第20回目の開催を迎えるエクアドル・ジャズ・フェスティバル2025(Festival Ecuador Jazz 2025)の詳細が発表になっている。国際的なプログラムとエクアドルの独自性という才能を際立たせ、音楽の自由を祝うこの特別な節目に、国内外の優れたアーティスト11組が集結する。
国立スクレ劇場財団の主催により、20回目という記念のフェスティバルは2025年9月11日(土)から9月24日(日)まで開催される。同イベントは単なるコンサートイベントではない。プログラムには、ジャムセッション、教育的なコンサート、ワークショップ、学術的な交流、写真展、オープンマイクなどが含まれており、若手からベテランまで、アーティスト同士の出会いや学びの場を創出している。
本フェスティバルは、音楽教育(育成)と作品の流通(循環)を連携させるプラットフォームとして機能し、国内バンドがローカルおよび国際的な観客に向けて発信されることを後押ししている。これにより、キトをジャズの都市として確立していく試みである。
チケットおよび通し券は、tickets.teatrosucre.com で販売中。学生、アーティスト、文化マネージャーの方は、国立スクレ劇場のチケット窓口にてRUACを提示することで50%割引が適用される。
国際的なアーティスト
セシル・マクローリン・サルヴァント(Cécile McLorin Salvant)/ フランス共和国・アメリカ合衆国
作曲家、歌手、ビジュアルアーティストであり、ジャズ・ヴォーカル・アルバム部門で3年連続グラミー賞(Grammy Awards)を受賞した。彼女のスタイルは、忘れ去られたジャズ、ブルース、フォーク、キャバレーの曲に新たな命を吹き込むことに特徴がある。
マイアミ生まれで、ハイチとフランスの血を引く彼女の多才さは、クラシック声楽からジャズ、ラテン音楽まで多様なジャンルを探求している。
スナーキー・パピー(Snarky Puppy)/ アメリカ合衆国
ニューヨーク市ブルックリンを拠点とする影響力のあるジャズ・フュージョンのインストゥルメンタルバンドで、グラミー賞を5度受賞している。ベーシスト、作曲家、プロデューサーのマイケル・リーグ(Michael League)によって結成され、約40人のミュージシャンが多種多様な楽器を演奏するコレクティブである。
メンバーの多くはノーステキサス大学で教育を受けており、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)やジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)などの著名アーティストとも共演している。
ハミルトン・デ・オランダ・トリオ(Hamilton de Holanda Trio)/ ブラジル
10弦マンドリン奏者として世界的に知られ、ブラジルのショーロ(Choro)音楽に革命的なアプローチをもたらした。ベネズエラ共和国の伝統楽器クアトロ(Cuatro)の名手たちによるC4トリオ(C4 Trío)と共演し、初めて共に演奏するミュージシャンの即興性を録音に収めている。
ラ・ダム・ブランシュ(La Dame Blanche)/ キューバ
多才なアーティストであり、歌唱と打楽器を担当し、キューバの音楽的遺産をラップ、レゲエ、ダンスホール、レゲトンなどのジャンルと融合させている。1998年からフランスに居住しており、彼女のソロプロジェクトは自身の音楽的なもう一つの人格(alter ego)の探求である。
レマ・ディオップ(Réma Diop)/ セネガル
現代セネガルのシーンで最も注目される声の一つで、ルフィスク(Rufisque)出身。彼女の温かく力強い声はアコースティック形式で輝きを放ち、その才能が最も純粋な形で表れている。
土木工学の学位を持ちながら、伝統的なムバラクス(mbalax)、アフロポップ、カンシオン・デ・アウトール(シンガーソングライター音楽)などを含む音楽的感性を融合させ、アイデンティティと美を語るサウンドを通じて世代をつなげている。
国内アーティスト
パウル・サンチェス(Paúl Sánchez)とエリフ・サンチェス(Elif Sanchez)──「オリエントと南」を奏でる
デュオのエクアドル人のパウル・サンチェス(Paul Sanchez)とトルコ人のエリフ・サンチェス(Elif Sanchez)は、「オリエントと南(Oriente y Sur)」というプロジェクトを提案する。この作品は、ジャズ、ラテン音楽、そして中東の音響を融合させたものである。それぞれの文化的ルーツと国際的な経歴を反映したプロジェクトで二人は革新的な編曲と芸術的感性が新鮮で現代的なサウンドを生み出している。
これは緻密に考えられた作品であり、ルーツを尊重したアレンジを施しつつ、同時に現代的なテクスチャーを探求している。パウルとエリフは、国際的な音響風景を創造しながら、地域の感性と対話しているのである。
