(Photo: Proyecto Cárcel del Encuentro)
「エンクエントロ刑務所(Cárcel del Encuentro)」は、2024年6月よりサンタ・エレナ県にて建設が進められており、ダニエル・ノボア(Daniel Noboa)大統領が提唱する最大級の高警備刑務所プロジェクトの一つである。大統領はこのプロジェクトを、「テロリズムおよびマフィアとの戦いにおける一つの画期的な出来事」であると述べており、かつて「刑務所制度を支配し、人質に取っていた」勢力に対抗するものであると表現している。
#ElNuevoEcuadorResuelve | Con acciones contundentes contra el terrorismo y el crimen organizado. En el nuevo Centro de Privación de Libertad de Santa Elena estarán los delincuentes más peligrosos, quienes han atentado contra la seguridad nacional.#CárcelDelEncuentro pic.twitter.com/DmAs2RrAbh
— SNAI Ecuador 🇪🇨 (@SNAI_Ec) June 21, 2024
この刑務所は800人の収容能力を持ち、その名称自体が当初から物議を醸してきたプロジェクトである。
その名称は、元大統領ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)の政権を連想させるものであり、ラッソ政権のスローガンは「出会いの政府(Gobierno del Encuentro)」であった。また、「エンクエントロ事件」と呼ばれる組織犯罪の一連の事件にも関係している。その事件では、ラッソの義理の弟で実業家のダニロ・カレラ(Danilo Carrera)が、犯行の直接実行者として有罪判決を受け、懲役10年の刑を言い渡された。
ダニエル・ノボア大統領は、「エンクエントロ刑務所」には、カレラや国家電力公社(Corporación Nacional de Electricidad:CNEL)の元総支配人アントニオ・イカサ(Antonio Icaza)のように「エンクエントロ事件」によって有罪判決を受けた旧来の政治勢力の関係者、さらに「ソボルノス事件」や「マナビ県再建事件」など複数の訴訟を抱えるコレア政権下の元大臣ワルテル・ソリス(Walter Solis)が収監される予定であると述べた。
A todos los ecuatorianos, pic.twitter.com/8LPiQD24Bk
— Presidencia Ecuador 🇪🇨 (@Presidencia_Ec) November 22, 2024
建設に遅延が生じている数千万ドル規模の刑務所プロジェクト
「エンクエントロ刑務所」は、エクアドルの刑務所制度における「緊急事態」という理由のもと、2024年6月20日にスペインの企業「プエンテス・イ・カルサーダス・インフラエストゥクトゥラス(Puentes y Calzadas Infraestructuras S.L.)」に直接契約で発注された。この企業は、スペインおよびラテンアメリカ諸国において、橋梁、高架道路、病院、トンネル、港湾施設などの建設を手がけてきた実績を持ち、中国の国有企業「中國路橋工程有限責任公司(China Road And Bridge Corporation:CRBC)」の子会社である。エクアドルにおいて、同中国企業はラファエル・コレア(Rafael Correa)政権下において、ピフォ=パパジャクタ道路の建設、ラゴ・アグリオ=キト道路の再整備、またヤチャイ大学キャンパス内の建物の建設などを担当した。
「エンクエントロ刑務所」の建設費は5,220万ドルであり、建設期間は「契約管理者による書面での工事開始承認の翌日」から起算して300日間と定められている。これは成人および青少年の受刑者に対する国家包括的対応機構(Servicio Nacional de Atención Integral a Personas Adultas Privadas de la Libertad y a Adolescentes Infractores:SNAI)によるプロジェクト決議に明記されている。なおエクアドルにおいて、刑務所制度はSNAIが所管している。さらに、国家警察および軍隊も、各施設の警備および管理に関与している。
契約管理者——すなわち契約に定められた事項の監視、監督、履行の確保を担う人物——は、SNAI傘下の刑務所インフラ技術局に所属する専門家ホルヘ・エストレジャ(Jorge Estrella)である。
工事の監督者——すなわち技術的観点からの正確な遂行を監視・検証する役割を持つ——は、同じくSNAIの分析官であるホルヘ・オルティス(Jorge Ortiz)である。
El presidente @DanielNoboaOk realizó un sobrevuelo y recorrido para verificar el avance de la construcción de la “Cárcel El Encuentro” que se edifica en la provincia de Santa Elena. Con cerca de 37 hectáreas y 14.000 metros cuadrados de construcción, cuenta con un avance físico… pic.twitter.com/S9WICqXps2
— Presidencia Ecuador 🇪🇨 (@Presidencia_Ec) October 4, 2024
