2025年上半期、欧州における庇護の情勢は大きな変化を見せた。6月末までに、EU+諸国(EU加盟国および一部の関連国)では合計39万9000件の庇護申請が提出され、前年同期比で23%の減少となった。
この減少の主因は、シリアからの申請件数が激減したことにある。シリア人による庇護申請は約3分の2減少し、2万5000件にとどまったことによる。その結果、ドイツはもはや最大の受け入れ国ではなくなり、代わってフランスおよびスペインが最多の庇護申請を受け入れた国となった。
マルタに本部を置く欧州庇護機関(European Union Agency for Asylum)が9月8日(月)に発表した「最新庇護動向の中間報告」によれば、カリブ海に位置するベネズエラの国民は、過去10年間にわたり最も多く庇護申請を行っていたシリア国民を上回り、EUにおける最多の申請者となった。ベネズエラからの申請件数は増加傾向にあり、4万9000件と前年同期比で約3割増(+31%)を記録した。また、EU+諸国への庇護申請の大部分は、引き続き認定率が低い国籍の市民によるものであるとも報告されている。
同報告書はまた、2025年1月から6月の期間において、スペインがフランスに次いでEU加盟国の中で2番目に多く庇護申請を受け付けた国であることを明らかにしている。6月末時点における申請件数は、フランスが78,000件、スペインが77,000件で首位を争い、ドイツは70,000件で3位となった。以下、イタリアが64,000件、ギリシャが27,000件で続いている。これにより、ギリシャは人口1人あたりの申請件数において最多となり、380人に1件の割合で申請を受けた計算になる。
注目すべきは、フランスでは申請数が前年同期と比較してほぼ横ばいであった一方、ドイツ(-43%)、イタリア(-25%)、スペイン(-13%)では、庇護申請数が大幅に減少している点である。
国籍別に見ると、シリア国民によるEU加盟27か国での庇護申請は66%も激減した一方で、ベネズエラ国民の申請は前年同期比で31%増加した。報告書によれば、ドイツにおける申請者数の減少は、バッシャール・アル=アサド(Bachar al-Asad)政権の崩壊により、シリア国民の申請が大幅に減少したことが主な要因であるという。
欧州内務担当委員のマグヌス・ブルナー(Magnus Brunner)はSNS上で、庇護申請数の「著しい減少」が明らかになったと述べた上で、新たな移民・庇護協定により、「却下される可能性の高い申請」をより迅速に処理する「より効率的な」手続きが導入されていると説明した。さらに、ブルナーは「春に提案した施策は、第三国との協力を強化し、帰還措置の実効性を高めるとともに、庇護制度への圧力を軽減することを目的としている」と述べた。
欧州庇護機関は、第三国出身者が国際的な保護を求める際、特定のEU+諸国に申請が集中する傾向があると指摘している。例えば、ベネズエラ国民は以下の理由により、スペインに庇護申請を行う傾向が強いとされている。
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共通言語(スペイン語)の存在
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既存のディアスポラ(移民コミュニティ)の定着
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スペイン当局が「国家的保護措置」を比較的認めやすい傾向にあること
実際、ベネズエラ国民による庇護申請のほぼすべて(93%)がスペインで行われている。2025年上半期におけるスペインでのベネズエラ人による庇護申請件数は、2024年同時期と比べて約3割(29%)増加した。
ベネズエラ人以外の動向
ベネズエラ人の増加に加え、ウクライナ国民による庇護申請も同様に29%増加し、EU全体で計16,000件に達している。ウクライナ人の庇護申請のおよそ半数はフランスで行われ、ポーランドでは全体の約3分の1が提出されている。ただし、欧州庇護機関の委員長マルク・ロジェ(Marc Robjent)は、2025年6月末時点でEU域内に戦争による一時保護を受けているウクライナ人が430万人存在することから、これらの庇護申請件数は「少ない」と評価されるべきであると述べている。
アフガニスタン人(42,000件)は、2025年上半期における庇護申請者の中で第2位を占めた。全体の約10%を構成しているが、申請件数は2023年以降、減少傾向にある。
シリア人の申請減少に続き、バングラデシュ人(17,000件)およびトルコ人(17,000件)も申請数を減少させた。
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バングラデシュ人:前年同期比で26%減
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トルコ人:前年同期比で41%減
これらの統計は、EU+圏における庇護申請の国別動向が、地政学的変動や各国の国内情勢によって大きく左右されていることを示している。
EU+における認定率、記録上最低に
2025年上半期におけるEU+(EU加盟国および関連国)の庇護認定率は25%であり、半期および通年を通じて過去最低を記録した。この数値の背景には、シリア人に対する保護判断が急激に減少したことがある。多くのEU+諸国はシリア人の申請審査を保留状態にしているためである。重要なのは、この認定率の低下が保護要件の基準が厳格化された結果ではなく、手続き上の要因によるものであるという点だ。例えば、シリア人が申請を取り下げた場合、一部の国の統計ではこれを「否定的な判断」として扱うことがある。
国籍によって異なる認定率の動向
一部の国籍に関しては、EU+における認定率が長期的に安定している。
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バングラデシュ人:認定率 4%
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パキスタン人:認定率 10%
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ナイジェリア人:認定率 10%
一方、認定率に大きな変化が見られた国籍もある。
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マリ人
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認定率:2021年の41%から2025年上半期には79%に上昇
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申請件数:9,000件(ほぼ横ばい、前年同期比6%減)
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申請先:約75%がスペイン
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ハイチ人
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認定率:2020年の10%から2025年上半期には86%に上昇
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申請件数:7,200件(前年同期比27%増)
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申請先:ほぼ全て(99%)がフランス
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フランスでの申請数は前年同期比で57%増加
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2025年上半期に提出された庇護申請の約51%は、認定率が20%以下の国籍からのものであった。こうした申請の多くは、2026年半ばから施行される新制度に基づき、加速審査の対象となる可能性がある。また、第一審レベルでの未処理申請件数は2025年6月末時点で918,000件に達しており、EU+の庇護制度における処理負担の大きさが浮き彫りとなっている。
ビザなし渡航と庇護申請の関係
通常、EU+への庇護申請の約4分の1は、シェンゲン圏にビザなしで渡航可能な国の国民によるものである。中でも、ベネズエラ人とコロンビア人が大半を占めている。この背景を踏まえ、欧州議会は来月、より強化された柔軟な「ビザ停止メカニズム」に関する採決を行う予定である。
Asylum applications in 🇪🇺+ dropped 23% in the first half of 2025, due to a two-thirds decrease in 🇸🇾 applications (down to 25 000).
— EU Agency for Asylum – EUAA (@EUAsylumAgency) September 8, 2025
🟦 🇫🇷 & 🇪🇸 received more applications than 🇩🇪
🟦 Recognition rate hit a record low of 25%
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参考資料:
1. Venezolanos se convierten en los solicitantes de asilo más numerosos en la UE en 2025
2. Asylum applications down by 23% in the first half of 2025
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