エクアドル:全国ストライキで発生した死亡事件の93%が免責状態に

 

オリンピア・カルメリナ・バルガス(Olimpia Carmelina Vargas)は、簡素なスニーカーとポンチョを身にまとい、キト(Quito)の冷え込みに耐えている。彼女はアマゾン地方プヨ(Puyo)から、家族や友人と共に首都キトを訪れ、検察庁へ向かう行進に参加している。

2025年6月、彼女らは「バイロン・グアタトゥカ・バルガス(Byron Guatatuca Vargas)」の事件が不問に付されることのないよう、正義を求めて行進していた。「私は正義を求めに来た。この事件はすでに3年が経過しているのに、何も進展がない。私は苦しんでいる。息子のために。もう3年になる。息子は勇敢な男だった。それなのに、いまだに正義は実現されていない」。オリンピア・カルメリナ・バルガスは、震える声で語り、内から込み上げる怒りと悔しさの涙を流した。バイロン・グアタトゥカ・バルガス(Byron Guatatuca Vargas)は、2022年6月21日に死亡した。警察が発射した催涙弾が顔面に直撃し、内部出血を引き起こして命を落としたのである。

 

この事件は、2019年と2022年に発生した2度の全国ストライキに関連する15件の死亡事件のうちの1件である。これらの事件に対する免責率は93.3%に達しており、15件中わずか1件のみが裁判に進み、有罪判決が下された。残る14件は、いずれも捜査段階で停滞するか、書類送検の状態にとどまっている。

「このような事態が続いているのは、単に法的な問題だけではなく、政治的な事情も背景にあるのだろう。捜査を促進できる環境が整っていないのが現実だ」と語るのは、アンデス人権プログラム(Programa Andino de Derechos Humanos)コーディネーターで大学講師のアドリアナ・ロドリゲス(Adriana Rodríguez)である。

ロドリゲスは、これらの事件の捜査には犯罪科学の手法が不可欠であり、証拠に基づいた捜査と、専門家による鑑定および捜査体制の整備が刑事手続きの一環として求められると説明している。「情報は極めて重要である。情報がなければ、事件はそのまま免責に終わってしまう。これは国家の責任である。国際的な基準に照らしても、国家はこうした事件を免責のまま放置してはならない」と強調した。

2022年の抗議活動は6月13日〜30日まで行われた。なおいずれの事件も裁判には至っていない。

 

 

2025年の事件について

この点は非常に憂慮すべきである。というのも、免責の構造が、2025年の全国ストライキに関連して発生したエフライン・フエレス(Efraín Fuerez)、ホセ・グアマン(José Guamán)、ロサ・エレナ・パキ(Rosa Elena Paqui)の死にも及ぶ可能性があるからである。

エフライン・フエレス(Efraín Fuerez)は、2025年9月28日(日)に死亡した。彼はインバブラ(Imbabura)県のコタカチ=イバラ(Cotacachi–Ibarra)間の地域において、デモ隊と軍隊との間で衝突が発生していた際、治安部隊の銃弾を受けて死亡した。

人権地域法律支援財団(Fundación Regional de Asesoría en Derechos Humanos:Inredh)のメンバーであり、フエレス家族の法的代理人を務めるディアナ・レオン(Diana León)は、事件当日の軍の作戦を指揮した責任者に関する情報を、国防省(Ministerio de Defensa)および軍隊に対して求めているが、これまで一切の回答が得られていないと述べている。レオンによれば、「これは、事件現場にいた関係者や指揮官の情報を意図的に隠蔽し、エフライン・フエレスの死に関する真相と責任の所在を不明瞭にしようとする企図があることを示している」。

この文脈において、前述のアドリアナ・ロドリゲスは、「国家の司法制度が正義を追求する過程で限界に達し、捜査段階が著しく長期化する場合、国際法こそが免責と闘うための重要な代替手段となる」と述べている。

 

 

誰も諦めてはいない

バイロン・グアタトゥカ・バルガスが亡くなってから、すでに3年が経過した。しかし、時間がどれだけ流れても、家族は彼と過ごした日々の思い出を大切に抱き続けており、それは彼らの深い愛情と記憶の証明でもある。

弟のレナト・グアタトゥカ(Renato Guatatuca)は、兄バイロンと一緒にパスタサ川(río Pastaza)へ釣りに出かけていた思い出を語った。二人は釣り針を手に魚を捕り、それをそのまま食事としていたという。調子の良い日には、最大で25ポンド(約11kg)もの魚を釣り上げることもあった。

