[トゥパフ・ガルシアのコラム]ボリビア大統領選挙まで10日を切る

(Photo:Juan_Alvaro / flickr)

本記事は、大統領選挙まで10日を切ったことを受けて、トゥパフ・ガルシア(Tupaj García)が執筆したコラムの日本語訳である。トゥパフ・ガルシアは、サン・アンドレス高等大学(Universidad Mayor de San Andrés:UMSA)で社会学を修了し、現在はサン・マルティン国立大学(Universidad de San Martín:UNSAM)で政治社会学の修士課程に在籍している。最後に本コラムを補完するための情報を付け加えている。


投票日まで10日を切った今、ボリビアが直面している政治的・経済的・選挙的状況について総合的な評価を行うことは妥当である。ここでの目的は、現状を正当化することではなく、情勢を記述しつつ、国内および地域の左派勢力が「変革のプロセス(Proceso de Cambio)」を放棄しないための行動の展望を提示することである。

まずは対抗勢力について述べる。右派はジャニネ・アニェス・チャベス(Jeanine Áñez Chávez)政権の失敗(2020年)によって政治的に分裂したが、その崩壊は2023年初頭に、サンタクルス県知事であり2019年のクーデターの主要人物であるフェルナンド・カマチョ(Fernando Camacho)が収監されたことによって一旦終息した。

2023年以降、右派は選挙に向けた再結集を試み、2つの政治プロジェクトを打ち出した。ひとつはコチャバンバ市長マンフレッド・レジェス・ビジャ(Manfred Reyes Villa)主導によるものであり、もうひとつは複数の指導者によって構成される「選挙に向けた統一ブロック(Bloque de Unidad)」である。

しかし、いずれのプロジェクトも失敗に終わった。その原因は、指導権や立候補者リストにおける代表権をめぐる争いにあった。右派は、同じ経済・政治路線を掲げながらも、6つの異なる候補者に分裂した状態で選挙に臨んでいる。その中で実質的に有力とされるのは、3名の候補者である。

世論調査で首位に立っているのは、実業家のサミュエル・ドリア・メディナ(Samuel Doria Medina)であり、今回が4度目の大統領選挑戦である。彼はかつてジャニネ・アニェスの同盟者であり、現在はフェルナンド・カマチョと連携している。次点につけているのはホルヘ・“トゥト”・キロガ(Jorge “Tuto” Quiroga)で、アニェス政権下では政治顧問を務めたほか、2008〜2009年の分離独立運動を主導したブランコ・マリンコビッチ(Branko Marinkovic)と提携している。最後に、かつては当選が確実視されていたマンフレッドだが、現在では右派内での戦略的な連携をまったく欠き、影の薄い存在へと転落している。

右派の3人の候補者はいずれも、国営企業の民営化、国家資源の多国籍企業への売却、多民族国家(Estado Plurinacional)の解体、輸出業者に有利な市場の全面開放といった政策方針で一致している。こうした中での主導権争いでは、右派候補同士が互いに激しい非難を浴びせ合っており、特に有力な2人に対する攻撃は苛烈を極めている。

サミュエル・ドリア・メディナについては、リチウム採掘権を事前に富豪マルセロ・クラウレ(Marcelo Claure)に売却し、その見返りに政治的支援を受けたとする疑惑が取り沙汰されている。また、彼はかつてジャニネ・アニェスの副大統領候補として選挙に出馬した経歴もある。

一方、ホルヘ・“トゥト”・キロガは、独裁者ウゴ・バンセル(Hugo Banzer)の下で副大統領を務めていた過去を持つ。さらに、彼が推進した水道の民営化政策は、3人の死者を出す抗議運動を引き起こす結果となった。また、「ペトロコントラトス(Petrocontratos)」に関しても、立法議会(Asamblea Legislativa)の承認を得ずに石油・ガス探査の入札を許可したとして批判されている。

 

左派内部では、現大統領ルイス・アルセ(Luis Arce)と前大統領エボ・モラレス(Evo Morales)との内紛が、民衆勢力の深刻な分裂を招いている。この対立は、フェルナンド・カマチョの収監直後に表面化し、与党「社会主義運動–政治的手段としての社会主義運動(MAS-IPSP)」内の組織や、労働組合、農民団体、地域住民組織、先住民団体の間に深い亀裂を生じさせた。政権側は公式な党指導部を掌握する一方で、対抗勢力となる基層部分は、歴史的指導者モラレスの下に徐々に結集していった。

2024年9月、経済危機への不満が高まるなか、エボ・モラレスを先頭とする政治行進が政府本部を目指して開始された。しかし、この行進は、警察と暴力団体による2度にわたる襲撃を受ける事態へと発展した。当初、この行動は政府の分裂的な政策に抗議するために始まったが、次第にアルセ大統領の辞任を要求する大規模な民衆運動へと拡大していった。しかしモラレスは、辞任要求を閣僚の交代という要求にとどめ、最終的にはチャパレ(Chapare)地方へと撤退した。

その後、政府は体勢を立て直し、エボ・モラレスに近い指導者たちに対して司法を通じた弾圧と投獄の措置をためらうことなく実施した。これにより、「国民的人民ブロック(Bloque Nacional Popular)」はさらに分断した。エボ・モラレスは政治的・社会的な支持という点では党内抗争に勝利したものの、ルイス・アルセは党の名称と官僚的な組織の掌握において主導権を維持した。

