エクアドル全国ストライキ2025:抗議には軍を大規模展開、一方犯罪対策はおろそか

エクアドル各地で先住民族団体の呼びかけによる全国的な抗議行動が広がるなか、政府が大規模な軍事力を展開したことに対し、犯罪多発地域にはほとんど対応が見られないとして、批判の声が強まっている。とりわけイムバブラ(Imbabura)県のオタバロ(Otavalo)では、抗議の最中に装甲車や軍用バス、兵士らが配置され、まるで戦時下を思わせるような軍・警察のコンボイがイムバブラ(Imbabura)県およびコトパクシ(Cotopaxi)県に進入。現地の様子を映した無数の映像がソーシャルメディアで拡散している。地元住民や先住民のコミュニティからは、軍による家宅捜索や恣意的な逮捕、さらには装甲車の先住民領域への侵入について、深刻な懸念が表明されている。

一方、ドゥラン(Durán)、ケベド(Quevedo)、エスメラルダス(Esmeraldas)、マンタ(Manta)、マチャラ(Machala)といった地域では、犯罪組織が事実上独自のルールを敷いているにもかかわらず、軍の姿は「ほとんど見かけない」と住民は指摘する。ドゥランでは過去に軍用ヘリコプターが「抑止行動」として紙幣型のビラを投下したのみで終わった一方、抗議行動には100台以上の装甲車が投入されたことに、住民らは「対応の落差」に疑問を投げかけている。市民社会団体や人権団体からは、「社会的抗議には即応し、重武装で圧力をかける一方で、暴力や犯罪には消極的な姿勢を見せている」と、国家の資源配分と対応姿勢に対する批判が噴出している。

「ケベドには第26特殊部隊群(Grupo de Fuerzas Especiales No. 26)が駐屯しているが、巡回はほとんど行われていない。強盗が横行する環状道路(Anillo Vial)では何も対応がない。それでも先住民の抗議となれば、セネパ戦争(Guerra del Cenepa)のような規模で部隊を展開する」との声も上がっている。

 

国家不在の実感

抗議活動に対する国家の対応に疑問を呈する声は、参加者にとどまらず、社会活動家や労働者など幅広い層からも上がっている。多くの市民が、国家の対応における「選別」や「偏り」を肌で感じている。

社会活動家のナディア・ドノソ(Nadya Donoso)は、「社会的抗議の鎮圧には全力の武装を用いるのに、エスメラルダス、マンタ、ドゥランといった犯罪組織の巣窟に対しては、国家の存在感がまるで感じられない。本当に信じられないことだ」と語るり、また、コトパクシ県のある労働者は、「兵士たちはコミュニティの家に侵入し、家庭を踏みにじる。その一方で、グアヤキルやポソルハ(Posorja)では犯罪を恐れて店が閉まるほどの治安の悪化があるのに、そこには抗議行動も何もない。なぜ軍は出動しないのか?」と訴える。

 

専門家の分析:「異なる文脈で異なる対応」

安全保障の専門家であるダニエル・ポントン(Daniel Pontón)は、国家の治安対応に二重基準が存在していると指摘する。「全国ストライキ(paro nacional)は、治安政策ではなく政治的問題である。政府にとっての目的は、体制の不安定化の可能性を抑え、力を誇示することだ」。一方、犯罪による治安悪化は構造的な問題であり、短期的な対応では解決できないとしたうえで、こう続ける。「現時点で行われているのは、反応的、メディア映えを狙った、コストの高い対応であり、殺人の減少や犯罪による領域支配の抑制に実効性が伴っていない」。さらにポントンは、抗議活動への弾圧的対応によって人的・物的リソースが浪費され、組織犯罪対策に本来必要とされる資源が回らない現状に警鐘を鳴らしている。

 

「誰が先に疲弊するか」の消耗戦

エクアドル政府と先住民族連合(Confederación de Nacionalidades Indígenas del Ecuador)の対立構造について、安全保障専門家のダニエル・ポントン(Daniel Pontón)は両者が「消耗戦」に突入しているとの見方を示す。「今の問題は、どちらがより長く持ちこたえるかである。政府は抗議を制御するために相当な戦力を投入しているが、それはエネルギーを消耗させる」と述べた。一方で、CONAIE側にも課題があると指摘する。「2022年のような統一的な指導力が見られず、複数の声や内部対立が存在している。この分散は短期的には政権に有利に見えるかもしれない」。

しかしポントンは、この状況が国家にとって必ずしも好都合ではないと警鐘を鳴らす。「国家にとって長期的にはこの分断は不利である。なぜなら、対立の根本的な火種は解決されず、いつでも再燃しかねないからだ」。また、ポントンは、今後予定されている国民投票(consulta popular)が政府の対応に大きく影響していると分析する。「国民投票が視野に入る中で、政府にとって時間は味方ではない。対立を長引かせることで、予期せぬ支持勢力が現れる可能性もある」と述べ、政府のリスク管理における政治的計算が見え隠れしていることを示唆した。

 

危機を露呈する数値

エクアドル内務省の公式データによれば、2022年から2024年にかけて、エクアドルは暴力の歴史的な急増を経験した。

◆ 主な指標の推移:

  • 恐喝(extorsiones):
     2022年の6,651件から、2024年には20,293件へ。205%の増加。

  • 誘拐(secuestros):
     2022年の713件から、2024年には2,095件に。193%の増加。

  • 恐喝目的の誘拐(secuestros extorsivos):
     2022年の581件が、2024年には1,457件に増加。150%の累積増加率。

◆ 最も深刻な指標:殺人率

エクアドルの殺人率は、2018年には人口10万人あたり14人であったのに対し、2024年には45人以上と過去最高を記録。これは国内史上最多であり、地域全体でも最悪レベルの一つとなっている。

 

暴力の集中地域と国家の統治能力

2025年に入ってからは若干の減少傾向が見られるものの(2025年1〜5月:恐喝 4,569件、誘拐 692件)、暴力は依然として特定の6県に集中している:

  • グアヤス(Guayas)県

  • エル・オロ(El Oro)県

  • マナビ(Manabí)県

  • ロス・リオス(Los Ríos)県

  • エスメラルダス(Esmeraldas)県

  • スクンビオス(Sucumbíos)県

これら6県だけで、国内の暴力事件の59%以上が発生している。

 

犯罪組織による事実上の支配

これらの県では、犯罪組織が領域支配を行い、独自の社会的・経済的ルールを住民に押し付けており、国家の権威を直接的に挑戦していると、内務省の報告書は伝えている。この現実は、エクアドル国家のガバナンス能力の危機を如実に物語っており、治安政策と政治的意思の両面での抜本的な見直しが不可避であることを示唆している。

市民、先住民はテロリストでも犯罪組織の構成員でもない。

#DanielNoboa #CONAIE #エクアドル全国ストライキ2025

 

参考資料:

1. ¿Más despliegue militar para el paro indígena que para combatir el crimen?

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