「本当に釣りがうまい人だった。僕よりずっと上手だった」と、レナトは微笑みながら語った。レナトによるとバイロンはさらに、サッカーでは鋭い動きを見せるフォワードであり、ゴールを決めることや、チームに喜びをもたらすことに喜びを感じていた人物だったという。

 

これらの心に刻まれた思い出が、いま、正義を求める原動力となっている。

「私たちは毎年、検察庁の扉を叩き続けている。パスタサ(Pastaza)県でも訴えたが、まったく相手にされなかった。だからこそ、キトへ来て、私たちの声に耳を傾けてもらおうとしているのだ」と、レナト・グアタトゥカは語った。レナトは力強い声で、家族や友人とともに、兄バイロン・グアタトゥカ・バルガス(Byron Guatatuca Vargas)の事件が免責のまま終わることのないよう求め続ける決意を示し、正義を求める行進を今後も続けていくと宣言した。

 

バイロン・グアタトゥカに何が起きたのか

バイロン・グアタトゥカは、エクアドルのアマゾニア地域に住むキチュア(Kichwa)民族のコミュニティの一員である。多くの他の先住民族と同様に、彼はCONAIEや他の社会団体が呼びかけた全国ストライキの抗議活動に、プヨで参加していた。2022年6月13日深夜、シュアル(Shuar)とキチュアが主な道路の封鎖と動員を開始し、これにアマゾンの他の先住民ネイションであるアイ・コファン(Ai Kofán)も加わった。彼らは7日間、平和的に抗議活動を続けていたが、8日目に警察と軍隊が彼らを排除する作戦を実施した。

人権組織連盟(Alianza de Organizaciones por los Derechos Humanos)は、「この暴力的かつ過剰な行動の結果、バイロン・グアタトゥカは催涙弾を受けて亡くなった」と発表した。家族や友人、人権団体は、彼のために正義を求めている。

バイロン・グアタトゥカは42歳であり、4人の子どもの父親であった。彼は製材所で働き、パスタサ県のキチュア共同体サン・ハチント・デル・ピンド(Comuna San Jacinto del Pindo)のメンバーだった。家族の生計を支えており、妻のアリシア・タプイ(Alicia Tapuy)は専業主婦として、学業中の幼い子どもたちの世話をしていた。

6月21日の午後、バイロンは複数のコミュニティメンバーとともに、プヨのピコリノ(Picolino)、タルキ(Tarqui)通りでの抗議活動に参加していた。人権団体Inredhの報告によると午前11時にアリシアが食事を渡し、その後、バイロンの妹がストライキに参加するよう伝えに来たため、彼は服を着替え、何も持たずに出かけたという。

人権組織連盟の報告書によると抗議にはパスタサ県に居住する7つの先住民族、アチュアル(Achuar)、アンドア(Andoa)、シュアル、キチュア、シウィアル(Shiwiar)、ワオラニ(Waorani)、サパラ(Zapara)が参加し、平和的に意思を表明していた。午後6時頃から警察と軍が無差別に催涙ガスを使用し始めた。SNSに投稿された映像には、現場がガスで満たされ、抗議者たちが窒息している様子が映っている。

混乱の中、バイロン・グアタトゥカは頭部に催涙弾を受けた。映像には彼が倒れ、頭から煙が立ち上り爆発が起きる様子が映されている。この異変に気づいた他の抗議者たちは、彼を助けようとした。妻のアリシアは、しばらくして大きな音が聞こえ、車やバイクが行き交い、近隣の住民たちも慌ただしく動いているのを見た。彼女はハンカチで鼻を覆い、人が集まっている場所に近づくと、近所の人から「隣人のバイロンが殺された」と告げられた。「爆弾が人を殺すなんて知らなかった」とアリシアは語った。

 

アリシアは隣人の言葉を疑い、本当にそうなのかと尋ねた。隣人は「そうだ、救急車を呼べ」と答え、実際に救急車を呼んだという。アリシアは「夫を殺された。お願いだから連れて行ってほしい」と従兄弟に懇願し、その従兄弟は彼女を病院へ連れて行った。プヨ病院(Hospital del Puyo)に着くと、守衛が誰がバイロン・グアタトゥカの家族かを尋ねたため、アリシアは手を挙げた。その後病院はバイロンの身分証明書を求めた。

プヨ病院に搬送されたバイロンの状況は、Mia Sonovisiónを通じライブ中継が行われた。バイロンが撃たれたとき現場にいた抗議者の一人にインタビューが行われた。その抗議者は「彼は正面から撃たれて殺された。俺の隣にいた。目のガスを取り除こうとした」と話し、自身の腕がバイロンの血で汚れていることを示した。また、抗議は平和的だったにもかかわらず警察が攻撃を始めたと証言している。プヨ病院のダニエラ・ペラルタ(Daniela Peralta)院長はMia Sonovisiónに対し、バイロンは脳死状態で亡くなったと述べた。

