(Photo:Amaru Bioparque Cuenca)
2024年6月、国民議会の生物多様性委員会は、「非人間動物の保護に関する法案」の審議を開始した。この期間中、委員会は複数の意見を受け取り、提案内容をさらに充実させるため、立法管理評議会(Consejo de Administración Legislativa)に対して7月中旬までの延長を要請した。
2022年8月19日、オンブズマンは国民議会に対して「非人間動物の権利保護に関する有機法案(Ley Orgánica de Protección de los Derechos de los Animales)」を提出した。この法案の作成にあたっては、プロテクシオン・アニマル・エクアドル(Protección Animal Ecuador)、コンドル・アンディノ財団(Fundación Cóndor Andino Ecuador)、ディアロゴ・ディベルソ(Diálogo Diverso)、エクアドル全国動物保護運動(Movimiento Animalista Nacional del Ecuador)など、複数の団体が技術的支援を提供した。
オンブズマンによれば、この法案の革新的な点の一つは、「非人間動物保護国家システム(Sistema Nacional de protección de los animales no humanos)」の創設である。この仕組みは、動物の権利を促進・保護・擁護するためのメカニズムであり、各機関の連携と政策の策定を通じて動物福祉の推進を目的としている。
この法案では、非人間動物を「感覚を持つ存在」として扱っている。「非人間動物」という用語は、人間以外の動物界に属する種を指すものであり、主に動物の権利活動家によって用いられている。近年では、動物の権利を法的に認める文脈でも使用されるようになっている。
法案の最も重要なポイント
本法第6条において、非人間動物にとって基本的な必要性として、以下の項目が列挙されている:
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栄養:非人間動物がその種に応じた適切な食事を受けることができるようにすること。
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環境:動物が自然な行動を発揮できる、安全かつ快適な生活空間を確保すること。
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身体的健康:疾病の予防、治療、衛生管理を含む、動物の身体的な健康状態を維持すること。
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行動:種特有の本能的・社会的行動を妨げられることなく表現できるようにすること。
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精神的健康:ストレスや苦痛を軽減し、動物の情緒的安定を図ること。
精神的健康を含めることにより、本法は、非人間動物が感覚を持つ存在であることから、恐怖、苦悩、欲求不満およびストレスを引き起こすような状況を避ける必要があると認識している。第6条には、「非人間動物の世話を担う者は、積極的な心理的状態を保証しなければならない」と明記されている。
本法案は、非人間動物の権利を次のように分類して認めている:
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愛玩・伴侶を目的とする動物
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労働または職務に用いられる動物
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実験に供される動物
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消費を目的とする動物
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野生動物に属する動物
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海洋・水生・半水生の動物に属するもの
第8条は、非人間動物の権利がエクアドル憲法に明記されている「自然の権利」の一部であると認めている。本法案は、これらの権利が普遍的、固有、不可譲、移転不可能、かつ相互依存的であることを強調する。これらの権利の履行のために、法案は「個人、集団、国家、家庭、社会、企業による共同責任(コレスポンサビリダー)」を提案している。
本法案は、非人間動物のために23の権利を定めており、主な内容は以下のとおりである:
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生命および身体的・心理的完全性に対する権利
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いかなる差別も受けることなく、尊厳と自律性を尊重される権利
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調和の中で生きる権利
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健康を享受する権利
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生息環境(ハビタット)に対する権利
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動物本来の行動を自由に発展させる権利
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搾取されない権利
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屈辱を受けない権利
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権利を侵害するような娯楽や展示に利用されない権利
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尊厳ある死を迎える権利
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差し押さえや押収などの手段によって拘束されない権利、ならびに死後においても身体が尊厳をもって取り扱われる権利
本法案はまた、伴侶動物(イヌやネコなど)および労働や職務に用いられる動物、たとえば介助犬や情緒支援犬などの権利についても定めている。これらの動物に関しては、搾取されない権利が明記されており、労働時間は動物の年齢や作業の強度に応じた制限のもとで定められた時間内で行われなければならないとされている。
また、動物の生命および身体的・心理的完全性を保護するために、適切な装備の使用が義務付けられているが、具体的にどのような装備を指すかについては法案内で明記されていない。
さらに、労働または職務によって引き起こされる疾病を予防するための専門的なケアを受ける権利も認められている。
第17条は、人間の消費を目的とした動物の権利について定めている。この条文では、以下のような権利が列挙されている:
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動物福祉の権利
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不安・恐怖・痛みを引き起こさない屠殺
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無麻酔での切断の禁止
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残酷な処分方法の禁止
第18条および第19条は、それぞれ野生動物の権利と海洋・水生・半水生の動物の権利について言及している。
