2025年10月4日(土)、エクアドル共和国のダニエル・ノボア(Daniel Noboa)大統領は、大統領令第174号に署名し、国内10県に対して新たな非常事態(estado de excepción)を宣言した。この措置は、エクアドル先住民民族連盟(CONAIE)によって呼びかけられた全国規模のストライキの最中に発令されたものである。
大統領令によれば、非常事態宣言の根拠は、抗議運動に伴う「道路封鎖、暴力行為、各地での抗議」によって引き起こされた深刻な国内の混乱(grave conmoción interna)であり、公共の秩序が著しく損なわれ、市民の基本的権利が危機にさらされているという判断に基づいている。
政府はまた、今回の非常事態宣言は、抗議活動の急速な過激化を示す具体的な事実(hechos concretos)に基づいており、安全保障上の必要措置であると強調している。
この宣言により、該当地域では以下のような対策が可能となる:
- 外出の制限(夜間外出禁止など)
- 公共の場での集会・デモの禁止
- 治安部隊による道路封鎖の強制解除
- 軍・警察の治安維持活動の強化
なお、ノボア政権による非常事態宣言はこれまでも一部の県で実施されてきたが、今回の措置は対象地域を大幅に拡大したものとなっている。今回の大統領令により、非常事態(estado de excepción)各県に対し次々に発動され現時点で以下の10つの県が対象となっている。このうち、7県はシエラ地域(高地)、3県はアマゾン地域(Oriente)に属している。
- ピチンチャ県(Pichincha)
- コトパクシ県(Cotopaxi)
- チンボラソ県(Chimborazo)
- トゥングラウア県(Tungurahua)
- ボリーバル県(Bolívar)
- カニャール県(Cañar)
- アスアイ県(Azuay)
- オレリャナ県(Orellana)
- スクンビオス県(Sucumbíos)
- パスタサ県(Pastaza)
A la ciudadanía: pic.twitter.com/PEgoJKkOsf
— Presidencia Ecuador 🇪🇨 (@Presidencia_Ec) October 5, 2025
エクアドルの現状は、ダニエル・ノボア大統領政権下での政治危機が、国外から押し付けられた経済および安全保障モデルの結果であることを改めて浮き彫りにしている。このモデルは、社会生活の軍事化と外部からの調整圧力によって支えられている。特に、ディーゼル補助金の廃止が即時的な引き金となったが、現在問われている問題はそれだけに留まらない。市民の抗議運動は、国家のあり方そのものに対する根本的な異議申し立てであることを示している。
具体的には、国際通貨基金(Fondo Monetario Internacional:IMF)の処方箋や、アメリカ合衆国(Estados Unidos)の内政への影響力が強まる中で、エクアドルの民主主義の将来自体が争点となっている。しかし、ダニエル・ノボア大統領政権はこうした声に耳を貸すどころか、むしろ強硬姿勢を強めている。政権はメディアを通じて抗議参加者を「テロリスト」「犯罪者」とレッテル貼りし、以下のような具体的な弾圧行為を行っている。
- 先住民指導者や活動家の銀行口座の凍結
- 地域コミュニティの通信ネットワークの遮断
- 人権擁護者および先住民リーダーへの司法的迫害(刑事訴追)
ノボア政権は外交政策においても大きな方針転換を進めている。2025年11月に予定されている国民投票(レフェレンダム)には、外国軍基地設置を禁止する憲法条項の削除が盛り込まれており、これが通れば外国軍基地の設置が法的に可能になる。経済面では、中国の国営企業CNPCとのエネルギー協定締結や、アメリカ資本とつながる企業テルコネットによる海底ケーブルやデータセンターへの民間投資許可など、軍事や外資依存体制の強化が進行中だ。こうした動きは、麻薬取引を口実に「治安依存モデル」を推進する政権の姿勢と一致している。国家非常事態の常態化や厳しい経済緊縮政策は、国際融資を得るための条件として実施されている。
9月の抗議運動の背景には、ノボア大統領が2025年6月から8月にかけて進めた一連の改革政策がある。これらは財政緊縮、行政縮小、刑罰強化の三つの柱から成っている。その一例が「公共の誠実性に関する組織法(Ley Orgánica de Integridad Pública)」であり、この法律は未成年者の刑事責任年齢を引き下げるとともに、量刑の厳罰化を含んでいる。また、行政改革として中央政府の省庁を20から14に削減し、国家機関の秘書局も8から3に縮小したことで、約5,000人の公務員が職を失った。さらに、ノボア政権はアメリカ合衆国との間で「安全保障協力協定」を締結し、生体情報の共有や18か月間の技術支援の提供が含まれている。米国の国家安全保障担当官クリスティ・ノーム(Kristi Noem)の訪問は、キト政権とワシントンの軍事的接近を象徴する出来事となった。このようなこともあり今回の全国ストライキは、CONAIEを超えた都市住民や学生、労働者など広範な層の社会的反発を示している。また、強制失踪や治安部隊による暴力が告発され、国際人権団体が調査を開始している。