2024年6月20日付のSNAIの決議においては、サンタ・エレナに建設中の刑務所に関する「特性および/または技術的仕様」を含むすべての情報、たとえば配置の建築図面や詳細設計図などを機密情報とすることが宣言された。また、契約プロセスに関する準備段階、事前契約段階、契約締結段階、契約実施段階および評価段階に関する情報もすべて非公開とされた。
2024年10月、ダニエル・ノボアが本プロジェクトを視察した際、工事の進捗率はわずか12%であったが、大統領は300日という記録的な期間で建設が完了すると繰り返し強調した。当初の予定では、建設開始から300日後にあたる2025年4月に引き渡されるはずであった。しかしながら、同年4月15日、ノボアはCNNのインタビューにおいて、サンタ・エレナの刑務所が2025年9月に完成予定であると述べた。その理由として、治安危機および選挙プロセスが建設を遅らせたことを挙げた。その3か月後、2025年7月9日、SNAI長官マウリシオ・マジョルカ(Mauricio Mayorga)は、この刑務所の建設進捗がわずか35%にとどまっていると発表した。
住民の抗議の中、建設が始まる
この刑務所プロジェクトの建設は、2024年6月21日に開始された。海岸地方に位置するサンタ・エレナ県のフンタス・デル・パシフィコ共同体(comuna Juntas del Pacífico)にあるサッカー場において、ダニエル・ノボア大統領がボタンを押し、サイレンが鳴るとともに着工が宣言された。
この共同体にはおよそ2,500人の住民が暮らしており、主にスモモの栽培を中心とした農業、牧畜、地元商業などに従事している。刑務所は、この集落の中心部からおよそ5キロメートル離れた場所に位置している。
着工式は、「刑務所はいらない」と書かれたプラカードを掲げ、丘の上から抗議の声を上げる住民たちによるデモのさなかに行われた。住民たちは、この刑務所の建設により、グアヤキルの「ペニテンシアリア・デル・リトラル」周辺のように、地域の治安が悪化するのではないかと危惧している。
#FortalecimientoPenitenciario | Con la participación del Presidente @DanielNoboaOk, el Director General del #SNAI, Ministros y autoridades de la provincia de Santa Elena, comienza el evento “Inicio de la obra Centro de Privación de Libertad Santa Elena”. #ElNuevoEcuadorResuelve pic.twitter.com/Qqp59SFFuT
— SNAI Ecuador 🇪🇨 (@SNAI_Ec) June 21, 2024
800人の受刑者は危険度および刑期に応じて分類される予定
2024年6月、当時のSNAI長官ルイス・サルドゥンビデ(Luis Zaldumbide)は、本プロジェクトについて、「拘禁環境の改善と、受刑者の社会復帰を促進することを目的とするものである」と述べた。
刑務所の主要特徴
着工式において、ダニエル・ノボア大統領およびルイス・サルドゥンビデ長官は、「エンクエントロ刑務所」の主な特徴について説明を行った。彼らの発表によれば、本施設は総敷地面積37ヘクタール、建築面積1万4,000平方メートルに及び、以下の設備を備える予定である:
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5つの収容棟(パビリオン)
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4つの運動場(パティオ)
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4重の警備フェンス
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高さ9.5メートルの監視塔が6基
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高さ9メートルの外壁(コンクリート6メートル+金網3メートル)
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超高警備区域(最大警備モジュール)
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駐車場
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調理場(厨房)
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洗濯場
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武器庫
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統合管理システム(施設の管理、入退室管理、アラーム制御、保守管理、物理・サイバー両面のセキュリティを統括)
サルドゥンビデは、刑務所の立地がフンタス・デル・パシフィコから5キロ離れたシモン・ボリーバル教区の農業地帯にあることにより、安全管理がしやすくなると述べた。都市部から離れており、また農村地帯であるため、セキュリティフェンスの建設や、監視システムや通信妨害装置の設置が容易であり、これらが周辺住民の通信インフラに干渉する恐れも少ないという。
A todos los ecuatorianos, pic.twitter.com/8LPiQD24Bk
