カナダの俳優グラハム・グリーン(Graham Greene)が、2025年9月1日、長期にわたる病との闘いの末、カナダ・トロントにて亡くなった。享年73歳であった。グリーンは晩年、トロント近郊で妻ヒラリー・ブラックモア(Hilary Blackmore)と共に暮らしており、彼女は最期の瞬間まで彼のそばに寄り添っていたという。2人の間には娘リリー・ラザ=グリーン(Lilly Lazar-Greene)がいる。長引く病を抱えながらも、グリーンは俳優としての活動をやめることなく、仕事を続けながら、周囲の俳優たちにインスピレーションを与え続けた。マネージャーのジェリー・ジョーダン(Gerry Jordan)は、CBCニュースに対して「カナダが誇る伝説的俳優、グラハム・グリーンの穏やかな旅立ちを、深い悲しみと共にお知らせいたします」と語った。また、所属事務所の代理人も「グリーンは非常に高い道徳的信念を持った人物であり、その遺産は今後も長く人々の記憶に残り続けるでしょう」とコメントしている。
グラハム・グリーンは、『ダンス・ウィズ・ウルブズ(Dances with Wolves)』や『グリーンマイル(The Green Mile)』など数々の名作映画に出演し、ハリウッドにおける先駆的な先住民(アボリジナル)俳優として知られる存在であった。彼は、先住民族に対するステレオタイプを打破し、文化的多様性を推進する象徴的な存在であった。常に自らのルーツの尊厳と深みを表現できる役柄を選び続け、その卓越した演技力とカリスマ性、そして先住民族の表現に対する揺るぎない献身によって、唯一無二の俳優としての地位を確立した。
彼は偏見に立ち向かった俳優であり、かつて『クリムゾン・タイド(Crimson Tide)』のオーディションにおいて、監督のトニー・スコット(Tony Scott)に「自分の親戚は潜水艦の乗組員として勤務していた」と語り、「先住民は泳げない」という根強いステレオタイプを否定した逸話がある。また、『リザベーション・ドッグス(Reservation Dogs)』のように先住民クリエイターが主導する作品に積極的に参加することで、メディアにおける先住民族の描写や参画の拡大にも大きく貢献した。
生い立ちとキャリアの始まり
グラハム・グリーンは、1952年6月22日、カナダ・オンタリオ州のシックス・ネイションズ保留地(Six Nations Reserve)で生まれた。彼は、イロコイ連邦(Iroquois Confederacy)を構成するオネイダ・ネーション(Oneida Nation)の出身である。
大スクリーンでの成功を掴む以前、彼は製図工、溶接工、大工、さらにはロックバンドの音響技師など、さまざまな職業に従事していた。1974年にトロントのインディジナス・シアターセンター(Centre for Indigenous Theatre)の演技プログラムを修了した。トロントで俳優として数年間活動し、幼なじみの俳優ゲイリー・ファーマーら(Gary Farmer)とルームシェアをして過ごした。
1970年代にカナダおよびイギリスで演劇の舞台に立ったことが、俳優としての出発点であった。彼によれば、舞台での経験は演技における基礎的な規律を身につけるうえで不可欠であり、その後のキャリアにおいて重要な礎となったという。
1979年、カナダのテレビシリーズ『The Great Detective』でスクリーンデビューを果たし、1983年には映画『ランニング・ブレイブ(Running Brave)』で注目を集めた。
グリーンの国際的なブレイクスルーとなったのは、1990年のケビン・コスナー(Kevin Costner)主演・監督の映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』で演じたジンクタ・ナグワカ(Ziŋtká Nagwáka)、つまりスー族のメディスンマン「キッキング・バード(Kicking Bird)」役を演じた時である。この役のためにラコタ(Lakota)語を学んだが、これはグリーンにとっては大きな挑戦だったと言う。「セリフを覚えるのにほぼ1ヶ月かかった。毎日8時間、週7日勉強した。でもある朝、全部覚えたはずのセリフを一切思い出せなかったんだ。とてもつらかった」と語っている。この演技により、グリーンは1991年のアカデミー助演男優賞にノミネートされ、先住民俳優として初めてこの栄誉を受ける数少ない存在となった。同タイミングでアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたのはアル・パチーノ(Al Pacino)、ブルース・デヴィソン(Bruce Davison)、アンディ・ガルシア(Andy Garcia)、そして『グッドフェローズ(Goodfellas)』で受賞したジョー・ペシ(Joe Pesci)だった。
その後も、トム・ハンクス(Tom Hanks)と共演した『グリーンマイル(The Green Mile)』や、『トワイライト・サーガ/ニュームーン(The Twilight Saga: New Moon)』など、多くの作品で印象的な演技を披露した。
テレビ分野では、1990年代に『ノーザン・エクスポージャー(Northern Exposure)』に出演し、近年では『リザベーション・ドッグズ(Reservation Dogs)』や『The Last of Us』といった人気作品にもゲスト出演していた。2025年初頭、CBCラジオの番組『Q』に出演した際、グリーンは俳優業との出会いについて「もともとはバンドのロードスタッフとして働いていたんだ。ある日、“演技に興味はあるか?”と聞かれたのがきっかけだった」と語っている。この何気ない問いかけが、後に彼を国際的な俳優へと導く大きな転機となった。
代表作とフィルモグラフィー
彼のキャリアは約50年にわたり、170本以上の映画およびテレビ作品に出演してきた。最も代表的な出演作は以下の通りである:
- 『グリーンマイル』(The Green Mile, 1999)
死刑囚アーレン・ビターバック(Arlen Bitterbuck)を演じ、感情豊かな演技により全米映画俳優組合賞にノミネートされた。 - 『ダイ・ハード3』(Die Hard: With a Vengeance, 1995)
