今日では、TikTokやInstagramといったプラットフォームを中心に、新たな世代の先住民系コンテンツクリエイターたちが、目覚ましい存在感を示している。彼ら・彼女らは、自己表現の場としてのSNSを活用し、自らの文化や日常を積極的に発信している。その多くは、民族的ステレオタイプや、時に身近な人々から投げかけられる偏見や批判と向き合いながら、独自の声を育ててきた。そこには、ただの“バズ”とは異なる、文化的主張と自己肯定の意志が込められている。
エクアドル南部・ロハ(Loja)県出身の人気YouTuber、ナンシー・リソル(Nancy Risol、2002年生)は、2018年半ばにSNSへ登場して以来、先住民系インフルエンサーの先駆けとして注目されてきた存在である。彼女の持ち味は、自然体のユーモアと皮肉を交えた語り口にある。動画では、エクアドル社会に根付く多文化的な現実を、軽やかに、しかし鋭く描き出す。ナンシー・リソルの登場は、これまで周縁化されがちだった先住民文化を、デジタル空間の中心に引き寄せる契機となった。
雑誌『Mundo Diners(ムンド・ディーナース)』はこの度、フォロワー数十万人規模のSNSを持つ3名の先住民系インフルエンサーたちにインタビューを実施した。彼女たちは、どのようなメッセージを社会に届けたいのか、これからの夢は何かについて語っている。
インタビューに応じたインフルエンサーたちは皆、自らが属する先住民コミュニティへの誇りを口にする。彼女たちは、キチュア(Kichwa)語を話し、日常生活を発信することそのものが、文化的抵抗であり、アイデンティティの表明であると強調する。それらの発信は、TikTokでのダンスや短い寸劇、YouTubeにおける観光地紹介、あるいはFacebookでのライブ配信など、多様な表現形式を通じて行われている。エンターテインメントの中に、彼女たちは言語・衣装・ジェスチャー・風景など、文化の断片を巧みに織り込んでいる。SNS上での活動は、彼女たち自身の可能性を広げるのみならず、先住民文化を再発見し、尊重する機運をも高めている。
エクアドルは民族的多様性に富む国である。国家統計・国勢調査機関(Instituto Nacional de Estadísticas y Censos:INEC)が2022年に実施した調査によれば、エクアドルの総人口は17,895,131人であり、国内には14の先住民族(ツァチラ、チャチ、エペラ、アワ、キチュア、シュアル、アチュアル、シウィアル、コファン、シオナ、セコヤ、ザパラ、アンドア、ワオラニ)が存在する。そのうち、先住民族出身者は総人口の7.7%を占め、さらにその85.87%がキチュアに属している。
これから紹介する3名の先住民インフルエンサー、ナタリー・ピラムンガ(Nathaly Pilamunga)、メリサ・ユミサカ(Meliza Yumisaca)、エレナ・グアラプーロ(Elena Gualapuro)は、それぞれの所属する先住民族コミュニティにおける社会的生活や文化的価値観の一端を体現する存在である。彼女たちは自身の先住民性を前面に出し、堂々と語り、笑い、踊る。そうした行為は、これまで周縁化されてきた存在の再定義となっている。
デジタル時代において、先住民性(Indigeneity)は過去の遺物ではなく、現在を生きる選択であり、未来を切り拓く力である。TikTokやYouTubeといったグローバルなメディア空間において、彼女たちは新たな文化の形を提示している。伝統と現代性の交差点に立ち、SNSというツールを駆使し、多様なアイデンティティのあり方を積極的に発信しているのである。
メリサ・ユミサカ
TikTokフォロワー:85万2千人|YouTube登録者:6万8千人|Instagramフォロワー:23万3千人|Facebookフォロワー:17万4千人
1998年コルタ(Colta)生まれのルス・メリサ・ユミサカ(Ruth Meliza Yumisaca)は、現在ドゥラン(Durán)市に住んでいる。社会コミュニケーション学を専攻している。彼女にとって、視聴者や地域社会とのつながり、そしてモデル活動が最優先である。
メリサとその家族は先住民プエブロであるプルハ(Pueblo Puruhá)の出身である。母のマリア・エレナ(María Elena)は、娘に「先住民であることを恥じてはならない」と繰り返し伝え、彼女のアイデンティティの基盤を築いた人物である。
