エクアドル:アフロエクアトリアン月間──構造的人種差別に抗う数世紀の抵抗

2025年10月5日、エクアドルは「アフロエクアトリアン民族の日(Día Nacional del Pueblo Afroecuatoriano)」を迎えた。この日は、奴隷制度、植民地主義、そして長年にわたる社会的排除の歴史を越えて、エクアドルの国家的アイデンティティの一部として確立されてきたアフリカ系住民の抵抗と尊厳の闘いを称える日である。

エクアドル国勢調査によれば、全国人口の4.8%以上が自らをアフリカ系子孫(afrodescendiente)と認識している。彼らの歴史的闘争、芸術表現、コミュニティ組織化は、今なお「記憶」として生き続けており、それが今日のアフロ系エクアトリアン社会を支えている。

 

アロンソ・デ・イレスカスの遺産──自由の系譜

この記念日の起源は、1553年のある歴史的事件にまで遡る。アフリカから強制移送されていた奴隷の一団が、エスメラルダス(Esmeraldas)沖で船の難破に遭い、アロンソ・デ・イレスカス(Alonso de Ilescas)の指導のもと、脱走してジャングルの中に自由な共同体を築いた。

この出来事は、南米大陸における最初の「自由なアフリカ系住民コミュニティ(comunidad afrodescendiente libre)」の誕生として記憶されている。イレスカスは現在、国家的英雄として称えられており、毎年10月の第1日曜日には、その功績とアフロ系住民の文化遺産を讃える式典が行われる。

「10月は記憶と誇りの太鼓が響く月」と語るのは、アディスアベバ(Addis Abeba)という文化団体の代表であり、黒人女性による政治的連帯を掲げる「ラス・キロンベラス(Las Kilomberas)」の指導者、カーラ・ビテリ(Karla Viteri)──通称シスタ・カーラ(Sista Karla)である。

彼女にとって10月とは、単なる記念行事の月ではない。むしろ、「鎖につながれてやって来た人々が、その鎖を文化と自由へと変えた」という記憶を取り戻す月間である。

 

記憶の回復と構造的差別への対抗

アフロエクアトリアン月間は、国家がアフロ系住民の存在と貢献を正式に認識する唯一の公的枠組みである。その意味において、この月間は単なる文化的祝祭ではない。むしろ、アフロ系住民に対する構造的人種差別、排除、暴力の歴史に向き合い、それを克服するための政治的・教育的対話の場なのである。

この国のアフロ系住民は、被害者であると同時に抵抗者であった。彼らの歴史は、沈黙と抹消の対象ではなく、記憶と誇りとして継承されるべきものである。

アスーカルアフロエクアトリアン社会開発財団(Fundación de Desarrollo Social Afroecuatoriana Azúcar)副代表、ソニア・ビベロ(Sonia Vivero)にとって、10月は単なる象徴的な祝祭の月ではなく、「記憶」と「正義」のための時間である。発言に先立ち、ビベロはアフロエクアトリアンの伝統に則り、祖先の許しを請う儀式を行った。そして力強くこう語った。「現在のような困難な時代において、この月は、私たちの歴史が奴隷制度から始まったのではなく、抵抗から始まったという事実を想起させるものである」。

エクアドルがアフロエクアトリアン民族を「権利を持つ集団的主体」として法的に認めてから、すでに28年が経過している。しかし、社会的不平等や構造的差別はいまだに解消されていない。

「私たちは闘争の民である」とビベロは語る。「私たちが推し進めてきた立法的・社会的変革は、アフロ系住民にとっての利益だけでなく、エクアドルという国家全体の進歩にもつながっている」。

 

アフロエクアトリアン運動の歴史的節目

ビベロは、以下の出来事を運動の主要な節目として挙げている:

  • 1851年: エクアドルにおける奴隷制度の廃止
  • 1970年: 「全国黒人の日(Día Nacional del Pueblo Negro)」の制定
  • 1997年: アフロエクアトリアン民族の法的承認
  • 1998年: エクアドル憲法に「集団的権利(Derechos Colectivos)」を明記
  • 大統領令60号(Decreto 60): 人種差別に対抗する国家計画(Plan Plurinacional contra la Discriminación Racial)の策定
  • 2015年〜2024年: 国連による「国際アフロ系子孫の十年(Decenio Internacional de los Afrodescendientes)」

 

加えて、ビベロは次のように語っている。「本日、7月25日がアフロ系女性の日(Día de las Mujeres Afrodescendientes)として公式に認定されたことを祝いたい。これは、30年以上にわたる国際的な運動の成果である」。この証言は、アフロエクアトリアンの人々が被害者として語られる存在ではなく、社会変革の主体として行動してきたことを物語っている。10月とは、その歩みと声が国家に届く時間であり、抵抗と尊厳の歴史が響く月なのである。

 

アスーカル:生きた記憶の32年

アスーカル・アフロエクアトリアン社会開発財団は、2025年10月で設立32周年を迎えた。アフロエクアトリアンの権利擁護、文化の継承、そして歴史の可視化において、同財団は長年にわたり中心的な役割を果たしてきた。副代表のソニア・ビベロは「私たちは今や、調査・教育・可視化を柱とする、アフロ系子孫の権利を守る団体へと成長した」と述べる。