バイロンの死後も抗議者と治安部隊の衝突は続き、警察のパトカー1台と地域警察ユニットが焼かれた。また、グアヤキル銀行(Banco de Guayaquil)の支店が襲撃され、完全に破壊された。これを受けて警察は声明を発表し、「プヨの平和と治安を脅かす暴力行為を断固として非難する。公共財産を破壊する行為は決して見過ごさない」と強調した。さらに警察は声明で、バイロンの死因は「爆発物の扱いによるものである」とし、「治安維持に爆発物は使用しておらず、平和的な抗議活動に対しても使用していない」と強調した。捜査は司法当局が行い、事件解明に協力するとしている。

同様に、内務大臣パトリシオ・カリジョ(Patricio Carrillo)は、バイロンの死を抗議者による爆発物の扱いに関連付け、Twitterで「爆発物の扱いは危険が高い。事実に基づき透明に対応する。独立した専門家が事件の報告を司法に提出するだろう。国家警察は治安維持に爆発物を使用していない」と投稿した。

これに対し、人権団体連盟はTwitterで「バイロンの死は爆発物の扱いによるものではない。国家警察こそが催涙弾を投げ使用している。真実と正義、そして補償を要求する」と反論した。また、エクアドル・アマゾニア先住民族連合(Confederación de Nacionalidades Indígenas de la Amazonía Ecuatoriana:CONFENIAE)は声明で、「治安部隊の不当かつ過剰な暴力と抗議者に対する直接射撃」を非難し、人権団体の介入を求めた。さらに「国家警察の手はバイロンの血で汚れている」と述べ、彼を兄弟のように見なしていることを表明した。声明では、頭蓋骨に埋まった催涙弾のCT写真も公開された。

 

 

CONFENIAEの会長マルロン・バルガス(Marlon Vargas)は、動員に攻撃を加えたのは国家警察であると断言した。「パスタサで起きたことは国家による犯罪である。責任は国家にある。殺害した後に被害者面するな」と強く非難した。

同様にCONAIEも声明を発表し、キチュアの共同体ナメンバーが受けた催涙弾の直撃により殺害されたと非難した。「これらの事実を米州人権委員会(Comisión Interamericana de Derechos Humanos)、国連(Naciones Unidas)、エクアドル国民擁護局(Defensoría del Pueblo de Ecuador)に訴え出る」と表明した。

さらに、アマゾン流域先住民族組織(Coordinadora de la Organizaciones Indígenas de la Cuenca Amazónica:COICA)も声明を出し、「全国ストライキの中で、深い悲しみと憤りをもって、パスタサ県における治安部隊による弾圧の中で殺害されたエクアドル・アマゾニアのキチュア兄弟バイロン・グアタトゥカの死を非難する」と述べた。

また、パチャクティク全国党(Pachakutik Nacional)の議員団もバイロンの死を悼み、遺族に連帯の意を示した上で、「ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)政権による、正当な憲法上の抵抗権を行使する最も貧しい層に対する犯罪的政策」に対して、人権組織が行動を起こすよう呼びかけた。

これに対して、上述の通り内務大臣パトリシオ・カリジョは記者会見で、事件の責任は抗議者にあると主張し、「爆発物、手製の武器、カービン銃のような武器を所持していた。彼らが市民や警察に攻撃を開始した」と述べた。しかしながら、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnistía Internacional)アメリカ担当ディレクターのエリカ・ゲバラ・ロサス(Erika Guevara Rosas)は、証言とデジタル証拠の分析を踏まえ、バイロンの死は「警察官を含む治安部隊による過剰な武力行使が原因であり、検察総長が速やかに捜査すべきである」とした。同団体によれば、催涙ガスの手榴弾をエクアドル警察が「直接かつ至近距離から投擲」したことでプヨ中心部、タルキ通り(Avenida Tarqui)とアントゥリオス通り(Calle de los Anturios)の角でバイロン・グアタトゥカ(Byron Guatatuca)を死に追いやった。

 

なぜアマゾニアで抗議が起きたのか

アマゾニアでの2022年のストライキは、鉱業や石油の資源開発による領土の破壊に反対する要求を掲げるものだった。この要求の中心は、ギジェルモ・ラッソ大統領が発令したハイドロカーボン生産拡大を定める第95号政令の撤廃であった。加えて、第151号政令で定められたエクアドル鉱業セクター行動計画の撤廃も求めていた。

