ChatGPTの開発企業として知られるOpenAI(オープンエーアイ)は、アルゼンチンを人工知能(AI)の中南米拠点とする方針を明らかにし、最大で250億米ドルにのぼる「メガ投資(megainversión)」を行う計画を発表した。この発表は、世界的なAI開発競争が激化する中で、同社がグローバル展開の一環としてラテンアメリカ市場に本格参入する意志を明確に示したものと位置づけられている。アルゼンチン政府関係者はこれを「歴史的な経済投資」として歓迎しており、現地の雇用創出や技術革新に大きな期待を寄せている。投資内容の詳細は現時点で明らかにされていないが、インフラ整備、研究開発拠点の設置、高度技術人材の育成などが含まれる見込みである。
この投資は「Stargate Argentina」プロジェクトと名付けられており、米国での同名イニシアチブに倣ったものとされている。Stargateとは今年初めに発表されたプロジェクトであり、今後4年間で最大5,000億米ドルを投じて米国における新たな人工知能(AI)インフラを開発する計画を言う。米国内の創設パートナーには、ソフトバンク(SoftBank)、OpenAI、オラクル(Oracle)、MGXが名を連ねている。
本プロジェクトは、アルゼンチン国内にAI計算専用のデータセンターを設置することを目的としている。この発表は、アルゼンチン大統領ハビエル・ミレイ(Javier Milei)によってX(旧Twitter)上でなされた。ミレイはOpenAIの代表者であるサム・アルトマン(Sam Altman)らとともにカサ・ロサダ(Casa Rosada)で撮影した写真を投稿している。
El Presidente Javier Milei recibió en Casa Rosada, junto a Demian Reidel, a representantes de OpenAI, quienes le anunciaron el lanzamiento de Stargate Argentina, un proyecto pionero de infraestructura de Inteligencia Artificial que situará a la Argentina a la vanguardia del… pic.twitter.com/IAKGaSyxC7
— Oficina del Presidente (@OPRArgentina) October 10, 2025
アルゼンチン政府は10月10日(金)、米国の人工知能企業OpenAIが、アルゼンチンおよび米国の共同所有企業であるスル・エナジー(Sur Energy)と、アルゼンチン・パタゴニア地域における大規模データセンター建設に向けた協力のための意向書(Carta de Intención)を締結したと発表した。大統領府のプレスリリースはこの構想を「先駆的な人工知能インフラプロジェクト」と位置づけ、アルゼンチンを「世界の人工知能エコシステムの最前線」に据えることを目的としていると説明している。
同日午前、ハビエル・ミレイ大統領とアルゼンチン原子力委員会(Argentine Nuclear Board)会長デミアン・レイデル(Demian Reidel)は、OpenAIの代表者と会合を行い、「Stargate Argentina」構想の開始を発表した。政府はOpenAIの国内進出によってアルゼンチンがラテンアメリカの技術革新の中核地となるとともに、新たなAIアプリケーションの開発拠点や、高需要分野における地元人材育成の基盤となることを期待している。
このニュースを正式に伝えるビデオプレゼンテーションにおいて、OpenAIのCEOサム・アルトマンは今回のプロジェクトについて「この節目は単なるインフラ整備にとどまらない」と述べた。「これは人工知能をアルゼンチン全土の人々の手に届けることに関するものだ。われわれはアルゼンチンがラテンアメリカ全体のAI拠点へと進化していく過程において、同国と協力できることを嬉しく思う」とも付け加えた。
スル・エナジー(Sur Energy)は、アルゼンチンの起業家であるマティアス・トラビサノ(Matías Travizano)、エミリアノ・カルヒエマン(Emiliano Kargieman)、およびスタン・チュドノフスキー(Stan Chudnovsky)によって設立された、ラテンアメリカにおけるデジタルインフラ開発に特化した企業である。そしてそれは投資グループ「スル・ベンチャーズ(Sur Ventures)」に属しているという立場にある。また、トラビサノとチュドノフスキーは、スル・ホールディングス(Sur Holdings)の傘下でコロンビアの通信事業者WOMの再建に携わり、カルヒエマンはアルゼンチン系アメリカ人による地球観測企業サテロジック(Satellogic)の創業者兼CEOである。トラビサノは2025年9月に米国でのハイキング中の事故により死亡した。同社のミッションステートメントによれば、「世界中のAIデータセンターに競争力のある電力ソリューションを提供することで、人工知能の未来を支えること」を目的としている。
カルヒエマンは「Stargate Argentinaプロジェクトは、同国にとって歴史的な機会を意味する。これは再生可能エネルギーにおける我々の独自のポテンシャルと、グローバル規模での人工知能インフラ開発を融合させるものである」と語った。さらに「この提携は、アルゼンチンを新たな世界的なデジタルおよびエネルギーの地政学的構図における重要なプレイヤーとし、高品質な雇用の創出、国際的な投資の誘致、そしてイノベーションとエネルギーが持続可能な開発の両輪となり得ることを示す」と述べている。