彼らの提案は、すでに各地の音楽シーンやフェスティバルで知られており、エクアドル・ジャズに多文化的で洗練された癒しの一端をもたらしている。
マンテカ・ラテン・ジャズ・プロジェクト(Manteca Latin Jazz Project)──ラテンジャズのエネルギー
2021年にコントラバス奏者で歌手のジェオバンナ・バダラコ(Geovanna Badaraco)と打楽器奏者ラウル・チャベス(Raúl Chávez)によって設立されたグループ。ラテンリズムとジャズをエクアドルの視点で融合し、伝統的なジャンルであるパシージョ(pasillo)も取り入れている。チャベスが開発した「コンガテリア(congatería)」の使用とミニマリストなリズムセクションが特徴で、コラボレーションを促進している。コンガテリアとは複数のパーカッションを組み合わせた独自のセットのことで、ミニマルなリズムセクションによって、伝統的なリズム(パシージョなど)とスウィングやラテンのシンコペーションとの対話が可能になっている。
2023年のEPリリースと、2025年の国内ツアーを経て、マンテカはアフロ系伝統音楽とラテンジャズの前衛的な試みをつなぐ架け橋として、その存在感を示している。
エル・グルーヴォ(El Grooveo)──アフリカ系アメリカンの伝統を受け継ぐ音響実験室
2023年にバスティアン・ナポリターノ(Bastián Napolitano)、アレックス・アルベアール(Alex Alvear)、フアン・エルネスト・ゲレーロ(Juan Ernesto Guerrero)、ダニエル・エレーラ(Daniel Herrera)によって結成されたコラボレーション・グループ。彼らはあらゆる変化形のグルーヴを探求することを目指している。エクアドルの音楽シーンで著名なミュージシャンたちが集い、グルーヴを表現の言語として探求。オリジナル曲はスウィング、ファンク、レゲエ、ブルース、ロックを経由し、エクアドルの伝統的な旋律的モチーフをジャズの現代的文脈に取り入れている。
2023年に結成されたこのバンドは、アフリカ系アメリカンジャズの伝統が地域の文脈で新たに意味づけられる音響実験室として機能している。
ダニエル・パチェコ(Daniel Pacheco)──現代キト・ジャズのエレガンス
キト出身のピアニスト兼作曲家で、国際的に確固たるキャリアを持つ。現代キト・ジャズにおけるエレガンスを体現する存在である。12歳から音楽を学び、現在はサン・フランシスコ・デ・キト大学で教鞭を執るほか、ニューヨーク、パリ、マドリード、ボゴタ、イスタンブールといった都市の舞台でも活動してきた。代表曲「Wayru」や2021年のアルバム『La Viajera』にみられるように、彼のディスコグラフィーは、ピアノ言語の拡張を追求しながらも、彼特有の温かみある旋律性を失うことがない。今回、パチェコはエクアドル・ジャズ・フェスティバルに、洗練された技術と民衆的な感性を融合させた提案を携えて登場する。
ダビッド・ニコラルデ・キンテート(David Nicolalde Quinteto)──芸術的広がりをもった提案
バテリスタ(ドラマー)、作曲家、キト出身のミュージシャンのダビッド・ニコラルデ(David Nicolalde)が率いる。ダビッドは、力強いリズム感と多彩なスタイルを併せ持つプロジェクトでフェスティバルに登場する。ジャズ、ラテン音楽、現代音楽において国際的な経歴を持ち、米国、ヨーロッパ、アジアで演奏経験がある。1988年生まれの彼は、音楽シーンの中でも重要なメンバーたちを招き、高水準のクインテットを結成した。共演するのは、ミゲル・ガジャルド(Miguel Gallardo)、マティアス・アルベアル(Matías Alvear)、ダニエル・ビトラン(Daniel Bitrán)、フリアン・ベラスコ(Julián Velasco)らである。ジャズ、サルサ、ファンク、フラメンコ、ロック、ブルースを横断する音楽性が特徴である。
ニコラルデは、バルセロナのリセウ音楽院(Conservatorio Liceu)での修士課程を修了しており、さらにハバナやサン・フランシスコ・デ・キト大学(Universidad San Francisco de Quito)でも研鑽を積んできた。彼とバンドは、卓越した演奏技術とグルーヴ感を兼ね備えたオリジナル作品を披露する予定である。
さらに、バンドリーダーとして初のアルバムを発表するというサプライズも用意されている。8曲のオリジナル作品が収録される予定。
アレハンドロ・ロセロ・トリオ(Alejandro Rosero Trío)とその親密なセッション
ピアニスト兼作曲家アレハンドロ・ロセロ(Alejandro Rosero)はアコースティック・トリオ編成で初のアルバム『エスカファンドラ(Escafandra)』を発表した。本作には最近の自作曲とともに、ジャズの名曲である「キャラバン(Caravan)」や「ニカズ・ドリーム(Nica’s Dream)」のアレンジが収められている。これらの楽曲では、ハードバップ、スウィング、モーダルジャズといった流派を自在に行き来している。
