[エドガー・イッシュ・ロペスよるコラム]エクアドルで対立するデモと民衆勢力

以下はエドガル・イッシュ・ロペス(Edgar Isch López)によるコラムの翻訳である。学者である彼は、エクアドル環境大臣を務めたこともある。ラテンアメリカ戦略分析センター(Centro Latinoamericano de Análisis Estratégico:CLAE)にも所属している。


エクアドルは、2025年9月11日、政治的存在感を内外に示す一日を迎えた。この出来事は、同国における社会的矛盾が深まりつつあることを如実に物語っている。ダニエル・ノボア(Daniel Noboa)大統領率いる政府は、増加の一途をたどる犯罪率や殺人事件数を政権支持の材料として利用しようと試みた。だがその思惑とは裏腹に、政権の支持率は着実に低下し続けているのが現状である。

特筆すべきは、同日、大統領および閣僚らが憲法裁判所(Corte Constitucional)に対抗する形でデモを実施した点である。憲法裁判所は、現時点において政府の直接的な影響力が及ばぬ、数少ない独立した国家機関の一つである。一方、市民団体や社会運動グループは、いわゆる「トロール法(leyes trole)」に反対するために動員を行っていた。これらの法案群は、その内容が多岐にわたり、憲法裁判所において合憲性が審査されている最中である。政府主導による今回のデモは、沿岸部の都市グアヤキルにおいて実施された。動員されたのは、公務員、解雇を恐れる職員、食事や交通費を提供された貧困層、右翼系の市民団体、さらには警察および軍の一部隊員である。これらの参加者は、政府の基盤を構成するとされる社会層に属している。しかしながら、このデモの実態は、滑稽さすら伴うものであった。治安の悪化を理由に開催されたこのデモ自体が、皮肉にも政府の無策を告発する行為に他ならないからである。ノボア大統領が主張する「暴力への抗議」は、すなわち、自らがこの問題を解決できていない事実を公然と示す場となった。

デモは開始時間が大幅に遅れ、行進距離は1,000メートルにも満たなかった。ノボア大統領による演説も、わずか5分間で終了した。参加者の多くは、デモの具体的な目的を理解しておらず、政府の施策に関する質問に対しても明確に答えることができなかったという。こうした混迷の中、エクアドルの民主主義と統治のあり方は、今まさに岐路に立たされている。

 

9月11日、エクアドル全24県のうち22県において、左派勢力および民衆団体による大規模な抗議行動が展開された。各地の街頭に繰り出したのは、統一労働者戦線(Frente Unitario de Trabajadores)、人民戦線(Frente Popular)、全国教育労働者連合(Unión Nacional de Educadores:UNE)、大学生および高校生の組織、医師連盟、フェミニスト団体、環境保護団体など、社会の多様な層に根差した団体である。その後、最大の先住民運動組織であるエクアドル先住民族連盟(Confederación de Nacionalidades Indígenas del Ecuador:CONAIE)もこれに加わり、抗議の規模と正統性に一層の重みを加えた。今回の動員は、単なる抗議にとどまらず、明確な政治的意図と要求に基づいた「闘争プラットフォーム」に基づくものであった。その内容は、現在の政権が国際通貨基金(International Monetary Fund:IMF)との合意を優先し、自国民の生活と権利を二の次にしていることへの強い批判に立脚している。

具体的な要求としては、政府が提出した一連の法律や大量解雇計画への反対、保健・教育の崩壊的状況に対する緊急事態宣言の発令要求、さらには、政権が推し進めようとしている国民投票への反対が掲げられている。この国民投票は、政権の本質的な政治目的を覆い隠すための「目くらまし」であり、売国的とも言える政策の正当性を演出する手段にすぎないと見なされている。

こうした緊張が高まる中、翌12日、政府は新たな火種を投じる発表を行った。複数の閣僚が登壇し、IMFとの合意文書(Carta de Intención)に基づき、ディーゼル燃料補助金の撤廃を実施する旨を明らかにしたのである。この政策は、まさに新自由主義的改革の典型といえるものであり、その影響は即座に現れた。ディーゼル価格は1ガロンあたり1.80ドルから2.80ドルへと一気に引き上げられ、輸送業、物資流通、沿岸漁業、小規模農業といった基幹産業に深刻な打撃を与える結果となった。

