BRICS:米国による関税に対応する緊急首脳会議の実施と市民社会からの提案

9月8日(月)、ブラジリア時間の午前9時(GMT 12時)より、ブラジル大統領ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ(Luiz Inácio Lula da Silva)の呼びかけにより、BRICSグループによる緊急首脳会議がバーチャル形式で開催される予定である。その目的は、米国が仕掛けた関税戦争に対し、共同で対応することにある。

この会議は、ルラ大統領の報道部により確認されたものであり、主要な新興経済国の指導者たちが、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領によってブラジルおよびインドに課された厳しい関税措置、ならびに世界の多極化に対する脅威について議論する予定である。

会議は国家元首レベルで実施され、ロシアからはウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)、中国からは習近平(Xi Jinping)、南アフリカからはシリル・ラマポーザ(Cyril Ramaphosa)、そして開催国ブラジルからはルラ・ダ・シルバ大統領が参加する。インドからは外務大臣のスブラマニヤム・ジャイシャンカル(Subrahmanyam Jaishankar)が出席する予定である。会議終了後、ルラ大統領はブラジル財務大臣フェルナンド・ハダッド(Fernando Haddad)と会談する予定である。

 

首脳会議の中心的な目的は、ワシントンが仕掛けた貿易戦争に対して、共同の対応策を策定することである。この貿易戦争は、たとえばブラジルの主要輸出品であるコーヒーに対して50%の関税が課されるなど、深刻な影響を与えている。また、ロシアとのエネルギー関係を理由として、インドの輸入品には25%の追加関税が課されている。インドはこれらの措置を「不公正かつ不合理」と非難し、米国の二重基準を問題視している。

さらに、各国首脳は世界貿易機関(World Trade Organization:WTO)の改革について議論し、米ドルに代わる通貨を創設するという提案を再び取り上げる見通しである(過去の記事はこちらから)。この提案は、一方的な強制措置に対抗し、BRICSの経済主権を強化することを目的としている。

ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領は、2024年8月よりこの首脳会議の開催意向を表明しており、多国間主義とより公正な経済秩序の擁護に向け、BRICSの結束を促進しようとしている。この会議は、2024年にサウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、エチオピア、イランが新たに加盟したBRICSにとって、重要な節目となる。

 

BRICSの市民評議会(Conselho Civil dos BRICS)の初会合もまたブラジルで開催された。会議では社会参加に焦点が当てられた。この市民評議会は2024年のカザン宣言(Declaração de Kazan)により正式に設立され、開会式は2025年5月4日(金)に、リオデジャネイロ中心部にあるカルロス・ゴメス劇場(Teatro Carlos Gomes)で執り行われた。

BRICS市民評議会は、加盟国の国民間に恒常的な対話の場を制度的に設けるために設立されたものであり、、2015年以降継続的に開催されてきた市民フォーラム(Fóruns Civis)の発展形と言える。現在では各国首脳から正式な認知も受けている。

開会式では、ブラジル連邦政府および各種社会運動の代表者らが、多国間政策の形成において市民の能動的な声を取り入れることの重要性を強調した。大統領府事務総局(Secretaria-Geral da Presidência da República)のマルシオ・マセド(Márcio Macêdo)大臣は、BRICSにおける社会参加の意義について「私は、独断で作られた政策を信じていない。現実を知り、必要なものを理解しているのは国民である。ゆえに、効果的な公共政策は市民との協働によってのみ築かれる。この評議会が、BRICS首脳会議と対話する場となることを期待している。私たちはすでに『G20ソーシャル(G20 Social)』において、これを成功裏に実現してきた」と述べた。

この会議には、国会議員、外務省および財務省の代表者に加え、さまざまな分野における市民社会のリーダーたちが参加した。会議では、超富裕層への課税、デジタル民主主義、開発資金の確保といったテーマが議題として取り上げられた。

また、今回の会合では、ブラジルが議長国を務める下で組織された「BRICS2025年民衆市民フォーラム(Fórum Civil Popular dos BRICS 2025)」の取り組みが公式に集約された。同フォーラムは二段階構成となっており、第一段階である国内フェーズでは、8つのテーマ別グループに分かれた計39のブラジル国内組織が参加した。第二段階の国際フェーズでは、BRICS各国の代表者が一堂に会し、首脳陣に提出される最終文書の内容が確定された。

外務省の代表であるルカス・バルボザ(Lucas Barbosa)は、BRICS市民評議会について、これは重要な制度的進展であり、歴史的に過小評価されてきた声に耳を傾けることを可能にする枠組みであると述べた。これにより、そうした市民の声がBRICS首脳会議における政策決定の過程に反映されることが期待されている。

一方、財務省の国際財務・経済協力副長官(Subsecretário de Finanças Internacionais e Cooperação Econômica)であるアントニオ・フレイタス(Antônio Freitas)は、上半期を通じて市民参加による多くの議論が行われたことを強調した。「我々の作業グループでは、超富裕層への課税という挑戦的な課題に取り組んだ」と彼は語った。

最終的に取りまとめられた文書は、協働的なプロセスを経て作成されたものであり、市民評議会の代表であるロシア連邦のヴィクトリア・パノヴァ(Victoria Panova)、ブラジルのジョアン・ペドロ・ステジリ(João Pedro Stédile)、南アフリカのレイモンド・マトララ(Raymond Matlala)によって、BRICS首脳に提出される予定である。

大統領府事務総局のマルシオ・マセドは、「本日ここにおいて、BRICS民衆フォーラムおよび市民評議会という重要な枠組みが確立された。これにより、BRICS諸国の市民社会が共に政策構築に参画し、BRICSによる世界への主導的関与のプロセスに直接的に関わることが可能となる」と述べるとともに、市民評議会の声が首脳会議にどのように届けられるかについて、「BRICS首脳会議において、本評議会は正式に代表され、組織化された市民社会からの文書や要求を提示する機会が設けられる見込みである。我々の願いは、この文書がBRICS各国における国家的行動に反映され、市民社会からの声が真摯に受け止められることである」と説明した。

BRICSには、2024年1月にエジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦が、そして2025年1月にインドネシアが加盟した。これにより加盟10カ国の合計は世界人口の48%、世界GDP(国内総生産)の4分の1以上を占めることになっている。

#BRICS

 

参考資料:

1. Líderes de los BRICS celebran cumbre de emergencia para responder a aranceles de EE.UU.
2. Brasil sedia reunião inaugural do Conselho Civil dos BRICS com foco na participação social
3. インドネシア加盟でBRICS変容 東西対立「終わりの始まり」か◇アジア経済研究所 川村晃一

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