フェスティバルでは、即興演奏とクラシックレパートリーへの敬意が、現代的な作曲と融合した親密かつ緻密なセッションを披露することを約束している。
コンサート・スケジュールおよび関連イベント
フェスティバルは多様なコンサートと関連イベントを提供する。現在確定しているスケジュールは以下の通り。
コンサート/国立スクレ劇場(Teatro Nacional Sucre):
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9月14日(日)19:00〜21:30:
セシル・マクローリン・サルバント(フランス/アメリカ)およびダニエル・パチェコ(エクアドル) -
9月19日(金)18:00〜19:45:
ラ・ダム・ブランシュ(キューバ)およびデイビッド・ニコラルデ・キンテート(エクアドル)およびマンテカ・ラテン・ジャズ・プロジェクト(エクアドル)
※EPリリースイベント -
9月20日(土)19:00〜20:15:
パウル・サンチェス(エクアドル)およびエリフ・サンチェス(トルコ)およびハミルトン・デ・オランダ(ブラジル) -
9月21日(日)20:15〜21:30:
スナーキー・パピー(アメリカ) -
9月22日(月)時間未定:
スナーキー・パピー(アメリカ)およびアレハンドロ・ロセロ・トリオ(エクアドル) -
9月24日(水)19:00〜21:30:
レマ・ディオップ(セネガル)およびエル・グルーヴォ(エクアドル)
関連イベント(入場無料):
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9月11日(木)時間未定:
FTNS(国立スークレ劇場財団、Fundación Teatro Nacional Sucre)のテラスで写真・グラフィック展示 -
9月12日(金)10:00開始:
ジャズ・エン・ラ・エスクエラ(Jazz en la Escuela) — ウァイラ・ブラス(エクアドル)|カルデロン教育ユニットで教育コンサート -
9月12日(金)18:00開始:
ジャズ・パラ・リバル(Jazz para llevar) — 国立スークレ劇場前のアンドレス・ブルー・プラザでマイクオープン -
9月13日(土)11:00開始:
パーカッション・エクアドル(エクアドル)|ラウル・ガルソン・オーディトリアムでボディパーカッション・ワークショップ -
9月13日(土)20:00開始:
ピエス・エン・ラ・ティエラ(エクアドル)|キト・ジャズ・クラブでジャムセッション -
9月18日(木)18:00開始:
ジャズ・パラ・リバル(Jazz para llevar) — ラ・カポナタでマイクオープン -
9月20日(土)20:00開始:
ピエス・エン・ラ・ティエラ(エクアドル)|キト・ジャズ・クラブでジャムセッション -
9月21日(日)15:00開始:
パーカッション・エクアドル(エクアドル)|カサ・ソモス・ラ・マリスカルでボディパーカッション・ワークショップ -
9月22日(月)・23日(火)10:00〜17:00:
レマ・ディオップ(セネガル)およびケビン・サントス(エクアドル)|カラプンゴでレジデンス -
9月23日(火)・24日(水)09:00〜11:30、14:00〜16:30:
タンボレス・イ・オトロス・デモニオス(エクアドル)|パーカッション・ワークショップおよびバトゥカーダ、国立スークレ劇場広場にて -
9月24日(水)09:00〜11:30、14:00〜16:30:
タンボレス・イ・オトロス・デモニオス(エクアドル)|パーカッション・ワークショップおよびバトゥカーダ、プラザ・フォック(ラ・マリスカル)にて
音楽の自由を祝して──20周年の節目に
エクアドル・ジャズ 2025は、「音楽の自由」の20年を祝う。フェスティバルは、独自性があり、活気に満ち、絶えず再創造されるジャズ・シーンへの継続的な挑戦である。
今回ラインナップに加わった6組の国内バンドは、伝統、融合、技巧、即興といった要素を通じて、エクアドルの音が持つ多様性を体現している。これらすべてが結びつくことで、「エクアドルのジャズ」はアイデンティティをもって鳴り響くのである。
参考資料:
1. Festival Ecuador Jazz 2025 – 20 años
2. Ecuador Jazz 2025: fechas, sedes e invitados
3. Ecuador Jazz 2025: seis bandas nacionales brillarán en la edición número 20
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