本法案はまた、動物を自己の責任のもとで飼育する者に対する義務についても列挙している。たとえば第26条では、食用目的の動物に関する義務が定められており、屠殺センターには、動物の死に関わる人々のメンタルヘルスをケアするために、少なくとも精神保健の専門家、ソーシャルワーカー、または家族カウンセラーのいずれか1名を配置することが義務付けられている。
さらに、本法案には禁止事項に関する章も含まれている。その中には、以下のような行為の禁止が含まれている:
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動物を不衛生な場所に置くこと
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動物の大きさに適したスペースを確保しないこと
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動物の遺棄
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鎖による拘束
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可動性の制限
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身体的または精神的苦痛を引き起こす可能性のある食物の給餌
また、以下のような行為も禁止されている:
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動物を賞品として提供すること
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動物を使った賭博イベントの主催・参加・支援
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動物を使った競走、障害物競走、サーカス、対人あるいは動物同士の闘争など、動物に苦痛や死をもたらす可能性のある催し
さらに、本法案では動物の使用および描写に関する禁止事項が詳細に定められている。まず、動物が引く車両(馬車など)を舗装道路上で使用すること、および農業目的以外での使用・通行は禁じられている。また、広告において動物のイメージを恐怖、暴力、あるいは危険な存在としてスティグマ化するような状況に利用することも禁止されている。さらに、以下の行為も禁じられている:
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動物またはその身体の一部を装飾品や装身具として使用すること
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繊維・衣料・履物その他の産業において毛皮を生産すること
伴侶動物に関する特定の禁止事項も盛り込まれている。たとえば第32条では、商業目的か否かを問わず、短頭種の伴侶動物の繁殖を禁止している。ここでいう短頭種には、ブルドッグ、パグ、ペキニーズ、ボストンテリア、ボクサー、シー・ズーなどが含まれ、これらの犬種は生活の質や動物福祉が損なわれる可能性があるとされている。また、以下のような行為も禁止されている:
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飼い主や責任者が同乗していない状態で、動物の福祉や生命を脅かす状況下において、伴侶動物を駐車中の車内に放置すること
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犬や猫をベランダや屋上に長時間とどめ置くこと
さらに、都市部・農村部を問わず、伴侶動物を飼っていることを理由に賃貸住宅の契約を拒否したり、退去を強制したりすることも禁止されている。
労働や職務に供される動物については、観光目的の輸送手段として利用することが禁じられている。
違反と制裁
「非人間動物の保護に関する法案」は、制裁を軽度・重度・最重度の3つのカテゴリーに分類して提案している。それぞれのカテゴリーには、具体的な違反行為の例と、その結果に応じた明確な制裁が示されている。制裁には、罰金、地域社会への奉仕活動、被害を受けた動物の獣医的治療費の負担などが含まれる。
軽度の違反
軽度の違反には、以下のような行為が含まれる:
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動物を適切な状態で飼育しないこと
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予防接種や駆虫を怠ること
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動物を監視なしに放し飼いにすること
これらの違反に対しては、統一基本賃金の30%(すなわち138ドル)の罰金、地域社会奉仕活動、その他の措置が科される。
重度の違反
重度の違反には、以下のような行為が含まれる:
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動物に痛み、苦しみ、不安、または持続的な損傷を引き起こす実験の実施
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と畜場において動物福祉を保証しないこと
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野生動物の違法な捕獲および販売を許可すること
これらの違反に対しては、統一基本賃金の3倍の罰金、動物の飼育に関する一時的または恒久的な禁止措置、関係施設の部分的または全面的な閉鎖が制裁として科される。
最重度の違反
最も深刻な違反には、以下のような行為が該当する:
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保護種の所持および取引
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許可を得ていない野生動物に対する実験
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適切な許可なしに動物を娯楽目的に利用すること
これらの違反に対しては、統一基本賃金の10倍に相当する罰金、許可証およびライセンスの剥奪、さらには刑事責任を問われる可能性もある。
法案作成の契機となったエストレリタ事件
2019年9月11日、エクアドル中央高地の都市アンバトにおいて、異例の家宅捜索が実施された。匿名の通報を受けて環境当局が調査を行った結果、モナ・チョロンゴ(※南米原産の大型類人猿)が18年間にわたりある家族と共に生活していたことが判明した。エクアドルの環境法典によれば、野生動物の狩猟、漁獲、捕獲、飼育は「非常に重大な違反」に該当する。
この日、環境省、トゥングラウア県環境保護部隊(Unidad de Protección del Medio Ambiente de Tungurahua:UPMA)、クリミナリスティカ部門、特殊作戦グループ(いずれも警察の部隊)が、アナ・ブルバノ(Ana Burbano)の家から、飼育されていたエストレリタ(Estrellita)を引き取った。ブルバノは自らをエストレリタの「母親」とみなしていた。モナは、アンバト近郊のカントン、バニョスにあるサン・マルティン・エコ動物園へ移送された。その後、獣医による診察の結果、エストレリタ(学名:Lagothrix lagothricha)には、栄養失調、皮膚の乾燥および剥離、体毛の脱色、左脇下の部分的な脱毛が確認された。健康状態は「普通」と判断された。しかし、ブルバノ家から引き離されてから23日後、エストレリタは腎臓および肝臓の問題に起因する心肺停止により死亡した。
2019年12月6日以降の訴訟と憲法裁判所の判決
2019年12月6日、アナ・ブルバノは、環境省、エコ動物園の所有者であるヘスス・ベガ(Jesús Vega)、国家法務庁を相手取って、人身保護令(アベアス・コルプス)を提出した。ブルバノは、環境省に対してエストレリタの保護管理ライセンスの交付を求めたのである。この時点で、エストレリタはすでに死亡していたが、ブルバノはその事実を知らなかった。