エクアドルの状況は、米国主導のラテンアメリカ全体に広がる「治安化戦略」の一環とされる。刑罰強化、非常事態の濫用、抗議への暴力対応の強化が2025年の社会・政治的不安定の背景にある。
非常事態の常態化と司法への圧力
ノボア政権下において、国家非常事態の発令はもはや“常態”となっている。2023年11月から2025年8月までの638日のうち、実に630日間が何らかの非常事態宣言の下に置かれていた。
さらに憲法裁判所は、司法命令なしでの監視活動や軍の展開を認める条項について違憲と判断したにもかかわらず、大統領府はこの判断を無視した。むしろ裁判官たちを標的にした公共の非難キャンペーンを展開し、彼らの顔写真を掲げたビルボード広告を街中に設置するという異例かつ強圧的な行動に出ている。この動きは、司法の独立と民主主義の根幹を揺るがす深刻な事態を示している。
2025年同時期、エクアドルでは労働組合、フェミニスト団体、環境保護活動家、そして先住民族組織が一斉に抗議の声を上げ、社会の各層から政権に対する不満が噴き出した。抗議の中心には、社会保障制度の削減や、公共サービスの民営化を正当化するための政策が「隠れ蓑」として使われているという強い批判がある。
2025年8月14日には、首都キトで数万人規模の大規模なデモ行進が行われ、公的医療の崩壊、不安定な治安情勢、慢性的な医薬品不足など、生活インフラの深刻な危機が訴えられた。
さらに同月、先住民の権利擁護を掲げる指導者であり、CONAIEの元会長であるレオニダス・イサ(Leonidas Iza)が暗殺未遂に遭うという重大な事件が発生。これにより、国内の政局は一層緊迫し、政権と社会運動の対立が決定的な局面を迎えつつある。
キトで抗議デモが衝突と暴力の訴えで終結
10月5日(日)、午後の時間帯に、エクアドルの首都キト中心北部が緊迫した抗議の舞台となった。市民グループは、12月6日通り(avenida 6 de Diciembre)とパトリア通り(avenida Patria)の交差点に集結し、ディーゼル補助金を廃止する大統領令第126号(Decreto Ejecutivo 126)の撤回を求めてデモを実施した。
参加者たちはプラカードを掲げ、スローガンを叫び、車道上で踊るなどしておよそ1時間にわたり抗議活動を展開したが、やがて国家警察の機動部隊が介入した。盾を構えた警官隊とバイク部隊がデモ隊の排除に乗り出し、現場は一転して混乱に包まれた。複数の目撃証言や報道関係者の報告によれば、警察は催涙ガスを使用し、パトリア通りの交差点にて散布している。これによりデモ参加者たちは12月6日通りの北方向へと逃走を余儀なくされた。SNSに投稿された映像では、警察による記者への暴力行為も確認されており、撮影中の携帯電話が警察により押収または地面に叩きつけられたとする証言もある。
衝突の波は周辺エリアにも及び、フアン・レオン・メラ通り(avenida Juan León Mera)および10月12日通り(avenida 12 de Octubre)まで拡大している。そのためデモ隊は再度体制を立て直し、最終的にはエル・アルボリート公園(parque El Arbolito)を目指して移動した。皮肉にもそのエル・アルボリート公園では、政権寄りの市民や政府関係者によるガストロノミーフェアや芸術イベント(キト市主催)が開催されており、穏やかな空気の中で数十人の参加者が食事やパフォーマンスを楽しんでいた。
このように、数ブロック先では催涙ガスが立ち込める中で市民と警察が衝突し、一方では音楽と食が楽しげに繰り広げられるという極端に対照的な光景が、ひとつの都市の中で同時に存在していた。午後4時(16:00)時点においても、国家警察は警備体制を強化し続けているが、抗議の鎮圧における過剰な武力行使や報道関係者への対応について、公式声明は出されていない。
エクアドルが現在、地域で最も暴力的な国家となる一方で、ノボア大統領は就任以降、「国内武力紛争状態」の宣言や付加価値税(IVA)の引き上げを断行し、麻薬取締を名目とする強権的な政策を展開してきた。米国南方軍(US Southern Command)との軍事協力を強化するとともに、傭兵訓練で悪名高いブラックウォーター(Blackwater)とも提携関係を築いている。しかしながら、ノボア大統領が掲げるこの「麻薬対策モデル」は、具体的な成果を上げていない。むしろ、大統領の家族企業が違法薬物の輸送や取引に関与しているとの疑惑が浮上し、告発を受けている現状がある。