政府は暫定的な対策として、運輸業者への直接的な金銭支給を打ち出している。だが、こうした措置の恩恵を受けるのは、主に企業家団体に代表される運輸セクターに限られ、その他の庶民層や生産者に対する配慮は極めて限定的である。運輸業界はさらなる優遇措置を求め、すでに政府との交渉を開始している。一方、国内の経済団体や右翼勢力の一部は、補助金撤廃を「市場原理に基づく正当な改革」として歓迎する姿勢を見せている。

こうした中、政府と民衆との溝は一層深まりつつある。国際機関への従属と国内政策の破綻、その二重の圧力の中で、エクアドル社会はかつてないほどの緊張状態に置かれている。

 

水を守る10万人の行動

エクアドル第3の都市クエンカ(Cuenca)において、自然水源と生命の源であるキンサコチャ(Quimsacocha)のパラモを守るため、約10万人の市民が集う大規模な抗議行動が展開された。これは、同地域における環境保護運動の象徴的な出来事である。同地では2021年に住民投票が実施され、都市部および農村部の有権者の8割を超える多数が、高地湿原の保護およびカントン内における多国籍企業による鉱業の禁止に賛成の意思を示した。住民の強い意志が明確に表れたこの結果は、地域の生命と環境を守る重要な指標である。

だが、政府は開発政策を採掘依存型に固執し、資源の民営化路線を維持する立場にある。住民投票の法的効力を順守すべき義務があるにもかかわらず、その結果を無視し、多国籍鉱山企業に有利な政策を推し進めているのが現状である。多くの住民が生命を守るため鉱業開発に反対を表明しているにもかかわらず、政府は「地方自治体の報告書次第である」と責任回避の姿勢を示し、問題の先送りを図っている。

さらに問題は深刻である。ノボア大統領は、まるでカナダ系多国籍企業ダンディ・プレシャスメタルズ(Dundee Precious Metals)の代理人であるかの如く、今後同企業などが提起する訴訟については地方自治体や他の地方政府が責任を負うべきであり、国家としての関与を否定すると表明した。この発言は、国家の根本的な責任回避であると批判されている。

 

9月16日にはキンサコチャ地域で、ロマ・ラルガ鉱山計画に反対し自然環境を守るための大規模な動員が実施された。カントン全体を覆うこの行進には10万人以上が参加し、数時間にわたり街を行進した。この抗議運動は、県レベルから全国レベルにかけて広範な統一が達成されたことを示しており、エクアドルに根強く存在する採掘依存政策そのものが根本的に問い直される契機となっている。特に、同計画に対する環境ライセンスを国内法に違反して承認した政府への痛烈な批判が集中している。住民や地域組織、全国的な市民団体は、政府が声に耳を傾けない場合、全国規模での蜂起も辞さない覚悟を表明している。抗議の呼びかけ文には、「我々は犠牲の地となるつもりはない。国民主権が踏みにじられることを許すつもりもない」と明確に記されている。

今回の大行進は、政府が全国の多くの地域で発令した新たな非常事態宣言すら乗り越えた強固なものとなった。同様の動きは、ラタクンガ(Latacunga)など他都市においても確認されている。ノボア大統領は、社会的対立の激化を避ける目的で行政本部をラタクンガに移転させる措置を取ったが、その試みも成功しなかった。さらに、国内各地で発生した弾圧行為も、抗議運動の勢いを抑え込むことはできていない。

中南米大陸の右翼勢力にとって、エクアドルは新たな政治的火種として浮上しつつある。一方で、民衆勢力はこうした破壊的勢力の正体をますます明確に認識している。右翼が望む「墓場のような平和」は、この激動の時代において実現することはあり得ない。

#DanielNoboa

 

参考資料:

1. Marchas contrapuestas y crecimiento de la oposición popular en Ecuador

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