今週公開されたOpenAIのアルゼンチンでの貢献に関する報告書では、同社は科学技術革新省(Ministerio de Ciencia, Tecnología e Innovación)が推進する国家AI計画を高く評価し、「AIの拡大を支える『レール』は整備されている」と指摘している。「これらの政策基盤と強力なデジタル導入の組み合わせにより、アルゼンチンは競争力と包摂性の持続的な向上を達成するのに適した立場にある」とも付け加えている。また、OpenAIはアルゼンチンがインヴァップ(INVAP)を通じてパタゴニア地域でのデータ集約型の原子力発電戦略を検討していることを強調している。同国は最近、米国のFIRSTプログラム(小型原子炉研究推進プログラム)に参加する貢献パートナーとなった。
本プロジェクトでは、「次世代のAIコンピューティングを収容可能」な大型データセンターを整備し、再生可能エネルギーを活用しつつ最大500メガワット(MW)の電力能力の供給を想定している。この投資は、自由主義政党「La Libertad Avanza」が実施する大規模投資促進制度(Régimen de Incentivos para Grandes Inversiones:RIGI)の下で行われる予定である。同制度は、2億米ドルを超える外国通貨建ての投資を行うグループに対し、税制上の優遇措置、為替取引の特典、その他のインセンティブを提供する。
プロジェクトには、OpenAIの幹部であるチーフ・グローバル・アフェアーズ担当クリストファー・リヘイン(Christopher Lehane)、インフラ政策およびパートナーシップ担当責任者ベンジャミン・シュワルツ(Benjamin Schwartz)、ラテンアメリカ政策・パートナーシップ責任者ニコラス・アンドラデ(Nicolás Andrade)、国際政策リードのアイヴィ・ラウ=シンデウルフ(Ivy Lau‑Schindewolf)、ソリューションズエンジニアのモハメド・フサン(Mohammed Husain)らが参加することが発表されている。
この「Stargate Argentina」は、ラテンアメリカで初のStargateプロジェクトとなる見込みであり、アルゼンチンにとってテクノロジーおよびエネルギーインフラ分野における画期的な案件になると考えられている。
“Sam Altman”
— Tendencias en Argentina (@porqueTTarg) October 10, 2025
Porque el creador de OpenAI grabó un video confirmando la mayor inversión en la historia de Argentina, y elogió a Milei. https://t.co/EA2ZYCj2Ff pic.twitter.com/DBp22NrUUc
なお、ハビエル・ミレイ大統領がサム・アルトマンと初めて会談したのは、2025年5月に行われたサンフランシスコでの5日間の訪米出張中のことである。この訪問中、大統領はグーグル(Google)CEOのスンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)およびアップル(Apple)CEOのティム・クック(Tim Cook)とも会談を行い、スタンフォード大学(Stanford University)で物議を醸す演説も行った。ミレイはその後、X(旧Twitter)でアルトマンとのツーショット写真を投稿し、「自由主義的なアルゼンチンが提供し得る莫大な可能性について語った」と述べている。
OpenAIのデータによれば、アルゼンチンはラテンアメリカで有料サブスクリプション数が上位5カ国に入り、ChatGPT APIを利用する開発者数も急速に増加している市場の一つである。ChatGPTの利用率が最も高い州はブエノスアイレス(46.6%)であり、次いでコルドバ(12.3%)、サンタフェ(9.1%)、メンドーサ(4%)、トゥクマン(3.2%)となっている。
今回の決定により、アルゼンチンはAI技術分野における国際的なハブとしての地位を獲得する可能性がある。OpenAIは今後、地元大学や企業との連携、政府との協議を進めつつ、地域社会への影響を慎重に評価しながら段階的にプロジェクトを実施していく方針である。
このメガ投資が現実のものとなれば、アルゼンチンはAI技術において南米の先頭を走る国家となるだけでなく、グローバルなAI経済圏の重要な一角として浮上することが期待される。
#OpenAI #ArtificialIntelligence
参考資料:
1. OpenAI (ChatGPT) anuncia megainversión en Argentina de US$25 mil millones para volverla un polo de IA
2. Argentine government and OpenAI announce project to build data center in Patagonia
3. Argentina joins OpenAI’s Stargate project with a 500MW megadata center
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