の使用域は主に家庭内や親密な関係のみに限定されつつある。

加えて、ユラカレ語話者は以下のような他民族との共存状態にある:

  • ケチュア語・スペイン語話者のアンデス系農民
  • トリニタリオ語(アラワク系)を話すモヘーニョ人(ただし、スペイン語単一話者が増加している)

 

このような多言語的環境と社会的圧力により、ユラカレ語の使用機会はますます減少し、スペイン語が地域共通語(リンガ・フランカ)としての地位を確立している。

また、必要に応じてユラカレ語話者は他の先住言語を学ぶこともある。例えば、TIPNIS国立公園やマニキ川流域に暮らす人々は、隣接す先住民族チマネ(Mosetén/Chimane)の言語を習得する場合もある。

言語の伝承断絶や使用領域の縮小傾向は、おそらく言語喪失に関わるもう一つの重要な要因、すなわち自己評価(self-esteem)、言語態度(language attitude)、そしてアイデンティティに深く関連している。ユラカレ先住民の自己評価は非常に低いとされ、その一因として、ボリビアのメスティーソ=クリオージョ系住民によるユラカレ文化およびその言語に対する長年にわたる露骨な軽蔑が挙げられる。ユラカレの人々は、隣接するユキ族とともに、「野蛮人」や「未開人」といった侮蔑的な呼称でしばしば言及されてきたのである。

 

辞書の作成にあたって

尊重の倫理および脱植民地主義的視点に忠実であることから、本辞典は商業的に販売されていない。ヒルツェルは「この本がユラカレの人々にとって、自分たちの言語が重要であるという具体的な象徴となることは、彼らへの約束である」と述べている。また将来的には、研究者や関心を持つ者のために、その内容を無料のデジタル形式で提供する予定である。

本辞典は単なる語彙の集積にとどまらず、方言における変異を記録し、植物や動物の種を詳細に記述するとともに、すでに使われなくなった文化的・儀式的慣習の保存も試みている。

ヒルツェルは次のように語る。「ユラカレ語は300種以上の魚と1000種を超える植物を区別する。その概念的な豊かさはスペイン語には存在せず、何世紀にもわたる口承の歴史に蓄えられてきたものである」。また、本辞典は先住民の世界観を記録した文書でもある。たとえば、もともと装飾模様を指していた「temta」という言葉が、時を経て「書き記す」という意味を獲得した事例もその一例である。

編集デザインは象徴的な側面を強調している。著者名の記されていない表紙には、祖先への敬意を込めた古代ユラカレの彩色衣装が描かれている。「言語は共同の財産である。コミュニティ全体に属する遺産が私的所有となることを避けるため、著者の個人名は記さない」と説明されている。

 

人類学者ヴィンセント・ヒルツェル(Vincent Hirtzel)は、言語学者リック・ヴァン・ガイン(Rick Van Gijn)とともに、後にフレン・ビジャレアル(Julen Villarreal)の支援を受けつつ、ティプニス(Tipnis)およびチャパレ(Chapare)のコミュニティに長期滞在しながら、大規模な調査研究を主導した。彼は「ほぼ2年間、ユラカレのコミュニティで生活した。この方法は人類学に典型的であり、言語と文化を深く明らかにすることを可能にする」と説明している。

本研究には、先住民の共同執筆者4名――ジェロニモ・バリビアン・オロスコ(Gerónimo Ballivián Orosco)、アセンシオ・チャベス・オロスコ(Asencio Chávez Orozco)、アリナ・フローレス・ロカ(Alina Flores Roca)、ルフィノ・ヤベタ・アギレラ(Rufino Yabeta Aguilera)――が不可欠な役割を果たし、さらに100名を超える母語話者が協力した。本プロジェクトは、ユラカレ国民言語文化研究所(Instituto de Lengua y Cultura de la Nación Yurakaré)やサマ財団(Fundación Sama)などの支援を受け、350部の限定版として完成された。

ヒルツェルは、ボリビアにおける先住言語の脆弱性についても考察している。ケチュア語、アイマラ語、グアラニー語には類似の資料が存在するが、低地に分布するほとんどの言語にはそれが存在しないことを認めている。「言語が一つ消滅するたびに、何世代にもわたり積み重ねられた知識が失われる。それはコミュニティにとっても国家にとっても大きな損失である。文化的多様性こそボリビアの真の富である」と警鐘を鳴らしている。

 

ユラカレ語の研究がもたらすもの

ユラカレ語は、一般に認識されているアンデス地域と言語圏とアマゾン地域と言語圏の中間に位置する言語である。

ロバート・マーク・ウェイド・ディクソン(Robert Mark Wade Dixon) とアレクサンドラ・ユーリエヴナ・アイヘンヴァルド(Alexandra Yurievna Aikhenvald)によるアマゾン諸語の調査では、ユラカレ語はアマゾン語圏の範囲外に置かれている。一方で、ウィレム・フレデリック・ヘンドリック・アデラー(Willem Frederik Hendrik Adelaar)とピーター・コルネリス・マイスケン(Pieter Cornelis Muysken)は、ディクソンらが扱わなかったことからユラカレ語に一定の注目を払いつつも、「厳密な意味でのアンデス語圏」にも含めていない。このようにユラカレ語は、二つの大きな文化・言語圏の境界領域に位置しており、さらに以下のような周辺言語群と近接している:

  • チャコ語族(Guaycurú、Zamucoなど、パラグアイ寄りの地域)

  • 孤立またはほぼ孤立した言語群(Mosetén/Chimane、Movima、Cayubaba、Canichana、Itonama)

  • すでに絶滅した言語(Gorgotoqui、Rache など)

この地理的かつ言語的な配置は、ユラカレ語の詳細な研究がボリビアにおける複雑な言語接触史や歴史を解明する上で重要な鍵となることを示している。

#先住民言語

 

参考資料:

1. Un Diccionario Yurakaré-Castellano, ‘lengua que habla del bosque’ 
2. Yuracaré (SOROSORO)
3. YURAKARÉ (DOBES)

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