— Presidencia Ecuador 🇪🇨 (@Presidencia_Ec) November 22, 2024
高度設備の導入も予定
SNAIのプロジェクト決議によれば、本計画には物理的インフラの建設だけでなく、「高度な複合設備の導入」も含まれている。SNAIによれば、導入予定の主な装置は以下の通りである:
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刑務所内外の移動を制限する入退管理システム
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看守用の内部通信システム、および違法通信を遮断するための信号妨害装置(ジャマー)
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荷物や大型物品の検査用X線トンネル
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金属探知ゲート(アーチ型スキャナー)
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人体に隠された物品を検知するセンサー類
2024年1月11日、ダニエル・ノボア大統領は国民向けのメッセージにおいて、エクアドルの刑務所制度の緊急な浄化・改革が必要であると述べた。その日、大統領はサンタ・エレナにおける「エンクエントロ刑務所」およびアマゾン地方パスタサ県に建設予定の「リベルタ刑務所」の承認済み設計図を公表した。
El presidente @DanielNoboaOk presentó el diseño aprobado para la construcción de los nuevos Centros de Privación de la Libertad en Pastaza y Santa Elena.
— Presidencia Ecuador 🇪🇨 (@Presidencia_Ec) January 11, 2024
El Plan Fénix sigue en ejecución, y este es un paso más para controlar al terrorismo y al crimen organizado.… pic.twitter.com/oHJkf7PzML
さらに大統領は、両刑務所に以下の設備・機能が備えられると述べた:
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超最高警備、最高警備、高警備モジュール
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携帯電話および衛星通信の遮断
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最先端の電子システム
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デジタルおよびアナログ両方の入退室管理
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三重の周辺警備
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電力の自家発電
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排水処理施設
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防弾建築構造
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顔の見えない警備員(大統領は詳細を述べなかったが、通常、こうした警備員は顔を見せず、識別を防ぐ装備を着用する)
このような警備員は、バラクラバ(目出し帽)、ヘルメット、スモーク加工されたフェイスシールド、あるいはその他の顔を隠す機材を装着して勤務する。また、環境に関する許認可も取得済みである。
受刑者の警備には退役中の警察官および軍人で対応
内務大臣ジョン・ラインベルク(John Reimberg)は、「エンクエントロ刑務所」には国内で最も危険な犯罪者たちが収監される予定であると述べた。また、政府は軍や警察の退役者を、施設の警備任務に再雇用する意向であることも明らかにした。いわゆる「パッシブ・サービス」の活用と言うことになるが、これは公務員・警察官・軍人などが現役(アクティブ・サービス)を退き、退職や定年などで正式に職務から離れた状態を指す。彼らはすでに「引退」状態ではあるがエクアドルにおいては制度的には再任用が可能となっている。政府によれば、この措置の目的は、現役の警察官および軍人を刑務所勤務から解放し、「国内武力紛争」の影響が続く街頭へと配置転換することにあるという。しかしながら、ラインベルクは、退職した警察官および軍人が刑務所制度へ再度組み込まれるには、法的な改革が必要であると述べた。現行法では、退職者が報酬付きの公的職務に再就職した場合、年金の40%が国によって差し引かれると定められており、これは「公共サービス有機法(Ley Orgánica de Servicio Público:LOSEP)」によるものである。
大臣は、この年金の40%差し引き措置を廃止することについては、大統領が容認しない立場であると強調し、そのために「すでに必要な法改正を進めている」と述べた。法改正が承認されれば、ラインベルクは、退役者の選考プロセスおよび訓練を開始する予定であると語った。
#SNAI #Carcel #CárcelEncuentro
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