「私はチンボラソ(Chimborazo)県コルタ郡で、3年間にわたり地域の人々と活動している。頻繁に訪れる場所だ。17歳の頃から報道やコミュニケーションの仕事に憧れていた。2008年にミス・エクアドルに選ばれたドメニカ・サポリティ(Doménica Saporiti)に強く影響を受けたが、『私は先住民だから誰も注目しないだろう』と思っていた。しかし、私は文化の架け橋になりたいという思いで活動を始めた」とメリサは語る。
2019年には、地元アーティストのミュージックビデオにモデル兼女優として初出演を果たした。このとき、友人であるナンシー・リソルの支えが大きな後押しとなったという。
現在、ユミサカのTikTokでは、若者向けの皮肉を交えたユーモアやダンス、実用的なアドバイスが主なコンテンツが中心となっている。また、YouTubeでは『メリサと一杯のコーヒー(Un cafecito con Meliza)』というインタビュー番組を立ち上げ、全国のアーティストとの対談を配信している。中でも特に人気の高い動画は『先住民の婚約の儀式(Pedida de mano indígena)』で、再生回数は2022年2月時点で57万回をゆうに超えていた(同コンテンツはYouTube上では削除されている)。
@melizayumisaca14 ❤️#pedidademano😍💍 #melizayumisaca ♬ De Mí – Camila
2025年、メリサ・ユミサカは、恋人で警察官のルイス・アンブルディ(Luis Ambuludi)、通称「ポリ・ポリ」との結婚を発表した。結婚にあたり、彼女は先祖代々受け継がれてきた文化的慣習を尊重し、すべての過程を伝統に則って執り行う意向を明かしている。相手がムラート(混血)であっても、その姿勢は揺るがない。
先住民族の伝統に詳しくない人々にとって、まず驚かされるのは「ハピトゥクイ(Japitukuy)」と呼ばれる結婚の申し込み儀式である。これは単なるプロポーズではなく、深い文化的象徴を持つ儀式である。「この儀式は、私の両親に対する敬意の表現であり、結婚後に夫となる人が私を守ることについて、家族に許しを請う行為なのです」と、メリサは緊張と喜びの入り混じった面持ちで語った。
「ハピトゥクイ」は、単なる両家の顔合わせではない。親族や地域の人々が集まり、将来の結婚式(宗教式・法的手続きを含む)について話し合いが行われる。そして招待客は、多くの贈り物を持参する。これには、モルモット、豚、子牛、鶏、ウサギといった動物類のほか、果物、野菜、パン、さらにはビールなどが含まれる。「山岳地帯では生きた動物なども贈られますが、私はドゥランに住んでいるので、今回はそこまでではないでしょうね」と、メリサは笑顔を見せた。先住民族の女性がメスティーソ(混血)の男性と結婚する場合、伝統儀式を省略するケースもある。しかし、今回の結婚においてメリサは幸運だったと感じている。「彼はロハ(Loja)県出身のメスティーソですが、私の文化と家族に対する深い敬意を示してくれました。伝統を守りたいと言ってくれたことが、本当にうれしかったです」と語る。
今日、SNS上で文化的アイコンとして知られるメリサだが、その原点は質素であった。彼女は、両親であるパブロ・ユミサカ(Pablo Yumisaca)とエレナ・グアチョ(Elena Guacho)とともに、グアヤキル(Guayaquil)市内のラス・エスクルサス市場(Las Esclusas)で働き、エプロン姿で陳列棚を整え、買い物客に笑顔を向けていた。
この結婚式は、伝統と現代が交差する象徴的なイベントとなるだろう。SNS時代において、「先住民族の結婚」はもはや過去の遺産ではなく、現代に息づく文化として再評価されている。メリサ・ユミサカは、そうした新たな文化的潮流の中心に立つ人物である。「私は“ポリ”を心から愛しています。人生をかけて、彼と生きていきたい」と、彼女は語った。
将来的には演技の分野にも挑戦したいと考えているメリサは「いつかは自分自身のテレビチャンネルを立ち上げて運営してみたい。しかし今はYouTubeとFacebookに集中している」と彼女は語っていた。
エレナ・グアラプーロ
TikTokフォロワー:7万5,400人|YouTube登録者:2万5,100人|Instagramフォロワー:3万5,000人|Facebookフォロワー:9,000人
1996年に生まれ、オタバロ出身のニュスタ・エレナ・グアラプーロ・イピアレス(Ñusta Elena Gualapuro Ipiales)は、エクアドルのインバブラ(Imbabura)県で育った。彼女にとって、伝統衣装や家族、地元の工芸や芸術は、創作活動における絶え間ないインスピレーションの源となっている。2021年初頭よりSNSでの情報発信を開始し、現在は料理チュートリアルを中心とした投稿が人気を博している。