エストレリタが保護された日から4か月後の2020年1月14日、環境省は、アナ・ブルバノが「非常に重大な違反」を犯したと認定した。これは、環境有機法典第318条に基づくものであり、同条は「野生動物の狩猟、漁獲、捕獲、採取、採掘、飼育、輸出、輸入、輸送、移動、利用、管理、販売」に関する行為を規定している。その制裁として、ブルバノに3,940ドルの罰金支払いが命じられた。
それから2年後の2022年1月27日、エクアドル憲法裁判所は、エストレリタ事件を将来の同様の案件における法的先例を確立するためのケースとして選定し、判決を下した。本判決において、裁判所は、モナ・チョロンゴが『哺乳類レッドブック』において、エクアドル国内で絶滅危惧種として分類されている野生動物種であることを認定した。また、モナ・エストレリタが生存中、基本的な栄養ニーズおよび適切な生活環境が確保されていなかったことも認定された。これらの事実は、エストレリタの生命および身体の安全が重大に損なわれていたことを示すものであると、裁判所は判断した。この判断に基づき、裁判所は以下の措置を命じた:
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6か月以内に、オンブズマンである国民の権利保護官(Defensoría del Pueblo)が、動物の権利に関する法案を作成すること。
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2年以内に、国民議会がその法案を審議・可決すること。
最高裁判所(憲法裁判所)はまた、環境省に対して、国民の権利保護官と連携し、押収または差し押さえの事案において野生動物を保護するための行動指針となるプロトコルを策定するよう命じた。さらに、動物の飼育者および世話人が遵守すべき最低限の条件を定めた規範の策定も命じた。
法案への批判
グアヤキル商工会議所は、国民の権利保護官によって提出された動物保護法案を批判した。同会議所は、この法案には曖昧で不明確、かつ実行不可能な規定が含まれていると指摘している。
同会議所によれば、本法案は憲法裁判所が求めた範囲を超えており、すべての動物種を対象とし、それらの商取引を規制する内容となっている。これは人間の食料供給を危機にさらす可能性があるという。一例として、動物への心理的ケアの提供義務や、と畜の際にすべての動物種に対して無条件に麻酔を義務づける規定などが挙げられているが、これらは各種動物の特性を考慮していないと同会議所は主張している。
さらに同会議所は、法案に盛り込まれている多数の制裁および禁止規定が、過剰規制、供給不足、価格の投機を招き、家庭生活に悪影響を与えるおそれがあると警告している。同会議所は、包摂的かつ参加型の立法プロセスの必要性を強調し、国民議会に対して、多様なセクターを招集し、より技術的かつ合意に基づく形で法案を再構築するよう要請している。
現在、この法案は国民議会の生物多様性委員会(Comisión de Biodiversidad)において審議されており、その後、本会議での審議と承認を経る必要がある。承認された場合には、大統領府(行政府)に送られ、承認または拒否(拒否権)に付されることになる。
ラゴトリックス・ポエッピギの生態
生息地:
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ペルー、エクアドル、ブラジルのアマゾン熱帯雨林に生息。
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エクアドルでは、中央・南アマゾンの熱帯・亜熱帯森林、陸地の原生林や季節的に冠水する森林、東側の山裾に生息。
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陸地の森林と冠水する原生林に生息。
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標高は200~1600メートルだが、400メートル以下でより多く見られる。
体の特徴:
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頭胴長:39~58センチメートル
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尾長:55~80センチメートル
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体重:4~10キログラム(オスはメスより重い)
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毛色は濃い茶色~燻したような茶色で、頭部・四肢・尾は体より濃い色をしていることが多い。
食性:
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雑食性で主に熟した果実を食べる。特にイチジクやグアバを好む。
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食べる植物の種類は約250種。
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若葉、小型節足動物、一部の両生類も補食。
繁殖:
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妊娠期間:225日
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2年に1頭の子を産む
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寿命:32年
行動・社会性:
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昼行性で樹上生活。
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一夫多妻制で群れを作る。
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人間の影響が少ない場所では最大25頭の大家族群を形成することもある。群れは2~5頭のオス、9~11頭の繁殖メス、若い個体で構成される。
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食べ物を探して一日に平均2.5キロ移動する。
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社会的な順位はハンボルト毛長猿と似ている。
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アマルーでは別種の毛長猿と共存している。
脅威:
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狩猟圧が強く、肉は他の霊長類よりも優れているとされているため狩られる。
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生息環境の変化や人間の存在に敏感。
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繁殖率が低いため地域的に絶滅の危険あり。
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生息地破壊やペットとしての密売も問題。
保全状況:
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IUCN(国際自然保護連合)では「絶滅危惧(Vulnerable)」に指定。
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エクアドルの哺乳類レッドリストでは「絶滅危惧種(En peligro)」に分類されている。
参考資料:
1. El proyecto de Ley para la protección de animales no humanos, explicado
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