(Photo:Lorena Sopêna/Europa Press)
スペインは2025年1月から6月の間に、外国人観光客を 4450万人以上 受け入れ、前年同期比で 4.7%の増加 を記録した。6月単月では約950万人 の外国人旅行者が訪れ、130億ユーロ超(約2兆1000億円)を消費した。これは前年比で 5.5%の増加 である。観光客の支出は記録的な水準に達し、年初からの累計で 約600億ユーロ(約9.7兆円) に上る。これは前年同期比で 7.5%の増加 であり、過去最高額となっている。
観光による消費額が最も多かった自治州は以下の通りである:
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カナリア諸島(Canarias)
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カタルーニャ(Cataluña)
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マドリード州(Comunidad de Madrid)
このように、スペインは観光大国としての地位をますます強固なものにしている。観光客は観光のみならず、経済にも直接的な投資をもたらしているといえる。しかし、この状況は地元住民からは必ずしも良く写っていない。
複数のスペインの都市で、観光過多と住宅不足に対する抗議デモが発生
2025年6月15日(日)、スペイン各地で観光過多に反対するデモが行われ、バルセロナ(Barcelona)、パルマ(Palma)、サン・セバスティアン(San Sebastián)、グラナダ(Granada)などの都市で数千人が街頭に立った。このような抗議デモは断続的に発生している。
抗議者らは、「マスツーリズム」が地域住民の生活を圧迫し、住宅価格を高騰させ、地域からの追い出しを招いているとして、現在の観光モデルを非難した。特にパルマ市中心部では、観光の島マジョルカ(Mallorca)における大量観光が地域の持続可能な発展を脅かしているとの主張が強くなされた。同様の声は、バレアレス諸島の人気観光地イビサ島(Ibiza)にも波及している。
抗議活動を主導したのは、「Menys Turisme, Més Vida(観光は減らし、生活を豊かに)」という市民プラットフォームであり、スポークスパーソンのジャウメ・プジョル(Jaume Pujol)は「観光化を終わらせ、観光を減少させ、明確な制限を設けなければならない」と述べている。この抗議は、90以上の市民団体が連携して実施したものであり、広範な地域と市民層からの支持を集めている。抗議者はたとえば「Rich foreign property buyers go to hell(裕福な外国人不動産購入者たちは地獄へ行け)」などと言ったプラカードを掲げ、バケーションレンタルの禁止、島への航空便の削減、巨大クルーズ船の乗り入れに対するモラトリアム(停止措置)の継続などの対策を求めている。一方、サン・セバスティアンでは、約500人が参加するデモが行われ、「住まいは権利である」「大量観光反対」などのスローガンも飛び交っている。デモの参加者たちは、この都市が「住宅危機」の状態にあると強調し、観光と都市開発の現行モデルに反対する姿勢を明確にした。
観光縮小を訴えるプラットフォーム「Bizilagunekin(ビジラグネキン)」においてもドノスティア(サン・セバスティアン)における住宅不足と高騰は、”制御不能な”観光業と直接的に関連していると主張している。デモにはおよそ500人が参加し、「観光化を止めろ」「人間らしい住まいを」と訴えかけている。「Bizilagunekin」のスポークスパーソン、エイハル・エガーニャ(Eihar Egaña)も抗議活動に際し「これは世界中の多くの場所に影響を及ぼしている横断的な問題です。ベネチア、リスボン、バルセロナのような都市もドノスティアと同様に、観光化に対抗する南ヨーロッパネットワーク(SET)からの呼びかけに応じている」と述べている。
バルセロナにおいても数百人規模の抗議活動は発生している。この抗議行動は、「観光縮小を求める地区集会(Asamblea de Barrios por el Decrecimiento Turístico)」などによって呼びかけられている。6月のデモでは、カタルーニャ州政府によるエル・プラット空港拡張計画の発表に反発する声としても強く表れ、Comuns(バルセロナ・アン・コムーなど)や急進左派政党CUP()の関係者も参加していた。参加者たちは「どこを見ても観光客(guiris)ばかりだ」といったスローガンを叫びながら、観光過密に対する怒りを表明し、また、「パン、住まい、未来を」「観光は私たちを奪う」「観光客が1人増えると、住民が1人減る」などと訴えている。
スペイン、外国人観光客数で経済的収入は高まる
今年これまでの累計において、英国からの観光客が最も多くの支出を記録しており、その数は890万人、前年比5.2%増である。これに続くのはドイツ(570万人、3%増)、フランス(560万人近く、3.1%増)となっている。一方で、観光支出が最も多かった自治州は、カナリア諸島(全体の19.9%)、カタルーニャ(17.7%)、マドリード州(15.3%)である。このうちカナリアとカタルーニャの両州は、アンダルシアと並んで6月における主な旅行先でもあった。6月の観光客受け入れ数においては、カナリア諸島が全体の23.9%を占め、次いでカタルーニャ(21.1%)、アンダルシア(15%)が続いている。
2025年6月単月だけでも、スペインを訪れた外国人観光客は約950万人に達し、130億ユーロ超の支出を生んだ。これは前月比で観光客数が1.9%増加、総支出額は5.5%増加したことを意味している。
今年6月の外国人観光客の1人あたり平均支出額は1,376ユーロであり、前年同月比で3.5%の増加となった。また、1日あたりの平均支出額は209ユーロで、前年比6.5%増となっている。中でもマドリードが329ユーロと最も高く、カタルーニャが251ユーロで続いている。これは両都市におけるホテル料金の高さを反映している。
平均滞在日数は4〜7泊であり、この範囲で滞在した観光客は約480万人にのぼり、前年比2.4%増となっている。
なお、訪問者数の伸び率よりも支出額の伸び率の方が高いという傾向は、パンデミック後に継続して観測されている現象であり、観光業界ではこれを「付加価値の向上」として好意的に受け止めている。
2025年1月から6月までの半年間にスペインを訪れた4,450万人の観光客のうち、3,600万人以上が「市場型宿泊施設」に滞在した。このカテゴリーにはホテルや民間賃貸住宅などが含まれるが、最も成長率が高かったのは民間賃貸住宅で、前年比約10%増であった。対して、ホテルは1.6%の増加にとどまったが、それでも最も多くの宿泊者(2,870万人)を受け入れた宿泊形態である。
スペインをはじめとした観光地におけるオーバーツーリズムが示すのは、地元住民は必ずしも経済効果を求めているわけではないということ、それよりも優先して自分たちの街や自然、生活を守りたいということである。もちろん懐が潤えば良いと考える人がいることも疑い用もない事実である。
参考資料:
1. España vuelve a batir récord de turistas extranjeros hasta junio, con 44,5 millones de visitantes, un 4,7% más
2. “Más residentes, menos clientes”: varias ciudades españolas protestan contra el turismo masivo y la falta de vivienda
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