このような中、民主的な保障や抗議の権利は事実上停止されたままである。非常事態の制度的濫用により、暴力の根源的な解決には至らず、国民の自由を制限する統制体制が常態化している。現在進行中の全国規模のストライキの行方は、エクアドルが独自の民主的課題を回復し得るか、あるいは外国の利益に従属する治安中心の権威主義モデルを強化するかを左右する重大な分岐点である。
祝日の付加価値税引き下げと第13給与の前倒し支給を発表
ノボア大統領は、国内の生産回復と内需拡大を目的として、二つの経済措置を発表した。ひとつは、IVA(付加価値税)の一時的な引き下げであり、もうひとつは公務員に対する第13給与(décimo tercer sueldo)の前倒し支給である。大統領の説明によれば、IVAは通常の15%から8%に引き下げられ、10月9日および11月2日・3日の祝日限定で適用される予定である。この措置は、国内の観光促進と地域経済の活性化を目的としたものである。
ノボア大統領は、自身のX(旧Twitter)アカウントにおいて、「この国は、密輸や違法採掘のビジネスを失った一部の者たちのために止まることはない」と発言した。この声明は、CONAIEの代表マルロン・バルガス(Marlon Vargas)が、ディーゼル補助金撤廃への抗議として、全国規模のストライキの激化と首都キト占拠の可能性に言及した直後に出されたものである。
さらに、政府はすべての公務員に対し、第13給与の11月14日支給を決定した。この措置は、ブラックフライデー(Black Friday)やサイバーマンデー(Cyber Monday)といった年末商戦イベントに向けて、家庭に流動資金を供給することを意図している。ノボア大統領は、民間企業にもこの取り組みに参加するよう呼びかけており、国内消費の刺激と生産活動の再活性化を図る姿勢を示した。
これらの措置は、社会団体や先住民族組織による連日の抗議デモのさなかに発表されたものであり、政権の危機対応の一環として注目されている。大統領は、「我々の政権は、国を本当に築こうとする人々とともに働き続ける」と述べる一方で、「暴力を選ぶ者たちには、法が待ち受けている」と警告を発した。この発言は、国際社会から人権侵害の指摘を受けている自身の政権を棚に上げ、あたかも一方的に秩序を語るかのような印象を与えている。
Mientras algunos quieren detener al Ecuador, nosotros lo impulsamos.
— Daniel Noboa Azin (@DanielNoboaOk) October 5, 2025
Reduciremos el IVA al 8% durante los feriados del 9 de octubre, y el del 2 y 3 de Noviembre, porque este país no se va a paralizar por unos cuantos que perdieron el negocio del contrabando y la minería ilegal.…
#DanielNoboa #CONAIE #エクアドル全国ストライキ2025 #MarlonVargas
参考資料:
1. Daniel Noboa decreta estado de excepción en 10 provincias, en medio del paro nacional
2. Paro nacional en Ecuador contra un Estado de excepción permanente bajo el modelo de seguridad de Estados Unidos
3. Quito: protesta contra el Gobierno de Noboa termina con enfrentamientos y denuncias de agresiones
4. Noboa decreta estado de excepción en 12 provincias ante la radicalización del paro indígena
5. Noboa anuncia reducción del IVA para feriados y pago anticipado del décimo tercer sueldo en noviembre
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