「今、最も“売れる”プラットフォームはTikTokだと考えている。私はその影響力を責任を持って使い、身近な人々や地元の起業家の支援、さらには観光地の紹介にも力を注いでいる。『ボルダドス・タチアナ(Bordados Tatiana)』というブランドとも協力している。まだまだ学ぶべきことは多いが、どこにいても最善を尽くし、人の役に立ち、地域に貢献し、何かを伝えることが私の目標である」と語る。
@eleniita_g Día de borradores !! 😬😅
♬ sonido original – Maye Ramos
かつては写真を撮られることすら恥ずかしかったほど内向的であったが、現在は自然な笑顔と柔らかな身振りでカメラの前に立ち、自信に満ちた姿を見せている。
YouTubeで特に人気のある動画には、『ティエストで焼いた最高のクイ(El mejor cuy asado en Tiesto)』や『リオバンバの路上商人から全てを買ってみた(Compro todo a vendedores de la calle en Riobamba)』などがある。また、インバブラ県およびチンボラソ(Chimborazo)県の観光地を紹介する動画も多数投稿しており、地元文化の発信に積極的に取り組んでいる。
ナタリー・ピラムンガ(Nathaly Pilamunga)
TikTokフォロワー:27万6,000人|YouTube登録者:2,040人|Instagramフォロワー:4万1,000人|Facebookフォロワー:3,400人
リオバンバ(Riobamba)で1999年に生まれたミリアム・ナタリ・ピラムンガ・レマチェ(Miriam Nathaly Pilamunga Remache)は、プルハ(Pueblo Puruhá)にルーツを持つ。幼少期の約15年間をエクアドル北部の都市トゥルカン(Tulcán)で過ごし、先住民である両親の文化的慣習を大切にしながら、地域社会の中でアイデンティティを確立してきた。
祖父のヘロニモ(Gerónimo)は、キチュア語を物語を通じてナタリーに教え、もう一人の祖父リカルド(Ricardo)は、先住民としての誇りとルーツを受け継ぐ重要性を説いたという。
ナタリーが初めてSNSに動画を投稿した際、服装や内容に対する批判が多く寄せられた。「オリジナリティがない」「田舎っぽい」といった否定的なコメントを受けたことが、かえって彼女を動かすきっかけとなった。「批判を受けて決めたのだ。キチワ語だけで発信してみようと。すると、非常に好意的に受け入れられた。」
最初にバズった動画は再生回数100万回を超え、それ以降はポジティブなコメントが圧倒的に増加した。現在は、キチワ語の数字の数え方や色の名前を短く、わかりやすく解説する動画を中心に発信している。「すべてはそこから始まった。家族も支えてくれているし、TikTokを始めてもう1年になる」と2022年のインタビューで語っていた。
@nathalypilamungaok Escucharán mana valis
♬ sonido original – Miriamnathaly
ナタリーは、両親が経営する伝統衣装・工芸品ブランド「ルナ・シナ・ブティック(Runa Shina Boutique)」のプロモーション活動にも積極的に関わっている。モデルとして商品の魅力を紹介するだけでなく、SNSを活用することでブランドの認知度向上にも大きく貢献している。
観光学を専攻した彼女は、将来的には地域文化と観光を結びつけるキャリアの構築を目指しているという。自身のルーツへの誇りと現代的なコミュニケーション手法を組み合わせることで、ナタリーは新たなかたちの地域貢献を体現しつつある。
参考資料:
1. 3 nuevas influencers indígenas que arrasan en Tik Tok
2. Meliza Yumisaca y el Japitukuy: el ritual indígena que vivirá antes de su boda
3. Nueve ecuatorianos, entre los influencers indígenas más populares
4. Nancy Risol, la indígena que conquistó YouTube a punta de parla


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