選挙戦に向けて、アルセは憲法裁判所に圧力をかけ、エボ・モラレスの立候補資格を無効とする判決を引き出したうえ、モラレスに近いとされる潜在的な政党登録をすべて無効化した。その後、自身の再選を模索したものの、支持率はわずか2%にとどまり、最終的には候補者としての立場を内務大臣に譲渡することとなった。この内務大臣は、エボ派への政治的迫害を主導してきた人物であり、支持率はわずかに上昇して2%から3%となった。

一方、エボ・モラレスはこの2年間、司法・選挙・行政のいずれの分野においても成果を挙げることができず、最も高い支持率を誇りながらも選挙戦から排除される結果となった。

そんな厳しい状況のなか、エボの後継者と目されていたアンドロニコ・ロドリゲス(Andrónico Rodríguez)はエボ派から離反し、独自に立候補する決断を下した。彼はエボ派(evistas)およびアルセ派(arcistas)の双方から「裏切り者」と非難されながらも、右派の勝利を阻止するために左派の団結を呼びかけている。若き候補者の懸念はもっともである。なぜなら、右派は議会で3分の2の議席を獲得した場合、国家憲法の改正を公然と目指すと宣言しているからだ。

彼が率いる選挙組織「人民連合(Alianza Popular)」は、アンドロニコを新自由主義的な右派勢力との決選投票に進出させうる唯一の候補者として位置づけている。ただし、彼にはMAS(社会主義運動)のような強固な政党組織も、エボのような強力な労働組合の基盤も存在しない。

しかし、党内対立の当事者であるルイス・アルセもエボ・モラレスも、アンドロニコ・ロドリゲスを支持する決断を下さなかった。MASの国家的かつ政党的な組織力は、党名を保持するために自党候補であるエドゥアルド・デル・カスティジョ(Eduardo Del Castillo)への支持に集中している。

一方、エボ・モラレスは「自分が立候補していない選挙に正当性はない」として無効票(voto nulo)を呼びかけ、それに反対する者を「国民運動への裏切り者」と非難している。

 

この状況はまるで喜劇のようだ。右派はいつもの過ちを繰り返し、左派は分裂に目がくらみ、まるでどちらがより自滅できるかを競っているかのように見える。

その一方で、経済危機は人々の暮らしを直撃し、物価の上昇や燃料不足が生活を圧迫している。40歳以上の世代にとっては、飢えと不安が日常だった新自由主義時代の記憶が蘇り、若者や成人の間では国家資源を外資に売却することが「危機の解決策」とされることへの疑問から、民族主義的な感情が再び芽生えている。

さらに、アニェスによる事実上の政権掌握の経験は、「血を流して勝ち取った権利を選挙で安易に手放すべきではない」という集団的な記憶として国中を駆け巡っている。

おそらく今回の選挙においては、ウィパラ(Wiphala)を掲げる民衆こそが指導者たちを導く存在となるべきだろう。この闘いにはもはや二つの陣営しか存在しない。「多民族国家」か、「植民地共和国(República colonial)」かである。

両陣営の詳細な特徴づけについては次回の記事に譲るとして、最後に一つだけ言わせてほしい。私は投票所でも街頭でも闘う道を選ぶ。なぜなら、私はこの変革のプロセスの誇り高き息子であり、それを手放すことを拒むからだ。


ウィパラとは、アイマラ族やケチュア族など、南米アンデス地域の先住民を象徴する多色の格子模様の旗のことを指す。これは、先住民族の誇り、多様性、団結、文化的アイデンティティを表す強力なシンボルとして用いられている。ボリビアでは、エボ・モラレス政権下(2006年以降)に国家の公式シンボルのひとつに制定され、「多民族国家ボリビア」の理念を体現するものとされている。現代においては、新自由主義や植民地主義への抵抗の象徴としても使われており、街頭デモや政治運動の場で頻繁に掲げられている。

「ペトロコントラトス」とは、2000年代初頭にボリビア政府が、国会の承認を得ずに多国籍企業と締結した石油・ガスの探査および輸出契約のことである。これらの契約は、憲法および当時の法制度に明確に違反しており、立法府の承認を経ないまま107件にもおよぶ炭化水素(石油・ガス)の商業化・探査・採掘契約が締結された。これにより、国家の資源主権と経済に深刻な損害がもたらされたとされている。

ボリビア最高裁判所は、模範的かつ厳格な判決を下し、元大統領ゴンサロ・サンチェス・デ・ロサダ(Gonzalo Sánchez de Lozada)に対し、ラパス県チョンチョコロ刑務所での懲役6年3か月の刑を言い渡した。また、ホルヘ・ベリンドアゲ(Jorge Berindoague)、カルロス・コントレラス(Carlos Contreras)、カルロス・ロペス(Carlos López)の3名には、それぞれ懲役5年と、公職への就任を5年間禁ずる特別処分が科された。

一方、元副大統領ホルヘ・“トゥト”・キロガ(Jorge “Tuto” Quiroga)は、2018年にエボ・モラレス政権から与えられた恩赦により訴追対象から外されている。この判断については、現在でも是非が問われ続けている。

#ボリビア大統領選挙2025

 

参考資料:

1. Elecciones en Bolivia: a 10 días de la votación – Por Tupaj García

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