ブルース・ウィリスと共演し、アクション映画における多才さと存在感を示した。 - 『トワイライト・サーガ/ニュームーン』(The Twilight Saga: New Moon, 2009)
部族の長老という役で登場し、人気シリーズに文化的重厚さと真実味を与えた。 - 『ウィンド・リバー』(Wind River, 2017)
サスペンス映画において力強く抑制された演技を見せ、批評家から高い評価を得た。 - 『リザベーション・ドッグズ』(Reservation Dogs)
先住民の若者たちを描いたドラマシリーズで、彼の後期キャリアを代表する重要な作品となった。
上記の代表作以外にも、グリーンは映画『サンダーハート(Thunderheart)』や『マーベリック(Maverick)』といった大作に出演し、またカナダのコメディ番組『The Red Green Show』、児童向け番組『The Adventures of Dudley the Dragon』、さらに法医学ドキュメンタリー『Exhibit A: Secrets of Forensic Science』ではナレーター兼ホストとして活躍するなど、ジャンルを問わず幅広い役柄を演じた。
また、人気ゲーム『レッド・デッド・リデンプション2(Red Dead Redemption 2)』では、レインズ・フォール酋長(Chief Rains Fall)の声を担当し、ポップカルチャーの中でもその存在感を示した。
グリーンの最後の出演作となるのは、スリラー映画『Ice Fall』であり、2025年10月に公開予定となっている。
舞台とスクリーンでの栄誉あるキャリア
グラハム・グリーンは、当初、自分が演劇について「何も知らなかった」と語っている。脚本がどのようなものかすら理解していなかったという。それでも挑戦してみたところ、すぐにその世界に魅了された。
当時を振り返り、グリーンは次のように述べている。
衣装に着替えて、日陰の快適な椅子に座らされたんだ。食べ物や水まで持ってきてくれて……『おお、これが俳優の生活か!最高じゃないか。もう誰かのアンプを運ばなくていい。照明もやらなくていい。無意味に国を半分横断して運転する必要もない』って思ったよ。
演劇の経験をきっかけに本格的な俳優人生を歩み始めたグリーンは、長年にわたり第一線で活躍し続け、数々の賞を受賞した。ジェミニ賞を2度、ドラマ『Seeds』での演技によりカナディアン・スクリーン・アワードを受賞。また、児童向け朗読アルバム『Listen to the Storyteller』ではグラミー賞にも輝いた。
そして2025年には、カナダの文化芸術における生涯功労を称える総督芸術功労賞(Governor General’s Performing Arts Award for Lifetime Artistic Achievement)を受賞した。グリーンはこの受賞について、CBCラジオ番組『Q』で「これは大きな快挙だ。『なんで俺なんだ?』と思ったよ。自分の国で認められるって、本当に意味のあることだ」と語っている。また、彼はカナダ勲章(Order of Canada)のメンバーでもあった。
2025年6月13日、オタワのリドー・ホールで開催された総督芸術功労賞の授賞式において、メアリー・サイモン総督(Mary Simon)はグラハム・グリーンに生涯芸術功労賞(Lifetime Artistic Achievement Award)を授与した。
テレビ映画『Medicine River』やドラマ『Spirit Bay』で共演した俳優トム・ジャクソン(Tom Jackson)は、グラハム・グリーンを友であり、兄弟のような存在だと語った。「グラハムと過ごす時間がもっと欲しかった」「私が彼の親友だったとは必ずしも言えないが、彼は間違いなく私の親友だった」と、ノバスコシア州タントロンから月曜の夜にCBCニュースに語った。ジャクソンは、グリーンがショービジネスに関わるためならどんな仕事でもこなした人物だと語る。音響を担当し、セットを組み、舞台監督も務める――彼は「ショービジネスとは仕事そのものだ」と信じていた。「彼こそがまさにショービジネスの体現者であり、グラハムについて語れることは誇りだ」とジャクソンは述べた。
追悼のコメント
先住民映画監督・俳優のジェニファー・ポデムスキー(Jennifer Podemski)は、SNSでグリーンを追悼し「今日、偉大な人物を失った。彼を知ることができて本当に幸運だった。多くの人にとって計り知れない喪失だ」と述べている。
俳優ルー・ダイアモンド・フィリップス(Lou Diamond Phillips)は、グラハム・グリーンの訃報を知り「胸が張り裂ける思いだ」と自身のSNSで述べた。「『ウルフ・レイク(Wolf Lake)』から『ロングマイヤー(Longmire)』に至るまで、私たちは美しい友情を育んできた」と語り、「彼はまさに俳優の中の俳優であり、私が知る中でも最も機知に富み、狡猾で温かい人物の一人だった。アイコニックで伝説的な存在である」と述べた。
Heartbroken. Terribly saddened to hear of the passing of Graham Greene at only 73.
— Lou Diamond Phillips (@LouDPhillips) September 1, 2025
From Wolf Lake to Longmire, we had a beautiful friendship.
An Actor’s Actor. One of the wittiest, wiliest, warmest people I’ve ever known. Iconic and Legendary. RIP, My Brother. pic.twitter.com/lJA0dKEoxz
参考資料:
1. Graham Greene, nominated for an Oscar for his role in the film Dances with Wolves, died in Toronto
2. Oscar-nominated actor Graham Greene dead at 73
3. Graham Greene, actor from Dances with Wolves, dies at 73
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