サン・ハチント・デル・ピンド共同体は2021年5月、リオ・パスタサ流域における鉱業活動と重機の導入によって、住民の耕作地や領土が被害を受けているとして立ち上がった。当時、共同体は行政当局に問題の対処を求め、事実上の措置としてプヨとバーニョス(Baños)を結ぶ道路を封鎖した。

このサン・ハチント・デル・ピンド共同体のように、エクアドル・アマゾニアには鉱業や領土の暴力的かつ組織的な奪取に抵抗する他のコミュニティも存在する。例えば、コンドル・ミラドル山脈のアマゾニア社会共同体(Comunidad Amazónica de Acción Social Cordillera del Cóndor Mirador:Cascomi)は、サモラ・チンチペ(Zamora Chinchipe)県トゥンダイメ(Tundayme)教区の地域共同体組織であり、2015年から中国系鉱業会社エクアコリエンテS.A.(Ecuacorriente S.A.)による複数回の強制立ち退きに苦しんでいる。

トゥンダイメでは、露天掘りの大規模鉱業プロジェクト「コンドル・ミラドル」が展開されている。この金・銅採掘の巨大プロジェクトは中国企業エクアコリエンテS.A.が主導しているが、地域住民にもたらしたのは河川汚染や領土の荒廃であり、強制移住とコミュニティ活動の困難によるアイデンティティ喪失である。これらの理由から、アマゾニアの人々は鉱業活動の拡大と汚染の継続を防ぐために第151号政令の撤廃を強く求めている。さらに、コミュニティの教育、インフラ、技術、医療への投資拡大も要求に含まれていた。

 

 

正義を求めて

バイロンの死を受け2022年、Inredhの弁護士ジェシカ・デルガド(Jessika Delgado)は、パスタサの検察庁に専門的な準備と能力が欠けていることに強い憂慮を示した。この事件の法的支援を担当している彼女やその団体によると、抗議行動の文脈において、かつ治安部隊が関与する人物の死亡事件の調査には「特定の調査指針」が存在するという。デルガド弁護士は、「殺人罪や故意殺人罪のような生命に対する犯罪の調査とは異なり、状況が全く異なる」と指摘している。

パスタサは7つの先住民ネーション出身者が暮らす地である。バイロンはキチュアであるため、「この事件を一般的な殺人事件のように扱うことはできない」と強調した。そして「これは職務の逸脱、すなわち重大な人権侵害や国際人道法違反にあたる人道に対する犯罪である」と述べている。また、事件を担当する検察官マルコ・エスピン(Marco Espín)の対応を批判し、「すべての視点と原則が適用されていないため、罪名の変更が必要である」と述べた。バイロンの死は「国家犯罪であるため、人権専門の検察庁や人権部門による調査が求められる」と考えている。

弁護士ソフィア・ジェレナ(Sofía Llerena)がInredhに語ったところによると、パスタサ県検察庁は、国家検察庁が2022年6月22日に職権で開始した捜査に関連し、約80名の警察官(軍曹、下士官、中尉、大尉、少佐)および治安維持ユニット(Unidad de Mantenimiento del Orden:UMO:)の10名を捜査対象とした。

ジェレナ弁護士は2022年当時、検察庁は事件現場にいた警察官に聴取を求めたものの、6名の証言しか取れていないことなどを指摘し、「事件に適切な対応がされておらず、捜査を迅速かつ確実に進めるための十分な保障が提供されていない」と述べていた。検察は事件の再現(リコンストラクション)を求めており、ジェレナ弁護士は「銃弾鑑定のための捜査開始や、バイロンが死亡した当日の軍関係者の聴取日程がまだ決まっていないことに懸念を示している」。

そして上述の通りバイロン・グアタトゥカの殺害について、未だ裁判すら行われていない状態である。一方当時の大統領ギジェルモ・ラッソ大統領は全国ストライキの最中に亡くなった軍人ホセ・チマロ(José Chimarro)に奨学金と補償金を提供した。その一方で、アリシアや当局によって殺された人物の子どもたちには大統領から一言の言及もない。

#GuillermoLasso

 

参考資料:

1. La impunidad cubre el 93% de muertes ocurridas en los paros nacionales: de 15 casos, apenas uno tuvo sentencia
2. “Yo no sabía que las bombas mataban” La muerte de Byron Guatatuca 
3. Se cumplió un mes de la muerte de Byron Guatatuca: ¿cuáles son los avances en la investigación?

 

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