同財団の最新プロジェクトの一つが、首都キトに開設された「アフロ系子孫の生きた記憶の家(Casa de la Memoria Viva Afrodescendiente)」である。この空間は、アフロエクアトリアンの歴史的経験と社会的貢献を、現代的な視点から再構築・発信することを目的としている。ビベロは言う。「太鼓が鳴るところには、抵抗の声がある。しかし私たちは今なお、構造的な人種差別、社会的排除、そして不可視化と闘っている」。

 

構造的人種差別と「統計的な消去」

エクアドルでは法制度上、一定の進展が見られるものの、現実には人種差別が日常的に存在しているとビベロは指摘する。「エクアドルは極めて差別的な国である。アフロ系住民はしばしばスポーツや音楽、料理といった分野にのみ結びつけられ、歴史や学問、政治、完全な市民権の担い手としては見なされていない」。

特に2022年の国勢調査において、アフロ系人口が減少したとされた点について、彼女は強い懸念を表明する。「減少の理由を『自己認識の欠如』と説明することは、民族そのものを不可視化する行為である。私たちはこれを憲法違反として訴えた。データがなければ、有効な公共政策の策定は不可能である」

この問題は象徴的な領域にとどまらず、教育・医療・雇用・住宅といった基本的権利全体を危機にさらすものだと彼女は強調する。

 

国全体に広がるアフロの遺産

アフロエクアトリアン文化は、エスメラルダスやチョタ渓谷といった地域に限定されて語られがちであるが、実際にはエクアドル全土に根付いている。「私たちアフロ系住民は、キトにも、グアヤキルにも、アマゾンにも、アンデスにも存在している。アフロ文化はこの国全体の一部である」とビベロは語る。

この認識に基づき、アスーカル財団はキト市文化遺産研究所(Instituto Metropolitano de Patrimonio)と連携し、33のアフロ文化的表現を特定した。これらはすでにキトの歴史的遺産として正式に認定されている。

 

アフロの10月:芸術、記憶、反骨

シスタ・カルラにとって、アフロエクアトリアン月間(Mes de la Afroecuatorianidad)は、単なるカレンダー上の行事ではなく、生の肯定である。「あらゆる踊り、あらゆる太鼓、あらゆる言葉が抵抗の鍵である。10月とは、決して屈しなかった人々の響きであり、いまも平等と尊厳を訴え続ける人々の歌声である」と彼女は語る。

この月、アフロ系子孫の諸団体は、博物館、広場、文化施設を舞台に、展覧会、ワークショップ、対話集会、芸術公演などの無料イベントを実施している。

ムヘレス・デ・アスファルト(Mujeres de Asfalto)は、象徴的なイベントをグアヤキル(Guayaquil)のラス・マルビナス地区(Las Malvinas)で開催している。この地は、軍に不法に拘束された後、殺害された4人のアフロエクアトリアンの子どもたちの悲劇の現場である。

10月11日には、9歳以上の子どもたちを対象にした教育イベントが行われる。ターバン・アート、音楽、遊びを通じて、アフロのアイデンティティについて学ぶ創造的な空間が提供される。

 

反骨の言葉と芸術:アディス・アベバによる二日間の核心イベント

文化団体アディス・アベバは、10月の主要イベントとして以下の二日間を企画している:

  • 10月17日(金):キト現代美術館(Centro de Arte Contemporáneo)にて、トークイベント「キロンベラス:アフロ系子孫の犯罪化(Kilomberas: la criminalización de las afrodescendencias)」を開催。登壇者は、パオラ・カベサス(Paola Cabezas)、イスマエル・ベルナル(Ismael Bernal)、アンドレイ・モンターニョ(Andrey Montaño)である。また、ジャーナリスト・作家エドナ・リリアナ・バレンシア(Edna Liliana Valencia)による著書『失われたディアスポラ(La Diáspora Perdida)』の紹介も行われる。

  • 10月18日(土):カラプンゴ市民広場(Plaza Cívica de Carapungo)にて、フェスティバル「ターバンとアフロの反骨物語VIII(Entre Turbantes e Historias de Rebeldía Afro VIII)」を開催。出演者には、ロベ・エル・ニーニョ(Robe L Ninho)、ブラック・ママ(Black Mama)、ディオセス・デ・ラ・ボンバ(Dioses de la Bomba)、メル・モウレレ(Mel Mourelle)、アディス・アベバ(Addis Abeba)、ウブントゥ(Ubuntu)らが名を連ねている。

 

キト市による文化遺産の保護と可視化

キト市は、首都文化遺産研究所(Instituto Metropolitano de Patrimonio:IMP)を通じて、アフロ系文化の保護と可視化に向けた多様なプログラムを展開している。内容は以下の通りである:

  • 「キトにおけるアフロ民族の社会的記憶(Memoria social del pueblo afro en Quito)」展を、市内各博物館や考古学公園で開催。
  • 映画監督ダビッド・ラッソ(David Lasso)による映像シリーズ『容疑者たち(Sospechosos)』の上映。
  • アフロエクアトリアンの無形文化遺産に関するワークショップの実施。

 

この文化プログラムは、最近実施されたキトにおけるアフロ系住民の社会的記憶調査に基づいている。調査では、市内11の教区に存在する33の文化表現が記録された。これらの表現は、ダンス、料理、精神的実践に至るまで、アフロコミュニティの集合的アイデンティティと歴史的正義の柱であると評価されている。

#Afroecuatoriano

 

参考資料:

1. Mes de la Afroecuatorianidad: siglos de resistencia frente al racismo estructural

 

 

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